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第二章:開幕
飛田_2-1
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もうすぐ交代の時間か、と腕時計を見ながら飛田はアース博士のいる棟の一階で待機していた。彼の立っている後ろの扉の奥ではアース博士が黙々と仕事中だ。当然のように中には入れないし、入ったところで邪魔になるので、護衛の仕事は彼女が入った部屋の前で待機し、怪しい人物が来ないことを警戒するだけだ。
アース博士は一階から三階までを行き来するので、その際は一緒に移動し、彼女が部屋に入れば、またその前で待機――その繰り返しだった。
「暇だけど――緊張感のある暇ってのも嫌なもんだな」
護衛対象は世界にとっての重要人物だ。とはいえ、彼女に身に何もなければ護衛といえど『待機』が基本だ。端的に表現すれば暇になるのだが、職業上、万が一を常に警戒することになるので緊張感はまとわりついている。
「聖先輩、まだかな」
アース博士の護衛方法は警察とユースティティアで協議の上、決定した。
アース博士のいる棟には警察からは虹河原か飛田を、ユースティティアからは特務課から一人を常に配備。
配備された二人の内、一人はアース博士の護衛。もう一人はアース博士がいない他の階を見回る。そして、その役目は三十分で交代。一時間後には警察とユースティティアからも交代が来て、担当していた者達はアース博士のいる棟を離れて、サイバーフェスが行われている会場へと戻り、他の業務に従事する。それをローテーションで回していた。
なお、その日のローテーションの内容は朝と昼で虹河原と一色が話して決めている。二回も協議するのは急務で対応できな場合を考慮してのことだった。
そして、現在の担当は飛田と一色である。
――折角、イチさんと一緒の任務なのになぁ
飛田は一色に憧れて警察に入隊した経緯がある。しかし、彼が見事に入隊したときには一色は警察を辞職し、ユースティティアに所属していた。相対する組織同士なので、このように協力して任務を実施することは希なことだ。彼にとっては非常に喜ばしい状況だが、業務の仕方上、会話を交わすことが少ないのは不服だった。
「――あっ」
棟に誰かが入ってきたので視線を移すと、そこには反保がいた。それと同時に彼の中に複雑な感情が渦巻く。
一つは一色の部下、というのが羨ましい気持ち。
もう一つは、反保がユースティティアに所属する前に向き合ったときの気持ちだ。戦闘になり、飛田は隙を見せ、退けられた。その遺恨――なんかではない。
あのとき、飛田には追いつめられていた反保の話を聞いてあげたい――その気持ちがあったのだ。同じ目線で向き合い、救うことができたのではないか――その後悔に近い感情が残っている。
しかし、その役目は彼ではない別の誰かが行った。飛田の思いは反保に伝わることなく、また、彼も上手く消化できず自分にだけ解る靄となって残っていた。
「あの……」
「イチさんなら上の階だ」
「あ、ありがとうございます」
反保が話しかけてきたので、必要な情報だけ伝える。一色への態度と比べると冷たい対応にも見えただろう。不快に感じたかもしれない。
ただ、飛田は気持ちに折り合いをつけれず、上手く接することができないだけなのだが。
――まぁ、そのうち何も感じなくなるだろ
遠ざかる反保の背中を見ながら、飛田は彼に抱く感情を見て見ぬ振りする。他の仕事をしているうちは忘れられるので、虹河原の交代が待ち遠しく感じた。
アース博士は一階から三階までを行き来するので、その際は一緒に移動し、彼女が部屋に入れば、またその前で待機――その繰り返しだった。
「暇だけど――緊張感のある暇ってのも嫌なもんだな」
護衛対象は世界にとっての重要人物だ。とはいえ、彼女に身に何もなければ護衛といえど『待機』が基本だ。端的に表現すれば暇になるのだが、職業上、万が一を常に警戒することになるので緊張感はまとわりついている。
「聖先輩、まだかな」
アース博士の護衛方法は警察とユースティティアで協議の上、決定した。
アース博士のいる棟には警察からは虹河原か飛田を、ユースティティアからは特務課から一人を常に配備。
配備された二人の内、一人はアース博士の護衛。もう一人はアース博士がいない他の階を見回る。そして、その役目は三十分で交代。一時間後には警察とユースティティアからも交代が来て、担当していた者達はアース博士のいる棟を離れて、サイバーフェスが行われている会場へと戻り、他の業務に従事する。それをローテーションで回していた。
なお、その日のローテーションの内容は朝と昼で虹河原と一色が話して決めている。二回も協議するのは急務で対応できな場合を考慮してのことだった。
そして、現在の担当は飛田と一色である。
――折角、イチさんと一緒の任務なのになぁ
飛田は一色に憧れて警察に入隊した経緯がある。しかし、彼が見事に入隊したときには一色は警察を辞職し、ユースティティアに所属していた。相対する組織同士なので、このように協力して任務を実施することは希なことだ。彼にとっては非常に喜ばしい状況だが、業務の仕方上、会話を交わすことが少ないのは不服だった。
「――あっ」
棟に誰かが入ってきたので視線を移すと、そこには反保がいた。それと同時に彼の中に複雑な感情が渦巻く。
一つは一色の部下、というのが羨ましい気持ち。
もう一つは、反保がユースティティアに所属する前に向き合ったときの気持ちだ。戦闘になり、飛田は隙を見せ、退けられた。その遺恨――なんかではない。
あのとき、飛田には追いつめられていた反保の話を聞いてあげたい――その気持ちがあったのだ。同じ目線で向き合い、救うことができたのではないか――その後悔に近い感情が残っている。
しかし、その役目は彼ではない別の誰かが行った。飛田の思いは反保に伝わることなく、また、彼も上手く消化できず自分にだけ解る靄となって残っていた。
「あの……」
「イチさんなら上の階だ」
「あ、ありがとうございます」
反保が話しかけてきたので、必要な情報だけ伝える。一色への態度と比べると冷たい対応にも見えただろう。不快に感じたかもしれない。
ただ、飛田は気持ちに折り合いをつけれず、上手く接することができないだけなのだが。
――まぁ、そのうち何も感じなくなるだろ
遠ざかる反保の背中を見ながら、飛田は彼に抱く感情を見て見ぬ振りする。他の仕事をしているうちは忘れられるので、虹河原の交代が待ち遠しく感じた。
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