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I章 始まりの森
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目を覚ますとそこは天国だった。
生い茂る木々は碧く輝き、一枚一枚の葉に活力がみなぎっているのが分かる。
そして燦々と入り込む木漏れ日を浴びて、背の低い植物達はこれでもかとみなぎっている。
あたりを見渡せば茨に包まれていた木の幹は今まで見慣れていた木のように見えるし、むしろより堅く、柔軟になっているようだ。
よどんでいた空気も今まで以上に美味しい。
実際に味を感じるくらいである。なんかほのかに甘い。
そしてさらに首をめぐらせると近くには泉があった。
数日前までは濁りに濁って、よどんでいた泉が初めて訪れた状態、いや、底や泳いでる魚が透けて見えるほどに澄んでいる。
澄みすぎていて、逆に体に悪いんじゃないかと思えるほど。
よし、釣りをしよう。
そう思った。
なので、釣りをする道具を作ろうではないか。
と、ここで体が変になっていることに気づく。
足が・・・増えてる?
8本しかなかった足が10本になっている。
10本でタコっぽい足といえばイカを思い出す。
まさかイカになってしまったのかっ!?
なぜイカに?と思ったけれど、それよりも愛着の湧いたタコの体が変わるのが嫌だった。
焦って泉の水面に顔を近づける。
泉が澄みすぎてて自分の顔が見れなかった。
しばらく落ち着き無かったが、触ってみればいいじゃない?と思い立ち、顔を触って確かめてみた。幸い腕の本数が増えた以外の違いは無いっぽい。
良かった。
そして体色が変わっている。
なんと。
緑色である。
擬態で体色を変化したわけではない。
地の色が若い葉のような薄緑なのだ。
やさしい色合いだなと思ってさらに森を見渡し、釣り用に手ごろな枝を折ったり、ツタ植物をちぎり取って糸代わりに使ったり、ていうかツタ植物が簡単に見つかった。あれだけ探しても無かったのに。
なんてことを思いつつも、歩いていると気づいたことがある。
目の前には羽ウサギが・・・いや、今度からは名前を変えようか。
トンボウサギが居た。
いや、こういうのもあれだが、かざりとしか思えないほどの貧弱かつ小さな羽がやたらと大きく発達して、常に空を飛ぶようになっているのだ。
ちんまい羽で軽やかに飛んでいた羽ウサギが、ホバリング(一箇所にとどまり続ける飛行技術のこと)飛行をしている。
飛ぶことが上手くなっていた。
さらに首をめぐらせるとそこにはおなじみコオロギモドキ。
いや、こちらも名前を変えようか。
大帝蟋蟀(タイテイコオロギ)なんていうのはどうだろう?
小型犬サイズのコオロギが、柴犬サイズだ。
ぶっちゃけ食べ応えありすぎだろう。
じゅるり。
早速狩ってみようか。
いやいや、いかんいかん。
僕は釣りを楽しむと決めたのだから・・・っていうか、あれ?
僕は確か・・・
周りをもっと良く見る。
まるで森にいる生物ごと森が生まれ変わったみたいだ。
森が収束した瞬間に僕も巻き込まれて、てっきり死んだと思ったのだけれど。
『ふむふむ、なかなかいい感じに・・・あれ?』
「ん?」
『・・・妙な子がいる。』
「・・・誰?」
この世界に来て初めて分かる言葉、というか頭に直接何が言いたいのかの意図を伝えられている気がする。
そしてそれを僕が勝手に日本語に翻訳してる形の言葉とは言えない言葉(ツール)。
不思議なものだなぁと思いつつ、後ろを振り返るとドアップの女性の顔が目に入る。
驚いて後ずさる。
『ダレ?
どこの言葉かしら?
変ね。それにもっと変なのは、ここまで高度な知能を持つ知的生命体はまだ存在しないはずってこと・・・ぐちゃぐちゃで複雑すぎて読みきれない。
まるで人間ね。』
「・・・えっと・・・どなたさまでしょうか?」
『困惑してる表情から見るに・・・ありえないことだけど私が何なのかを聞いている・・・というところ?
いえ、ここまでここまで知能が高いと本能への刷り込みが上手くいかない・・・と考えたほうが自然ね。確か西の子がそんなことを言っていた気がするし。面倒だけれど、このまま話ができないことの方が面倒・・・少し強く刷り込みましょうか。痛みは無いから安心していいわ。』
そういってこちらに指を向ける緑の髪色をした女性。
驚いた。
何が驚いたって、タコの表情が分かることに驚いた。
僕はいまだ自分の顔なのに分からない。
目の前の彼女は何者だろうか?
胸はさほど大きくなく、手に収まる程度。
体はすらりと長く、身長は約160センチ前後だろうか?
見た目はクールな感じの高校生?くらいの女の子だ。
ファンタジーな世界にのお決まりよろしく美少女である。
そして髪の隙間から木の芽や葉が出ていることからなんか森に関係する種族の様子。
何らかの種族だとして僕を食らいに来たのか。
逃げようとしたところで‐‐
「・・・は?
あ・・・れ?」
‐‐寝ていたらしい。
気づいたら寝て、何が起きたのかを認識するのは起きて彼女に話を聞いた後だった。
眠りの入りを感じさせないほどの自然な眠り。
間違いなく今までで一番危険な瞬間だったろう。
それにもかかわらず僕は刺身にされていない。
僕を眠らせたのは捕食目的ではないらしい。
「あのお・・・?」
『ふふ、分かるようになったわ。
今貴方に刷り込んだのは私と同じ言語形態。
言語、というよりは思念派とでも言うべきかしら?
魔力を持たない生物とは話せないし、それにある程度以上の知能を持たないとだめ。
気をつけてね。』
「は、はぁ・・・」
『さて、刷り込みが不完全な貴方にとって私が何者かというのは確かに気になることでしょうけど、それは然程大きな問題ではないし、いずれ知るでしょう。
それよりも私の質問に答えて頂戴。
貴方は何?』
「・・・タコ、ですけど?」
『・・・それは見れば分かるわよ。貴方、私を馬鹿にしてるの?』
ではなんと答えればいいのか?
元人間のタコです。とでも?
でも、それも「結局タコじゃない!」といわれる気がする。
『まだ貴方レベルの生物が生まれるはずがないのよね。』
「・・・レベル?
それはもしや僕が強すぎると?」
もしや僕はチートな存在なのだろうか?
だとするとうれしい。
『いいえ、そういうわけではないわ。そういう意味でなら貴方くらいの、たくさん居るし。』
「・・・さいですか。」
別に期待してないけど、そうはっきり言われるとちょっとは傷つく。
気遣いという言葉を知らないのだろうか?
『まだ存在するはずが無いってことを言いたかったのよ。
ここ・・・私の森はまだできて間もないものだったの。
なのに・・・たとえ今回の件があったとしても少なくとも貴方レベルの知的生物が生まれるのは早すぎるわ・・・』
「・・・ええと・・・」
この人、僕に説明する気があるのだろうか?
さきほどから喋る内容がまったく要領を得ない。
僕が気になるから調べに来ただけで、僕自身をどうこうしたり、説明してくれる気はないらしい。
もう黙ってようかな、僕。
『・・・のわりには森の収束で死んでない。
もともとここで生まれ育ったってことになるし・・・分からないわね。』
ああ、そういえば釣竿の材料を集めてたっけ。
触腕を人の手の形に変えて‐心なしか今までよりさらにスムーズに変形ができた気がする‐良くしなる枝の先にその辺のツタをくくりつける。
そして先っぽには・・・どうしよう?
釣り針なんて無いし、釣り針を作れるような魔法も使えない。
タコ墨を釣り針状に固めてみようか?
いや、魚の口に突き刺さるほど堅くはならない。
ゴムっぽい触感になるタコ墨じゃ無理だろう。
どうしようか?
『・・・貴方、何をやってるの?』
一人で考え込んでいた女性が、ようやくこちらと向き合ってくれたらしい。
とりあえず釣竿作ってると答えると、それよりも僕の触腕の先っぽを見て、目の色を変えていた。
「えっと、ごめんなさい。なんか考え込んでたみたいなんで、その間に釣竿を・・・あの?」
『・・・え?
あれ?この種族ってここまで器用だったかしら?
あれ?あれ?
いや、確かに擬態はできるけれど・・・え、これ?
あれ?どうなってるの?
どういう構造をしてるの?
わけが分からないわ。』
気が動転しているようだ。
僕の手を取ってぶつぶつ言っている。
はたから見ると手をつなぎあってる恋人に、見えない。
なんせ彼女はちょっと人間と違う見た目であれ、こちとらただのタコである。
人間っぽいのは触腕の先。
それも2本だけ。
なんとシュールな光景だろう。
そんな状態になりながらも僕はとりあえず釣り針をどうしようかと考えていたのであった。
生い茂る木々は碧く輝き、一枚一枚の葉に活力がみなぎっているのが分かる。
そして燦々と入り込む木漏れ日を浴びて、背の低い植物達はこれでもかとみなぎっている。
あたりを見渡せば茨に包まれていた木の幹は今まで見慣れていた木のように見えるし、むしろより堅く、柔軟になっているようだ。
よどんでいた空気も今まで以上に美味しい。
実際に味を感じるくらいである。なんかほのかに甘い。
そしてさらに首をめぐらせると近くには泉があった。
数日前までは濁りに濁って、よどんでいた泉が初めて訪れた状態、いや、底や泳いでる魚が透けて見えるほどに澄んでいる。
澄みすぎていて、逆に体に悪いんじゃないかと思えるほど。
よし、釣りをしよう。
そう思った。
なので、釣りをする道具を作ろうではないか。
と、ここで体が変になっていることに気づく。
足が・・・増えてる?
8本しかなかった足が10本になっている。
10本でタコっぽい足といえばイカを思い出す。
まさかイカになってしまったのかっ!?
なぜイカに?と思ったけれど、それよりも愛着の湧いたタコの体が変わるのが嫌だった。
焦って泉の水面に顔を近づける。
泉が澄みすぎてて自分の顔が見れなかった。
しばらく落ち着き無かったが、触ってみればいいじゃない?と思い立ち、顔を触って確かめてみた。幸い腕の本数が増えた以外の違いは無いっぽい。
良かった。
そして体色が変わっている。
なんと。
緑色である。
擬態で体色を変化したわけではない。
地の色が若い葉のような薄緑なのだ。
やさしい色合いだなと思ってさらに森を見渡し、釣り用に手ごろな枝を折ったり、ツタ植物をちぎり取って糸代わりに使ったり、ていうかツタ植物が簡単に見つかった。あれだけ探しても無かったのに。
なんてことを思いつつも、歩いていると気づいたことがある。
目の前には羽ウサギが・・・いや、今度からは名前を変えようか。
トンボウサギが居た。
いや、こういうのもあれだが、かざりとしか思えないほどの貧弱かつ小さな羽がやたらと大きく発達して、常に空を飛ぶようになっているのだ。
ちんまい羽で軽やかに飛んでいた羽ウサギが、ホバリング(一箇所にとどまり続ける飛行技術のこと)飛行をしている。
飛ぶことが上手くなっていた。
さらに首をめぐらせるとそこにはおなじみコオロギモドキ。
いや、こちらも名前を変えようか。
大帝蟋蟀(タイテイコオロギ)なんていうのはどうだろう?
小型犬サイズのコオロギが、柴犬サイズだ。
ぶっちゃけ食べ応えありすぎだろう。
じゅるり。
早速狩ってみようか。
いやいや、いかんいかん。
僕は釣りを楽しむと決めたのだから・・・っていうか、あれ?
僕は確か・・・
周りをもっと良く見る。
まるで森にいる生物ごと森が生まれ変わったみたいだ。
森が収束した瞬間に僕も巻き込まれて、てっきり死んだと思ったのだけれど。
『ふむふむ、なかなかいい感じに・・・あれ?』
「ん?」
『・・・妙な子がいる。』
「・・・誰?」
この世界に来て初めて分かる言葉、というか頭に直接何が言いたいのかの意図を伝えられている気がする。
そしてそれを僕が勝手に日本語に翻訳してる形の言葉とは言えない言葉(ツール)。
不思議なものだなぁと思いつつ、後ろを振り返るとドアップの女性の顔が目に入る。
驚いて後ずさる。
『ダレ?
どこの言葉かしら?
変ね。それにもっと変なのは、ここまで高度な知能を持つ知的生命体はまだ存在しないはずってこと・・・ぐちゃぐちゃで複雑すぎて読みきれない。
まるで人間ね。』
「・・・えっと・・・どなたさまでしょうか?」
『困惑してる表情から見るに・・・ありえないことだけど私が何なのかを聞いている・・・というところ?
いえ、ここまでここまで知能が高いと本能への刷り込みが上手くいかない・・・と考えたほうが自然ね。確か西の子がそんなことを言っていた気がするし。面倒だけれど、このまま話ができないことの方が面倒・・・少し強く刷り込みましょうか。痛みは無いから安心していいわ。』
そういってこちらに指を向ける緑の髪色をした女性。
驚いた。
何が驚いたって、タコの表情が分かることに驚いた。
僕はいまだ自分の顔なのに分からない。
目の前の彼女は何者だろうか?
胸はさほど大きくなく、手に収まる程度。
体はすらりと長く、身長は約160センチ前後だろうか?
見た目はクールな感じの高校生?くらいの女の子だ。
ファンタジーな世界にのお決まりよろしく美少女である。
そして髪の隙間から木の芽や葉が出ていることからなんか森に関係する種族の様子。
何らかの種族だとして僕を食らいに来たのか。
逃げようとしたところで‐‐
「・・・は?
あ・・・れ?」
‐‐寝ていたらしい。
気づいたら寝て、何が起きたのかを認識するのは起きて彼女に話を聞いた後だった。
眠りの入りを感じさせないほどの自然な眠り。
間違いなく今までで一番危険な瞬間だったろう。
それにもかかわらず僕は刺身にされていない。
僕を眠らせたのは捕食目的ではないらしい。
「あのお・・・?」
『ふふ、分かるようになったわ。
今貴方に刷り込んだのは私と同じ言語形態。
言語、というよりは思念派とでも言うべきかしら?
魔力を持たない生物とは話せないし、それにある程度以上の知能を持たないとだめ。
気をつけてね。』
「は、はぁ・・・」
『さて、刷り込みが不完全な貴方にとって私が何者かというのは確かに気になることでしょうけど、それは然程大きな問題ではないし、いずれ知るでしょう。
それよりも私の質問に答えて頂戴。
貴方は何?』
「・・・タコ、ですけど?」
『・・・それは見れば分かるわよ。貴方、私を馬鹿にしてるの?』
ではなんと答えればいいのか?
元人間のタコです。とでも?
でも、それも「結局タコじゃない!」といわれる気がする。
『まだ貴方レベルの生物が生まれるはずがないのよね。』
「・・・レベル?
それはもしや僕が強すぎると?」
もしや僕はチートな存在なのだろうか?
だとするとうれしい。
『いいえ、そういうわけではないわ。そういう意味でなら貴方くらいの、たくさん居るし。』
「・・・さいですか。」
別に期待してないけど、そうはっきり言われるとちょっとは傷つく。
気遣いという言葉を知らないのだろうか?
『まだ存在するはずが無いってことを言いたかったのよ。
ここ・・・私の森はまだできて間もないものだったの。
なのに・・・たとえ今回の件があったとしても少なくとも貴方レベルの知的生物が生まれるのは早すぎるわ・・・』
「・・・ええと・・・」
この人、僕に説明する気があるのだろうか?
さきほどから喋る内容がまったく要領を得ない。
僕が気になるから調べに来ただけで、僕自身をどうこうしたり、説明してくれる気はないらしい。
もう黙ってようかな、僕。
『・・・のわりには森の収束で死んでない。
もともとここで生まれ育ったってことになるし・・・分からないわね。』
ああ、そういえば釣竿の材料を集めてたっけ。
触腕を人の手の形に変えて‐心なしか今までよりさらにスムーズに変形ができた気がする‐良くしなる枝の先にその辺のツタをくくりつける。
そして先っぽには・・・どうしよう?
釣り針なんて無いし、釣り針を作れるような魔法も使えない。
タコ墨を釣り針状に固めてみようか?
いや、魚の口に突き刺さるほど堅くはならない。
ゴムっぽい触感になるタコ墨じゃ無理だろう。
どうしようか?
『・・・貴方、何をやってるの?』
一人で考え込んでいた女性が、ようやくこちらと向き合ってくれたらしい。
とりあえず釣竿作ってると答えると、それよりも僕の触腕の先っぽを見て、目の色を変えていた。
「えっと、ごめんなさい。なんか考え込んでたみたいなんで、その間に釣竿を・・・あの?」
『・・・え?
あれ?この種族ってここまで器用だったかしら?
あれ?あれ?
いや、確かに擬態はできるけれど・・・え、これ?
あれ?どうなってるの?
どういう構造をしてるの?
わけが分からないわ。』
気が動転しているようだ。
僕の手を取ってぶつぶつ言っている。
はたから見ると手をつなぎあってる恋人に、見えない。
なんせ彼女はちょっと人間と違う見た目であれ、こちとらただのタコである。
人間っぽいのは触腕の先。
それも2本だけ。
なんとシュールな光景だろう。
そんな状態になりながらも僕はとりあえず釣り針をどうしようかと考えていたのであった。
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