白薔薇のお兄さん3

ふしきの

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寺田ちか物語

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「本日はお招きいただき」とか、壇上で場違いな大男が、ご老人を相手に話をするブースに座っていたりする。
「日本には世界一大きなコミックマーケットというコミックを中心とした軸の同士会がありますが、無名の私も惨敗の目に合いましてぇ」と自虐を言うのもセオリーなのだが、一向に笑いがとれない。

「例えば、ワル、友情、エロチックと、恋愛、ヒエラルキー、エロチックが二極化されても俺は、当時、ワルのグループにいたわけだが、コミコンに来る多くの客席同様、コミックスを買う年齢層からはもう卒業しなくちゃいけないと思ったわけ。ワルは早く大人になると自分でも思っていたからな。でも、俺はどうしても卒業する以上に欲しいブツがメガストラクチャーよりもでけぇ場所にみえて足が震えたんだ。ガキの頃は平気だった場所が突如立ち入り禁止標識されたみてぇにデッケェ壁になったんだ。俺は10年諦めた。こういうブツはネットで買うべきかと」ふと、うすぼんやりとしらけたと思っている会場が人の熱で熱い。
「ま、なんだな、一枚の整理券、このチケットと、今もここにある作者直筆のサイン本っつうのはお宝なのよね。俺には一生かかっても到底及ばない、強さと弱さと美しさが握手したときにどれ程の人生の力になったかなんて言わねぇけどな」
 と、大長編片想い漫画の話をしてみた。

「善も悪も男も女もかんけぇねぇ、コミコンにはどれだって好きな連中がいてくれる。なにより、こういうところに気さくに来てくださる方がここにこられている、ありがてぇ。この世界にはまだ紳士淑女、同士憧れがある、本日は呼んでくれてありがとうございました」
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