竜の背に乗り見る景色は

蒼之海

文字の大きさ
45 / 80
第一章

第44話 地下の奥底で待つモノは

しおりを挟む
「な……? こ、こんな階段があるなんて……聞いてねえぞ」


 ギスタの手下の驚きっぷりからも、この階段が今まで発見されていない物だと窺い知れる。

 階段は一人ずつ通れるくらいの大きさだ。

 その先に何があるのか、ここからじゃ暗くて分からない。皆の視線が自ずとヴェルナードに集まり出す。


「……降りてみよう。皆、警戒を怠らない様に」


 アルフォンスが備品をまとめて管理していた保安部員に声を掛け、松明を数本取り出し火を灯す。

 アルフォンスを先頭に、残りの松明を持った保安部員が等間隔になる様にしてボクらは階段を順番に降りた。

 階段は思っていた以上に長く続いていて、建物で言えば三、四階分は降りたと思うけど、薄暗いのではっきりとは分からない。

 階段をようやく降り終わった先は意外に広く、人が二、三人は並んで通れるくらいの一本道になっていて、床や壁など全面が青白い光を纏っていた。

 松明の光が合わされば、地下と言ってもそう暗くはない。

 ボクたちは迷う事ない一本道を、何かに導かれるかの様に歩いていく。しばらく歩くと先頭のアルフォンスが立ち止まった。


「なんなのだここは……」


 そう呟いたアルフォンスの隣にいるヴェルナードも、前を見据えたまま動きを止める。

 隊列の真ん中あたりにいたボクは、人の間をかき分けて先頭まで躍り出た。

 そこは綺麗に区画された四角い空間で、周りを取り囲む壁や床はやっぱり青白い光を纏っている。

 壁や床の面積が広い分、通路よりも一際明るい。

 そして空間のちょうど中央に、円柱状の台座がある。その上には半透明だけど淡く虹色に輝いた球体が浮いていた。


「ようこそおいでくださいました」


 優しくて、心地よくて、それでいてどこか威厳を帯びた鈴の音色の様な声が、広い空間に反響する。

 ボクたちは反射的に身構えた。アルフォンスと保安部員数人がヴェルナードを守る壁になると、ボクの前にはジェスターがザッと立ちはだかる。


「……そんなに警戒しなくても大丈夫です。あなた方に危害を加えるつもりはありません。どうか信じてくださいませ」


 そんな警戒するなと言われても無理がある。

 広い空間に反響して声の出所がよく分からないのだ。ボクたちがキョロキョロと辺りを窺っていると、急に背中がモゾモゾむず痒くなった。


「カズキ。ちょっと我輩ここから出ていいですか?」

「……ちょ、マクリー! 待って出ちゃダメ!」


 ボクの制止を完全に無視したマクリーが、ポンと勢いよくリュックから飛び出した。


「お、おい! なんだあの生き物は!?」


 マクリーの事を知っているのはボクとジェスター、それにヴェルナードとアルフォンス夫妻だけだ。

 それ以外の保安部員やギスタの手下は、突如ボクのリュックから飛び出した珍妙な生物の登場に、驚きの声を合唱した。


 ……あちゃぁ、マクリーの事がバレちゃったよ。これは後でヴェルナードさんたちに怒られるかも。


 そんな周りの様子に構う事なくマクリーは、背中の小さな翼を懸命に羽ばたかせ、部屋中央にある台座へと緩やかに飛んでいく。

 放物線を描きながらなんとか台座までたどり着き、宙にフワフワ浮いている虹色の球体に向かって、驚くべき事を口にした。


「———母上!」


 は、ははうえ!? ……え? お、お母さん?


「あなたは……バルディレスの後継竜ね。随分と変わった姿をしているけれど……会えて嬉しいわ」

「我輩もです、母上。カズキにマクリーという名前をもらいました。ちょっと頼りなくて怒りっぽいのが玉にキズですが、スレンダーでまあまあ優しい親代わりなのです」


 マクリーアイツ、後で絶対殴る!


 ボクが拳をわなわな震わせている間にも、二人(?)の会話は続いていく。


「そう……あなたが幸せなら私はそれで充分です。よい親代わりに巡り逢えてよかったわ。……カズキさんと言ったかしら。少しお話しをしてもよろしくて? 申し訳ないですが、側に来てくださりませんか?」


 ……え? ぼ、ボク!?


 そんないきなり指名を受けたって困る。ボクが周りをおどおど見回すとヴェルナードと目が合った。顎をくいっと台座に向ける。


 なんてこった。ボスのGOサインが出てしまった。


 でもまあ、マクリーのお母さんって言ってるし、優しいカンジもするし、大丈夫かな。

 それでも何が起こるかなんて、いくら考えたところで予想すらつきっこない。ボクは慎重に慎重を重ね、恐る恐る台座へと近づいた。


「あなたがカズキさんね。お噂の通り優しくて、それでいてどこか不思議な佇まいをお持ちな方ですね。どうかこの子を……マクリーの事をよろしくお願いしますね」

「ちょ、ちょっと待って! あなたがマクリーのお母さんなんだよね? 無事こうやって会えた事だし、あなたがマクリーを育てるのが一番いいんじゃない?」

「……それをしたくても出来ないのです。今の私は、遠い昔に残した想い。最初にここへ神竜の後継竜を連れてきた方々に、忘れ去られた世界の真実を伝える為。いわば過去の思念体なのです」

「少し話を聞いてもいいだろうか。貴殿が風竜の生みの親なのは理解した。我々はその昔、風竜によって救われた者の末裔。長きに渡り風竜の加護を受け、その命を繋いできた。だがその反面で、豊かな日常と引き換えに過去の伝承が失われ、我々は歴史の大枠しか知らない。……教えて欲しい。過去に何が起こったのか。そして我々の進むべき道を」


 静かに台座まで歩み寄ったヴェルナードが、虹色に揺らめく球体と向かい合う。

 その言は『モン・フェリヴィント』の代表として、未来を見据えた力ある語り口調だ。


「……分かりました。私の知っている事を全てお話ししましょう」


 マクリーの母を名乗る虹色の球体は、静かに語り始めた。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

処理中です...