有栖と奉日本『ミライになれなかったあの夜に』

ぴえ

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過去との対話_有栖_7

有栖_7-2

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 シャワーを浴び終えた『私』は一度脱いだ服を着る気にはなれずに備え付けてあったバスローブを羽織った。熱い湯は『私』の酔いをさますことだけには効果を発揮したらしく、頭痛は軽くなり、少しは冷静に考えられるようになっていた。
 とりあえず、近くにあったソファに身体を預けるように腰掛け、頭を抱える。情報と状況の整理が『私』には必要だった。

『私』を犯したのは我孫子で間違いないだろう。最後の言葉とタクシーで送る場面までは薄らと記憶にある。
 ならば、我孫子がここにいないのは何故か? 行為を終えたあとは長居する理由がないので去ったと考えるのが妥当だ。酩酊状態の『私』が完全に意識を取り戻したときに、その場に当人がいると彼には面倒なのだろう。おそらく、『私』の記憶が曖昧なことをいいことに周囲と口裏を合わせる算段なのかもしれない。

 そこで『私』はとあることに気がつき、ベッドとその周囲を慌てて探った。自身が犯されたことを今更否定するつもりはないが、違うことが気になった。そして、いくら探しても『それ』がないことが、また『私』を絶望へと突き落とした。

 その場にはコンドームがなかったのだ。
 ゴミ箱にあるは個装で封が切られたローションと丸まったティッシュペーパーだけだった。
 つまり、我孫子は――

「うっ……」

『私』は突然、吐き気を覚え、トイレに駆け込み嘔吐した。一度吐くと口の中に広がった酸味と臭いが気持ち悪く、また吐いた。それを何度も繰り返し、トイレに土下座でもするかのように前のめりに身体を崩した。

「七十二時間以内に産婦人科に受診。あと、証拠だ。体毛とか体液を……」

 自身の身体の状態を確認する為と、加害者を特定する術を『私』は知っていた。『私』は力の入らない身体を重たそうに引きずって、ベッドのある場所へと戻った。
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