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Ⅱ章 ミドガルズの街
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「・・・えへへへ。」
ニヤニヤとしながらキャッシュカードより少し厚いカードを眺める。
ニヤニヤと言っても顔には出ていないが。
そりゃそうだ。
だって人間にしか見えなくともその体はしょせん擬態なのだからさすがに表情を感情と直結させて、ころころ変えるなんて芸当は一朝一夕では身に付かない。
せめて年単位の時間が必要だろう。
「さて・・・場所は・・・っと。」
もらったカードの名前は冒険者カード。
どうもここには名前と加護、魔力量、種族、レベルといった基本情報が書かれているようである。
ちなみにレベルはそのまま強さの数値。
僕が考えたゴブリン指標基準と同じくらいだ。
ちなみに僕のレベルは76。
これが強いのか弱いのかは分からないが、少なくとも無双ができるほど強いというわけでは無いらしい。
僕ぐらいならいくらでもいるとグリューネは言ったわけだし。
そして加護。
これは職業みたいなもので、剣を使ってれば剣士に。
魔法を使ってれば魔法士に。といった感じでそれぞれの武器や力をつかさどる神様が勝手に与えてくれるとかなんとか。
加護を受けると身体能力や武器の扱いが上手くなるという。さらに使い続けると加護がヴァージョンアップして特別な技能や、より能力に補正がかかるとのこと。
受付のお姉さんに神様について聞いたところ、いくら考えても原理が分からないからとりあえず神様のせいにしておこうって考え方が主流で、神様のことを大真面目に考える人はほとんどいないと苦笑していた。
適当だな、この世界の人。
ちなみに僕の加護は「偽人剣士」、「ドリアードの眷属」となっている。偽者の人の剣士ということだろうが、偽という字があるとなんか嫌な加護である。
もうひとつはドリアードの眷属。
これはまんまかな。
そして一番びびったのが種族と魔力量。
「・・・タコってそのまんま過ぎるだろ。」
――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――
名前 タコ
種族 タコ
レベル 76
魔力量 530000
加護 偽人剣士
ドリアードの眷属
スキル エアスラッシュ 縦横無尽筋 表皮形成 擬態 ゴブリン形態 美少女形態(まほうしょうじょ)
――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――
こんな感じの内容だが、改めて見直すと色々まずいんじゃないんだろうか?
でも受付のお姉さんはそのままスルーして、依頼の紹介に入った。
自分にしか見れないとかそんな感じかな。
そしてタコ脚キャノン。お前がなぜスキル欄に無いのだ。
技能と呼ぶほど確立した技ではないのか。
あれだけ僕は君に助けられていると言うのに。
とにかくそうして受けた依頼。
そう。
「・・・君も今回の森の調査を?」
「はい!」
元気良く返事する。
明るく返事をすることである程度の好感度稼ぎだ。
場所はミドガルズの―いまさらだけどこの街の名前はミドガルズと言うらしい―第一門前。
僕が受けたのは広がった森の調査依頼。
森がご存知のとおり、急激な変化を示したのでその原因の究明と魔獣(この世界の動物はほとんどが魔獣と呼ばれるらしい)の戦力調査、先見隊の発見が主らしい。
それに際して王都から来た学者達のお手伝いと護衛。これが今回の仕事で、研究者が10人。
冒険者が30人以上と言う大規模な国発行の依頼である。
参加資格は冒険者であることのみ。人数制限なし。
本来なら新米が受けることの出来る依頼ではないらしいが、人手不足ということで加護持ちなら参加OKとのこと。
この基準はおそらくある程度、武器が扱えるなら加護がもらえるからということだろう。
一応、今回の依頼を選んだ理由を説明すると報酬の割りに簡単だったから。
あそこは僕の住処で故郷で庭である。
それは生まれ変わった今とて変わらない。
これほど楽な依頼も無いだろう。
というか一度帰って、僕の家、と言っても家というかかなり大きな樹木の洞(うろ)の様子を確認したい。
あれから1ケ月、もしかしたら他の同胞に家を奪われているかもしれないからだ。
一番住み心地の良かったあの洞。やすやすと奪われるつもりはないのである。
もしも他のタコが入っていれば住処を賭けての命がけのバトルとなる。
どうもタコの縄張り意識は強いらしく、なかなか退いてくれないのである。それこそ息の根を止めなければならないほどに。
「・・・まぁいいか。依頼を受けるときの説明は受けたんだろう。」
学者の男の人は僕の外見と装備を見て不安そうにしたが、その言葉を吐いて答えを聞かずに他の仲間達の元へと戻っていった。
なんか感じの悪い人である。
「おいおい、まじかよ。こんな初心者までこの依頼受けてるのか?」
「・・・?」
いきなりの声に、隣を見ると軽薄そうな槍を持った男がいた。
そして僕に金貨を渡す。
つい受け取ったが、これは何のつもりだろうか?
「これで夜の相手してくれよ?
ついでに守ってやるからさ。」
下品ですね。
というか僕のあれって『アレ』だぜ?
食いちぎるような締め付けどころか、本当に食いちぎっちまうような器官なのにそこに男の大事なものを突っ込みたいとは・・・こいつ。
さては変態だな?
いや、まぁ彼はそんなことを知らないんだろうが。
「断ります。」
断って僕はきびすを返した。
「ちっ、つれねぇな。ちょっとくらい良いだろ?
ていうか、ヤらせてくれないなら金返せよっ!!」
気づきやがったか。
彼から渡されたのは三等金貨。
10000ルピーである。
一晩の相手が10000。リンゴ換算だと500個分。
高いのか?
安いのか?
なんにしてもノリで貰う事はできなかったようだ。
投げつけて返す。
「っと、おい。
金は大事に扱えよ。」
「スケベ。」
無表情なまま、そう言って僕は配置に戻った。いや、男は皆スケベだな。別に悪口でもなんでもなかった。男は喚いていたが、もし襲い掛かってくるならそれはそれで上等。
むしろお願いしたいくらいだ。
それに乗じて身包みを剥いで・・・あれ?
この思考、最早盗賊じゃないか?
い、いや、そんなことは無いだろう。せいとうぼうえいだし。せいと~ぼーえい。
うん。
そんなこともあって、いよいよ行軍?が始まったのである。
これが終われば約12000ルピーほどの報酬が手に入る。
そして魔獣の死体はその場で状態によりけりだが買い取ってくれると言う。
実に良いお仕事だ。
森の生まれ変わり作業―彼らの言うところでは森食みと言うらしいが―森食みがまた起こるんじゃないかという不安がちょっとあるけど、その辺もこの際だしグリューネに詳しく聞いてみるのもいいかもしれない。
ガサガサと音を発てて、行軍する研究者とその護衛たち。
こんなに音を発ててたら見つけてくれと言うものだよね。
ちなみに魔獣は死んだのではなく、生まれ変わっている。すなわち、前回人間に侵略まがいのことをされているのを皆々覚えているのだ。
こんなに派手に動いてちゃ、この辺のやつらじゃ警戒して襲ってこないだろうな。
この調子だと魔獣をしとめてその死骸で追加報酬・・・というのは難しそうだ。
「・・・魔獣が出ないな。森が浄化されたように綺麗だが・・・」
「これは完全に森食みが起こったと見ても・・・」
「まて、こっちの植物は新種だ。サンプルを取る。おい、こっちに空ビンをくれ。」
「なるほど、土壌がかなり良い様だ。」
研究者さんたちは早速あたりを調べまわっている。
自分の故郷を調べまわられると言うのは滑稽と言うべきか、憤慨するべきか。
なんにせよ、今日のところはこのまま平和に終わりそうである。
と、思っていたのだが。
「ぎゃあぁああああっ!!」
「ちっ!!
おい、魔法使えるやつ、こいつを頼む!!」
やってきたのは・・・なるほど。
この森で群れを作る中でも最大規模を誇る『大軍隊アリ』か。それが数人の冒険者の肉を噛み千切っていた。
――グンタイアリと言う超超大型の群れを作るアリが地球にはいる。
そのアリの群れが通ったところは文字通り虫一匹残っていない道と化すほどにその猛威は強く、常に行軍(移動)する習性があるそうだ。
一箇所にとどまり続けたらすぐに餌を食べつくしてしまうことを本能で知っているのだろう。
この森に住むのはそのグンタイアリを大きくしたようなもの。
一匹一匹は約10センチという小さな昆虫だが、その猛威は地球のものとなんら変わらない。
大型になった分、人間でも容赦なく食らうことが出来るようになったこと以外は。
こいつらなら警戒なんてせずに人間でもかまわず襲い掛かってくる。それはこいつらが本能的に群れれば何であろうと大体、勝てると知っているからだろうし、森が生まれ変わる前には存在してなかった新参者だから人間の力を知らないと言うのもある。
などと冷静に考えてる場合ではない。
この森の生物の中で間違いなく最強クラスに匹敵する生物だ。
個体個体の力は10センチの虫そのものなんだけど、その数と大きさが本当に尋常ではない。
そして昆虫にはあるまじき知能。彼らは地球のグンタイアリと違って――
「・・・皆さんっ!!
すぐに逃げてくださいっ!!
彼らは斥候部隊のようなものです!!
すぐに本隊がやってきます!
そうなればここにいる全員なすすべも無く食われますよっ!!」
すぐに僕は警戒の声を上げる。
別にこいつらが食われようと知ったことではないが、お金がもらえないのは困るし、このアリ相手だと僕ですら捕食者から被食者となる。
蛸形態(オクトパスフォーム)でも押し込まれるだろう。なすすべも無く解体され、食される。
ちなみにこいつらを食すと個体によってあたり外れはあるものの、たまに甘い個体に当たる時がある。果物を食い集める者、他の生物をしとめる者、植物を食い集める者と役割が別れているようで、甘い個体のあの甘さときたら桃を濃縮還元したジュースを口に含んでいるようでしかし、彼らの蟻酸だろうか?
それが口解けをよりさわやかにしてその濃縮具合や甘ったるさがまるで気にならないという大人のジュースとでも言うべきか?久々に―――いや、だからそんな場合ではない。
こんな質より数をまさしく体現したような生物と戦うなんて真っ平ごめんなさい。
あまりのろのろしてるようなら研究者達を食わせてむしろ残すであろう硬貨を回収する・・・というのも良さげだったけど、一人だけ生き残ってあの街に戻るのも悪目立ちしそうで嫌だ。
ダイグンタイアリの行軍ルートはすでに知っている。
気配が分かるスキルを持ってるって事にして、彼らを先導しよう。
「漠然とですが、小さな気配がここの何倍もたくさんくるのを感じます。
急いでその気配が少ない向こうへ!」
「気配探知もちか!?
よし、おい、皆、すぐに移動する!こんなのを相手にしてたら日が暮れちまうぞっ!!あんたらも早くっ!!」
「あ、待ってくれっ!!
まだあのキノコを採取したいんだっ!!」
「ばかかっ!キノコなんて後で取りに来ればいいだろっ!!早く動けっ!!」
日が暮れると冒険者Aの彼が言ったのもしょうがあるまい。
ここの斥候部隊だけでゆうに1000匹は蠢いている。
土から這い出てきたり、木から落ちてきたり、草の影から飛び跳ねてきたりと続々と増え続けている。
その五倍。5000匹。それもまだ序の口である。
「急いでっ!!」
襲ってきたダイグンタイアリの腹をちぎり取った後に手近にある草で包んで、採取用の空き瓶に入れておく。
これも軽く売れるかもしれないしね。
3匹。
植物を食べる者と、果物を食べる者、動物を食べる者。それぞれを回収しておく。
それぞれで顎の形がちょっと違うのだ。
きっと良い資料として高く買い取ってくれるに違いない。
ちょっとだけ他のアリをつまみ食いしたのは余談。パンツの中に口があるので、他の人に見られないように食べるのはちょっと難儀だったと言っておく。
その後、しばらくして。
ダイグンタイアリは決まったルートをはぐれないようにする習性があるようでまくのは簡単だ。
ルートを外れればいいのだ。
その後、ある程度の探索後に泉を発見。キャンプを立てて休むと言うことになった。
森の調査依頼、一日目がこうして過ぎていった。
ニヤニヤとしながらキャッシュカードより少し厚いカードを眺める。
ニヤニヤと言っても顔には出ていないが。
そりゃそうだ。
だって人間にしか見えなくともその体はしょせん擬態なのだからさすがに表情を感情と直結させて、ころころ変えるなんて芸当は一朝一夕では身に付かない。
せめて年単位の時間が必要だろう。
「さて・・・場所は・・・っと。」
もらったカードの名前は冒険者カード。
どうもここには名前と加護、魔力量、種族、レベルといった基本情報が書かれているようである。
ちなみにレベルはそのまま強さの数値。
僕が考えたゴブリン指標基準と同じくらいだ。
ちなみに僕のレベルは76。
これが強いのか弱いのかは分からないが、少なくとも無双ができるほど強いというわけでは無いらしい。
僕ぐらいならいくらでもいるとグリューネは言ったわけだし。
そして加護。
これは職業みたいなもので、剣を使ってれば剣士に。
魔法を使ってれば魔法士に。といった感じでそれぞれの武器や力をつかさどる神様が勝手に与えてくれるとかなんとか。
加護を受けると身体能力や武器の扱いが上手くなるという。さらに使い続けると加護がヴァージョンアップして特別な技能や、より能力に補正がかかるとのこと。
受付のお姉さんに神様について聞いたところ、いくら考えても原理が分からないからとりあえず神様のせいにしておこうって考え方が主流で、神様のことを大真面目に考える人はほとんどいないと苦笑していた。
適当だな、この世界の人。
ちなみに僕の加護は「偽人剣士」、「ドリアードの眷属」となっている。偽者の人の剣士ということだろうが、偽という字があるとなんか嫌な加護である。
もうひとつはドリアードの眷属。
これはまんまかな。
そして一番びびったのが種族と魔力量。
「・・・タコってそのまんま過ぎるだろ。」
――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――
名前 タコ
種族 タコ
レベル 76
魔力量 530000
加護 偽人剣士
ドリアードの眷属
スキル エアスラッシュ 縦横無尽筋 表皮形成 擬態 ゴブリン形態 美少女形態(まほうしょうじょ)
――――――――――――――――――――――――
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こんな感じの内容だが、改めて見直すと色々まずいんじゃないんだろうか?
でも受付のお姉さんはそのままスルーして、依頼の紹介に入った。
自分にしか見れないとかそんな感じかな。
そしてタコ脚キャノン。お前がなぜスキル欄に無いのだ。
技能と呼ぶほど確立した技ではないのか。
あれだけ僕は君に助けられていると言うのに。
とにかくそうして受けた依頼。
そう。
「・・・君も今回の森の調査を?」
「はい!」
元気良く返事する。
明るく返事をすることである程度の好感度稼ぎだ。
場所はミドガルズの―いまさらだけどこの街の名前はミドガルズと言うらしい―第一門前。
僕が受けたのは広がった森の調査依頼。
森がご存知のとおり、急激な変化を示したのでその原因の究明と魔獣(この世界の動物はほとんどが魔獣と呼ばれるらしい)の戦力調査、先見隊の発見が主らしい。
それに際して王都から来た学者達のお手伝いと護衛。これが今回の仕事で、研究者が10人。
冒険者が30人以上と言う大規模な国発行の依頼である。
参加資格は冒険者であることのみ。人数制限なし。
本来なら新米が受けることの出来る依頼ではないらしいが、人手不足ということで加護持ちなら参加OKとのこと。
この基準はおそらくある程度、武器が扱えるなら加護がもらえるからということだろう。
一応、今回の依頼を選んだ理由を説明すると報酬の割りに簡単だったから。
あそこは僕の住処で故郷で庭である。
それは生まれ変わった今とて変わらない。
これほど楽な依頼も無いだろう。
というか一度帰って、僕の家、と言っても家というかかなり大きな樹木の洞(うろ)の様子を確認したい。
あれから1ケ月、もしかしたら他の同胞に家を奪われているかもしれないからだ。
一番住み心地の良かったあの洞。やすやすと奪われるつもりはないのである。
もしも他のタコが入っていれば住処を賭けての命がけのバトルとなる。
どうもタコの縄張り意識は強いらしく、なかなか退いてくれないのである。それこそ息の根を止めなければならないほどに。
「・・・まぁいいか。依頼を受けるときの説明は受けたんだろう。」
学者の男の人は僕の外見と装備を見て不安そうにしたが、その言葉を吐いて答えを聞かずに他の仲間達の元へと戻っていった。
なんか感じの悪い人である。
「おいおい、まじかよ。こんな初心者までこの依頼受けてるのか?」
「・・・?」
いきなりの声に、隣を見ると軽薄そうな槍を持った男がいた。
そして僕に金貨を渡す。
つい受け取ったが、これは何のつもりだろうか?
「これで夜の相手してくれよ?
ついでに守ってやるからさ。」
下品ですね。
というか僕のあれって『アレ』だぜ?
食いちぎるような締め付けどころか、本当に食いちぎっちまうような器官なのにそこに男の大事なものを突っ込みたいとは・・・こいつ。
さては変態だな?
いや、まぁ彼はそんなことを知らないんだろうが。
「断ります。」
断って僕はきびすを返した。
「ちっ、つれねぇな。ちょっとくらい良いだろ?
ていうか、ヤらせてくれないなら金返せよっ!!」
気づきやがったか。
彼から渡されたのは三等金貨。
10000ルピーである。
一晩の相手が10000。リンゴ換算だと500個分。
高いのか?
安いのか?
なんにしてもノリで貰う事はできなかったようだ。
投げつけて返す。
「っと、おい。
金は大事に扱えよ。」
「スケベ。」
無表情なまま、そう言って僕は配置に戻った。いや、男は皆スケベだな。別に悪口でもなんでもなかった。男は喚いていたが、もし襲い掛かってくるならそれはそれで上等。
むしろお願いしたいくらいだ。
それに乗じて身包みを剥いで・・・あれ?
この思考、最早盗賊じゃないか?
い、いや、そんなことは無いだろう。せいとうぼうえいだし。せいと~ぼーえい。
うん。
そんなこともあって、いよいよ行軍?が始まったのである。
これが終われば約12000ルピーほどの報酬が手に入る。
そして魔獣の死体はその場で状態によりけりだが買い取ってくれると言う。
実に良いお仕事だ。
森の生まれ変わり作業―彼らの言うところでは森食みと言うらしいが―森食みがまた起こるんじゃないかという不安がちょっとあるけど、その辺もこの際だしグリューネに詳しく聞いてみるのもいいかもしれない。
ガサガサと音を発てて、行軍する研究者とその護衛たち。
こんなに音を発ててたら見つけてくれと言うものだよね。
ちなみに魔獣は死んだのではなく、生まれ変わっている。すなわち、前回人間に侵略まがいのことをされているのを皆々覚えているのだ。
こんなに派手に動いてちゃ、この辺のやつらじゃ警戒して襲ってこないだろうな。
この調子だと魔獣をしとめてその死骸で追加報酬・・・というのは難しそうだ。
「・・・魔獣が出ないな。森が浄化されたように綺麗だが・・・」
「これは完全に森食みが起こったと見ても・・・」
「まて、こっちの植物は新種だ。サンプルを取る。おい、こっちに空ビンをくれ。」
「なるほど、土壌がかなり良い様だ。」
研究者さんたちは早速あたりを調べまわっている。
自分の故郷を調べまわられると言うのは滑稽と言うべきか、憤慨するべきか。
なんにせよ、今日のところはこのまま平和に終わりそうである。
と、思っていたのだが。
「ぎゃあぁああああっ!!」
「ちっ!!
おい、魔法使えるやつ、こいつを頼む!!」
やってきたのは・・・なるほど。
この森で群れを作る中でも最大規模を誇る『大軍隊アリ』か。それが数人の冒険者の肉を噛み千切っていた。
――グンタイアリと言う超超大型の群れを作るアリが地球にはいる。
そのアリの群れが通ったところは文字通り虫一匹残っていない道と化すほどにその猛威は強く、常に行軍(移動)する習性があるそうだ。
一箇所にとどまり続けたらすぐに餌を食べつくしてしまうことを本能で知っているのだろう。
この森に住むのはそのグンタイアリを大きくしたようなもの。
一匹一匹は約10センチという小さな昆虫だが、その猛威は地球のものとなんら変わらない。
大型になった分、人間でも容赦なく食らうことが出来るようになったこと以外は。
こいつらなら警戒なんてせずに人間でもかまわず襲い掛かってくる。それはこいつらが本能的に群れれば何であろうと大体、勝てると知っているからだろうし、森が生まれ変わる前には存在してなかった新参者だから人間の力を知らないと言うのもある。
などと冷静に考えてる場合ではない。
この森の生物の中で間違いなく最強クラスに匹敵する生物だ。
個体個体の力は10センチの虫そのものなんだけど、その数と大きさが本当に尋常ではない。
そして昆虫にはあるまじき知能。彼らは地球のグンタイアリと違って――
「・・・皆さんっ!!
すぐに逃げてくださいっ!!
彼らは斥候部隊のようなものです!!
すぐに本隊がやってきます!
そうなればここにいる全員なすすべも無く食われますよっ!!」
すぐに僕は警戒の声を上げる。
別にこいつらが食われようと知ったことではないが、お金がもらえないのは困るし、このアリ相手だと僕ですら捕食者から被食者となる。
蛸形態(オクトパスフォーム)でも押し込まれるだろう。なすすべも無く解体され、食される。
ちなみにこいつらを食すと個体によってあたり外れはあるものの、たまに甘い個体に当たる時がある。果物を食い集める者、他の生物をしとめる者、植物を食い集める者と役割が別れているようで、甘い個体のあの甘さときたら桃を濃縮還元したジュースを口に含んでいるようでしかし、彼らの蟻酸だろうか?
それが口解けをよりさわやかにしてその濃縮具合や甘ったるさがまるで気にならないという大人のジュースとでも言うべきか?久々に―――いや、だからそんな場合ではない。
こんな質より数をまさしく体現したような生物と戦うなんて真っ平ごめんなさい。
あまりのろのろしてるようなら研究者達を食わせてむしろ残すであろう硬貨を回収する・・・というのも良さげだったけど、一人だけ生き残ってあの街に戻るのも悪目立ちしそうで嫌だ。
ダイグンタイアリの行軍ルートはすでに知っている。
気配が分かるスキルを持ってるって事にして、彼らを先導しよう。
「漠然とですが、小さな気配がここの何倍もたくさんくるのを感じます。
急いでその気配が少ない向こうへ!」
「気配探知もちか!?
よし、おい、皆、すぐに移動する!こんなのを相手にしてたら日が暮れちまうぞっ!!あんたらも早くっ!!」
「あ、待ってくれっ!!
まだあのキノコを採取したいんだっ!!」
「ばかかっ!キノコなんて後で取りに来ればいいだろっ!!早く動けっ!!」
日が暮れると冒険者Aの彼が言ったのもしょうがあるまい。
ここの斥候部隊だけでゆうに1000匹は蠢いている。
土から這い出てきたり、木から落ちてきたり、草の影から飛び跳ねてきたりと続々と増え続けている。
その五倍。5000匹。それもまだ序の口である。
「急いでっ!!」
襲ってきたダイグンタイアリの腹をちぎり取った後に手近にある草で包んで、採取用の空き瓶に入れておく。
これも軽く売れるかもしれないしね。
3匹。
植物を食べる者と、果物を食べる者、動物を食べる者。それぞれを回収しておく。
それぞれで顎の形がちょっと違うのだ。
きっと良い資料として高く買い取ってくれるに違いない。
ちょっとだけ他のアリをつまみ食いしたのは余談。パンツの中に口があるので、他の人に見られないように食べるのはちょっと難儀だったと言っておく。
その後、しばらくして。
ダイグンタイアリは決まったルートをはぐれないようにする習性があるようでまくのは簡単だ。
ルートを外れればいいのだ。
その後、ある程度の探索後に泉を発見。キャンプを立てて休むと言うことになった。
森の調査依頼、一日目がこうして過ぎていった。
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※修正要請のコメントは対処後に削除します。
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