改編版アストロノートとペテン師

ふしきの

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距離

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 ケニーは気がついたのです。その結束は緩くて意味をなしていない劣化ものだということを。
 アベイルは知っていました。彼が突然深い瞑想だか長考に入ると船内が揺れようが物が飛ぼうが全く見えていなかったということを。

「船から逃げ出すことは、絶対に、できないってことだろ」
 こういう船というものはおおよそ帆船と同じで、緊急避難用の脱出のためのポットがあるはずだと推測しました。アベイルは、非常用のハッチを開けば、真宇宙に漂って一瞬でミイラになるのを理解しています。たとえ出来すぎた嘘の話だとしても、その先に死しかないということを、感じ取っていたからです。
 そうだ、隙を作るしかない。とも、思案しました。
 緊急にとりあえず、着衣しなくてはいけないとも、同時に目を配らせていたのです。
 が、「大柄の君に空調ダストや配線の通路を腹這いでの点検作業は難儀だろう」と言うケニーに、沈む船の恐ろしさを背筋に感じ取ってからは、不平不満を言うことを極力避けました。
「どこへ行っても構わないよ、ただし、慣れるまでは僕のフロアのそばにはいてほしい。僕の体に補助具をつけていたとしても配管不良点検には物凄く神経を使うんだ。パイプに流れる気流の音だけに集中したいから。最悪の事態のいざという時に君を探す手間を省きたい」
 最悪とは……実際に起きたことは、ケニーが飲まず食わずのうちにテンションが切り替わってなにも考えていないような顔つきの空虚にってしまう状態ことらしい。それで、数度死にかけたこともあったと本人は語ったのですが、本当の最悪の話は口には出さずお互いの心の中で口に出すと災いが起きることを恐れ、うなずいたのです。
「見て、空調の流れをこういう風に変えることによって育苗室の野菜からの成長が促進されさらには酸素濃度と空気の味が変わるんだ」
「そんなものなのか、そういうものなのか」
「嗅覚と味覚は人の初期に最初に発達したものだからね」
 調子に乗るケニーに今度はアベイルからいたずら精神が出たのはそれからです。ごくたまに、少しだけいたずら心の風味が加わる食事に、顔で変化するお互いの様子に笑いが起きだしました。

 船体にはあらかじめ備わっているアステロイド回避ビーコンはあります。けれども拳以下の裸眼で確認がとれない小粒には対応してはいないのです。外壁はいまだに破れたり亀裂音がしないので大きな不安はないようですが、横や斜めから来る突発的な小型流星群には格別弱かったのです。

「僕は唯一にして無二のアストロノーツだ」という思いが募れば募るほど語ってしまう。「室内でも危険は多い」と。
 なのに、アベイルがきつく抱き締めれば骨密度の弱くなっている男の身体は、女の柔肌よりも触れるのが日々恐ろしくなったのです。「一生私の胸の中に身を沈めてくれればいいのに」などとつい言葉が出るのです。
 体温の上昇と入り交じった個体の匂いが交わるが、嫌な臭いではなくちょっとばかりなにかわからない芽が心の表面に表れてきました。
 自分と違う鼓動が二つ鳴っています。
 体温が混ざる胸に汗が球になり、弱い重力の中を泳いでいくのです。
 呼吸の音が出るほどそばにある唇が睦言を声に出すのにはまだまだ当分先の話となるのです。
 
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