どうか抱いてよテンペスタ

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七話

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「っあ、ひ、はぅ……っ」
 薄い胸を上下させながら、レフィはぐったりと、ベッドの上に身を投げ出す。未だ色濃い快楽の名残が、レフィの意識を斑色に染めていた。爪先から頭に抜けていく解放感に浸りながら、しかし、レフィの身体はその奥底に、ふつふつと湧き上がる熱を未だ持て余したままだった。淫魔の本質が、レフィの中でゆっくりと目覚めてゆく。ひどく喉が渇いて、己の肌を掻き毟り噛み付いてしまいたいような衝動に駆られる。淫蕩の気配に歓喜を覚える淫魔の血が、精気の滾りを求めていた。
「う、ぁ……っ、まおう、さま……」
「何泣きそうな顔してんだよ。ここにいるだろ」
「んっ、ぁ、はい……っ」
 ふっと柔らかに笑みを浮かべながら、ソーマがレフィの頬に口付けを落とす。力の抜けたレフィの身体から、じんわりと濡れた衣服が取り払われた。元より露出の高い恰好だったとはいえ、レフィがソーマの前で裸身を晒すのは初めてのことだ。いまひとつ気恥ずかしい心地になって、膝を擦り合わせるレフィの脚が、容赦なく割り開かれる。
「こら、閉じんな。今更だろ」
「あ、う、は、はい……」
 ソーマの言うことももっともであった。レフィはおずおずと身体から力を抜くと、彼の眼前に全てを晒してしまった。レフィの脚の狭間から、濡れた音がする。とろりと粘液が糸を引くそこは、一目見るだけでも明らかな程、はっきりと発情していた。雄の精気を感じた淫魔の身体が、それを求めてしどけなく涎を垂らしている。
「は──ぐちゃぐちゃ」
「うう、う、だって、レフィは、レフィは……っ」
「知ってるよ。淫魔だもんなあ、お前」
 犬のように鼻先をゆっくりと擦り合わせて、ソーマがレフィの腿を撫で下ろす。その笑みは、レフィを揶揄しているようでいて、けれどそれだけではない、熱く、昏い何かを奥に孕んでいた。レフィの白い肌を伝った指先は、勿体ぶるように脚の付け根を辿った後、粘液に塗れた後孔を、ぬるりと撫でる。
「ひ、ぁうっ……」
「こんなちっせえナリしてる癖して、こういうことする為に生まれたんだよな、お前は」
「んんぅっ……ぁ、ひぁ、まおう、しゃまぁ……っ」
 ソーマの指が、ぬるぬると入口を撫で回す。それだけで肌が粟立つような歓喜が込み上げて、レフィはひくりと喉を震わせた。腹の奥が、さっきから疼いて仕方がない。はやく、はやく、もっと。身体の中で、本能がうるさく騒いでいる。誘い込むように入口が蠢けば、それに逆らわないまま、ソーマの指が中に入ってきた。
「ぁっ……ああ、っう、なかぁ、あ、あ……!」
「すんなり入っちまうな」
 ソーマの指は、熱くぬかるんだ中を探るようにゆっくりと動く。快楽に蕩けた内部は、あとからあとから粘液をしとどに溢れさせながら、急かすようにソーマの指を締め付けた。淫魔の身体が、意志とは関係なく勝手に雄に媚びを売って、胎内に蠢く指を吸い上げる。男の太い指に犯されて、淫らな穴が歓喜に戦慄いた。けれども、足りない。本当に求めているものはこれではないのだと、貪欲で我儘な身体が訴えている。
「あっ、ああぅ、ふ、ぁんんっ……まお、しゃま、なか、なかぁ、はやくぅ……」
「まだちょっと触っただけだろ」
「や、やだぁ、も、だめ、れすっ……れふぃ、ほしくて、うずうずしてぇ……っ」
 泣きたい訳でもないのに、勝手に涙が溢れてくる。体の奥から湧き上がってくる衝動を、どうしたって抑えられない。自分の知らない自分の一面に翻弄されながら、レフィはソーマに縋りついた。このひとが、欲しい。この雄を、腹の奥まで迎え入れて、熱く迸る精気を啜らねば、煮え立つような欲望は、決して治まってはくれないのだ。理屈ではなく本能で、それを理解している。
「たく、お前はほんと、わがままばっかだな」
「うぅ、ご、ごめん、なさ……」
「いいよ。聞いてやる」
 汗に濡れたレフィの髪をそっと掻き上げて、ソーマは額に口付ける。レフィを見下ろすその眼差しは、決して呆れたそれではなかった。唇に笑みを湛えて、レフィの頬を撫でるその表情はまるで──。
 まるで?
「まお……っ、あ……!」
 不意に脳裏に浮かんだ疑問のような何かを確かめるより先に、ソーマがぐっとレフィの両脚を持ち上げる。そのまま、己の下腹に手を滑らせる彼の動きを視線で追えば。
「ぁ、ふぁ……っ!」
 それを、目の当たりにした瞬間。レフィはそれまでの思考が、ふつりと途切れるのを感じた。そこに屹立する、雄の象徴。レフィが想像していたよりも、ずっと大きく、逞しいそれ。筋走った太い幹と、高く反り返った雁首。ずっしりとした質量を感じさせる陰嚢の、その中に、どろつく精が溜まっているのかと思うと、口の中にじわりと唾液が溢れてくる。
 ずるりと腿を擦り上げるその熱さに、レフィは堪らず腰を浮かせた。ぐっしょりと濡れた孔の入口をソーマの雄に擦り付けて、はしたなく涎を垂らしてしまう。
「ぁ、ああっ、魔王さま、それ、それぇ……っ」
 全身が、期待に震えている。一刻も早くそれが欲しい。そんな衝動のままにソーマに縋れば、どこか妖しげな光を宿した瞳が、レフィをじっと見つめた。
「──もう、後戻り出来ねえぞ」
 ソーマの手が、するりとレフィの頬を撫でる。瀬戸際の、最後通告とばかりに落ちた言葉。明白な表情が消えて、ソーマが何かを見透かすように、レフィを見ている。レフィがここで何かひとつでも拒絶めいた言葉を口にすれば、ソーマはどうする気なのだろうか。けれどもそれを確かめられるような余裕など、はなからレフィには残されていなかった。
「き、て、きてください、魔王様っ……ぜんぶ、なんでも、いいから……っ」
 欲しい、欲しい。このひとが欲しい。この逞しい身体の中に滾っているものを、絞り、啜り、飲み下したい。理性の糸を焼き切る欲求が、レフィに手を伸ばさせる。
 涙に滲んだ視界の真ん中で、ソーマが確かに笑った気がした。
「──ぁ、っ」
 くちり、と小さな音を立てて、硬く昴った雄の先端が、孔の入口に押し当てられる。来る、と、ただ単純で鮮烈な予感がレフィの肌をざわつかせた瞬間、待ち望んでいたものが、ついに与えられた。
「ひっ……ぁ、ああぁぁぁ、ぁ、あぁ!」
 割り拓いて、抉じ開けて、押し入って。戦慄く襞を擦り上げながら、レフィの中に、熱が捻じ込まれる。ぴったりとそのかたちを確かめるように、ぬかるんだ媚肉が雄を強く締め上げた。
 狭筒が、吸い上げるように熱杭を奥へと誘う。殆ど抵抗すらないまま、長大な性器を中に収めてしまって、蕩ける肉襞が満足げに震えた。
「ぁ、あっ、あ、ふぁあ、んん、っう……」
 薄い腹が、ぴくぴくと痙攣する。淫魔の本質が、性の滾りを全霊をもって歓待した。腹の中で、ちゅ、ちゅ、と小さく雄を吸い上げる音がする。熱い昂りを受け入れたあらゆる部分が、いとおしげに口付けを繰り返していた。指先まで、頭の真っ白になるような歓喜が満ちていく。
「っ、あー……すご」
 吐息混じりの低い声が聞こえる。レフィの腿の間で、ソーマの腰が微かに震えるのが分かった。レフィの肩口に顔を埋め、ゆっくりと深く息を吐いた後、ソーマは苦笑混じりにのろのろと身体を起こす。
「淫魔、淫魔ねぇ、そうだよな、そりゃこうもなる……」
「ぁ、まおう、さ、ま……?」
 荒い呼吸に肩を弾ませ、ソーマは薄く汗に濡れた前髪を掻き上げた。未だ受け入れたものの大きさに、重さに、熱に感じ入ったまま、レフィはソーマを見上げる。快楽と熱に潤んだその瞳の見つめる先で、ソーマがどこか据わった眼をして、がっしりとレフィの腿を掴んだ。
「悪いレフィ、俺ちょっと今から童貞になるわ」
「え……──あ、っ?」
 その言葉の意味を、レフィが考える暇もないうちに。ずるり、と身体の中で濡れた音がした。それが内側から鼓膜を震わせる、その次の瞬間にはもう──もう。
「ひぐ、っううぅ、ぁ、あっ? や、まお、しゃ……ぁ、ああぁぁ、ひっ、ぁう!」
 張り出した腰の骨が、腿の柔肉にぶつかる。レフィの細い身体が、弓のように反り返る。胎内に溢れる粘液を掻き出すように、太い性器が引き抜かれ、そして、捻じ込まれる。追い縋るように吸い付く秘肉から力任せに離れていった男根が、余韻に震える敏感な粘膜を、ごつりと突き上げて。
「ひぃっ、あ、あああっ、あ、やだ、や、っひ、ああぁぁ、っ!」
 ぴしゃ、と小さな音を立てて、レフィの柔い性器から薄い液体が飛ぶ。肌を伝い落ちたそれが、後孔から溢れ出てシーツを濡らす粘液と混じり合った。レフィの身体の一番深いところで、肉槍がぶつかる鈍い音がする。熱く重いそれを根元まで突き立てられる度に、蠢く襞がぎゅうぎゅうと食い千切らんばかりに強く引き絞るのに、容赦もない律動は、ほんの僅かも弛みはしなかった。
「はひゅ、う、うぅぅ、ぁ、ひんんっ、そん、な、つよく、しないれぇ……っ」
「それ、今は、聞こえねえ、な、っ!」
「っあうぅ! ん、やぁぁ、ぁっ、むり、むりぃっ……れふぃ、まだ、こんらの、らめ、ぇ、あああ、ぁ、あ!」
 ほんのつい先程まで男のかたちも知らなかったそこに、がつがつと遠慮もなく野太い肉杭が突き立てられる。ばちばちと目の前で真っ白な何かが弾けてゆく感覚に、レフィは泣き言を吐きながらソーマの身体を遠ざけようとした。けれどもレフィがどれだけ足掻こうと、ソーマの胸板はびくともしなかった。それどころか、レフィがか弱い抵抗を見せれば見せるだけ、爛々と眼光を輝かせる始末。
「そ、そんにゃ、かきまぜないれ、あ、ぁっ、あ、ぐりぐりもらめ、ぇ、ああぁ、あ、ぁ……!」
 快楽にかけては極めて敏感で貪欲な己の身体を、レフィは半ば呪いたい気分だった。何をされても勝手に快楽を拾い上げ、それどころか煽り立てるように男根を吸い上げ締め付けてしまうせいで、息をする暇すらない。もはやまともに力も入らずにがくがくと揺さぶられるだけのレフィを、抉り抜くような律動が追い詰める。
「っひ、ぁく、ううぅぅ、や、とまっ、とまっへ、くらさ、おねが……っあ、あぁああ、ぁ!」
 濁流のような快楽に呑み込まれ、頭のネジが二、三本ほど吹っ飛んでしまいそうだった。というよりも恐らくは既に吹っ飛んでいた。自分の身体が雄を受け入れる為だけの穴にされてしまったような感覚。だというのに、レフィときたらそれを嬉しいとすら思ってしまっているのだ。いくら淫魔の本能とはいえ、それは情けないに過ぎるのではないか、とレフィは頭の中のどこかで考える。
 淫魔というのはそもそも、色欲を煽り立て堕落に誘う使徒である筈だ。快楽、背徳、あらゆる淫蕩の類はむしろ専売特許という訳で、欲に狂う者を翻弄しては思うままに精気を絞り上げる──というのが、淫魔たるもののあるべき姿なのである。半人前とはいえ男根に貫かれて好き勝手に揺さぶられ完全敗北を喫するなど、淫魔大公メフィストフェレスが見れば黙って首を横に振るだろう。
 しかし、けれど、でも、そんなこと言ったって。
「はぁああっ、ぁ、とんじゃう、とんじゃ、ひ、ぃぃ──っ! っん、ぁ、ああぁ、らめ、とまんにゃ、またきひゃうぅぅ……!」
「いいぜ、いけよ、何度でも……っ、ここで、見ててやるから……!」
「や、やぁ、あぁあぁっ! あぅう、きもち、きもちいの、いっぱいきもちぃ、ひ、あぁぁ、っ、あ、ぁあ……っ!」
 一体この状況で何をどうしろと言うのかと、レフィは魔界の大貴族に心中で高々と文句を言った。生まれて初めて受け入れた快楽はレフィにとってあまりにも強すぎて、とてもこの小さな手に負えるものではない。気持ちいいものは気持ちいいのだからこれはもう仕方がない。こんなに気持ちよくなってしまう身体が全部悪い。そうやってついに何もかもを放り出してしまったレフィは、男に貪られる快楽に溺れながら、ソーマの首に縋るように腕を回した。
「っあ、ああぁ、まお、しゃまぁっ、ぁ、あっ、きて、きてぇっ、おく、いっぱいにしてぇ……!」
 薄い腹の中で暴れる熱杭をいとおしげに喰い締めて、レフィは蕩け切った声でソーマに甘える。玉の汗を額に滲ませながら、ソーマは口角を吊り上げると、レフィの脚を肩に乗せて、身体を折り曲げるように体重を掛けた。ぐぶり、と腹の中で空気が潰れるような音がする。背筋を走る鮮烈な快楽が頭まで突き抜けて、レフィは声にもならぬほど高い声を上げた。
「ぁ、ああぁっ、ぃ、ひ、いぃい、ぅ!」
 全身が、歓喜に震えている。期待に戦慄いている。身体の奥深くまで突き立てられた男根がびくびくと跳ね、今すぐにでも雄の欲望をここに吐き出したいとばかりに暴れ回っていた。欲しい。それが欲しくて堪らない。どろどろと濃く熱く凝った精気を、この身の全てで飲み下したい。望みのままに、レフィはソーマの首にしがみつく。
「まお、しゃまぁっ、らして、らして、くらしゃ……っ、あついの、ぜんぶ、いちばんおくぅ……っ!」
「は、レフィ、ここか、ここでいいんだな……!」
「ん、んんっ……! そこぉっ、ほし、れすぅ、ぁ、ひぃっん、ぁあ、しょこ、びゅーってしてぇっ……!」
 レフィの欲望に応えるように、胎内でソーマの性器がどくりと脈動する。柔肉を抉り、削り取るように腰をぶつけられながら、レフィは雄の性に媚び甘えたい欲求のまま、張り詰めた男根を締め付けた。びくびくと震える肉襞が、根元から亀頭まで、絞り上げるように吸い付いて。すぐそこに、あと、もう、ほんの少し、鼻先に、求めるものがあると、レフィの中の淫魔の血が告げる。瞬間、ソーマが耳元で、低く掠れた声を洩らした。
「っ、ぁ……!」
 ごつり、とレフィの腹の一番奥に、叩き付けるようにして突き入れられた、熱の塊。それが、ぶわりと膨らんで、弾けるのが分かった。噴き出し、溢れる、熱い、熱いものが、レフィの身体に広がっていく。
「ん、ひぃ、っ────!」
 がくりとレフィの喉が仰け反った。爪先がぎゅっと丸くなり、全身がざわりと戦慄く。どくどくと、中で脈動する雄の動きが、手足の末端まで響くように伝わっては、どろつく快楽となって思考を痺れさせた。レフィの肌が、胎内が、魂が、己を形作るあらゆるものが、歓喜している。頭の中に直接手を入れて感覚を引き摺り出されるような、圧倒的な多幸感が、レフィの全てを支配する。魂の奥底にこびり付くほど、熱い、熱い何かが、止め処なく流れ込んでくるのが分かった。
「ぁ、あっ、あは、ぁ……」
 だらしなく唇を開いて、レフィは蕩けきった笑みを浮かべる。これが、精気を注がれるということ。淫魔にとってどんな美食よりも至高となる、本能を狂わせる味。世の淫魔たちが競うように精気を吸いたがる理由が、レフィにもようやく理解できた。こんなにも幸福な感覚が、他に存在する訳がない。一度こんなものを知ってしまったら、二度と戻れない。
 腹の最奥に受け入れたソーマの男根が脈を打つ度、レフィの全てが満たされていく。全能感にも似た悦楽が、レフィを満たして、満たして、満たして、満たして。
 満たして。
「──ぁえ?」
 満足感に浸っていたレフィだったが、ふと苦痛にも似た感覚が指先を焦がした気がして、間の抜けた声を上げた。そんな筈はない。淫魔にとって精気を飲み下すのは至上の快楽で、己の何もかもを満たす行為であり、苦しみなど産む筈が──。
「ぁ……ひ、ぁ、ま、待っ……」
 あった。
 腹の中で溢れる精が、あとからあとから、レフィの中に流れ込んでくる。止まらない。まだ、止まらないのだ。そう、レフィの全てが満たされて、満たされきって、もうこれ以上は何をしても無理、と思うくらいまで満ち足りたというのに、止まらない。当代魔王の、胸焼けするほど濃い魔力を帯びた精気が、レフィの中に無尽蔵に流れ込んでくる。
 そもそも淫魔というのは、精気を吸い上げて己の魔力に変換する種族である。その精気に元から魔力が、しかもとんでもない程濃い魔力が乗っているのだから、半人前の淫魔であるレフィの器など、どう考えても一瞬で満たされてしまうのであった。という事実を、レフィは今この瞬間認識した。つまりソーマの精をその身に受けるのは、レフィにとっては完全に供給過多であり、濃厚過ぎて溺死しかねない程の容量オーバーなのだ。
「ひぅ、っああ、や、ぁ、まって、もう、もうっ……」
 既に全身に溢れ返った精気と魔力が、これでもかとばかりに注ぎ込まれる。過ぎた快楽が苦痛にも似た熱さで己を苛むのを感じ、レフィは思わず腰を引いて逃げようとした。が、しかし。
「──こら、まだ出てんだろ。逃げてんじゃねえよ」
 耳元に、低く囁かれる言葉。レフィの肩を鷲掴んで、ソーマが容赦なく腰を押し付けてくる。いつも気怠げな眼差しは、しかし今、獣のように爛々と光って、レフィがどんなに藻掻こうとも逃がしてくれる気配がなかった。
「ぁ、あぁ、っ、ひ、やだ、やぁあっ、だめ、っひ、ぃんんんっ、も、むり、むりぃっ、あ、あぁぁ、ぁ!」
「無理じゃねえよ、淫魔だろ」
「や、も、おにゃか、いっぱいれ、ぁひっ、や、やぁっ、ひ、ぃいっん、ぁ、あっ……!」
 腹の中でびくびくと雄が脈動し、レフィの中に濃い精を注ぎ込んでくる。受け止めきれないそれが過ぎた快楽になって、レフィの身体をぐちゃぐちゃに蹂躙した。熱に思考がばらけていく。逃げようとしてももう力が全く入らずに、ただ溺れていくことしか出来はしない。がくがくと大袈裟な程に跳ねるレフィの身体を押さえ付け、ソーマは夥しい精を、余すことなくレフィの中に注ぎ込んでいった。
「は……ぁ、うぅ、ん……っ」
 そうして、レフィにとっては責め苦のようですらある吐精がようやく終わり、ソーマがずるりと性器を引き抜いた時には、レフィは既に指先ひとつも動かせなくなっていた。全身がぴくぴくと痙攣し、衣擦れにすら快楽を拾い上げてしまう。もう苦しいのか気持ちいいのかすら判然としない状態で、レフィはベッドの上にぐったりと身を投げ出した。腹の中にたっぷりと注がれた精が、しどけなく落ちた脚の狭間から溢れて、零れ落ちていく。頭が眩んで、視界が明滅し、今この瞬間にも意識が闇に落ちていきそうだった。
「……レフィ」
 ひとつ深い溜息を吐くと、ソーマはレフィの隣に横になり、震えるレフィの身体を抱き寄せた。指先まで脱力したレフィは、されるがままに、ソーマに背を抱かれる。
「まおう、さまぁ……レフィは、レフィは、これで……?」
「ああ、そうだな。もう心身共に、立派な淫魔ってやつじゃないの」
「あは……」
 正直なところ半分以上何が何だか分からなかったところがあったが、どうやら長年の悲願が達成されたことに、レフィはふにゃりと力の抜けた笑みを零す。一人前の淫魔になる、ということは、レフィ自身が想定していたよりも随分と大変だったが、それでもレフィは、もう誰に後ろ指差されることもない淫魔となることが出来たのだ。
「魔王様……レフィ、うれしい、です……」
「……そうか、よかったな」
「えへへ……ありがとう、ございます、魔王、様……魔王様の、おかげ、で……?」
 ひどく感慨深い気持ちになりながら、レフィはソーマに感謝を述べようとする。けれどもその言葉は、不意に襲った違和感によって、中途半端に止まってしまった。レフィを抱き締めるソーマの腕の力が、何故だかやけに、強いような気がする。そして、何か熱いものが、腿の辺りに当たっている感覚。淫魔の勘が察知したとんでもない気配に、レフィが思わず後ろを振り向けば。
「じゃ、このまま二回戦な」
 けろりとした笑みを浮かべたソーマが、塵芥ほどの疲労も見せずにそう言ってのけたのである。
「……え?」
 火照った身体から、さあ、と血の気が引いていくのが分かった。魔王の唇からこともなげに語られた、あまりにもえげつない宣言。今日レフィは、あのオーガ達に囲まれて史上最大の危機を迎えたと思ったが、それから一日すら経たないうちに、それを上回る危機がレフィの眼前に立ちはだかっていた。
「ひぇ、ちょ、ま、ままま、魔王様、待って、待ってくださ、レフィもうむり──」
「どうせもうやっちまったんだから、一回も二回も同じようなもんだろ」
「あのそれ、全然ちが……ひ、ぃう!」
 まだぽっかりと口を開いたままのそこに、まるで力を失わない熱の塊が突き立てられる。有無を言わさず捻じ込まれた質量に、レフィはびくりと身体を跳ねさせた。こんな状況だというのに、恨めしくも淫魔の身体は、喜び勇んで雄の性器を喰い締めてしまう。
「やだ、や、ひっ……うごかさないで、むりですむりです、もうだめですまおうさ──」
「大丈夫大丈夫、さっきよりは優しくするから」
「そういう問題じゃ……あっ、ひぃんっ!」
 レフィの主張も空しく、非情なる二回戦の火蓋が切って落とされる。もはやレフィには、ソーマに身を委ねる他に選べる道は残っていなかった。既にとことんぐちゃぐちゃになってしまった身体が、追い打ちのように揺さぶられる。そうして、どんどんと気が遠くなっていくのを感じながら、レフィはただ、為す術もなく、魔王ソーマの掌の上で延々と弄ばれることになるのだった。


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