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三話
しおりを挟む奇しくも満月の晩だった。木連格子の丸窓から、月の光が煌々と室内を照らしている。これなら仮に灯りがなくとも、十分周囲は見えただろう。部屋の隅に灯台を置いて、幹比古はゆっくりと振り向いた。
畳の上には、布団が一組敷かれている。白い寝間着を纏った石榴が、そこに正座していた。元から華奢な身体が、余計に小さくなって見える。石榴はゆるく目を伏せて、膝の上で拳を握っていた。微かに震えている。石榴と同じく寝間着を纏う幹比古が、正面に腰を下ろした。手を伸ばして、頬に触れる。柔く丸い肌は、常よりも少しばかり熱の高いように感じられた。
「怖い?」
おずおずと、戸惑うように石榴の視線が上がる。潤んだ瞳が薄明かりに揺れていた。幹比古の手に触れて、石榴は是とも否ともつかぬ眼差しでひとつふたつ瞬きをする。
「……どうしても恐ろしいなら、これを飲みなさい」
幹比古が取り出したのは、掌にすっぽりと収まる大きさの小瓶だった。とろみを帯びた蜂蜜色の液体が、中に揺れている。
「少しは楽になるだろう。味も……いつも飲んでいる薬よりは、いくらか飲みやすい筈だ」
本当は、あまりこんなものを使いたくはないのだけれど。その言葉は喉の奥に飲み込んで、微笑みに変えておいた。子供に使うには、少しばかり負担の大きいものだ。しかし、それよりも刹那的な辛さを忘れられる方が、楽な時もある。
石榴の手首を持ち上げて、幹比古はその小さな手に瓶を握らせようとする。けれども冷たい硝子が掌に触れるよりも前に、石榴は両手を伸ばし、思いがけない強さで幹比古の腕を突っぱねた。
「……石榴?」
視線が交わる。石榴の透き通る瞳が、じっと幹比古を見つめていた。眦が、微かに湿っている。頼りなげに眉尻を下げ、艶めく唇を戦慄かせて。
「――せんせ」
ただ一言、石榴は幹比古を呼んだ。背筋を羽でなぞり上げるような声だった。いとけない指が幹比古の襟を掴み、胸に小さな身体が飛び込んでくる。柔い身体は、ひどく熱かった。幹比古の手から小瓶が滑り落ちて、畳の上を転がる。やがてそれは机の角にぶつかって、こつりとささやかな音を立てた。静寂。虫の鳴く声も聞こえぬ夜に、触れた小さな胸の奥で、とくとくと鼓動の鳴る音が肌に伝わってくる。耳元に鼻先を擦り寄せれば、甘苦しい香りが肺を満たした。こめかみが焦げ付く。腰を引き寄せれば、石榴は一瞬ぴくりと肩を震わせた後、抵抗もなく幹比古に身体を預けた。
「石榴」
耳元に低く、囁かれる声。それが、何を意図したものなのか、石榴は正しく理解している。この子は幼いが、決して愚鈍な子ではないのだ。幹比古は石榴の丸い顎を掴み、そっと持ち上げた。啄むように、ほんの一瞬、唇を触れ合わせる。溶け合った熱が、毒のように肌を痺れさせた。額を重ねて、幹比古は淡い瞳を覗き込む。そこには、想定よりもずっと正直に、男の顔を曝け出す己の姿が映り込んでいた。
「かわいい石榴。唇を開けて御覧」
言われるがまま、石榴は口を開いて、小ぶりな舌を差し出す。舌先を擽るように擦り合わせれば、石榴の背中がぞわりと震えた。柔い唇を、ぴったりと塞いでしまう。幼い石榴の小さな唇を覆い隠すのは、あまりにも容易かった。
「んっ……ぁ、ふ、んんぅ……」
甘く舌を吸い上げる。触れ合った唇の隙間から、湿った音が零れて落ちた。石榴の細い喉から、子猫めいた声が鼻に抜ける。狭い口腔を探りながら寝間着に手を掛け、するりと肩から落とせば、白い肌が露わになった。丸みを帯びた、子供の身体。手を這わせれば、しっとりと肌理の細かい柔肉が戦慄く。
「ぁ、んん……ふ、ぁ、しぇん、ん、んんぅ……」
呼吸の仕方すら教えぬままに、幹比古は小さな身体を布団に横たえた。甘い唇を啜り、舌を絡め取る。唾液の混じり合う濡れた音。胸に縋る細い指のいじらしさに、知れず口端を吊り上げれば、石榴の丸い顎に透き通る粘液が伝い落ちていった。指先で拭い取りながら、唇を離す。蕩けるような眼差しが、薄明かりに淡く揺れていた。大きな瞳に、水面が煌めく。まろい頬は、薔薇の花弁をそのまま溶かした色に染まっていた。大きく上下する胸の下で、心臓が忙しなく鼓動を刻むのが視覚に解る。
少年の白い裸身が、遮るものもなく男の視線に晒される。薄い胸、細い腕、柔らかな曲線の腹。まだ、己が男であることを知らぬ肢体だ。その幼い腕で親の首に縋り、慈しむばかりの愛を受けていなければならない年頃だ。幹比古は、紛れもなく、それを理解していた。
「何も、心配はいらない」
白い包帯に覆われた石榴の脚に指先を滑らせ、幹比古は囁く。薄く汗の滲んだ頬に唇を押し付ければ、仄かな潮の気配がした。
「月と共に、全て落ちてしまうから」
透き通る瞳が、幹比古をじっと見つめていた。眦に溜まった涙が、ゆっくりと一筋、伝い落ちる。石榴は何も言わなかった。ただひとつ、小さく頷いてみせることだけが、このいとけない少年の答えだった。腕の中で、幼い身体が少しずつ弛緩してゆくのを感じる。今、この瞬間だけ、時の流れが遅くなる感覚。蒼い月の光が、重なり合う二つの影を、畳の上に淡く投影していた。
細い背中に、玉の汗が滲んでいる。布団の上に半身を伏せ、腰を高く掲げた姿勢は、身体を伸ばす猫を想起させた。果実を潰すような、濡れた音がする。白く丸い尻のあわいで、男の指がゆっくりと蠢いていた。ぽたりと滴下した粘液が、薄い布に染みを作る。
「ぁ……あ、ぅう、ん」
幼い指先を惑わせて、石榴はかりかりと布団を掻いた。幹比古の指が動く度、柳腰がびくびくと跳ねる。細い喉から上がる声は、時を刻む毎にどろつくような甘さを増していた。生白い背中の窪みに溜まる汗が、月明かりを反射して光る。誘われるままに舌を這わせれば、ひくりと吐息が慄く気配がした。中を探る指が、吸い付くように締め付けられる。
「――痛い?」
「ぁ、あ……っ、いた、くな……あぁぁ、っ、ひぁ、はひゅ、っ……」
引っ掻くように指を折り、二つの指で円を描きながら中を掻き混ぜる。健気に首を振る石榴の背が、びくびくと跳ねるように震えていた。滲んだ瞳から、真っ赤な頬に涙が伝い落ちる。小さな身体を襲う未知の感覚は、決して楽なものではないだろう。けれども石榴は、一度も止めて欲しいと訴えることはしなかった。
「あぁ、っあ、せんせ、あついの、なか、きゅんきゅんしゅるぅ……ひんんっ、ぁ、あ……っ」
「ああ……分かっているよ。石榴はここも、随分素直だから」
絡みつくように男の指を受け入れる狭い孔は、とくとくと脈を打ちながら蕩けるように熱を上げた。幹比古の指の動きに、あまりにも正直に、反応を返してくる。どこが一番神経の鋭敏なところなのか、どこを擦り立てれば一番高い声が上がるのか、どこを抉れば一番腰が跳ねるのか。隠し立てもせずに何もかもを幹比古に委ねて曝け出す、小さく幼い、石榴の中を、何度も、飽きもせず、指先が拓いて、暴いてゆく。
「ひぁ、あぁぁ、んっ、ふぁ、そこ、おにゃか、ぁ、あぁ……!」
「そう、好きだね。ここも……」
「ぁ、あぁぁ、ふゃ、あ、ぁああ、ぁ……っ」
きゅう、と縋るように中が指を締め上げる。それを押し開くように指を折り曲げて、ぬかるむ中を掻き混ぜてやれば、逃げ腰になった石榴が身を捩る。それを片手で制しながら、幹比古はぐちゃぐちゃと粘質な音を立てて赤い媚肉を擦り立てた。あくまでも優しく、けれども同じだけ、容赦せずに。
「あ、っぁ、んんぅ、ぁ、しょん、な、ぐりぐり、したら、ぁ、ああぁ、ぁ……っ」
まだ性別の未分化な高い声の中に、ひどく不釣り合いな色濃い艶が溶けている。透けるように白い肌は、今や全身が仄かな血色に染まっていた。がくがくと揺れる細い腰を支えながら、幹比古は腹の内側を、二本の指で擦り立てる。一際感覚の鋭敏なところを、とんとんと叩くようにして。
「ぁ、ああぁ、ひ――っ、ぁ……!」
消え入るような悲鳴と共に、石榴が弓なりに背を反らす。華奢な肩が硬く縮まり、爪先が地を掻きながら丸くなった。幹比古の指を啜り上げるように、内部が収縮する。二度、三度と全身を痙攣させた後、石榴の身体がゆっくりと弛緩した。気怠げに落ちる身体が、不規則な呼吸を繰り返す。掌まで垂れる粘液を纏った指が、つぷりと孔から引き抜かれた。
「石榴、深く呼吸をしなさい――そう、ゆっくりと」
「んっ……せ、んせ……」
幹比古の指示に従って、石榴が深く、息を吐き出す。そのままくずおれそうになる腰を持ち上げて、幹比古は絹糸のように指通りのよい髪を撫でてやった。
「いい子」
耳元に低く囁き掛けるように褒めてやれば、石榴は嬉しそうに唇を緩ませて、小動物のように小さく鼻を鳴らす。いとけないその仕草が、どこか後ろ暗い倒錯を帯びてざわりと幹比古の首筋を撫でた。こめかみへ啄むような口付けを落とし、幹比古は石榴の背中に折り重なる。
「……あ、せん、せ、ぁつ……」
か細い喉を仰け反らせて、石榴は声を震わせた。幹比古がするりと寝間着を寛げる、その狭間から、柔い肌に当たる熱がある。硬く質量を増した雄の昂りが、ぽかりと口を開いた孔の入口を擦り上げた。石榴の美しい眼差しが、確かな予感に滲んでいく。それは期待と呼ぶべきものか、あるいは恐怖に相違ないのか。いずれにせよ、幹比古の為すべきことは決まっていた。
背後からするりと片手で石榴の頬を撫でると、幹比古はそのまま、濡れた唇の内側に指を差し入れる。小さな舌が、ぬるりと熱を帯びて指先に触れた。灼け付く温度と錯覚するような、ざわつく痺れが指から這い上がる。
「――噛んでいい」
耳に落とした呟き。それと共に、幹比古は石榴の腰を捕まえて、己の熱を突き立てた。瞬間、石榴の喉が締まるのが指先に分かる。
「っひ――ぁ、ああぁ、っぅあ!」
天井に反響するような、高い悲鳴が上がった。軋むほどに狭い肉筒を、男根が押し拓いていく。逃げを打つ身体を引き寄せて、幹比古はゆっくりと、石榴の胎内に己を埋め込んだ。波打つ襞が、ひくひくと痙攣しながら、ぴったりと性器に纏わり付いてくる。幹比古の唇から、掠れた吐息が、僅かに零れ落ちた。
「ふ、ぅぅ、あぅ、んん……っひぇん、ひぇ……おなか、あつ……」
「ああ……いるよ、ここに」
片手を伸ばして、幹比古は石榴の腹をするりと撫でる。まだ雄の質量に馴染まないそこが、内側から押し上げられているのが指先に感じられた。華奢な子供の薄い腹が、男の性器のかたちをなぞって、歪に膨らんでいる。
「ひぁぁっ……ぁ、せん、しぇ……いるの、ぼくの、おなか……」
かたかたと震える石榴の指が、幹比古の腕を辿ろうとする。その手を掴んで、腹の上に押し当ててやった。ほんの僅か、力を込めれば、幼い掌が、薄い腹を隔てて、幹比古の性器に触れるのが分かる。
「ぁ、ああぁ、っひ、うれし、せんせ、せんせぇ……っ」
蕩けきった、歓喜の声だった。幹比古を咥え込んだ後孔が、雄を搾り取るように強く締まる。柔肉がぞろりと蠢き、根元から先端までを舐り上げた。当人にはそのつもりもないだろうに、この幼い身体は、男の性を悪戯に煽り立てる。随分な魔性だ、と幹比古は苦笑めいた表情を滲ませた。
石榴の乱れた呼吸に合わせて、中が震える。小さな身体をいっぱいに埋める熱塊の存在を確かめて、少しずつ、緊張が弛んでいく。食い千切るほどに強く男根を締め付けていた孔が、ようやく僅かに馴染んだ。それを待って、幹比古はゆっくりと腰を動かす。
「ぁ、っああ、ひ、ぁぅ、んんぅ、ぁ、ふぁ、あ……!」
たっぷりと塗り込んだ油が、粘ついた音を立てて中で掻き混ぜられた。痙攣する襞を掻き分けて、硬く膨れ上がった亀頭が、ひどく敏感な場所を擦り立てる。幼い石榴の悦点を押し上げ、奥をこつこつと叩きながら、幹比古は浅く深く、中を抉った。
噛んでいい、と言ったのに、石榴は決して幹比古の指に歯を立てようとせず、唇からとろとろと唾液を零しながら、高く声を上げる。小さな舌が幹比古の指に絡んでは、淡い力で吸い上げた。そうしろと、誰に命じられた訳でもないのに。石榴は躊躇わず、自らそうした。本能的なものか、あるいは何処ぞで知識を得る機会があったのかは分からない。
「っ、石榴……本当に、健気な子だ」
しかし、それがひどく、幹比古の興を煽ったことは事実だった。石榴の丸い尻肉に腰を押し付けると、幹比古はより深く、最奥を突き抜けるように、石榴の胎内を抉る。びくびくと震える媚肉が縋りつくように竿から先端まで吸い付いて、吐精を強請るようだった。
「ぁ、あぁあ、ぅ、ひぁ、ちかちか、しゅる、ぅ、あぁぁ、ひんんっ……」
力を失くした石榴の半身が、布団の上でただ揺さぶられるまま身を投げ出している。張り出した雁首が敏感な内襞を擦り、奥をこんこんと突き上げる度、小さな肢体が悶えるように身を固くした。甘ったるい声を垂れ流しながら震える石榴の、滑らかな項に舌を這わせる。柔い汗の匂いを感じながら、耳殻に軽く歯を立てれば、中が嬉しそうに雄を締め上げた。
「耳、好き?」
「ん、っぁあ、すき、しゅきぃ、ふぁあ、おみみも、おなかも、ぜんぶ、きゅぅってなっひゃぅ……っ!」
譫言のように拙くそう口にして、石榴はびくりと腰を跳ねさせる。消え入るような高い声と共に、一瞬強張った身体が脱力した。ひくひくと震える身体が落ちるのを抱き留めながら、幹比古はそっと眼を細める。
「ああ……ちゃんと、よくなれたね、偉い偉い」
「っああ、ぁ、ひゃぅう、せんせ……せん、しぇ……っ」
奥深くに自身を埋めたまま、石榴の髪に口付ける。痙攣する媚肉が、柔くきつく、張り詰めた男根を啜り上げた。狭筒を押し広げるように腰を揺らせば、鼻に抜けるような蕩けた声が上がる。
この幼気な身体は、父母の腕の温もりすら知らぬうちに、男に抱かれることを覚えてしまった。本来与えられるべきものを手に出来ずに、知る筈もなかったことを教えられる。哀れな子供だ。哀れで、可愛い、健気な石榴。
「石榴――石榴。私のことを、覚えておくんだ。この身体で、肌で、くちびるで、耳で……なにひとつ、忘れてはいけない。いいね」
囁く言葉に、石榴は促されるままこくこくと頷く。素直な返答に笑みを深めて、幹比古は昂る自身を石榴の腹に突き立てた。甲高い嬌声と共に、幼い指が幹比古の腕に縋る。
「っああぁ、ぁひ、ぃんっ……ぁ、あ、はひゅ、ぅあぁぁ、っ……!」
仰け反る白い喉から、甘ったるい声が零れ落ちた。吸い付くように雄を迎える淫らな穴を、質量と熱を増す男根が何度も抉り抜く。石榴の腰を抱いたまま、幹比古は己の快楽を追うように、ぬかるむ中を掻き混ぜた。許容量を超える程に広がった孔の淵から、とろとろと泡立った粘液が零れては、石榴の腿を伝い落ちる。幹比古が荒い呼吸を吐く毎に、張り詰めた男根の脈動が大きくなる気がした。
「ぁ、あぁあ、しぇんしぇ、きもちいの、ぁ、っひ、じゅぽじゅぽ、きもちぃ、ぁ、あぁ……!」
「っ、石榴……そのまま、逃げては、いけない、よ……」
「んんぅ、ぁ、ああぁ、ひ、ぁ、あぁぅ……っ」
熱が、せり上がってくる感覚。石榴の繊細な肌に、ほんの僅か、幹比古の爪の先が食い込む。それだけのことが、何故かざわつくような背徳を抱かせた。幹比古の顎に伝った汗の雫が、石榴の背中にぽたりと落ちる。ひくり、と華奢な背中が戦慄き、熱い内襞が、漣のように雄を締め上げた。それを、切欠にして。
「ぁっ……ひぅ、っ、ああぁぁ、ぁ!」
引き攣れるような石榴の悲鳴と共に、深々と突き立てた男根から、精が注がれる。奥歯をぎしりと軋ませながら、幹比古は石榴の柔い腹の中に、白い精を溢れさせた。過たず、全てを、胎内に飲み込ませるように。
石榴はびくびくと震えながら、男の精を受ける感覚に甘く声を上げた。柔い身体が大きく跳ね上がり、幼い指先が戦慄く。そのまま脱力してゆく背中を見下ろしながら、幹比古は己の欲が溢れ出す感覚に眉を寄せた。長く続く吐精が、やがて波の引くように静まっていく。全てを吐き出した後、幹比古は石榴の身体を抱いて、ゆっくりと布団にその身を寝かせた。茫洋と揺れる瞳が、幹比古をじっと見つめている。
「……眠っていい。じきに、自然と起きる筈だ」
汗の滲んだ額を撫でながら囁くと、石榴は返事もないまま、落ちるように目蓋を閉じた。疲れているのだろう、幾許もないうちに、静かな寝息が聞こえてくる。
幹比古はひとつ息を吐くと、乱れた寝間着を正して、そっと立ち上がった。腰を屈めて格子を潜ると、そのまま部屋の障子戸をするりと開く。
「垣内さん」
虫の鳴く音もない静寂の中、すぐ傍に腰を下ろしていた垣内の肩が大袈裟に跳ね上がった。ぎしぎしと軋む音が聞こえてきそうな首の動きで、垣内が幹比古を見上げる。
「お、終わりましたか」
部屋の外とはいえ、ここまで近くに控えていて、何ひとつ聞こえていない筈もあるまい。およそ事の次第は把握していたのではないかと察するが、幹比古はそれについては聞かないまま、簡潔に首肯した。
「ええ、ひとまずは」
「そ、そうですか」
うっすらと汗に濡れた幹比古の首元を見て、垣内が気まずそうに視線を逸らす。かくも態度に迷うなら、部屋の外で待っているなどと言わなければよかったものを、生真面目な性質らしい彼は、可愛い甥っ子を完全に放り出すことも出来なかったらしい。
「顎で使うようで申し訳ありませんが、可能ならば湯と手拭いを用意していただけますか。石榴の汗を拭いてやりたいので」
「えっ、は、はい。勿論です。すぐに用意します」
ここから離れる体のいい口実を得たとばかりに、垣内は素早く立ち上がる。そのまますぐに駆けて行こうとして、しかしふと足を止めて振り向いた。
「あ、あの、よろしければ、風呂を用意させましょうか。伊坂先生も、汗を流されては……」
「いえ、お気持ちだけ頂いておきます。私は石榴の傍で控えておきたいので」
「まだ、何かあるんですか」
「ええ。折り返し地点、というところですよ、まだ」
その言葉を聞いて、何を想像したのか、垣内は闇の中でもはっきりと分かるほど顔を赤くする。そうして聞き取り難い返事のようなものを口にすると、そそくさとその場から立ち去っていった。いかにも初心な青年の慌てように、幹比古は小さく笑みを零す。吹き抜ける夜風の心地よさに、ふと視線を上げれば、雲ひとつない空に、満天の星が見えた。
眠る石榴の身体を丁寧に拭い、幹比古は黙して傍らに座した。既に月は天頂を過ぎている。これが水面に沈む頃までには、変化がある筈だった。窓から差す淡い光を眺めながら、幹比古は時の過ぎるのを待つ。そうして、月が随分と傾き、夜の帳が僅かに薄くなった頃合いだった。
微かな呻き声を聞いた気がして、幹比古はふと目蓋を上げる。どうやら微睡みに片足を浸していたらしい。文机に突いた肘を持ち上げ、布団で眠る石榴を振り返る。安らかな寝息を立てていた筈の石榴は、眉間に皺を寄せ、額に汗を滲ませていた。
「――石榴」
苦しげに荒い息を吐く石榴の傍に寄り、幹比古は華奢な身体を抱き起こす。石榴の長い睫毛が震えて、淡い色の瞳が僅かに覗いた。
「せ……ん、せ」
「苦しい?」
「……おなか、へん……」
石榴の指が、己の下腹に触れる。幹比古は石榴の寝間着を寛げると、指先でそこに触れた。硬い感触。ごつごつとした何かが、薄い腹を膨らませているのが分かる。幹比古は軽い安堵を滲ませて、細く息を吐いた。
「落ちてきた」
「……おち?」
「案ずることはないよ、石榴。朝までには、全て終わる。それまで少しの間、辛抱出来るか」
石榴を背中から抱きしめて、幹比古は静かに告げる。石榴は濡れた瞳を揺らして幹比古を見上げていたが、やがてゆっくりと、頷いてみせた。幹比古は石榴を膝の上に座らせると、脚を大きく開かせて、秘部を露わにしてしまう。頬に羞恥を滲ませた石榴が、幹比古の腕に頼りなく縋り付いた。
「せ、せんせ……」
「全部、出してしまいなさい」
異物で膨らむ腹を撫でて、幹比古は石榴に囁く。腹の下で、硬いものが、僅かに蠢いた。
「ゆっくりでいいから」
「で、でも……」
「大丈夫だから。深く、呼吸をして」
あやすように眦に口付けてやれば、石榴はおずおずと、幹比古の指示通りに呼吸を繰り返した。幹比古の手が、腹部を軽く圧迫する。石榴の内腿が、びくりと大きく跳ねた。
「ぁ、あ……や、せんせぇ……っ」
胸に触れる石榴の背が、ぞくぞくと震えている。小さく息を呑む音がして、包帯に覆われた足がぴんと伸びた。温かな、肌の下。少しずつ、何かが、おりてくる。石榴の大きな瞳に涙が滲んで、頬を伝い落ちた。幹比古の腕に縋る幼い手が、皮膚に爪を食い込ませる。浅く裂かれた肌から、微かに血が滲み出した。
「そう――そのまま。何も我慢しなくていい」
耳に、額に、頬に口付けながら、幹比古は石榴の腹を撫でてやる。胎動。指先に伝わってくる震えを宥めるように、幹比古が石榴の髪を撫で下ろした。石榴が呼吸をするのに合わせて、腰が、腹が震える。柔らかな双丘の狭間で、仄赤く染まった後花が、蕾の綻ぶように、僅かに口を広げた。
「ぁ、あぁっ……ひ、や、でちゃう、れちゃ、ぁ、あぁ、っ!」
ふっくらと盛り上がった縁から、白い何かが、顔を覗かせる。石榴の喉ががくりと仰け反った。濡れた秘肉の色をちらつかせながら、白く、丸いものが、少しずつ石榴の身体から押し出されていく。焦点の合わない瞳をぐらぐらと揺らしながら、石榴は襲い来る何かに身悶えては、幹比古に縋った。閉じ切らない唇から、とろりと唾液が落ちてゆく。頬を真っ赤に染め上げて、濡れ崩れたその表情は、娼婦を想起させる程に、危うく、艶めく。
「ふぁ、あぁぁ……っ、ひ、ぃ――っ!」
ぬかるむ泥を踏んだような、小さく濡れた音がした。びくりと石榴が腰を跳ね上げると共に、丸く広がった孔から、何かがぽとりと落ちて、畳の上を転がる。月明かりに照らされて濡れ光るそれは、白く光沢を帯びた、大粒の真珠だった。幹比古が親指と人差し指で作る輪より、ちょうど一回り程小さい大きさだ。透き通る虹色の輪を纏った白が、美しい球を形作っていた。透明な粘液を纏ったそれを見て、石榴がかたかたと唇を震わせる。
「っぅ、あ……?」
「それでいい、石榴。何も恐ろしいことはないよ。これは全部、要らないものだから」
「んっ……ぁ、ふぁ、せんせ……」
石榴の顎を掬い上げ、唇を食む。大きく胸を上下させる石榴の呼吸が整うのを待ってから、幹比古は再び、石榴の腹を撫でた。まだ、中にいくつも残っている。これらを全て出してしまわなければいけない。
「焦る必要はない。だが、途中で終わらせることも出来ない。苦しいかもしれないが、辛抱なさい」
「ん、ぁ、あぁぅ、せんせ、せんせぇ……そばに、いて、くれる……?」
「ああ――ここにいるよ。君が、望む限り」
耳に直接声を吹き込むように囁けば、石榴はふわりと、柔らかな笑みを零した。けれどもすぐに、腹の奥がざわめき、掠れた悲鳴が喉から零れ落ちる。幹比古の手の下で、ぶつかり合う真珠が、小さく硬質な音を立てた。甘えるように、石榴が幹比古の首に擦り寄る。
石榴は身体をひくひくと震わせながら、少しずつ、ゆっくりと、真珠を吐き出していった。ともすれば過呼吸を起こしそうな身体を宥め、幹比古はひとつずつ、真珠が落ちていくのを見守る。大きさは殆ど全て同じだった。一つ吐き出される度に、石榴の腹が少し小さくなるのを感じる。孔から零れ落ちた真珠が、畳の上を転がっては、ぶつかり合った。一つ目で路が広がったのか、二つ目が出てくるのは、少しばかり早い。そのまま三つ、四つ、と真珠が落ち、そして、五つ目が、粘液を纏って転がった。微かに白濁の混じる液体が、口を開いた肉の孔から、垂れ落ちる。指先で石榴の腹を軽く押してみるが、異物の存在は、もう感じられなかった。
「ぁ、ああ――せん、せぇ……っ」
「……よく、頑張った」
涙に濡れ、蕩けた顔を晒しながら、石榴はぐったりと幹比古に身体を預けてくる。まだ余韻が残っているのか、ぴくぴくと身体が断続的に震えたままだった。
「もう、おしまい」
石榴の小さな頭をさらさらと撫でて、幹比古は脱力した身体を抱き締める。容易く潰れてしまいそうな程柔らかな手足は、布越しでもはっきりと高い熱を感じられた。寝間着はぐっしょりと汗で濡れている。力なく開いた唇から、浅い息が絶えず零れた。幹比古はしどけなく開いた石榴の脚をそっと持ち上げると、その爪先から膝までに巻き付く包帯へ手を掛ける。丁寧に巻かれたそれを外していけば、透明な鱗に覆われた脚が曝け出された。濡れた瞳が、幹比古の指の動きを緩慢に追う。
はらり、と包帯が床に落ちた。薄明かりを受けた鱗が、きらりと虹色に光る。幹比古の手が、小さな埃でも払うように、脛の辺りをひと撫でした。その、刹那。
「――あ」
石榴の唇から、小さな声が洩れる。透明な鱗が、一枚剥がれて、畳の上に落ちた。まるで、枯れ葉が風に吹かれて散る時のように。一枚だけではない。二枚、三枚と次々に鱗が落ちて、しまいには、石榴の脚を覆っていた鱗が、全て剥がれ落ちてしまった。薄い鱗が、かしゃかしゃと乾いた音を立てて、畳の上に降り積もる。それが終わった時には、石榴の脚は、つるりと滑らかな、人の子の肌を、すっかり取り戻していた。
「こちらへおかえり、石榴」
唇に柔らかな笑みを湛えて、幹比古は甘く、石榴の耳に囁いた。美しい蒼の瞳が、幹比古を見上げ、瞬く間に濡れて滲んでいく。はらはらと零れ落ちる涙を指先で拭いながら、幹比古はそっと、石榴の小さな手を握った。窓から差し込む光が、二人の姿を淡く照らし出す。空は既に、夜を超えて白み始めていた。
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眉目秀麗、才ある青年が二人のおじさま達から変態的かつ病的に愛されるお話。全九話。
国一番の璃伴士(将棋士)であるリンユゥは、義父に温かい愛情を注がれ、平凡ながらも幸せな日々を過ごしていた。
そんなある日、一人の紳士とリンユゥは対局することになり…。
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