有栖と奉日本『幸福のブラックキャット』

ぴえ

文字の大きさ
42 / 48
有栖-3

有栖-3-6

しおりを挟む
「後悔させてやるよ」
 そう言うと鮫島は大きく腕を振りかぶり、殴りかかる。
「くっ!」
 大振りなので避けるのは余裕だ、と有栖は思っていたがスピードが速かった。少し判断が遅れた分、腕によるガードに切り替えたが――
「やばっ!」
 鮫島の拳が自身の腕に触れた瞬間、有栖はその重さ、威力を察した。まともに受けるとガードごと吹き飛ばされてダメージが生じる、と感じた彼女は咄嗟に受け流す。
「やるじゃん! じゃあ、これは?」
 鮫島は楽しそうに左フックを放つ。これを有栖はダッキングで避ける。そこに今度は蹴りが真正面から放たれた。避けることが出来ずに有栖は腕を交差させ、受け止めるがその威力によって後方へと弾き飛ばされる。地面から足が離れたので着地をするが、勢いは殺しきれず滑り、二人の間に距離が生まれたところで止まる。
「痛っ……」
 有栖は腕の痺れを感じながら、鮫島を睨む。相手は相変わらず下品な笑みを浮かべている。
「いいね、いいね。こりゃ長く楽しめそうだ」
 まるで玩具を見つけた幼児のように鮫島は拳を握りながら近付いてくる。その向こうにいる結城と姫野も勝ち誇った笑みを見せている。防戦一方だった有栖を見て安堵しているのだろう。
「悪いけど、長引かせるつもりはない」
 痺れる腕を振って、手を握ったり開いたりを繰り返し、機能が正常かを確認すると有栖も一歩近付く。
「まだ余裕がありそうだな」
「実際、余裕なのよ」
「あっそ、死ね」
 鮫島の右ストレートが先程と同様の速さで放たれる。そのスピードは確かに速いが、さっき以上ではない。有栖が少々対応が遅れたのは想定より速かったからだ。だけど、それはさっきの攻防で既に理解し、修正した。彼女には充分に対応できる速度だ。
「なっ!」
 有栖が防御でも後方に退くでもなく、前に踏み込んだことに鮫島は驚いた。彼女は彼の拳をヘッドスリップで避けるとそのままステップイン。斜め方向から抉るように左の拳を鮫島のボディにめり込ませた。
「がはっ!」
 カウンターで入ったその一撃は鮫島の胃液を逆流させ、呼吸を強制的に止めた。がくり、と彼の膝が落ちる。
「え?」
 すかさず頭に手を回して、有栖の膝蹴りが顔面に炸裂する。そして、動きを止めることなく、後方に仰け反った彼の後ろに回るとチョークスリーパーで首を締め上げた。
「ぐぎぎ……」
 鮫島に完全なチョークスリーパーが決まった。だが、これはスポーツではない。タップをしたところで解除してくれるわけでもない。
 呼吸ができなくなり、視界に白いモヤが広がってきていた。このままでは負ける――鮫島は必死で逆転の方法を思案した。
「まだ……だ……」
 倒れそうになった鮫島が上体を起こす。彼が土壇場で考えついたのは有栖との体格差だ。鮫島が立ち上がれば、有栖は彼の首にぶら下がる形になる。そのまま後方に勢いよく倒れれば押しつぶすことも可能だ。だから、彼は――力を振り絞り、膝を伸ばし、立ち上がろうとした。
「残念」
 その瞬間、有栖のささやきが耳に響いた。彼女は別にそのまま締め落とそうとは考えていなかった。寧ろ、その次が決め手だった。鮫島の行動を予測しており、立ち上がろうとした勢いを利用し、そのまま後方へとジャーマンスープレックス――首を絞めたまま投げる危険な技であるスリーパースープレックスだ。彼女は綺麗なブリッジをし、鮫島の身体は弧を描き、首を絞められたまま頭が地面へと叩きつけられた。
 衝撃と更に絞められた首により、鮫島は完全に意識を失った。
「はい、オシマイ」
 そう言った有栖は、鮫島が呼吸をしていることを、一応確認しておいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

あなたが決めたことよ

アーエル
恋愛
その日は私の誕生日パーティーの三日前のことでした。 前触れもなく「婚約の話は無かったことにしよう」と言われたのです。 ‪✰他社でも公開

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

【完結】限界離婚

仲 奈華 (nakanaka)
ミステリー
もう限界だ。 「離婚してください」 丸田広一は妻にそう告げた。妻は激怒し、言い争いになる。広一は頭に鈍器で殴られたような衝撃を受け床に倒れ伏せた。振り返るとそこには妻がいた。広一はそのまま意識を失った。 丸田広一の息子の嫁、鈴奈はもう耐える事ができなかった。体調を崩し病院へ行く。医師に告げられた言葉にショックを受け、夫に連絡しようとするが、SNSが既読にならず、電話も繋がらない。もう諦め離婚届だけを置いて実家に帰った。 丸田広一の妻、京香は手足の違和感を感じていた。自分が家族から嫌われている事は知っている。高齢な姑、離婚を仄めかす夫、可愛くない嫁、誰かが私を害そうとしている気がする。渡されていた離婚届に署名をして役所に提出した。もう私は自由の身だ。あの人の所へ向かった。 広一の母、文は途方にくれた。大事な物が無くなっていく。今日は通帳が無くなった。いくら探しても見つからない。まさかとは思うが最近様子が可笑しいあの女が盗んだのかもしれない。衰えた体を動かして、家の中を探し回った。 出張からかえってきた広一の息子、良は家につき愕然とした。信じていた安心できる場所がガラガラと崩れ落ちる。後始末に追われ、いなくなった妻の元へ向かう。妻に頭を下げて別れたくないと懇願した。 平和だった丸田家に襲い掛かる不幸。どんどん倒れる家族。 信じていた家族の形が崩れていく。 倒されたのは誰のせい? 倒れた達磨は再び起き上がる。 丸田家の危機と、それを克服するまでの物語。 丸田 広一…65歳。定年退職したばかり。 丸田 京香…66歳。半年前に退職した。 丸田 良…38歳。営業職。出張が多い。 丸田 鈴奈…33歳。 丸田 勇太…3歳。 丸田 文…82歳。専業主婦。 麗奈…広一が定期的に会っている女。 ※7月13日初回完結 ※7月14日深夜 忘れたはずの思い~エピローグまでを加筆修正して投稿しました。話数も増やしています。 ※7月15日【裏】登場人物紹介追記しました。 2026年1月ジャンルを大衆文学→ミステリーに変更しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...