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沢渡辰夫との対談は沢渡派閥御用達の料亭の離れ特別室で行われた。
私設秘書からトントン拍子に市議会議員にまで出世コースで上り詰めている男の顔は、薄気味悪いほど青白い顔をしていた。
訝しげに部外者がいることとにシワを寄せている男に、登は啓吾に隣に座ってくれと頼んだ。
啓吾は上座に座っている登の年の離れた義兄、辰夫を見つめていた。髪の毛をポマードで撫で付け、市民に好印象を与える風体で、まるで似てない兄弟だと思った。
秘書を別室に下げさせて辰夫は言う。それは啓吾にでていいけと遠回しに言っている言葉だった。
だが、啓吾は動かなかったので、青白い顔が歪んで醜い顔が見て取れた。
「父が沢渡の名を継いでほしいとのことを言いにきた」
と、
「今までの素行はすべて流して、一から出直さないかと、言うわけだ。とりあえず父のカバン持ちから出発するのも手だろう。……父にはもう議員人生は長くはない」
威圧的な態度に押されたものの、登はキッとして言った。
「義兄さん、昔から言ってた通り、僕には沢渡を継ぐようなそんな器じゃない。もともと、僕には母だけが肉親です。そして沢山の人から手を差し伸べてもらいました。沢渡家には金銭的に今まで免除してもらいましたが、完済後が終わったのを機に、今日は感謝の意を述べにこちらへ来たまでです。もう、これ以上のご支援はご助言はご遠慮致します」
「今までお前の尻拭いをしてきた恩をそうまで言うのか、お前は」
「義兄さん、もう辞めましょう。そうやって罪の押し付け合いをするのは……僕だって馬鹿じゃない。馬鹿なことに巻き込まれた不運で粗雑な弟を気取るのも辞めます。……あの時、公安の取り締まりでデコイを引き受けたのは他ならぬ僕なのだから…頭を下げられ自分に酔って大勢の大切な人たちを傷付けて間違いを犯したのも僕だから」
「知っていて薬物売人の色をしてたというのか」
見下した物言いにも登は怯むことはなかった。
「最後の半分はね……警察には知り合いが沢山います。この先、僕に何かあったら、刑事科よりも先に公安一課の牧野沙紗さんが証明してくれますよ」登はふっと笑った。「母がね、よく連れて行ってくれたんですよ。古い映画に、父さんが好きだった映画はこんな映画だってね。指定席に年間契約しているくらい好きだったって。その場所がそこだった………はめられたのは僕らじゃないのかな。義兄さん。義父に……おかげであの時の接戦選挙勝ったでしょう」
辰夫は真っ赤な顔をして怒りが収まらなかった。
「嘘だ!」
と、ダンと、テーブルを叩いた。
茶碗が揺れて茶が零れた。
「義父に直接聞いてみたことないのですか?今度選挙演説もして貰うんでしょう。僕はね、それに駆り出されるほどの道化にはなりたくない…校正したばかりの馬鹿な弟ですが家族仲良くやっていますって。白々しいく手を降って回るのを」
登は冷たく言った。
「義父は何を僕にしてくれましたか?お金以外。母を自宅の庵に軟禁して、凌辱するばかりだったじゃないですか。その度に僕は終わるまで雨や雪の中でも外で待たされていたんです。義理の母に何度となく妾と罵られ、挙句、義兄さんあなたは僕に」
登が紅葉して、辰夫は怯んだ。
「言うな!それ以上言うな!」
登の声が震えて大きくなった。
「僕を犯そうとした癖に!そんなに僕を消したいの!!あの時、死んで欲しいと願ったのはほかならぬ義兄さん…貴方だ」
啓吾は思わず、登を抱き込んだ。これ以上汚れた言葉が出ないように。
辰夫は憤慨し、二人の様子を一瞥して、部屋を後にした。
引き戸お荒い音がし、料亭からハイヤーが出ていった。
気分が悪いのか真っ青な顔で登は、嗚咽が出て呼吸が乱れている。
「登、登。大丈夫、大丈夫だから……」
それは誰の声だろうか。母の声だろうか。庭師のおじさんの声だろうか。そうか、ここにいるのは啓吾だ。啓吾の優しい胸の中にいるのだ。抱き締められているのだ。
「ご免なさい、ご免なさい。こんなことに巻き込んで……痛い……凄く痛い」
あの時刺された傷がぱっくりと開いたかのように血があふれ出ている感じがした…登は気を失った。
「だからさぁ、メンドイごとは勘弁してくれって」
近藤巧はそう言って啓吾のアパートへわざわざ深夜自家用車を飛ばしてきてくれた。「診療報酬二倍にふっかけたい」と言いながら処置は完ぺきだった。元外国人医師団のメンバーだけあって簡単に無菌室も蚊帳を張るくらいにさっと組み立てた。
「……ああ、俺らって今無職なんだ。分割払いとかって利く?」
啓吾はばつが悪そうに言った。
「貧乏は大嫌いさ、無許可報酬でしてやるから、心配するなって」
近藤はそう言って、ウインクした。
「この前の裂傷事件の傷跡は、大方完治してるんだよ。合併症もなさそうだし…安静にしておけば癒着するだろうと安心してたんだけど…うーん。なんか無茶なこととかさせた?」
「えーそれは、どれ位が無茶かと言えばどうかと…」
どのくらいかと聞かれても啓吾にとっては言うことができなかった。あれが悪いのかこれが悪いのか、何もかもがごっちゃになって頭がパニックになったからだ。胡散臭そうに近藤は見つめて、
「あ、もういい。他にも、激しいストレスとか、まあ、いろんなことがあるから、一概にこれとは言えないんだけれどね。当分また食事抜きの状態からだね。この顔色の悪さ…全く、コイツには手が掛かる」
近藤はそう言って、総合栄養剤のドリンクを一日三本の処方を一週間分おいてくれた。
「今度登を泣かせたら、キス一つの報酬じゃ済まないからね。当分登の体を酷使するようなこと禁止!」
野太いエンジン音のスポーツカーが走り去った。
だるそうな顔で目を覚ました登は横で眠っている啓吾を見つめた。
「…啓吾」
「起きたか……登の友人って情が熱いね」
「ん?」
「近藤先生が来てくれたんだよ…もう少し入院しておけばよかったのにって、怒ってたよ」
「はー…もう、啓吾は知らないかもしれないけれど、あいつのセクハラ酷いんだよ。それが嫌になって大病室に変えてくれって何度も申告したのに聞いてくれなかったんだ」
「だけど俺が見舞いに毎日行った時にはそんなそぶりは見せなかったじゃないか」
「だって、そこじゃないと、鍵付きじゃなかったろう…」
「そうだけど」
「そうだけど!」けだるそうに登は眠った。「そうなの」と唇を尖らせてみる。「あいつは看護師がいるからそれ以上のことできなかったけどねっ…て言うか、啓吾何かされた?」
「い…嫌、何も。飲み屋で一度飲んだだけの関係だし」
「あいつのタイプのまんまだから啓吾気をつけないといけないよ」
「バーカ!お前は!んな、ことより早く良くなれや、二度と冷や冷やさせるな」
そう言って、登の頭をガシガシなでるだけだった。
私設秘書からトントン拍子に市議会議員にまで出世コースで上り詰めている男の顔は、薄気味悪いほど青白い顔をしていた。
訝しげに部外者がいることとにシワを寄せている男に、登は啓吾に隣に座ってくれと頼んだ。
啓吾は上座に座っている登の年の離れた義兄、辰夫を見つめていた。髪の毛をポマードで撫で付け、市民に好印象を与える風体で、まるで似てない兄弟だと思った。
秘書を別室に下げさせて辰夫は言う。それは啓吾にでていいけと遠回しに言っている言葉だった。
だが、啓吾は動かなかったので、青白い顔が歪んで醜い顔が見て取れた。
「父が沢渡の名を継いでほしいとのことを言いにきた」
と、
「今までの素行はすべて流して、一から出直さないかと、言うわけだ。とりあえず父のカバン持ちから出発するのも手だろう。……父にはもう議員人生は長くはない」
威圧的な態度に押されたものの、登はキッとして言った。
「義兄さん、昔から言ってた通り、僕には沢渡を継ぐようなそんな器じゃない。もともと、僕には母だけが肉親です。そして沢山の人から手を差し伸べてもらいました。沢渡家には金銭的に今まで免除してもらいましたが、完済後が終わったのを機に、今日は感謝の意を述べにこちらへ来たまでです。もう、これ以上のご支援はご助言はご遠慮致します」
「今までお前の尻拭いをしてきた恩をそうまで言うのか、お前は」
「義兄さん、もう辞めましょう。そうやって罪の押し付け合いをするのは……僕だって馬鹿じゃない。馬鹿なことに巻き込まれた不運で粗雑な弟を気取るのも辞めます。……あの時、公安の取り締まりでデコイを引き受けたのは他ならぬ僕なのだから…頭を下げられ自分に酔って大勢の大切な人たちを傷付けて間違いを犯したのも僕だから」
「知っていて薬物売人の色をしてたというのか」
見下した物言いにも登は怯むことはなかった。
「最後の半分はね……警察には知り合いが沢山います。この先、僕に何かあったら、刑事科よりも先に公安一課の牧野沙紗さんが証明してくれますよ」登はふっと笑った。「母がね、よく連れて行ってくれたんですよ。古い映画に、父さんが好きだった映画はこんな映画だってね。指定席に年間契約しているくらい好きだったって。その場所がそこだった………はめられたのは僕らじゃないのかな。義兄さん。義父に……おかげであの時の接戦選挙勝ったでしょう」
辰夫は真っ赤な顔をして怒りが収まらなかった。
「嘘だ!」
と、ダンと、テーブルを叩いた。
茶碗が揺れて茶が零れた。
「義父に直接聞いてみたことないのですか?今度選挙演説もして貰うんでしょう。僕はね、それに駆り出されるほどの道化にはなりたくない…校正したばかりの馬鹿な弟ですが家族仲良くやっていますって。白々しいく手を降って回るのを」
登は冷たく言った。
「義父は何を僕にしてくれましたか?お金以外。母を自宅の庵に軟禁して、凌辱するばかりだったじゃないですか。その度に僕は終わるまで雨や雪の中でも外で待たされていたんです。義理の母に何度となく妾と罵られ、挙句、義兄さんあなたは僕に」
登が紅葉して、辰夫は怯んだ。
「言うな!それ以上言うな!」
登の声が震えて大きくなった。
「僕を犯そうとした癖に!そんなに僕を消したいの!!あの時、死んで欲しいと願ったのはほかならぬ義兄さん…貴方だ」
啓吾は思わず、登を抱き込んだ。これ以上汚れた言葉が出ないように。
辰夫は憤慨し、二人の様子を一瞥して、部屋を後にした。
引き戸お荒い音がし、料亭からハイヤーが出ていった。
気分が悪いのか真っ青な顔で登は、嗚咽が出て呼吸が乱れている。
「登、登。大丈夫、大丈夫だから……」
それは誰の声だろうか。母の声だろうか。庭師のおじさんの声だろうか。そうか、ここにいるのは啓吾だ。啓吾の優しい胸の中にいるのだ。抱き締められているのだ。
「ご免なさい、ご免なさい。こんなことに巻き込んで……痛い……凄く痛い」
あの時刺された傷がぱっくりと開いたかのように血があふれ出ている感じがした…登は気を失った。
「だからさぁ、メンドイごとは勘弁してくれって」
近藤巧はそう言って啓吾のアパートへわざわざ深夜自家用車を飛ばしてきてくれた。「診療報酬二倍にふっかけたい」と言いながら処置は完ぺきだった。元外国人医師団のメンバーだけあって簡単に無菌室も蚊帳を張るくらいにさっと組み立てた。
「……ああ、俺らって今無職なんだ。分割払いとかって利く?」
啓吾はばつが悪そうに言った。
「貧乏は大嫌いさ、無許可報酬でしてやるから、心配するなって」
近藤はそう言って、ウインクした。
「この前の裂傷事件の傷跡は、大方完治してるんだよ。合併症もなさそうだし…安静にしておけば癒着するだろうと安心してたんだけど…うーん。なんか無茶なこととかさせた?」
「えーそれは、どれ位が無茶かと言えばどうかと…」
どのくらいかと聞かれても啓吾にとっては言うことができなかった。あれが悪いのかこれが悪いのか、何もかもがごっちゃになって頭がパニックになったからだ。胡散臭そうに近藤は見つめて、
「あ、もういい。他にも、激しいストレスとか、まあ、いろんなことがあるから、一概にこれとは言えないんだけれどね。当分また食事抜きの状態からだね。この顔色の悪さ…全く、コイツには手が掛かる」
近藤はそう言って、総合栄養剤のドリンクを一日三本の処方を一週間分おいてくれた。
「今度登を泣かせたら、キス一つの報酬じゃ済まないからね。当分登の体を酷使するようなこと禁止!」
野太いエンジン音のスポーツカーが走り去った。
だるそうな顔で目を覚ました登は横で眠っている啓吾を見つめた。
「…啓吾」
「起きたか……登の友人って情が熱いね」
「ん?」
「近藤先生が来てくれたんだよ…もう少し入院しておけばよかったのにって、怒ってたよ」
「はー…もう、啓吾は知らないかもしれないけれど、あいつのセクハラ酷いんだよ。それが嫌になって大病室に変えてくれって何度も申告したのに聞いてくれなかったんだ」
「だけど俺が見舞いに毎日行った時にはそんなそぶりは見せなかったじゃないか」
「だって、そこじゃないと、鍵付きじゃなかったろう…」
「そうだけど」
「そうだけど!」けだるそうに登は眠った。「そうなの」と唇を尖らせてみる。「あいつは看護師がいるからそれ以上のことできなかったけどねっ…て言うか、啓吾何かされた?」
「い…嫌、何も。飲み屋で一度飲んだだけの関係だし」
「あいつのタイプのまんまだから啓吾気をつけないといけないよ」
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