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白波ホールディングス編
気持ち悪くて死にそう
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「当時は確か⋯⋯俺の部屋だけしっかりあったんだよな」
南が出ていった後。
俺は6畳半かな? まぁ部屋の中を見回していた。
「あっ、教科書だ」
何も変わってはいない。
ミシミシ軋む崩壊寸前のような床に、薄いボロボロの壁。
みーんみんみんと耳を揺らす蝉声。
それに混じって、風鈴がカランと不協和音を刻んでくる。
眉間がざらつくような違和感に思わず顔が上がっちまう。
窓際で揺れるガラス玉を眺めると、湿った夏独特の匂いが鼻をかすめる。
そしてその光はガラス玉を突き抜けて、部屋の中で最も輝かせていた。
「そうだ、思い出した」
部屋の奥。そこにあるのは一つの机。
ばら撒かれている消しカスが金粉みたいに舞い、開きっぱなしの教科書が淡く反射していた。
──湊翔、お前は将来立派な男になるんだぞ!
──そうよ! お母さんとお父さんの息子だもの!
「⋯⋯⋯⋯」
机の縁をなぞる。
若干だが木目の棘が指の腹に刺さる。
あっちだったら、ここは今頃血の海が広がってただろう。
それでも今は──頬が緩む。
緩んだのは、怒りではなく懐かしさ。
消しカスを摘んでは落とし、いつのだか分からないシャーペンを転がす。
「何年前だろうな。それに、絶対合格⋯⋯ねぇ」
当時は分からなかったが、今なら分かる。
これは、二人が命懸けでかき集めた机であり、中古品。
⋯⋯謂わば、二人の限界値だ。
色々あったなぁ。
と、転がるシャーペンを止め、視線は自然と窓の方へと向いた。
引き戸が開いてて網戸になってる。
というかキシキシなのかミンミンなのかハッキリしてほしいところだ。ダブルで聞こえてくるもんだから耳が不快だ。
うっすいカーテンが揺れて微小な風を浴びる。顔は心地良いが、ベトッてる。
「てか、早く着替えないとな」
身体は⋯⋯見た感じ向こうの感じではないな。
昔の自分って感じだ。
「うえ、ベタついてヤバイわ」
さ、早く着替えるか。
「⋯⋯⋯⋯ん?」
いつまで経っても服がやって来ない。
「あ──」
そうだった⋯⋯。
「っ⋯⋯ははははは⋯⋯」
気付いた俺は絶句して額を手で覆う。
そうだよな?思わず笑ってしまう。
忘れていたよ。なんで着替えさせてもらえると思っていたんだ。
ここは"地球"ではないか。向こうではない。
「そうか。金もなければ、地位がある訳でもない」
近くを見回してそれらしい物を手探りで掴む。
「うっ⋯⋯」
指先で摘んでも鼻を殴るほどの悪臭。ゴブリンかよ。
何だコレは──普通じゃないぞとても。
というか夏なのだから、洗濯すればいいではないか。
「うっ!」
オエエエエエ!!
耐えきれずに、ベランダに思わず吐いてしまう。
「っはぁ、はぁ、はぁ⋯⋯」
最悪だ。ほーんとうに最悪だ。
キツすぎる!
「はぁ、はぁ、はぁ」
昔の俺よ⋯⋯。どうやって生きていたんだ?
*
「あれ? お兄ちゃん遅かったじゃん」
「あ、あぁ⋯⋯」
部屋を出ると、なんにもない。
唯一あるのが古臭いテレビだけ。
というかテレビという単語が随分と久しぶりに聞いた気がするな。
「あれ? お兄ちゃんどったの?」
「ん? いやな」
そう。南の若さからして、間違いなく飛んだあの時と同じ時系列の世界ではないことが分かる。
カレンダーくらいあるだろう⋯⋯うん。ないわ。
「南、今日何日だ?」
「えぇ⋯⋯? お兄ちゃん頭でも打ったの? 今日は8月2日でしょ?」
「何年の?」
そう言うと南が怪訝な顔をして俺の前で睨みつけてくる。
「お兄ちゃん⋯⋯本当に大丈夫?」
「あ、あぁ。ちょっと夢で良いことが無くてな」
「全裸だったくせに? 良い夢でも見たからでしょ?」
マセてんなぁ。さすが女は早いか。
「そりゃ暑いからだよ。んで、何年?」
「むぅ。まぁいっか。2012年だよ」
「おっ⋯⋯まじか」
10年も前なのか。
こりゃ⋯⋯。しかも8月。
──"間に合うな"。
「ねぇどうしたの? お兄ちゃん今日ずっと変だよ?」
ニヤニヤしていた俺の顔を見てそう言う南の頭に手を乗せる。
「ちょっ!少女漫画読んだでしょ!? 女はそんなんじゃ駄目でーす!!」
「ふっ。」
──お、お兄ちゃん。ご、ご、ごめん。もももし、良かったらなんだけど、ほほんとにゲーミングPC欲しいんだけど。
「後は⋯⋯お兄ちゃんに任せなさい」
「ぐえっ」
無理矢理頭をポンポン押し込んで食卓に付く。
「南、朝ごはんは」
「ん?無いよ?」
⋯⋯、はい?
「どういう事だ?」
「どういう事もなにも、うちにそんなお金ないってお兄ちゃん知ってるでしょ?」
金はないって記憶は確かにあるのだが、んーそうか。そんなにか。
「そうか。なら、ここに座っても仕方ないか」
「お兄ちゃん本当どうしちゃったの?」
「いや、悪い悪い。風呂は何処にある?」
「なんか、まるでお兄ちゃんが他人みたい」
ギクッとしながらも、呆れられている南に着いていく。
「ん」
「おっ、て⋯⋯すごいニオイだぞこれ」
手拭いも、とても正気とは思えないニオイを放っている。
「おいまじかよ」
「昨日まで何も気にしなかったのに⋯⋯。本当、今日のお兄ちゃんは変だなぁ」
うん。ごめん。
確かに数百年も経ってるからね。まぁほぼ他人みたいなもんだわな。
「もしかして⋯⋯風呂入れないとか?」
「月に一回なら」
うん、終わってるわこの家。
どんだけ金ないんだよ。
「この間ギリギリで入ったのに、またすぐに入るんだから⋯⋯珍しいと思って」
「結構言われんのよね」
「まぁ⋯⋯私もだけど」
俺が謝ることではないだろうが、悪いな南。
今度はお兄ちゃんが普通の生活をしてやれるようにするからよ。
ていうか俺なら余裕よ。
*
ーーシャャャャー
「うっ⋯⋯!」
グルゥゥゥエエッッ!!
「駄目だ⋯⋯ヤバイ」
何だこれは。まじで人間の生活とは思えん。
壁は一言で言えば魔王の城みたいだし、床も、踏んでる足が気持ち悪くてしょうがない。掃除してないだろこれ。
あの時は、エリクサーで毎日風呂に入ってたせいで⋯⋯思わずちょっと飲んじまった。
「まっじで※↑』ウォォォォエッ!!!」
南が出ていった後。
俺は6畳半かな? まぁ部屋の中を見回していた。
「あっ、教科書だ」
何も変わってはいない。
ミシミシ軋む崩壊寸前のような床に、薄いボロボロの壁。
みーんみんみんと耳を揺らす蝉声。
それに混じって、風鈴がカランと不協和音を刻んでくる。
眉間がざらつくような違和感に思わず顔が上がっちまう。
窓際で揺れるガラス玉を眺めると、湿った夏独特の匂いが鼻をかすめる。
そしてその光はガラス玉を突き抜けて、部屋の中で最も輝かせていた。
「そうだ、思い出した」
部屋の奥。そこにあるのは一つの机。
ばら撒かれている消しカスが金粉みたいに舞い、開きっぱなしの教科書が淡く反射していた。
──湊翔、お前は将来立派な男になるんだぞ!
──そうよ! お母さんとお父さんの息子だもの!
「⋯⋯⋯⋯」
机の縁をなぞる。
若干だが木目の棘が指の腹に刺さる。
あっちだったら、ここは今頃血の海が広がってただろう。
それでも今は──頬が緩む。
緩んだのは、怒りではなく懐かしさ。
消しカスを摘んでは落とし、いつのだか分からないシャーペンを転がす。
「何年前だろうな。それに、絶対合格⋯⋯ねぇ」
当時は分からなかったが、今なら分かる。
これは、二人が命懸けでかき集めた机であり、中古品。
⋯⋯謂わば、二人の限界値だ。
色々あったなぁ。
と、転がるシャーペンを止め、視線は自然と窓の方へと向いた。
引き戸が開いてて網戸になってる。
というかキシキシなのかミンミンなのかハッキリしてほしいところだ。ダブルで聞こえてくるもんだから耳が不快だ。
うっすいカーテンが揺れて微小な風を浴びる。顔は心地良いが、ベトッてる。
「てか、早く着替えないとな」
身体は⋯⋯見た感じ向こうの感じではないな。
昔の自分って感じだ。
「うえ、ベタついてヤバイわ」
さ、早く着替えるか。
「⋯⋯⋯⋯ん?」
いつまで経っても服がやって来ない。
「あ──」
そうだった⋯⋯。
「っ⋯⋯ははははは⋯⋯」
気付いた俺は絶句して額を手で覆う。
そうだよな?思わず笑ってしまう。
忘れていたよ。なんで着替えさせてもらえると思っていたんだ。
ここは"地球"ではないか。向こうではない。
「そうか。金もなければ、地位がある訳でもない」
近くを見回してそれらしい物を手探りで掴む。
「うっ⋯⋯」
指先で摘んでも鼻を殴るほどの悪臭。ゴブリンかよ。
何だコレは──普通じゃないぞとても。
というか夏なのだから、洗濯すればいいではないか。
「うっ!」
オエエエエエ!!
耐えきれずに、ベランダに思わず吐いてしまう。
「っはぁ、はぁ、はぁ⋯⋯」
最悪だ。ほーんとうに最悪だ。
キツすぎる!
「はぁ、はぁ、はぁ」
昔の俺よ⋯⋯。どうやって生きていたんだ?
*
「あれ? お兄ちゃん遅かったじゃん」
「あ、あぁ⋯⋯」
部屋を出ると、なんにもない。
唯一あるのが古臭いテレビだけ。
というかテレビという単語が随分と久しぶりに聞いた気がするな。
「あれ? お兄ちゃんどったの?」
「ん? いやな」
そう。南の若さからして、間違いなく飛んだあの時と同じ時系列の世界ではないことが分かる。
カレンダーくらいあるだろう⋯⋯うん。ないわ。
「南、今日何日だ?」
「えぇ⋯⋯? お兄ちゃん頭でも打ったの? 今日は8月2日でしょ?」
「何年の?」
そう言うと南が怪訝な顔をして俺の前で睨みつけてくる。
「お兄ちゃん⋯⋯本当に大丈夫?」
「あ、あぁ。ちょっと夢で良いことが無くてな」
「全裸だったくせに? 良い夢でも見たからでしょ?」
マセてんなぁ。さすが女は早いか。
「そりゃ暑いからだよ。んで、何年?」
「むぅ。まぁいっか。2012年だよ」
「おっ⋯⋯まじか」
10年も前なのか。
こりゃ⋯⋯。しかも8月。
──"間に合うな"。
「ねぇどうしたの? お兄ちゃん今日ずっと変だよ?」
ニヤニヤしていた俺の顔を見てそう言う南の頭に手を乗せる。
「ちょっ!少女漫画読んだでしょ!? 女はそんなんじゃ駄目でーす!!」
「ふっ。」
──お、お兄ちゃん。ご、ご、ごめん。もももし、良かったらなんだけど、ほほんとにゲーミングPC欲しいんだけど。
「後は⋯⋯お兄ちゃんに任せなさい」
「ぐえっ」
無理矢理頭をポンポン押し込んで食卓に付く。
「南、朝ごはんは」
「ん?無いよ?」
⋯⋯、はい?
「どういう事だ?」
「どういう事もなにも、うちにそんなお金ないってお兄ちゃん知ってるでしょ?」
金はないって記憶は確かにあるのだが、んーそうか。そんなにか。
「そうか。なら、ここに座っても仕方ないか」
「お兄ちゃん本当どうしちゃったの?」
「いや、悪い悪い。風呂は何処にある?」
「なんか、まるでお兄ちゃんが他人みたい」
ギクッとしながらも、呆れられている南に着いていく。
「ん」
「おっ、て⋯⋯すごいニオイだぞこれ」
手拭いも、とても正気とは思えないニオイを放っている。
「おいまじかよ」
「昨日まで何も気にしなかったのに⋯⋯。本当、今日のお兄ちゃんは変だなぁ」
うん。ごめん。
確かに数百年も経ってるからね。まぁほぼ他人みたいなもんだわな。
「もしかして⋯⋯風呂入れないとか?」
「月に一回なら」
うん、終わってるわこの家。
どんだけ金ないんだよ。
「この間ギリギリで入ったのに、またすぐに入るんだから⋯⋯珍しいと思って」
「結構言われんのよね」
「まぁ⋯⋯私もだけど」
俺が謝ることではないだろうが、悪いな南。
今度はお兄ちゃんが普通の生活をしてやれるようにするからよ。
ていうか俺なら余裕よ。
*
ーーシャャャャー
「うっ⋯⋯!」
グルゥゥゥエエッッ!!
「駄目だ⋯⋯ヤバイ」
何だこれは。まじで人間の生活とは思えん。
壁は一言で言えば魔王の城みたいだし、床も、踏んでる足が気持ち悪くてしょうがない。掃除してないだろこれ。
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