タコのグルメ日記

百合之花

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I章 始まりの森

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『・・・ありえないわ。ありえないのに・・・・・・もう私寝る。』

結局、何なのか良く分からない彼女はそんなことをぼやきつつ森の奥へ消えていった。
それから二日ほど経ったころ。

ちょっとした問題に直面していた。

「・・・コホー。」

口が目の間にあるタコのイラストを見たこと無いだろうか?
デフォルメされたイラストでは大抵、人間と同じような場所に口が作られてるが本来のタコの口はそんな場所には無く。
もとい、それは現実のタコで言うところの排泄のための穴だったり、海水を吸ったり吐いたりする場所だったり。
陸ダコの僕にとっては空気穴なのだが、そこから深いため息が漏れた。

あれからしばらく。
なにやら森が生まれ変わる?とでも言うべきか。
森が生まれ変わる前と比べて、見た目以外にも純粋に身体能力がアップしたいたトンボウサギをはじめとする動物達。
僕もそれに合わせるように身体能力が発達していたので、結局差が縮まるということは無かったのだがそれもまた些細な問題、というか発見だ。

で、回りくどく余計な話まで加えて何だと思うだろうが、ことは単純なのだ。

魚食べたい。

魚肉が食べたいのだ。
しかし、食べれない。
さすがのタコボディでも陸上に生まれたタコはもう水の中には戻れないようで、どんなにがんばっても溺れる。
溺れて空気穴に水が入って死にかける。
一番の敵が水とは恐ろしいっ!!

ゆえにこそ釣竿を作って魚を食べようと思ってたのに。
その釣竿の製作が夢半ばで終わってしまったんだ。

どうしても森では用意できないもの、「釣り針」でつまずいた。

なんだろうか?
こちとら元人間の経験を生かして道具を作ろうと思ってるのに、ことごとく失敗してる気がする。
ことごとくというほど頻繁でもないが、前回の羽ウサギペット化事件がそれである。
結局、飼育カゴはつくれずじまいだった。
今ならタコ墨を接合部にくっつけて貼り付けるということが考え付くのだが、いまさら用意しても意味が無い。だって羽ウサギが空を飛ぶようになったから。
飼育カゴなんていう狭い空間では可愛そうだろう。

話を戻すが、とにかく釣り針が無いと魚が食えない。
他の生物の爪や堅い部分を・・・と思っても、魚が咥えることのできる大きさじゃなかったり、反り返りが不十分で口にささらない、餌が取れやすいであろう物だったり。
とにかく無理だった。

このままでは諦めるしかない。
魚介類がこれから一切食べられない。
漁業が盛んな島国の生まれとしてこれいかに。

あ、タコだけは勘弁してやろう。同属のよしみだ。

なんてことを言ってる場合でもない。
タコどころか小魚一匹手に入れる手段が無いのだ。
触腕だけ突っ込め?
試したに決まってるじゃない。
当然だめです。
巻きつけて捕まえるなんていうアクションを起こしてるうちにさっと逃げられるし、やつら意外と警戒心が強いのである。
ならばタコ脚キャノンで貫いて捕まえようと思ったのだが、威力が大きすぎて弾けとんだ。食べられない。

吸盤を使え?
だめだった。
この体の吸盤は陸上としての生活に特化しており、どうも海洋のタコの吸盤とは張り付くためのメカニズムが違うらしい。
詳しくは分からない。

とにかく必要なのは釣り針だ。
金属製じゃなくていいんだよ。
ただ反り返った堅いもの。
しかしこれが自然界、というか森にはなかなか無いのだ。
いっそのこと森を出て釣り針を探しに三千里、と行きたかったのだがちょっと怖い。

『何を作ってるのかしら?』
「ごほっ!?」

驚いて吹き出した。
最初の時もそうだけど、この人の気配が分からなくて困る。
僕の背後から僕の手元を覗き込む形だ。

「釣竿だって言ったでしょ?」
『・・・釣竿って何?』

まじかよ?と驚いたが、まぁこの世界にはまだ発明されてないのかもしれない。
その概要を説明すると彼女はまた自分の世界に入ってしまった。

『・・・え、あれ?
なんで?
道具の発明?
それも今までに無い形の・・・え、この生き物何?
それ怖い。
この子むしろ怖すぎる。得たいが知れなくて怖すぎる。』
「・・・失敬な。」
『・・・ご、ごめんなさい。ちょっと取り乱したわ。』

そろそろやめてもらいたいものである。
せっかくなので釣り針のことをを聞いた。
この森の先住民?みたいだし、僕よりは詳しいだろう。

『・・・ええと・・・そうね。人間の街にでも行かないと手に入れられないと思うわ。』
「・・・喋れないのに?」
『喋れてるじゃない。』
「いや、言葉が・・・」
『昨日、私が刷り込みをしてあげたでしょう。貴方の魔力を使って、受けとった言葉を貴方の理解の範疇に収める技能(スキル)よ。ありがたく思ってね。本来なら誰かを特別贔屓にするなんてめったに無いのだから。』
「えと・・・ありがとうございます。」

恩着せがましいけれど確かにそれは助かるのでお礼は言っておく。

『この前も言ったけれど、相手に魔力が無いと貴方の言葉は通じないからね。』
「・・・そんなことも言ってたような・・・」
『貴方が言葉を相手に伝える場合、貴方自身の魔力で言葉は相手に分かる言葉に変換される。でも変換された「ソレ」は相手に魔力が無いと読み取れないのよ。』
「なるほど。」
『・・・説明しておいてなんだけど、やっぱり貴方おかしい。やたらと知能が高すぎる。』

この程度で高いといわれても。
現代の人間舐めんなよ。
と、言いはしないけど。

「ええと、人間の街ではタコは良く見かけるんですか?」
『はい?』

すっごい馬鹿な子を見る目で見られた。具体的に言うとジト目で。
人間の街に行けみたいな助言をもらったから聞いたことなのに。
「考えるまでも無いだろ?んなにを聞いてるんだ?こいつ?」って目で見られた。
いや、待て。言い訳させてくれ。
タコの僕に街に行けよ!とか言われたら普通、タコがいても問題ないから行けと言われたと勘違いするんじゃないだろうか?
少なくとも僕はする。
というか今、した。
タコが無理だったら、そもそもそんな案は出さないよね?
常識的に考えて。

『いや、擬態魔法があるでしょ?』
「あ、そういえば。」
『・・・。』

やっぱり馬鹿じゃないという目で見られた。
言い訳はすまい。
ただちょっとボケていただけなのに。
あ、今のは言い訳ではない。
ただの愚痴である。

「んじゃ早速。」
『え?・・・ひぃぇう!?』

ぐにぐにと体を動かす。
まずは両目を頭の上のほうに持っていって、そこから人の頭分の筋肉を確保してくびれを作る。
つぎにタコの頭の余分な部分は人の胴体として型作り、出来るだけ筋肉を絞めて圧縮していく。これで余分な肉は無くなった。
胸を盛り上がらせて乳首などの突起部分を作り、さらにお尻の作成、ウエストの作成。人間の流線美を再現する。色も当然明るい肌色に。
次に鼻や口などの顔の凹凸を作るのと同時に腕と足の形成も行う。
当然腕と足の部分の触腕の根元を人間の胴体につなぎ合わせる形になるように動かしていく。
股間部分に口を持って行き、ぴっちり閉めれば女性の性器に見えないことも無い。最後に余分な触腕を縮めて腰に巻いておけば完成。

ゴブリンのときの筋肉を使えば歩くくらいは出来るはず。
というか森の生まれ変わりと同時に僕も生まれ変わったような感じなのでその際に最適化されたのだろうか?
人型の擬態がやたらと楽だった。
髪の毛は気合と根性で産毛を伸ばして密集させた。
出来るとは思わなかった。

というわけで。

「美少女形態(まほうようじょ)と名づけよう。」

僕は見目麗しい美少女となっていた。
黒髪長髪で、発展途上の胸。
きりっとした可愛い顔である。
触腕で触って確かめた感じなので多少誤差があるかもしれない。
鏡が欲しいと思う今日この頃。
いや、なんで男じゃないんだ?と思った人もいる。
これは単純に可愛いほうが他の人と話すときに警戒心が弱いと思ったからだ。
油断を誘える姿ならばこちらもやりやすい。
ついでにむっさい男の体を創造(想像)したくなかったというのもある。

『・・・あれ?
擬態・・・魔法?
え、これ?魔法じゃない?
え、あ、ちょっと待って?
あら?
え、いや、これ魔法使ってないよ?体の筋肉だけで行っちゃってる。しかも不自然なところを探すのが難しいくらいの完成度・・・あれ?この種族ってここまで出来たっけ?
いや、ていうか私いったじゃん。擬態魔法だっていったじゃん。なんで魔法使わないの、使ってないの?
え、擬態魔法を使うより不自然さが無いってどういうこと?
・・・私、寝ることにする。』

また自分の世界に入ってしまったのだろう。
彼女はちょっと話してすぐに帰ってしまった。
何がしたいんだろう?

僕は僕でこのままではさすがに心もとないのでしばらくこの姿でもある程度まで戦えるように筋トレをした。

釣竿が作れるまであと少し。


☆ ☆ ☆

筋トレしたのは良かったのだが、服が無いことに気づいたのは筋トレを終えていざ出発しようという1週間後である。
森をさまようこと1時間。
服を作ることにしたのでその材料を探す。
素材として必要なのはとりあえず大きめの草と鎧の堅い部分の代わりのもの。
付け合せるための素材はタコ墨と糸。
糸はヨロイグモが大きく、そして綺麗な模様を持つようになったヨロイジョロウグモからいただく。
ヨロイグモのときは徘徊して餌を探していたくせに、生まれ変わってからは待ち伏せ型になり巣を張り巡らせるようになった。
その巣を拝借して糸をホーンパイソン(細長い角を持った蛇)の角にタコ墨で接着。

やたらと頑丈な植物の葉とスケイルボアが生まれ変わったアーマードボア(鱗が発達してカニの甲殻のようになっている。)の甲殻を縫い合わせる。
甲殻にはあらかじめ別に用意したホーンパイソンの角を錐(キリ)のように使って穴を開けてある。この作業で三日使った。一番つらかったです。

糸を通した後に葉と甲殻のすきまにタコ墨を入れて乾くまでおいておくと、ゴムパッキンのように隙間を埋めてくれる。
一度乾くとなかなか取れないのでちょうどいい接着剤である。
その要領でスカートも作り、葉っぱの下着も作ってしまった。

なんか葉っぱの下着は逆にエロイ気がした。が、まぁよしとしよう。

下着は正直必要ないが(恥ずかしさ、保護という二つの観点から)、職人の国日本出身の僕としては、ここまで作っておいて下着にもこだわらずにはいられなかった。

『うわあ・・・可愛い。いいなぁ・・・可愛いなぁ・・・欲しいなぁ』

物欲しそうな目でこちらを見る目が二つ。
作って欲しいならば作ってくれといえばいいのに。
彼女の名前はドドリアさん。
ドリアードという種族で、個体名はないということなので僕が名付け親である。
名前の由来はなんとなくである。
も、元ネタなんて無いよ?うん!
単純にドリアードを略していく過程で‐‐ドリアード?ドリー・・・ドリド・・いや違うなぁ・・・ドリア・・・ドリアド・・・ドリア・・・ど、ど・・・・・・よし、ドドリアにしよう。‐‐てなわけである。
たださすが女性の名前としてはどうだろうと思った。
ゆえに一応ドドリアという名前は仮決定である。
もうひとつの候補は緑色の髪の毛をしているので緑色を意味する言葉でグリューネというのがあったはず。ドイツ語だったかな。
せっかくなのでグリューネ・ドドリア。組み合わせて名前とするのもいいかもしれない。

ま、それはともかく、いまだ彼女がどういう存在か分からないが、ここ一週間、暇なのか良く話しかけては一人でぶつぶつ言い出す変人だ。
けれどいい話し相手である。

「・・・つくろうか?」
『え、いえ、その・・・私は確かに可愛いとは思ったけれど、さほど欲しいというわけではないのよ?
でも、別に欲しいかと言われれば断る理由も無くて、これから先私としてもそういったものがあったほうが便利だと思うの。
だって可愛いし、可愛いじゃない?
だから、その、作ってもらえるのならそれはありがたく頂戴するわ。けれど別に、あれよ?
なんかすっごい欲しいとか、そういう意図は全然ないというか、まったくないというわけでもないけどただ貴方が思ってるよりは・・・』


また自分の世界に入り込んだようである。
もう街に繰り出そうか。
彼女に作るのは帰ってきて僕が魚の味を噛み締めた後でいいだろう。


こうして僕はこの世界に来て初めて人と触れ合う機会を持つのであった。


あ、その前に接触しためがねがいたっけ。


とりあえず目指すのは人通りが多そうな街道である。
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