8 / 31
第8話 199X年 12月 3/3
しおりを挟む
翌日、俺は仕事終わりの愛美を呼び出した。
「ごめん。もう君とは二人では会えない。君の部屋にも、もう行かない」
「……どうして? 他に好きな人でもできたの?」
……絵未の事は、言えない。
絵未と愛美は同じシフトで早番同士だ。二人の仲に亀裂を入れるわけにはいかない。
「……黙ってないで教えてよ! それくらいは答えてくれてもいいでしょう?」
「うん、好きな人ができた」
「でも……私の方が阿藤くんの事、きっと好きだから! 考え直してよ!」
愛美はなかなか首を縦には振らなかった。
仕方ないので、秘密兵器を出す事にする。……できれば、これだけは言いたくなかったが。
「愛美ちゃんさ、2号店の社員と、付き合ってるんでしょ?」
店長の嵐山と強引に2号店へと出向させられて早2ヶ月。それだけいれば、俺たちだって少しくらいの情報は手に入るってものだ。俺たちが出向した穴埋めに、2号店の社員が一人、本店へと異動になっていた。その社員と愛美は付き合っているらしい。
全部、かっちゃんからの情報なんだけどね。
「……そ、そうだけど。もう私の中では阿藤くんの方が好きなの。そっちは別れるから……ね、お願い。考え直してくれない?」
ぞわりと嫌悪感が、背中に走った。
愛美と関係を持った後で、この情報を知った時も「ああ、彼氏が側にいない間の代わりか」と、俺は心の中で納得していた。互いをひた隠した火遊びなら、俺も数え切れないほどしているし、別に責めたりはしない。墓まで持っていけば済む話だ。
だけど愛美は「別れるから」と言った。眉間に皺が寄るのが、自分でもわかる。
絵未は「ちゃんとしてから」と俺に言った。結果として、相手を傷つけ悲しませる事はどちらにせよ、同じなのかもしれない。だけど、重みが違う。相手を気遣う言葉と自分よがりな言葉の落差に、足元が少しだけぐらついた。
「ごめん。……無理だ。やっぱり無理だと分かった」
そして絵未にますます惹かれていく自分に、改めて気付かされた。
愛美はその言葉を聞いて泣き出すと、俺の前から走り去った。店の裏側なので、誰も見られていない事が唯一の救いだった。
「……ふぅ」
俺は小さく息を吐いた。今日のシフトは遅番だ。仕事が終わるのは朝の5時。今日の仕事には、気持ちが入りそうもないな。
「ごめん。もう君とは二人では会えない。君の部屋にも、もう行かない」
「……どうして? 他に好きな人でもできたの?」
……絵未の事は、言えない。
絵未と愛美は同じシフトで早番同士だ。二人の仲に亀裂を入れるわけにはいかない。
「……黙ってないで教えてよ! それくらいは答えてくれてもいいでしょう?」
「うん、好きな人ができた」
「でも……私の方が阿藤くんの事、きっと好きだから! 考え直してよ!」
愛美はなかなか首を縦には振らなかった。
仕方ないので、秘密兵器を出す事にする。……できれば、これだけは言いたくなかったが。
「愛美ちゃんさ、2号店の社員と、付き合ってるんでしょ?」
店長の嵐山と強引に2号店へと出向させられて早2ヶ月。それだけいれば、俺たちだって少しくらいの情報は手に入るってものだ。俺たちが出向した穴埋めに、2号店の社員が一人、本店へと異動になっていた。その社員と愛美は付き合っているらしい。
全部、かっちゃんからの情報なんだけどね。
「……そ、そうだけど。もう私の中では阿藤くんの方が好きなの。そっちは別れるから……ね、お願い。考え直してくれない?」
ぞわりと嫌悪感が、背中に走った。
愛美と関係を持った後で、この情報を知った時も「ああ、彼氏が側にいない間の代わりか」と、俺は心の中で納得していた。互いをひた隠した火遊びなら、俺も数え切れないほどしているし、別に責めたりはしない。墓まで持っていけば済む話だ。
だけど愛美は「別れるから」と言った。眉間に皺が寄るのが、自分でもわかる。
絵未は「ちゃんとしてから」と俺に言った。結果として、相手を傷つけ悲しませる事はどちらにせよ、同じなのかもしれない。だけど、重みが違う。相手を気遣う言葉と自分よがりな言葉の落差に、足元が少しだけぐらついた。
「ごめん。……無理だ。やっぱり無理だと分かった」
そして絵未にますます惹かれていく自分に、改めて気付かされた。
愛美はその言葉を聞いて泣き出すと、俺の前から走り去った。店の裏側なので、誰も見られていない事が唯一の救いだった。
「……ふぅ」
俺は小さく息を吐いた。今日のシフトは遅番だ。仕事が終わるのは朝の5時。今日の仕事には、気持ちが入りそうもないな。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる