上 下
44 / 76
第四章:三極-2-

反保_4-3

しおりを挟む
「死にたくなきゃ、どきな!」
 音切はナイフを構えながら、走り、反保へと近づいてくる。待ち構えまえる彼は大きく呼吸をし、心音を落ち着かせ、身体を斜にするように右足を引いた。
「じゃあ、死ね!」
 音切がナイフを振り下ろす。反保はその攻撃を受け流した。
「くっ」
 次々と音切はナイフを振り回すが、反保には当たらない。見事な体捌きで対処していく。
 これを可能にしているのは日頃の訓練の賜物であった。

 ――大丈夫、問題ない。コイツの攻撃は有栖先輩より遅いし、一色さんより巧くない。

 訓練相手が規格外だった為、反保の体術の成長は著しいものがあった。それは戦いながらも冷静に策が練れるぐらいに。

 ――特殊警棒は切り札だ。使うタイミングは考える必要がある。使わなければそれで良い。

 反保の腰には伸縮する特殊警棒が装備されており、ジャケットから覆われるように隠されていた。これは体術だけで制することが出来ない場合の術として一色が用意してくれたものである。彼は一色から突くように使う、と習っており、その威力は相手の骨を粉砕する威力があることも知っていた。

 ――だけど、これなら大丈夫だ。

 またもや音切のナイフを避けた反保は足払いで相手を転ばした。
「ぐわっ!」
 ドスン、と床へと仰向けに倒れた相手の右手を蹴り、続けて、左手も蹴る。持っていたナイフは二つとも床を滑るように転がっていった。
「よし!」
「油断したな、馬鹿が」
 安全、と判断したのは反保の早とちりだった。音切の右手には既に新しいナイフが握られている。熟練されたスピードは反保の判断を上回った。
 音切は躊躇いなく、ナイフを反保の太ももに刺し、滲み出た血に口元を釣り上げる。
 しかし、
「だから、何?」
 無痛症である反保には、その攻撃に怯むことも、痛みで苦痛の表情を浮かべることはなかった。彼は半身だけ起き上がっている音切の顔面を、蹴り飛ばす。
「ぐぎゃ!」
 足の甲に重たい感触と痺れを感じながら、床に転がった音切を見据える。

 ――倒したか?

 それは反保の願望であったが、叶うことなく音切は思っていたよりも早く立ち上がった。鼻からは血が出ているが、気を失うほどのダメージを与えることは出来なかったようだ。
しおりを挟む

処理中です...