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第四章:三極-2-

音切_4-3

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 横たわる反保を音切は何度も、何度も殴り、蹴り続けた。殴れば手に血が付いた。蹴れば相手は咽せ込んだ。その反応だけならば痛みを感じない、というのは勘違いかとも思えたが、どれだけ暴行しても反保は這い蹲りながら動こうとする。痛みで動けなくなるぐらいは攻撃しているので、やはり痛みを感じていないのだと彼は確信する。
「無駄な行為は止めとけ」
 反保の這い蹲りながらの移動を逃亡、又は、仲間を呼びに行く為だと音切は思っていた。しかし、それは彼が言う通り無駄な行為だった。
 這い蹲った動きでは音切からは逃げきれない。更に、血で奪った視界は回復させないように、拭うような行為は阻止していた。
「見えないのに、闇雲に進むってのは無謀だろ。諦めろよ」
 そう言って、音切は反保の背中を踏みつける。それでも、反保は這い蹲りながら進む、進み続ける。
「無様な姿を見るのは面白いけど、いくら痛めつけても反応がないのは……つまらないなぁ」
 反保は音切の言葉を無視して、それでも進む。その姿に音切は呆れていた。
「俺も忙しいんでなぁ……心臓にナイフでも突き刺せば、さすがに死ぬだろ」
 ナイフを準備したとき、反保がついに進むのを止めた。
「観念したか。まぁ、無駄に足掻くと刺すとこがズレて苦しむだけだしなぁ。ん? あれ? 痛みを感じないんだったら、どっちでも良いのか? どっちでも良いかぁ」
 音切はナイフを逆手に持ち、反保に近づく。
 反保もまた相手を受け入れるように、身体を返す――そのときだ。
「はぁ?」
 突如、反保の動きが早くなり、彼は手に持っていた『それ』を投げつけた。
 音切は慌てて払うが、それは硬く、重く、彼のナイフを弾いた為、ほぼ腕で防ぐことになった。
「痛ぇ! 何だ、これ!」
 払った腕が痺れる。地面に落ちる瞬間に、音切は『それ』を認識した。
 消火器だった。ピンは既に抜けており、地面に落ちた瞬間、衝撃で白い煙をまき散らした。
「くそ!」
 白い煙で反保が見えなくなっていく。その中でも、音切は冷静であり、一つの疑問を処理しようとしていた。

 ――何で、アイツは消火器の場所が解ったんだ?
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