魔王クリエイター

百合之花

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Ⅲ章 討滅

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「てめぇっ!?ナリ通りとは思ってなかったが、こいつを受けてビクともしねぇなんて人間かよっ!?」
「君に言われたくないんだが」

あんたも大概だよ。
超水魔法をぶち込まれて何で生きてるんです?
体が一回り大きくなることといい、こいつも普通の人間を逸脱してない?
筋肉に負担をかけることで筋肉を巡る体液などを循環させて一時的に筋肉を大きくさせるという、いわゆるパンプアップと呼ばれる生理現象があるがパンプアップじゃ説明できないレベルで体が大きくなってるんだけど、それどうやったのさ。
異世界では当たり前なのだろうか?
少なくとも僕の住む辺境では見たことがないし、魔王蝶々を通して様々な場所を覗いた時も見た事はなかった。
そう言う種族?
体を一回り大きくするほどのパンプアップが可能になる種族…名前はなんて言うのだろう?
名付けるとするならマッスラーとかかな。
いや、ないな。

顔面に受けた拳のお返しに再度水魔法で仕留めようとウォーターカッターばりの威力の放水を、彼は腕でガードして飛び去った。
いくつかの魔法攻撃強化スキルも加えて高い生物強度から繰り出される、僕の魔法攻撃は生半可な一撃ではないのだが、よくぞまあ受け切ったものである。
ボッキリへし折れた音が聞こえたが、折れるだけで済ませたとかマジでこいつ何なんだ?
普通に腕が消し飛んでもおかしくないはずなんだけどな。
一点集中した水魔法で貫通できないのだから、たかだか数秒の広範囲水魔法で彼の肉体を消し飛ばせなかったのは道理ではある。
数秒同じ場所に当てれば、貫通させられないこともなさそうだけどまあ、貫通するまでじっとしているわけもないので簡単には行きそうにないけど。

「初めてだぜ」
「ん?」
「この俺が逃げ時を間違えたのはよ」

そう言って彼は僕に背を向け一目散に逃げ出した。
ええーっ、ここは普通、バトルするところじゃないの?
まだ腕の一本が折れただけ…いや、普通に重症だったね。
魔王蝶々で殺伐としたものを見すぎてその辺りの感覚が元日本人にあるまじきものになっていた。
しかも彼は別に僕を必ずしも殺さなくてはならないわけではない。
彼が逃げ出したのはごく自然なことだ。

まあ、逃がさないけど。

「ぐごあっ!?」
「悪いけど、ここで逃すとまたやってきそうだから確実に仕留めるよ」

僕が彼を逃さないために使ったのは超土魔法。
その辺にある土を操り、彼を捕らえて潰す。
が、なかなか潰れない。
マジでこの盗賊は何で出来てるんだ?
硬すぎる。

「ぐぐぐっ」

うめき声をあげながら必死に耐えている。
直接殴ってみようか?
魔法で圧殺しつつ、殴り続けてればいつか死ぬんじゃなかろうか?
いや、しかし、さすがにそれは嫌だ。
重ねて言うが僕は元日本人の今、農家なのである。
人を殺すなんて滅多なことをしたいとは思えない。
しかも殴って殺すなんて嫌過ぎる。
魔法を使って殺そうとしたのも、ちょっと手ずから殺すのは嫌だと言う忌避感ゆえにだし。
魔王を創り出しといて何を言ってるんだと思うが、直接殺すのと間接的に殺すのではだいぶ違う。なんなら僕の感覚では間接的にすら殺したつもりにはなっていない。
殺すと言うより殺された、と言う感覚に近い。
つまり何が言いたいかと言うと魔王エルルちゃんごしでも直接殺すのは嫌だなあと思うわけで、どうしたものかと考える。
魔王エルルちゃんの操作はかなり簡単かつ正確で、五感もまた本体である僕に伝わるからなおさらだ。

こうして悩んでいる間も土魔法で包み込んで潰そうとしているのだが、全然潰れる様子がない。
もう殺せなくても良いかなと思い始めてきた。
と言うか死体を見なくて住むように土魔法で包み込んで圧殺にしようとしたけれど、これはこれで罪悪感を刺激される殺し方だし。
火魔法で焼くにも、彼らのアジトは街道から外れた森の中。周辺被害を考えると火魔法は使いにくい。
風魔法や雷魔法なども覚えているが、頑丈な彼の体をぶち抜こうとする威力を出せば同じく周りの環境に大ダメージを与えかねない。
エコがどうだの自然環境を大切にしようと言われていた時代に生まれた人間としては少々以上に気がひける。
前世の父親が環境保全関連の仕事をしていた分、その辺は普通の人より気になる。
前世以上にヤバい自然環境だしさ。

このまま包み込んでいれば窒息死するかな?

このまま放置してれば勝手に死ぬか、逃げ出したとしてももうこの近辺には近づきはしまい。
僕は放置することに決めた。
が、次の瞬間、包み込んでいた土や岩が砕け散った。

「うわあ…」

砕け散った岩や土が周りに飛び散り、包み込んでいたスズメ盗賊団のボスは悠然と立っている。
体はさらに一回り大きくなっていて、もはや2メートルを越すと言われるエゾヒグマばりの巨体だ。

「…メスガキがよぉ、調子に乗りやがって…てめぇは俺を怒らせ過ぎた。黙って俺を逃しておけば良いものをよぉっ!!」

憤怒の咆哮に大気が震える。
人間離れしたその声量に改めてコイツが人間なのか疑問に思う。

「体内の氣を練り上げて、体に循環させた今の俺は誰も止められねぇぜ」
「…奥の手があるなら初めから使っておけばいいのに」
「ははっ、余裕じゃねぇか。
だがな。この状態の俺はしばらくしたら寝込む代わりに神にも等しい力を得る。皆殺しにしてやった故郷のグズどもはこの状態の俺を指してこう言った」

そこで一息。
男は言う。

「魔王、ってな」

お、おう。
せ、せやな。

「俺にここまでさせたんだ。ただぶち殺すだけで済むと思うなよ?
骨の髄まで嬲り甚振ってやるからなぁ」

よりにもよって魔王たるエルルちゃんに魔王を名乗るとか、笑うしかない。

「改めて言ってやらぁ。てめぇは逃げ時を間違えた。俺じゃねぇ。てめぇがだ!」

言いたいことを言い切ったのだろう。
彼は再度、僕に急接近。
常人であれば反応は出来なかっただろうし、僕の生み出した魔王達でも重症を受けかねない一撃が僕の腹に突き刺さる。
近隣に住宅街があれば確実に迷惑になったであろう打撃音があたりに鳴り響いた。

「で?」
「なん…だと?」

まあ、魔王エルルちゃんは僕のスキルの幾らかを共有する特別製。
しかも、僕のスキルは基本的に防御よりのが圧倒的に多い。
むしろ攻撃よりも防御力の方が格段に高いのである。
そしてそんな頑丈な体を、様々なスキルで増加させた膂力で持って振り抜けば。

「ごばぁっ!?」

尋常ならざるダメージを与えることができる。
人体同士がぶつかったとは思えない音を発しながら彼は吹き飛んでいった。
ぶっちゃけ、魔法よりも打撃の方が強かったりするのだ。

吹き飛んだスズメ盗賊団のボスらしき彼は森の中の木々をいくらかへし折りながら、沈黙した。
魔王エルルちゃんの本気の蹴りを食らわせたのだ。
原型を留めているだけでも恐ろしいまでの頑丈さである。

倒れた彼を見ると完全に頭が半ばまで潰れており、死んでいるかの確認をしたのは失敗だと後悔した。
中途半端に潰れているのがなおのことグロ過ぎて、絶対今日の夢に出るやつだ。

努めて忘れるように念じながら死体に特に何をするわけでもなく、僕は当初の予定通り醤油を求めてその場を後にした。
とんだ災難であるが、畑を荒らす害獣を駆除したと思えば幸先のいいスタートとも言えるかもしれない。




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