19 / 21
山羊谷小屋
しおりを挟む
氷床から一番近いキャンプ地には火星探査機機の集大成である酸素生成器が設置してあります。
そして、旧人類の火星探査機機器機械部品の再生工房のテントも使えるかどうかは判断できない状態で備わっています。
光の当たりの弱いそこは、隠者の守とも悪評では呼ばれていました。
実のところ、初期火星での一番訪問者の多い場所だったに違いありません。酸素濃度の薄い火星において人の探求心をくすぐりやすいポイントです。
北極。
氷。
山。
あるいは地下の酸素発生源としての究明とくれば、「登ってみたかった」の言で終わりました。
「人がいる。ああ、火星に人が…」その人は鮮やかなせん妄状態だと笑いだしました。彼は長時間紫外線に当たりすぎたせいで弱視になっていたから人など見えるわけもないのにです。
「探索隊にしては他のメンバーがいない」と、どこからか問いかけます。
「全員、火星に降りたとたんに不安症候群によるパニックで酸素欠乏症になった」
「あなたは酸素欠乏症になっていなし、なによりこの高原をザイルで登ってきたじゃないか」
すこしばかり、ビブラートのかかった女性の声です。
「僕は、高地生まれの少数民族だったからね。船の方が酸素濃度の高さで具合が悪くて常に装着用ヘルメットをしていた技工士なんだ。職場放棄して逃げるのなら、最後に独りで楽しいことしたくなってね」
「好奇心? 」
「僕は山岳民族だからね。着地地点に指定された開けた平原が怖くて逃げた方が正解。価値あるコスモポリタンと呼ばれても、最終的には引き返せない絶望を目の前にした流刑労働者だ」
「面白い」
「……君はどこの隊……」
だんだんと孤独よりも安心によることでパニック症状が収まっていきます。何気なしに彼女の腰元に手を伸ばしてきました。
「私は父より生まれ、この地で兄たちと育った。私の名はアクステス、言語ではアスタリスク」
「……星、むかしの黒い大地の女王様もスターにちなんだって名前だったね。アーカイブで観たことがある。君のような褐色の肌でとても美しい人だったよ。僕は君のことをもっと知りたいな」
娘はするりと身を交わして距離をとりました。
銃製音ではありません。ヴィブラニウムの素材でできた伸縮素材が、独特の伸びをして曲がり、切れと向かってくる異物体を蒸発させました。
「嘘つき」
彼女は、語ります。『嘘さえつかなければ、殺したりしない』なのに、誰一人、本当のことを彼女に言いませんでした。ここに来た人の全員がです。
一人二人と、気配だけで察知し、立ち回ります。
火星の風が塵を拐い彼らを大地に撒いていくのです。
無数の光の銃口よりも彼女の方が的確に急所をとらえたし、何よりも手数が本当に多かったのです。指は女王と呼ばれた人と同じ、六本目の指がありました。遠くと接近の戦いを使い分ける武器をもつのに適していました。
「二酸化炭素濃度ばかり意識しているから、一酸化炭素溜まりに適応力が弱い」
登ってきた最後のひとりを蹴落としたのです。
夢が見えるのです。
「苔のような植物が少ない場所にしか根着いていない。でも、頭の奥で見てごらん、ほら、風が運ぶ、運河沿いに緑野が拡がるのを。いずれこの大地に適応した強い種族が育つんだ。お前のアスタリスクってのは、頬っぺたにキスをするっていう意味があるのも覚えておきなさい」
泣く子に愛をと、遠くで父が微笑むのです。
「頬は笑っているかい? 」
と、風がささやくのです。
そして、旧人類の火星探査機機器機械部品の再生工房のテントも使えるかどうかは判断できない状態で備わっています。
光の当たりの弱いそこは、隠者の守とも悪評では呼ばれていました。
実のところ、初期火星での一番訪問者の多い場所だったに違いありません。酸素濃度の薄い火星において人の探求心をくすぐりやすいポイントです。
北極。
氷。
山。
あるいは地下の酸素発生源としての究明とくれば、「登ってみたかった」の言で終わりました。
「人がいる。ああ、火星に人が…」その人は鮮やかなせん妄状態だと笑いだしました。彼は長時間紫外線に当たりすぎたせいで弱視になっていたから人など見えるわけもないのにです。
「探索隊にしては他のメンバーがいない」と、どこからか問いかけます。
「全員、火星に降りたとたんに不安症候群によるパニックで酸素欠乏症になった」
「あなたは酸素欠乏症になっていなし、なによりこの高原をザイルで登ってきたじゃないか」
すこしばかり、ビブラートのかかった女性の声です。
「僕は、高地生まれの少数民族だったからね。船の方が酸素濃度の高さで具合が悪くて常に装着用ヘルメットをしていた技工士なんだ。職場放棄して逃げるのなら、最後に独りで楽しいことしたくなってね」
「好奇心? 」
「僕は山岳民族だからね。着地地点に指定された開けた平原が怖くて逃げた方が正解。価値あるコスモポリタンと呼ばれても、最終的には引き返せない絶望を目の前にした流刑労働者だ」
「面白い」
「……君はどこの隊……」
だんだんと孤独よりも安心によることでパニック症状が収まっていきます。何気なしに彼女の腰元に手を伸ばしてきました。
「私は父より生まれ、この地で兄たちと育った。私の名はアクステス、言語ではアスタリスク」
「……星、むかしの黒い大地の女王様もスターにちなんだって名前だったね。アーカイブで観たことがある。君のような褐色の肌でとても美しい人だったよ。僕は君のことをもっと知りたいな」
娘はするりと身を交わして距離をとりました。
銃製音ではありません。ヴィブラニウムの素材でできた伸縮素材が、独特の伸びをして曲がり、切れと向かってくる異物体を蒸発させました。
「嘘つき」
彼女は、語ります。『嘘さえつかなければ、殺したりしない』なのに、誰一人、本当のことを彼女に言いませんでした。ここに来た人の全員がです。
一人二人と、気配だけで察知し、立ち回ります。
火星の風が塵を拐い彼らを大地に撒いていくのです。
無数の光の銃口よりも彼女の方が的確に急所をとらえたし、何よりも手数が本当に多かったのです。指は女王と呼ばれた人と同じ、六本目の指がありました。遠くと接近の戦いを使い分ける武器をもつのに適していました。
「二酸化炭素濃度ばかり意識しているから、一酸化炭素溜まりに適応力が弱い」
登ってきた最後のひとりを蹴落としたのです。
夢が見えるのです。
「苔のような植物が少ない場所にしか根着いていない。でも、頭の奥で見てごらん、ほら、風が運ぶ、運河沿いに緑野が拡がるのを。いずれこの大地に適応した強い種族が育つんだ。お前のアスタリスクってのは、頬っぺたにキスをするっていう意味があるのも覚えておきなさい」
泣く子に愛をと、遠くで父が微笑むのです。
「頬は笑っているかい? 」
と、風がささやくのです。
0
あなたにおすすめの小説
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
別れし夫婦の御定書(おさだめがき)
佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★
嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。
離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。
月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。
おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。
されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて——
※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
アガルタ・クライシス ―接点―
来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。
九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。
同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。
不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。
古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
偽夫婦お家騒動始末記
紫紺
歴史・時代
【第10回歴史時代大賞、奨励賞受賞しました!】
故郷を捨て、江戸で寺子屋の先生を生業として暮らす篠宮隼(しのみやはやて)は、ある夜、茶屋から足抜けしてきた陰間と出会う。
紫音(しおん)という若い男との奇妙な共同生活が始まるのだが。
隼には胸に秘めた決意があり、紫音との生活はそれを遂げるための策の一つだ。だが、紫音の方にも実は裏があって……。
江戸を舞台に様々な陰謀が駆け巡る。敢えて裏街道を走る隼に、念願を叶える日はくるのだろうか。
そして、拾った陰間、紫音の正体は。
活劇と謎解き、そして恋心の長編エンタメ時代小説です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる