タコのグルメ日記

百合之花

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Ⅱ章 ミドガルズの街

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かくして意気揚々と僕はあの森を始めて出た。
釣り針のために一体何日かけるのだろうと思いつつ。

「・・・。」

街にはついた。
特別なイベントがあるわけでもなく、普通についた。
大体、街道っぽいのを徒歩で歩き続けて1日ほど。
割と近かった。森が広がったからか?

だが、そこで待ち受けるのはお金が無いと言う厳しい現実である。
ほとんどの一般人は魔力を持っていないらしく、会話をするのは意外と困難な作業だったけれど、根気良く話しかけてなんとか街の人から情報を集めることに。
結果、釣り針は存在しないけれどそれを作ってくれそうな金物屋はある。ということまで突き止めた。
そして、あるにはあるけど作ってもらうのに10000ルピーほど必要だという。
1ルピーどれくらいの価値なのか良く分からないが、露天を見るとリンゴひとつに付き20ルピー。
他の食材もばらつきはあれど50を超えるものは少ない。
その土地や世界、情勢、流通ルートによって大幅に変わるし、お金の価値は流動的である。
ゆえに日本円に換算するのは難しいが、あえていうなら質素な食事100食分くらい届きそうなくらいの価値はあると思われる。

オーダーメイドのせいか釣り針一つがやたらと高い。
いやこの世界じゃこれが普通なのだろうか?
まったくわからん。
せっかくだからルアーも作ってもらおうかと思ったけどとてもじゃないが無理である。
ルアーの見積もりだと形が複雑だとか言うことで値段が5倍以上に跳ね上がった。
おそらく彼らが作る過程で失敗する材料費や手間賃があるからだろう。

しばらくの野生生活でお金のことをすっかり忘れていたとはなんたるドジっこか。
マジでどうしよう?
しかも、である。
ここで僕のような身一つで来た人が一番安全かつ簡単に稼げる手段は冒険者組合という場所に行くことらしい。
だがなぜか今は冒険者組合が機能停止しているという。
建物が閉じられていた。
人から聞いたところ、もともと居たトップがなにやら悪さをしていたということで王都から来た騎士に殺されただの、検分されてるからやってないとか、まだゴブリン達の巣の掃討に大多数が出かけているからだの、とにかく営業再開するのはあとちょっとかかるらしい。
ゴブリンの掃討ということはあの森に居た人間100名前後のことを言ってるのだと思う。
となるとあそこにその冒険者組合の責任者が居たということに他ならないが・・・グリューネの話だと人間はすべて養分になってしまったとか言う。
お気の毒だが、彼女が言うには森を守るためとかなんとか。

森が人間に侵略されそう。
森の生物が絶滅しそう。
よし、なら森の生物が人間に適応出るように進化を待とう。
でも、待ってる時間は無い。
だったら森そのものである私が彼らの進化を促そう。

というわけで、森の防衛機構を働かせたのがあの結果で、動物の進化であるという。
その際、もともと森にいた生物は死んでいたのを除いてすべてあの木のクモに襲われ、気絶させられていたらしい。
森の収束は森の生物を避けるように、時にはやさしく包み込むように動くが、意識があると急激な進化に伴う痛みで生物はショック死するという。
どおりで僕も体の色やら触腕が増えていたわけだ。
そして僕はあの森の収束に巻き込まれて気絶していて正解ということだろうか?

とかいう話はおいといて。

とにかく、困った。
困った。
困ってしまった。

お金、稼げない。
動物の肉や皮を売ることが出来るらしいのだが、そういうのはそういった生物専門化が検分するためにも冒険者組合を通さないと犯罪になってしまうと聞いたので、勝手にその辺の人に何かしらのものを採ってきて売るわけにも行かない。毒や細菌、寄生虫の蔓延を防ぐために必要な措置だという。
それは立派だが、このままではお金を手に入れる手段が無い。

とりあえず街中だと「なぜか」じろじろ見られるので街中から出てそこそこ離れたところに野宿することにした。
この体にとって野宿程度楽勝である。
べ、別に負け惜しみなんかじゃないんだからね!!
人間用に調整されたベッドじゃタコの僕には合わないだけなんだからね!!
勘違いしないでよね!!
いや、正直言うと宿屋行きたいよ?
野と宿じゃ、宿のほうが野生動物を警戒しなくてすむもの。

・・・こほん。
ま、ともかく、だ。
そこで考えた僕の作戦は「盗賊や肉食動物に襲われてる人を助けて、たかる」という非常に分かりやすく、効率の良い作戦である。
ふふふ、まさか命の恩人に礼代わりに金をくれと言われて断るやつはいまい。

・・・なんか自分が汚れた気がするが気のせいだろう。
それに前にも言ったようにこうした三流子悪党じみたキャラクターは好きなのだ。
なによりこれくらい打算的な方が人間愛嬌が出るってものである。
いや、タコだった。

てなわけで待ち続けて早1ヶ月。
時間経過が早い?
違うんだよ。
今までの思考内容こそがすべて、1ケ月前の話しだったってだけの話。
それを一ヵ月後の僕が回想してたってわけである。
ややこしかったかな?

何はともあれ、釣り針ひとつ手に入れるのに一体どれだけの時間がかかっているのだろうか?
そもそもなんで道端で誰かが襲われるのを待っているのだろうか?
目的と手段を履き違えてるとどこか冷静な僕が言ってるが、ここまできたら襲われる人間助けるまで帰らないという意地を張る僕もいる。
僕はどちらを選択するべきなのだろう?

ていうか1ケ月待ってて初めて気づいたんだ。
人がモンスターなり盗賊なりに襲われてそれを偶然主人公が助けるなんて展開。
現実に狙って起こそうとしたらこの体たらくですよ。
人が通りかかっても、盗賊たちが通りかかってくれないとだめだし、また人が通ってても盗賊や動物達がかならずしもその人を襲ってくれるとは限らない。
街でこの辺に盗賊がいるよ?という話を聞いてずっとここで張り込みをしてるのに、そもそも盗賊自体見かけないのはなんでだよ。
そして当然ここを通る人だって、襲われないような工夫をしているのである。

商人は複数の商人が集まってるのか、それとも商会の人間がまとめて歩いているのか商人が一人、もしくは少人数で街道とはいえど、盗賊が出る可能性のある街を歩くわけが無いのだ。良く考えれば分かるだろうに。人間は個々は弱くとも群れることで強者となりえる。
そんなこと元人間の僕なら言われなくても分かっていたはずなのに。
商人の場合、特に護衛も多い。
おそらく複数の商人=馬車が集まることで一度にかける商品の運送量を増やし、かつ護衛の回数を減らす一石二鳥の手段。護衛料だってそれぞれ負担を分断すればそれほど、かさむ訳ではない。

そして通りかかる人はそうした集団を作ってる人のみ。

かといって普通に歩いてる人はその腰に剣を挿していたり、弱そうな人は少なからず護衛をつれそっている。
このことから少ない人は襲ったときのリスクと比べてリターンが少ないのだろう。
この人たちも当然襲われない。

ではか弱い女性、かわいらしい女性ならどうだろうか?
街ではちらほら奴隷っぽい首輪をしてる人が居た。
さすがにあれらすべてがすべてそういうプレイだということはないだろう。
というかそんなことを白昼堂々やる人間達のすむ街なんてもう行きたくないでござる。

とまぁ話を戻して、か弱い女性。
これもまた言うまでもないよね。
「か弱い」女性が一人で歩くわけ無い。
というわけで結局どうにもならない。

1ケ月。
1ケ月丸まる無駄になってしまったようである。

1ケ月待つ前に気づけよと我ながら思う。
ただこの辺の生物がおいし過ぎるのがいけないと思うんだ。
おいしくて待つのが苦にならなかったのが、今回の敗因に違いない。キリッ。

あと一日、いや三日・・・粘ろうか。
いや、でもなぁ。

と思っているとそこに悲鳴が響き渡る。
おほぉっ!!
1ケ月粘ってよかった!!
ようやっとカモが来よったわぁっ!!

と思ってみたものの。
え、これどういう状況?

駆けつけてみると服が破れた女の人が一人。
その周りにごつい人が十数人。
・・・え?
そしてそれに対面するのは4人の柄の悪そうなチンピラ。しかし死に体である。
彼らの話を聞くに、どうも4人のチンピラが女性を強引にあ~れ~な感じにしようとひたところ、そこに十数人の男達が女性を守るべく登場!!
であれば格好良かったのに。
いや、別に格好良くは無いか。十数人ってなんだよ?

もともと男達と女の人はグルで、女の人をさらおうとする悪漢どもを食い物にする悪漢ども相手専用の、これまた悪漢どもと悪女。

女性をあ~れ~なことにしようとするのは感心しない、というか悪いだろうが、それを見越して自分を花に虫を誘う。
こっちもまたあこぎな商売である。どっちが悪いとか、そういう問題じゃなくてこの世界の人は逞しいなとぼんやりと思った。
どこかで聞いたことのあるような、というか今しがた僕がしようとしたことにちょっと似てる・・・襲われる人を囮に金をせびろうとしてるその姑息さが・・・似てる気がしないことも・・・あれだよ。
僕は悪気じゃなくて、善意も多少はあったよ!?

と、とにかく、4人の男どもに味方する気にはなれないし、これまた美女とあこぎな男どもに味方する必要は無い。仮に困っててもなんか助けたいとは思えない。
残念ながら僕の計画はご破算となってしまった。

僕はとてつもなくがっかり来た気分をなんとか持ち直して一度待ちに帰ることにする。
ほら、冒険者組合が開いてるかもしれないし。

☆ ☆ ☆

「ようこそ。ここは冒険者組合で・・・す?
ええと見ない方ですね?
登録ですか?」
「は、はい。登録です。」

予想どおり冒険者組合は営業を再開していて、ちょっと泣きそうになった。
涙腺無いんですけど。

「分かりました。ではまずこちらに記入を‐‐」

おお、良かった。
どうやら彼女は魔力を持ってるらしく言葉が通じた。

「あの・・・お節介かもしれませんけど、貴方くらいの年の方がやるのは少々以上に辛いかと・・・死んでは元も子もありませんし・・・」

そして僕の見た目ははかなげな美少女。
そんな僕を心配してくれる受付の女性は良い人だ。

「失礼ですが、出身は・・・」
「ええと・・・遠くの村です。」
「村の名前はなんでしょう?」
「え?
えっと・・・言わなくちゃだめでしょうか?」

名前を聞かれたということは村の名前が分かる手段、ないしは村の名前を記録ぐらいはしてるということになる。
となると下手に嘘を付くと後で困るかもしれない。

「・・・言えない・・・ということは・・・なるほど。」

何がなるほどなのか良く分からない。

「冒険者というのは非常に危険なお仕事です。
確かに魔物を倒すことでレベルアップを果たし、徐々に強くなり安定した収入を得ることは可能ですが・・・そうまでになるのに、半分の方は命を落とされます。
女性は男性に比べて慎重な方が多いので多少は確立が落ちるといっても十二分に危険です。」
「・・・ええと・・・」
「冒険者同士のトラブルで殺されたり、貴方の場合・・・顔が整ってますので、ゆえにこそ冒険者組合の規律を破る方がいるかもしれません。言いづらいのですが・・・女性としての尊厳を踏みにじられる場合があるかと。」
「は、はぁ・・・」
「初心者の冒険者は基本、礼儀がなってませんのでパーティを組むことはお勧めできませんし・・・」
「あの、それでも僕はお金を稼ぎたいのですが・・・」
「・・・お金を稼いで何をするのでしょう?」
「え・・・っと・・・」
「同じ女性としては勧めづらいのですが、娼館への紹介もやっていますのでそちらを希望されては?」
「は、はいっ!?」
「いるのですよ。やむをえずなんらかの事情でお金を稼ぐために冒険者組合に来られる女性の方が。そういう方はもともと争いごととは無縁ですし、荒っぽい冒険者の良い食い物になることもちらほらあります。人の悪意になれてない方も多いですし・・・
とにかく、何をするにしても命を失っては終わりです。
なので最悪の手段として娼婦への道の紹介もさせていただいてるのが冒険者組合です。
少なくとも命の危険はなく、冒険者組合のほうで経営している場所ですから暴力などの対応もしております。少なくとも・・・」

話が長い。
こっちのことを思ってくれてるのは分かるのだが、正直要らんお世話である。
そもそも僕は男‐‐なのか?
いや、精神はしっかりと生まれてこの方ぶれることも無く、男なのだがこの体・・・タコの性別ってどうやったら分かるの?
そもそも雌雄で分かれてるのだろうか?
軟体動物は雌雄同体というイメージがある。
仮に分かれてたとしてオスなのか?メスなのか?
オスだとして、人間のような差し込むためのものが付いているのだろうか?
一応女の人の裸でも興奮できると思う。
むしろタコの体では興奮できない・・・はず。
人間、一部の人は男の体でも男に惚れたり、その逆があったり、無機物を異性として見る病気だってあるのである。
それくらい些細な問題だ。
一番はこの体の性別。
少なくともタコの性別の見分け方なんて分からない。
人間のように興奮によって何かしらの変化が現れてくれればいいのだけれど、単純にこの体がまだ未成熟なだけということもある。
まだ一年も経ってないんだから、性器がしっかり育ってないという可能性の方が高い。

閑話休題。


とりあえずこちらを心配して娼婦になることを進めてくる女性の話をさえぎって、登録を進めるとしよう。

願わくばその登録作業に何かタコだとばれるボロが出ないように。
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