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羊羮
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東京に出張に出ると、「空の旅」を買って帰る。
飛行場ターミナルにのみ売っている羊羮だ。
空を見て感動した主が作ったと言ういわれの半透明の美しい羊羮は少しばかりの思いを実物大に還元させ、甘さに変えてくれる。ちょうどいい手荷物。
羊羮は、どこにでも売っているものなのにね。
その気にならないと買わない代物だとも言える。
今さら和菓子のうんちくも必要ない。
なぜなら私は淡雪がとても苦手なのだから。
メレンゲだと思う。
それともその淡雪という語彙かもしれない。
酷い言いぐさで猫の胸焼けかよ、とおフランス料理のそれにも苦言したこともある。
白いそれが。
と思っていた。
辛い別れのあとそれがちょっと違っていたのを調べて知った。
湿粉製のことだ。
こまい頃から、近くに製造卸の和菓子屋さんが強烈なヤンキー高校の横に古くから暖簾であった。
卸の縁なので普通で買う半値で買える。
和菓子など見目だけの違い、味は同じ。なのに食感は手間のひとつで微妙に違う。
のを、だいがくせいになってお持たせで持っていけばぼろかすに言われるのも私の見目と重量と容量のみちみちに詰まった和菓子を箱も熨しもせず軽く包んでもらう合理主義なところも見下されたのだとおもう。
「私は茶をたてたりできません」もあった。
熱い茶しか飲めない私は茶の湯の作法がまずもって苦手だったから。
『茶は縛られることなく自由に飲めばいい、和菓子は喉をつまらせるものじゃないのだから、ただし煎餅を食べる座談会は御免です』
そう。
湿粉製。
私はその姿見からも、苦手だった。
ほろほろと口許前で崩れ落ちるそのさまは、白いお骨のようにも見える。
「君が死んだらそうだね、僕は食べるよ。本当は食べてもらいたい」
鮟鱇になりたい夢を持っていた君が死んだ。
それがブンコツという名前で私の郵便受けに入っていた。
嗚咽しかでなかった。
その人は砂糖を使わない人だった。
彼を例えるなら、そうだな。
フロストシュガー FROST SUGAR
「関西出身のおばちゃんだからね」
「じゃ、わしのと交換で尼さ比べをしよう」
空港で出迎えてくれて電車に一緒に乗ったときに会話した言葉が飴ちゃんの袋を持っている同士でいつしか同じようにふたごといい、口喧嘩しては次の日謝り、仲直りする私にとって唯一の信じられない信じられる生きている人になった。
ただし、彼もまた口約束をまもる人ではなかった。それは身を隠しても多くの謎を残したことから、徹底した秘密主義者だったとおもう。
「昔は有ったんだ。酸っぱいヨーグルトの上の容器の蓋との隙間に入っていた口の中で蕩ける甘いのにそれだけ食っていたいほど、なのに大切にちびちび惜しんで引き出しに大量に溜め込んでしまう砂糖」の、その者、それが彼だと言える。
「大事だからこそ口に出さなきゃいけない気がしたんだ」
私が私として消えてしまう状態になったとき私は回線を開いて初めて言った言葉がいつしか砂糖という中毒に加わった。
けれど言わなかった。
その菓子があって、その菓子がどう苦手なことを。
言えばどちらかが泣くから。
私はよく人を泣かせる。
故意にでも悪意でも、その誘導をさせる自分が大嫌いで自分に泣く。
だからすぐに話題が飛ぶとも言われた。
「痛風って涙甘いん?」
「痛風じゃないし、痛風は治った」
「うん、普通に涙の塩分だ」
泣いて笑う。
そういうふたご。
誰も知らない。
それは羊羮の半透明の先に見えた感動の先代の思い出の載し書きをいつも読む行為。
人にとって平凡なルーチンであり、軌道。
私にとっての日課は過ぎる前も過ぎたあとも変わらず買い続けていくものとなっている。
寂しいときは、甘いものがいい。
きちんと甘いものがいい。
飛行場ターミナルにのみ売っている羊羮だ。
空を見て感動した主が作ったと言ういわれの半透明の美しい羊羮は少しばかりの思いを実物大に還元させ、甘さに変えてくれる。ちょうどいい手荷物。
羊羮は、どこにでも売っているものなのにね。
その気にならないと買わない代物だとも言える。
今さら和菓子のうんちくも必要ない。
なぜなら私は淡雪がとても苦手なのだから。
メレンゲだと思う。
それともその淡雪という語彙かもしれない。
酷い言いぐさで猫の胸焼けかよ、とおフランス料理のそれにも苦言したこともある。
白いそれが。
と思っていた。
辛い別れのあとそれがちょっと違っていたのを調べて知った。
湿粉製のことだ。
こまい頃から、近くに製造卸の和菓子屋さんが強烈なヤンキー高校の横に古くから暖簾であった。
卸の縁なので普通で買う半値で買える。
和菓子など見目だけの違い、味は同じ。なのに食感は手間のひとつで微妙に違う。
のを、だいがくせいになってお持たせで持っていけばぼろかすに言われるのも私の見目と重量と容量のみちみちに詰まった和菓子を箱も熨しもせず軽く包んでもらう合理主義なところも見下されたのだとおもう。
「私は茶をたてたりできません」もあった。
熱い茶しか飲めない私は茶の湯の作法がまずもって苦手だったから。
『茶は縛られることなく自由に飲めばいい、和菓子は喉をつまらせるものじゃないのだから、ただし煎餅を食べる座談会は御免です』
そう。
湿粉製。
私はその姿見からも、苦手だった。
ほろほろと口許前で崩れ落ちるそのさまは、白いお骨のようにも見える。
「君が死んだらそうだね、僕は食べるよ。本当は食べてもらいたい」
鮟鱇になりたい夢を持っていた君が死んだ。
それがブンコツという名前で私の郵便受けに入っていた。
嗚咽しかでなかった。
その人は砂糖を使わない人だった。
彼を例えるなら、そうだな。
フロストシュガー FROST SUGAR
「関西出身のおばちゃんだからね」
「じゃ、わしのと交換で尼さ比べをしよう」
空港で出迎えてくれて電車に一緒に乗ったときに会話した言葉が飴ちゃんの袋を持っている同士でいつしか同じようにふたごといい、口喧嘩しては次の日謝り、仲直りする私にとって唯一の信じられない信じられる生きている人になった。
ただし、彼もまた口約束をまもる人ではなかった。それは身を隠しても多くの謎を残したことから、徹底した秘密主義者だったとおもう。
「昔は有ったんだ。酸っぱいヨーグルトの上の容器の蓋との隙間に入っていた口の中で蕩ける甘いのにそれだけ食っていたいほど、なのに大切にちびちび惜しんで引き出しに大量に溜め込んでしまう砂糖」の、その者、それが彼だと言える。
「大事だからこそ口に出さなきゃいけない気がしたんだ」
私が私として消えてしまう状態になったとき私は回線を開いて初めて言った言葉がいつしか砂糖という中毒に加わった。
けれど言わなかった。
その菓子があって、その菓子がどう苦手なことを。
言えばどちらかが泣くから。
私はよく人を泣かせる。
故意にでも悪意でも、その誘導をさせる自分が大嫌いで自分に泣く。
だからすぐに話題が飛ぶとも言われた。
「痛風って涙甘いん?」
「痛風じゃないし、痛風は治った」
「うん、普通に涙の塩分だ」
泣いて笑う。
そういうふたご。
誰も知らない。
それは羊羮の半透明の先に見えた感動の先代の思い出の載し書きをいつも読む行為。
人にとって平凡なルーチンであり、軌道。
私にとっての日課は過ぎる前も過ぎたあとも変わらず買い続けていくものとなっている。
寂しいときは、甘いものがいい。
きちんと甘いものがいい。
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