竜の背に乗り見る景色は

蒼之海

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第一章

第1話 お月様

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 暗い暗い海に浮かびながら、ボクは波に身を任せ揺蕩っていた。

 チャプチャプと小さな小波が体に当たりくすぐったい。

 ゆらゆらと体が揺さぶられる感覚がとても心地よく、いつまでもこうしていたいと思うほどだ。

 体を動かしてみようとしたがうまく力が入らない。だけど、不思議と恐怖は感じなかった。
 
 体の力を抜いたまま、波任せに揺られながらも体は水中に沈んではいかない。

 確か、どこかの国に体が浮く海があったと思う。塩分濃度が高いと浮力も大きくなり体が沈まないとか……。

 まあいいや。もうちょっとこのまま浮いてようっと。

 理屈や小難しい事に目を瞑り、ボクはそのままこの摩訶不思議な現象を楽しむ事にした。



 しばらく自由気ままにぷかりぷかりしていると、遠くの方で小さな光が見てとれた。「星か何かかな?」と眺めていると、その光は次第に大きな光となっていく。

 やがて月くらいの大きさになると、ボクの頭上にゆっくりと近づいてきた。

 な、何? 何なのよこのお月様……!

 だけどやっぱり怖くはなかった。

 いや、むしろホッとさえする。

 お月様は暗闇で、黒い海に浮かぶ孤独なボクを、優しい光で照らしてくれる。

 じんわりと体全体が暖かくなり、少しずつ眠気も誘い出す。体の芯からほっこりするこんな優しい月光浴(?)は初めてだ。


 ボクはゆっくりと目を閉じた。


 もう何も考えないでずーとこのままこうしていようと心に決めたその瞬間。
 急に鼻の中に水が入り込み、激しくむせた。

 ……ボフォ! ブヘェ! ちょっと急に何なのよぉ!

 ゴホガハと咳き込んだ後、鼻からブフーと水を出し呼吸を整える。

 そしてボクは異変に気がついた。

 体がゆっくりと沈んでいるのだ。

 さっきまでの心地よい浮力が消え去って、変わりに手足に重りが括り付けられた様な、そんな感覚。バシャバシャと手足をかき回しても、体は海の底へと引き寄せられていく。


 ちょ、ちょっと待って! どう言う事? 誰か助けてよ!

 大声で誰かに助けを求めようとしたが、声が出なかった。変わりに開けた口には海の水が大量に入り込んでいく。

 ガバゴバァ……誰か……助けてぇぇぇ!


 トプンと体の全部が水面から消えゆっくりと海の底に沈みゆく中、それでもボクは水面越しにゆらゆらと映る空の光に向かって、必死に右手を伸ばし続けた。
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