竜の背に乗り見る景色は

蒼之海

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第一章

第46話 八方塞がり

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「私とした事が……数々に解明された世界の沿革に気を取られ、この様な不覚を取るとは」


 ヴェルナードが端麗な眉を寄せながらそう呟く。

 ボクたちが急いで来た道を戻り地上に出ても、時すでに遅し。ギスタの手下の姿はどこにも見当たらなかった。


「……如何いたしましょう、ヴェルナード様」

「今から追いかけたところで、土地勘のない我らが追いつくのは難しいだろう」

「ねえ、それってそんなにヤバイ事なの? いいじゃない、あんな奴らいなくなっても」


 泣き疲れて寝ているマクリーを抱えたボクは、アルフォンスの後ろからひょっこり顔を出し、二人の会話に割って入る。

 ヴェルナードと目が合うと、これ見よがしに小さなため息を吐かれた。


「……カズキもカシャーレで少しは感じ取ったと思うのだが、彼らと我々を繋ぐものは、ごく単純な営利目的に他ならない。この遺跡に未発見の貴重な物が存在すると知れば、当然のごとく彼らは黙ってはいないだろう」


 それくらいは当然ボクにだって分かる。あまり馬鹿にしないで欲しいものだ。

 あのギスタの貪欲さを少しも隠そうともしない態度を見れば、この遺跡で見つけた物の権利を主張してくる事は想像の範疇だ。


「だからさ! 今のうちに大事な大事なとっても大事なボクのボートをみんなで担いで、風竜に帰っちゃおうよ! アイツらがいなくなって、まだそんなには時間も経ってないし、今からすぐに出発すればギスタに報告している間にカシャーレは越えられそうじゃない? それに道だってカシャーレからほぼ北にまっすぐ来ただけだし、今度は南に向かって帰れば多少道が逸れたって海岸沿いには辿り着く訳だし、風竜はあんなに大きいんだから、側まで近づけば迷わないよね」


 ボクが両拳を上下に振りながら自信満々に力説すると、あろう事かヴェルナードとアルフォンス、そして何故かジェスターまでもが残念そうな顔を一斉に向けた。


「……一から説明しなければ、カズキには理解を得られない様だ。この遺跡からカシャーレまで徒歩で四時間、そこから海岸沿いまで三時間は掛かる。……それもあの珍妙な方舟を抱えてだ。復路が単純明快だとしても、道半ばで確実に陽が沈むだろう。闇夜の中、方角も分からず進む事を危険だとは思わないか」

「で、でも、松明があるじゃん! 皆でガンガンに照らして歩けばさ、決めた方向に真っ直ぐ歩く事くらいできそうじゃない?」


 ボクがすぐさま改訂案を掲げると、今度はジェスターが口を挟んだ。


「……カズキ。暗闇で灯りをガンガン照らして歩いたら、カシャーレの奴らに『ここにいるからどうぞご自由に襲ってください』って言ってる様なもんだろ?」


 …………確かに。


「まあそう言うなジェスターよ。カズキには戦術と言った事をまだ教えてはいないからな。気づかなくても仕方あるまい」

 ちょっと凹んだボクを見て、アルフォンスがそう庇ってくれた。

 地上に降りてから此の方、ボクの中でのアルフォンスの好感度がグイグイ上昇している。やっぱりこの人は見た目だけで怖がられ、損をしているタイプだった模様だ。

 そして「俺はアルフォンス師匠からいろいろと教えてもらってるからな」とボクの横で自慢げに言っているジェスターが、ちょっとウザい。


「陽が傾き出した今、こちらから動くのは得策ではない。ギスタに報告が伝わっても、彼らとて陽が落ちる前に遺跡ここまで到達する事は不可能だろう。暗くなると魔獣も出るとも言っていたし、火を灯しながら行軍して、逆に我らの的になる様な真似はするまい。唯一の救いは今すぐ交戦に至らない事だけだ」

「しかしヴェルナード様。我が軍は皆、屈強な者ばかりですがあまりにも多勢に無勢すぎやしませんか? それに明日になれば上陸三日目。風竜が再び空へと舞い戻る日です」


 カトリーヌの進言に、ボクは周りを見渡した。


 昨日生活部が戻る際、護衛が数人付き添ったので、ここにいるのはボクらを除けば、保安部警ら班が20名だけだ。それにすっかり忘れていたけど、明日は上陸期限の最終日だ。

 ボクらが風竜の飛び立つ時間までに戻らなければ、一体どうなってしまうのだろう?


「……ねえカトリーヌさん。もし、もしもだよ。明日風竜に戻れなければ、どうなっちゃうのかな?」

「簡単な事さね。置いてかれるだけさ」


 ……なんてこった! これは非常にマズい展開ではなかろうか。


 今日の内に戻りたいけど暗闇で迷子になるか攻撃の的にされるか二者択一で、明日になればきっとギスタがやってくる。何人連れてくるかは分からないけど、こちらは20人ちょっとしかいない。オマケに時間制限タイムリミット付きだ。


「私が彼らの立場なら明朝、軍を二手に分け遺跡ここと風竜を同時に攻めるだろう。風竜の下に拠点を作られれば、あの高さから地上への上陸は困難を極める。……地上の無法者たちをまとめ上げているのだ。ギスタは粗暴だが無能ではない」

「三日目の朝までに我らが戻らなければ、緊急事態とみなして全軍を派遣する様、先に戻った警ら班員に伝えていますが、果たして上陸が間に合うかどうか……」


 アルフォンスが腕を組み、ただでさえ恐い顔を更にも増して強張らせた。
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