タコのグルメ日記

百合之花

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I章 始まりの森

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『街に行くなら、なにか甘味をお願いできないかしら?』
「・・・手にいれることができたらね。」

難しいと思うけど。
そんなグリューネの言葉を背に受けていざ人間の街へ!となったのだがここでまたもや問題が発覚した。
やることなすこと問題ばかりでいい加減嫌になるが、何。

人間、始めてやることなんて問題ばかりで、むしろ何の不都合もなく出来てしまうほうがおかしいだろ。
僕はタコだけれど、タコも人間もさして変わるまい。というわけで問題解決にいそしむ。
奇しくもまたもや物づくりだ。

『人間が武器を持たないのっておかしくない?』

と、思い出すように言われたのが発端。
ならば武器を入手するしかない。
でもそんなのただのタコが持ってるわけが無い。
ゆえに作ろうと思い立ったのが昨日。
今日は武器の材料集めに奔走している。

一番手っ取り早いのはここにやってくる人間のをぶんどることだ。
でも、残念ながらこの前の大規模なゴブリン掃討に人員を多く使ったらしく、あれから人間がこない。
街では人材不足で、てんてこまいではないだろうか?
なにせ森に食われたといってもいいような死に様である。報告も行ってないだろうし、そもそもまだゴブリンの掃討に手こずっているという認識かも。
まだしばらく人間は来そうにない。
まぁこれで良かったとも思う。
そんな追いはぎみたいな真似を誇り高いタコである僕がやるわけにはいかないのである。

てなわけで、オーソドックスに剣を作ることにしたものの、まずは良い感じの木材を手に入れることからはじめた。
なぜ木材?
そう思っただろうけど森に、剣に使えるような金属が落ちてるわけがないじゃないか。
落ちてたとしてもそれを剣にする技術は当然のこと、金属の塊を剣にするなんて出来ない。
出来たとしても見た目だけのまがい物。すぐに壊れるのがオチである。タコになんてことを求めるのだ!

話を戻すけれどそうなると武器はどうしようか?となる。
それを聞いたグリューネが言ったのだ。

『・・・樹液を使えば?』
「樹脂?」
『人間の文化に樹液を使った品があったでしょう?
良くは知らないけれど、その辺の弱い子達なら力任せに叩き切っても壊れない程度の物は出来ると思うわ。』

漆器・・・のこと?
漆器。

簡単に言えばある種の木々の樹液を塗りたくった木製の食器のことである。

その中でも日本が誇る伝統工芸品の輪島塗と呼ばれる漆器は極上で、色艶を落とさずに400年原型を留めていられる頑強さを持つらしい。作るのには100以上の工程があり、そのそれぞれに専門の職人がいるとか。
そう考えると漆器のように漆(うるし)を使って剣を作れば彼女の言うとおり、そこそこの剣は出来ると思われる。
ただ漆が元は樹液から出来たといっても、漆と呼ばれる状態になるまでどうすればいいかなんてしがないタコには難しすぎる問題だ。

ところが。
ここでようやく気運がめぐってきたのかもしれない。
色々と試みがあれどろくに成功を収めていなかった僕にとって、初めて満足いく結果が残せるかもしれない。

なんと、その漆の作り方の予想がある程度つくという。
グリューネさんマジ天使っ!!

で、彼女の言う漆のような特徴を持つ樹液を出す木を探しに、そして樹液を採取しにいく。

何でそんなことを知ってるのか?と聞くと、ありえない存在を目にするようにして自分の世界へ入ってしまった。
またか。と思いつつ、そこはスルーしたのだが。

さらにはその木は木材としても上質で、それをエアスラッシュで切り刻む。
いや、別に切り刻みたかったわけではない。
相変わらず細かいコントロールが出来なかったのでいい感じに切り抜けなかったのだ。
いい感じの大きさの木材にするのに、何度もエアスラッシュを連発していたら結果的に切り刻まれていた。というわけである。

という困難な部分もあれど、素材は問題なく集まった。

次からは細かい作業である。
ここからはタコの体だと困るので人の体に擬態しながら行う。

まず切り抜いた木材を剣の芯として剣状に形成する。
鱗鳥(ウロコドリ)と名づけた、全身逆立った鱗を持つ鳥の皮を剥いで、(肉は非常に美味でございました。その味はいずれ語ることもあるだろう)その皮をヤスリのように使って削っていく。
これで剣のような形にするのだ。
この作業が一番つらかった。
なんせただひたすら力をこめて擦り続ける作業を黙々とし続けるのである。
削りすぎるとかっこ悪くなるし、また力をこめ過ぎると鱗鳥の皮が破れてしまう。鱗自体が堅くても皮自体が破れ易いのだろう。

次の工程は樹液を漆っぽいものに精製することだ。
水分を飛ばしたり、グリューネが持ってきた変な粉を混ぜたりしたら簡単に出来た。
茶色が赤色に変化した。
これを赤漆一号と呼ぶ。

次に樹液に混ぜたのはポーンパイソンの角を細かく砕いたもの。
石を使ってせっせとすりつぶしました。大変でした。
色は青色。
なので青漆二号と名づけた。

最後に精製したのは黒漆三号。自分のタコ墨を混ぜてみたのである。
これはやたらと艶の良い漆で、彼女が最後に塗るといいかも。と言っていた。
かもってなんだよ?と思ったけどまぁいいや。

まずは赤色一号を剣の芯に漬け込む。
ココナッツのような実を割って手に入れた皿に赤色一号が入っているのだが、もちろんそこに直接剣が入るわけはないのでそれを大きな葉っぱの上に垂らして、そこに剣を置いて葉っぱで包み込むようにした。

一晩置いた後、十分にしみこんだのを確認してからここからが本当の漆器型剣作りの大変な部分だった。
まずは青色二号を剣に塗る。
それから1日置いておき、乾いた状態になった物の上からまた青色二号を塗る。
それを2週間繰り返した。
単純計算で14回の上塗りをしたことになる。
そして仕上げとして半日置いておいた生乾きの剣に黒漆三号を塗り上げる。

その状態で今度は完全に乾くまで待つ。
この間、さらに2週間。
黒漆はやたらと乾くのに時間がかかった。僕のタコ墨と変な化学変化でも起こしたのだろうか?
水分が完全に飛ぶまで時間がかなりかかった。
これにさらに別途作ったツバや柄を付けたかったのだが、さすがに細かい制御の出来ないエアスラッシュでは無茶振りにもほどがある。

とにかく完成した漆の剣の柄をつけるために細くした根元にブラックウルフの尻尾の毛皮を包帯のように巻きつけて滑り止めとしてようやく完成である。
さすがに鞘までは作れないので大きな葉っぱを糸で縫い合わせたものを使うことにする。
腰に鞘に入れた漆黒の剣、剣の名前は適当に「漆黒」でいいや。漆(うるし)使ってるし。黒いし。これほど名前のとおりの剣はなかなかあるまい。

『・・・あれ?
これ・・・あ・・・ちょ・・・なんで・・・?
まさかね。うん。』

一緒に完成を喜んでくれたグリューネは突然何かに気づいたように漆黒の剣を凝視する。
もはやあれだ。
いつものことなので放っておく。


今度こそ人間の街にいけるというものである。

一体どんな人たちと会えるのか。
RPGをプレイするようなワクワク感を胸に僕は森を今度こそ出るのであった。


『あ、ちょっとっ!?
甘味を忘れないようにねっ!?』
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