泡立つ脳

伊阪証

文字の大きさ
5 / 10

好転

しおりを挟む
──乾いた喉が、血の味を訴えていた。
アリスは、夜の街を歩いていた。診療所での仕事を終え、コートの裾を握りしめながら、背筋を伸ばしていた。街灯の光が地面を濡らし、遠くで誰かが喧嘩をしているような怒鳴り声が聞こえる。けれどそれにも、足は止まらなかった。
手帳の中には、透の指示した研究試料の一覧。どれも手に入りにくく、そしていくつかは──正規のルートでは、到底手に入らないものだった。認可の遅れた薬品。旧規格の試薬。もしくは、そもそも未登録の化合物。通常の倫理では語れない治療の、ただの入り口である。
だから彼女は売っていた。身体を。
屈辱? 恥辱? それはとっくに使い果たしていた。使い切った先で残っていたのは、ほんのわずかな理性と、治したいという執念だけだった。
その夜、いつもの相手とは違う場所へ向かった。古いジャズのかかるバーの奥、薬剤に詳しい中年の男と面会する予定だった。彼の口利きがなければ、ミナに必要な化合物は手に入らない。そう言われていた。アリスもまた、それを知っていた。
けれど──身体がついてこなかった。
バーの灯りが遠ざかる。体温が足元から抜けていく。呼吸が浅くなる。通りの角を曲がった瞬間、コートの裾が引きずられるように崩れ落ち、アリスの視界は斜めに傾いた。
一瞬、誰かが見ていた。けれど通り過ぎた。冷たいアスファルトに頬を押しつける形で、彼女はかすかに手を伸ばした。手帳が滑り落ち、ばらばらと紙が舞う。脚の感覚が失われていく中、誰かの靴音が近づいた。
「・・・大丈夫? 動ける?」
若い声だった。思っていたよりも若くて、優しい響きがあった。知らない少年の顔が、ゆらりと街灯の下に浮かんでいた。薄暗いフードの奥で、目だけが強く光っている。
「立てる? ・・・ああ、ダメか・・・ごめん、触るよ。」
彼女の身体が、ゆっくりと引き起こされる。肩に腕を回され、温度を感じる。もう声を出す余裕はなかった。ただ、抱えられて歩く間、流れるように変わっていく街の景色だけは、焼きついていた。
騒がしい夜の明かり。古びた電飾のきらめき。シャッターの下りた店先と、酔っ払いの笑い声。何もかもが、遠くて、うつくしい幻のようだった。
──この街は、ずっとこうだったのだろうか。
意識が沈んでいく。けれど、知らない誰かの手が、自分を守ろうとしてくれている。それだけが、奇妙に確かな記憶として、眠りの底に残った。
少年の名も、年も、何もわからないまま。アリスはその夜、ようやく深い眠りについた。倒れてから初めて、誰にも責められず、誰にも求められないままの静かな夜だった。

透は主治医が行方不明になっていた事を気にしていた。携帯のGPSも動作していない。何をしているのか全く分からない。
「どうしたの?透。」
振り返ると、ミナがカップを両手で抱えて立っていた。少し冷めた紅茶の香りが、部屋の乾いた空気に溶ける。
透はデスクの前に座ったまま、手元の端末を見つめていた。画面には位置情報の履歴が映し出されていたが、そこには途切れたログが並ぶだけで、何の更新もない。
「主治医が見つからない。そろそろ帰ってくるはずなんだが・・・。」
彼はため息混じりに立ち上がり、カーディガンのポケットに端末を滑り込ませた。小さく首を振りながら、窓の外に視線を向ける。
「少し探しに行くか。」
その一言に、ミナの目が輝いた。
「私も行くー!」
もう空になったカップをテーブルに置いて、ぱたぱたとスリッパの音を響かせて駆け寄ってくる。その動きの軽やかさに、透は少しだけ肩の力を抜いた。
「じゃあ──乗ってくれ。」
振り向きざま、彼は腰を落として背を差し出す。慣れた手つきだった。
「うん!」
ミナが笑って、その小さな体を彼の背中に預ける。腕が首元に回され、微かに息がかかる。透はぐっと足に力を込めて立ち上がった。
重さは感じなかった。ただ、守らなければならないものの存在感だけが、いつも以上に鮮やかに背中にのしかかっていた。
部屋の外に出ると、夜風が頬を撫でるように吹き抜けた。透はゆっくりと歩き出す。主治医がどこで倒れているか、まったく見当もつかない。
──でも、探すしかない。
背中のミナが、小さく呟いた。
「・・・アリス、無事だといいね。」
透は答えなかった。ただ一歩ずつ、夜の街へ向かって足を進めた。誰よりも疲れていたはずの彼女が、いまどこかで助けを求めている気がしてならなかった。

ホテルのロビーに差し掛かった瞬間、透の足が止まった。
そこに、彼女はいた。
カウンターの横、目立たない長椅子に寄りかかるようにして、アリスが眠っていた。足元には手帳と、ばらばらになった紙束。薄い肩が震えている。眠っているというより、意識を失っているに近い。だが──生きていた。
「・・・杞憂だったか。」
透がぽつりと呟いた。
「きゆー?」
ミナが、背中から覗き込むようにして尋ねる。
「杞憂。ミナが絶対にしないことだ。」
「しないよー?」
無邪気な声。けれど、彼女の言葉には決して誤魔化しがない。だからこそ、その言葉が、今は何よりも胸に響いた。
「一緒に行こう、ミナ。」
「行こう!」
ミナが、ぱたんと頭を透の背に預ける。彼女は相変わらず可愛く、何の疑いもなくそう促してくれる。
それが、逆に痛かった。
目の前で倒れているアリスは、きっと誰よりも強かった。誰よりも責任を負い、誰よりも耐えてきた。そして──今、もう耐えられなくなっていた。
精神的にも、肉体的にも、削られていた。だから、こうして──誰にも頼らず、誰にも迷惑をかけず、静かに倒れていた。
まだ、きっと酷くはないはずだ。回復の余地はある。支えることだって、できる。
なのに・・・。
透は一歩、アリスに近づいた。ミナが背中で、そっと呟いた。
「・・・ねえ、助けに来られて、よかったね。」
透は、かすかにうなずいた。
まだ、この場所でなら、手は届く。ぎりぎりのところで、彼女は諦めていなかった。
彼女の、無意識の最後の叫びに──ぎりぎり、間に合ったのだ。

透がアリスに手を伸ばそうとした、その瞬間だった。
「・・・失礼。」
乾いた音と共に、彼の左手首に冷たい金属が絡まった。がちゃり、と確かな音を立てて、片手に手錠が嵌められる。
「はい、この人が──恐らく、その医者に身体を売らせていた犯人です。」
声の主は、ホテルのスタッフ風の制服を着た若い男だった。だが、その目つきは異様に冷静で、背後からは制服警官数名が迫ってくる。
「ミナのため、と繰り返していましたが、おそらくその医者の娘が、いま背中に背負っている人物でしょう。」
「ご協力感謝します。」
警官の一人が頷く。既に周囲には人だかりができ始めていた。
透の目が見開かれる。
「ミナ、逃げろ!」
「えっ? え?」
ミナの声が震える。
「早く!」
反射的に背中から降ろそうとしたその時、長椅子で眠っていたはずのアリスが、急に身を起こした。
「──透君! 何をしたんだ!?」
「誤認逮捕。」
透は冷静な声で答える。焦っていない。状況をすでに計算に入れているかのようだった。
「ちょっと待って! 透君を逮捕なんて、国際問題待ったなしだぞ!」
アリスが立ち上がり、すぐさま警官たちの前に出る。片方の肩はまだ力が入っていないのか、体を支えるように壁を背にしていたが、声ははっきりしていた。
「この人は、私の患者であり研究責任者。未成年の女の子に見えるその子も、正式に家庭的監護下にある共同生活者です!」
警官が戸惑う。
「でも・・・この方が、あなたに──その、売春を──。」
「自分の判断だよ。私は、必要だった。私たちの治療には、正式に手配できない成分があって、それを得るには──こうするしかなかったんだ。」
「・・・どうします?礼状用意?」
「証拠は用意出来るが、そこの天才数学者にサイバー攻撃と技術革新ででインフラと雇用を壊されたくなきゃやめた方がいい。」
アリスは少年の方を振り向く。
「君だよね。通報したのは。」
少年は唇を引き結ぶようにして頷いた。
「君が善意で動いたことはわかる。ありがとう。でも──その背中にいた子は、娘じゃない。彼は加害者じゃない。・・・命を支えてきた、たった一人の協力者だよ。」
沈黙が落ちる。
警官が無線で何かを確認し始め、もう一人が手錠の鍵を探しながら、そっと透の手首に手を伸ばした。
「・・・お騒がせして、申し訳ありません。」
「・・・いえ。」
透は軽く首を振った。
アリスはミナを見やると、微笑を浮かべた。
「ほら、泣かないで。透君は悪いことなんかしてない。」
ミナは小さく頷いたが、まだ顔を伏せたままだった。手だけが、そっと透のコートの裾を掴んでいた。だが、ミナの精神は蝕まれているのだ。

了解しました。以下、アリスの内面描写として、地の文のみで整えます。
アリスの声は冷静だった。理路整然と、筋道を立てて彼を庇い、自らの判断を肯定してみせた。だが──その実、胸の奥では鈍い苦味が渦を巻いていた。
あれでよかったのか。あの説明で、本当に守れたのか。
化合物のことには一切触れなかった。触れられなかった。たとえ警察の介入が収まっても、その成分が法の眼に晒されれば、今度こそ全てが崩れる。それを理解していた。だから、あえて明かさなかった。
だが同時に、それは──自分が行ってきたことの一部を、透に背負わせたことでもあった。
彼がどこまで把握しているのかはわからない。彼の中ではすべてを理解しているのかもしれないし、ただ信頼という言葉の外縁だけで支えてくれているのかもしれない。
どちらであれ、彼を守る言葉は、嘘ではなかった。けれど、真実もまた、語られてはいなかった。
誰もが見ていた。自分が声を張り、透を正当化する姿を。まるで、自分こそが被害者のように。
だが本当は──自分が、あの夜、全ての境界を踏み越えていた。
痛むのは身体だけではない。誰かの信頼に、ほんの僅かでも寄りかかったことへの自責だった。化合物がなければミナは助からない。その現実が、彼女の口を塞ぎ、沈黙へと追い込んでいた。
あの場で話さなかったのは、自己保身ではない。だが、それでも──話してはいけなかった理由を、いつか正当化できなくなる日が来るかもしれない。
アリスは、自分の心に言い聞かせていた。
──いまは、まだ。いまは、守ることが最優先なのだと。

ロビーの一角に、スーツ姿の男が現れた。鋭い目元に控えめな微笑を乗せ、警官と短く話を交わしたのち、透とアリスの前に歩み寄ってきた。
「先ほどは、私の部下が早まった判断をしてしまい、申し訳ありませんでした。」
彼は深く頭を下げた。資産家──製薬関係の理事にも名を連ねる人物。アリスはその顔を見て、一瞬だけ視線を逸らした。
「・・・ああ、いえ。助かりました。」
透が無表情のまま答える。
男は数秒黙した後、言葉を選ぶように言った。
「もし、可能であれば。もう少しだけ、話を聞かせていただけませんか。」
その声には、情報を奪おうとする狡さよりも、何かを確かめようとする静かな誠実さがあった。
アリスは頷いた。そして、短く説明を始めた。
どのような化合物が必要だったのか──それには触れなかった。だが、治療の困難さ、制度上の制限、手配経路の不透明さ、そして予算の不足。その一つ一つを言葉にしていくと、資産家の目が徐々に深まっていくのがわかった。
「・・・なるほど。資金面の問題が、ここまで重大とは思っていませんでした。
彼は軽く顎に手を当て、透に目を向けた。
「正直に申し上げましょう。あなたのような人材は、実は各方面で“潰されかけて”います。あなたが研究を主導すれば、他の連中が仕掛けてきた商業的な治療計画がすべて後手に回る。進ませたくない者たちにとって、あなたは“やっかいな答え”そのものなのです。」
透は何も言わなかった。ただ、わずかに目を細めていた。
「実力がありすぎるがゆえに、どこもチームに引き込みたがる。だが、あなたが入れば、周囲の効率は落ち、あなた自身の自由は奪われる。・・・そして結局、何も進まない。」
資産家は苦笑交じりに言った。
「今回のプロジェクトも、見ていました。正直、よく機材が揃っているなと思っていた。だが実際は、薬も設備も、ほとんどが自己調達だったのですね。」
その言葉に、アリスは内心で苦く笑った。
──有効活用。それが、自分の思いついた言葉だった。
透の研究を、自らの技術と結びつけ、成果を最大限に引き出す。倫理の隙間を突いてでも、治療法を前に進める。だがそのためには、どうしても金が要った。善意でも、信念でも、現実は変えられない。
身体を売ってまで維持しようとしたのは、研究の質ではない。透という、奇跡のような頭脳を、この場所で活かしきるためだった。
彼の知性は、計画的に削がれていた。それを支えようとした自分もまた、既に綻びを見せていた。
資産家はふと、穏やかに問うた。
「──では、その研究。私に、出資させてもらえますか?」
アリスの目がわずかに揺れた。
これは、救いか。それとも──新たな値札か。
「もしこの研究が進んで、ただの一例でも“成功例”として世に出れば──。」
アリスは言葉を遮るように、わずかに声を強めた。
「それだけじゃ済みません。」
資産家の目が彼女を捉える。
「今、私たちが使っているのは医療機器だけじゃない。透君は、あらゆる産業で切り札に、そして、基礎になりうる。もし研究に専念すれば各業界で全く別の側面を与え知らぬ人はいなくなるものの、同時に功績が多過ぎてまとめられなくなるでしょう。」
「つまり、情報産業も敵になると?」
「ええ。IT、通信、そしてハードウェアの設計分野も。特許の延長線上にあるすべてが“彼の理論に追いつけない”と分かった瞬間、動きます。囲い込みか、潰しにかかるかのどちらかで。」
彼女は、一歩引いて視線を落とした。
「私は製薬業界に近かったから、そこばかり見ていた。でも・・・それだけじゃない。今思えば、透君が目をつけられているのは、医学ではなく“精度そのもの”なんです。」
資産家はその言葉を噛みしめるようにしながら、ゆっくりと口を開いた。
「なるほど。つまり──彼が進めば、社会構造が変わる。」
「その通りです。あなたがそれを後押しすれば、業界の重心がずれます。投資対象が変わり、国ごとの技術的優位まで揺らぐかもしれない。正直、手を引くなら今しかありません。」
アリスの声音には、警告の響きすらあった。試していた。押していた。何かを──自分にも、彼にも。
だが、男は穏やかに笑った。
「それでも、構いません。」
アリスは、思わずその顔を見た。
「私は、ずっと“動かないもの”に金を出し続けてきた。業績を守る者たちに投資し、現状維持の価値を信じてきた。だが──この数年、ほんの少し、疑問を感じ始めていたんです。」
「疑問・・・?」
「自分が選んできたものは、本当に“価値”だったのか。“予測可能性”に酔っていただけではないのか。・・・あなたが言った通り、私は確かに何かを失うでしょう。でも今なら、その代わりに“予測不能な未来”を手に入れられるかもしれない。」
彼の声に、迷いはなかった。
アリスは、それを聞きながら、自分の胸の奥にあるわずかな感情の動きを見逃さなかった。畏れ──ではない。期待とも違う。これは──敬意だった。
自分が必死に守ろうとしてきたものに、外から手を差し伸べながら、なお恐れず踏み込んでくる存在。それが、たまらなく頼もしく見えてしまったのだ。
そして同時に、思った。
──これでもう、後には引けない。
いや、もう後退は有り得ないのだ。


あと五話で終わらせます。そんな長く続けるもんでもないので。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

アガルタ・クライシス ―接点―

来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。 九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。 同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。 不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。 古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...