有栖と奉日本『翔べないツバサ』

ぴえ

文字の大きさ
17 / 86
第二章:ファイティングプロレス

反保_2-1

しおりを挟む
 刀義が話したように、ユースティティアに『ファイティングプロレス株式会社』から旗揚げ記念日の警備依頼が届いた。どのような手段を用いたのかは不明だが、そのことについては特務課も佐倉も問わないようにしていた。そこを追求しても待っているのは暗い深海でしかなく、そこの探索はいつかはしなくてはいけないことだとしても、今ではない。裏社会の協力を得なければ動けないことは不本意だとしても、その苦汁を舐めながらも甘えなければならない現状がユースティティアの、特務課の現在地でもある。

 そして、旗揚げ記念日の三日前。
 有栖と反保の二人はユースティティアの代表として『ファイティングプロレス株式会社』の挨拶と警備についての打ち合わせをする為に来訪していた。

「本当にここの誰かに毒が渡されたんですかね?」

 反保は少しだけ悲しそうに呟く。彼がそんな感情を抱くのは、この日が来るまでにこの会社について、これまでの興業など……つまりはプロレスの試合を見てきたからだ。
 そこに映っていたのは『筋書きの無いドラマ』だった。熱い男達が戦いを繰り返すことで様々な感情が紡がれ、過去の何気ない小さな戦いが、数年後には大きな因縁や強い絆となる。
 反保は有栖の補足説明を聞きながら主要試合を数試合だけ見ただけだが、それでも熱くなり、夢中になる理由に納得したものだ。
 だからこそ、そこに所属する選手や社員が陰謀や殺害を計画しているなんて考えたくもなかった。

「企業である以上、そこに利権が絡む要素や不平や不満があるのは否めない、と思う」

 そう回答した有栖の表情も寂しそうに見えた。
 利権は会社の社員。不平と不満は選手のことを指しているのだろう。前者は解りやすいが、後者は選手の誰がフィーチャーされるのかはコントロールできないものだ。過去には会社としてプッシュしたい選手がいても、予想外の試合がファンからの高評価を得て、輝き、別の選手がフィーチャーされることがある。もちろん、会社がプッシュして上手くいった選手もいる。そういった部分を鑑みると様々な感情や思惑も否定できない。

「特にあの噂もあるし」
「海外進出と合併の噂ですね」

 過去は世界二位だった『ファイティングプロレス株式会社』だったが、観客動員数は昨年から現象の傾向もあり、団体として生き残るのには現在世界二位となった新団体と合併するべきや積極的に海外進出するべきだ、という噂がネット上では流れているようだった。また、その考えにも賛同する声も多く見えた。しかし、その流れにならないのは――

「拒否している人もいるんですよね」
「その人と会うことになるかもね」

 そんな会話を交わすと、二人は『ファイティングプロレス株式会社』のエントランスへと向かう。
 出入口はオートロックとなっていて、磨り硝子の自動ドアの奥は見えないし、勝手には開かない。近くにある無人の受付にはタッチパネルがあり、操作すると用件を選択できるようになっていた。
 有栖が手際よく操作すると、

『はい、こちら受付です』

 と人の声が機械を通して聞こえてきた。

「本日、来社を予約していましたユースティティアの有栖です」
『お待ちしておりました。少々、お待ちください』

 ぷつり、と切断音が聞こえ、待つこと数分。自動ドアの向こうに人の気配を感じると、カードキーで解錠したかのような電子音が鳴った。
 そして、自動ドアが開く。有栖達も身支度を軽く整え、開くのを待つと――

「え?」
「うわっ」

 有栖も反保も自動ドアの向こうに立っている人物に驚いた。二人は社員が迎えてくれるのだろう、と思っていたのだが、

「ようこそ! ファイティングプロレス株式会社へ」

 さわやかな声と笑顔で二人を迎えてくれたのは団体の主要かつ人気選手である棚神選手だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
現代文学
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

郷守の巫女、夜明けの嫁入り

春ノ抹茶
キャラ文芸
「私の妻となり、暁の里に来ていただけませんか?」 「​はい。───はい?」 東の果ての“占い娘”の噂を聞きつけ、彗月と名乗る美しい男が、村娘・紬の元にやってきた。 「古来より現世に住まう、人ならざるものの存在を、“あやかし”と言います。」 「暁の里は、あやかしと人間とが共存している、唯一の里なのです。」 近年、暁の里の結界が弱まっている。 結界を修復し、里を守ることが出来るのは、“郷守の巫女”ただ一人だけ。 郷守の巫女たる魂を持って生まれた紬は、その運命を受け入れて、彗月の手を取ることを決めた。 暁の里に降り立てば、そこには異様な日常がある。 あやかしと人間が当たり前のように言葉を交わし、共に笑い合っている。 里の案内人は扇子を広げ、紬を歓迎するのであった。 「さあ、足を踏み入れたが始まり!」 「此処は、人と人ならざるものが共に暮らす、現世に類を見ぬ唯一の地でございます」 「人の子あやかし。異なる種が手を取り合うは、夜明けの訪れと言えましょう」 「夢か現か、神楽に隠れたまほろばか」 「​──ようこそ、暁の里へ!」

処理中です...