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第一章
第75話 マーズの提案
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マーズはきょとんとした顔でボクを見る。心から理解できていないという顔だ。
純然たる負の感情をベースとして産まれたマーズには、本気で人の痛みが分からないらしい。
突然、黒い雲を切り裂いて人翼滑空機が現れた。
「く、クラウスさん!」
「待たせたな、嬢ちゃん」
残りの人翼滑空機も次々と集結する。
「……ふぅ、今日は招かざる客が多くて困るなぁ」
マーズが仰々しく首を振りながらため息を吐いた。
「クラウスさん! アイツがマーズなの! この世界の元凶なの!」
クラウスがマーズを睨みつける。
「詳しい事は分からないが、要はアイツを倒せばいいって事だろう?」
そう言い終わるのとほぼ同時に、クラウスの人翼滑空機から風の飛礫が発射された。不意を突いた一撃だ。
だがマーズはそれを予期していたのか、右手を前に差し出すと、クラウス渾身の風の飛礫を掌で受け止め、ぐしゃりと握りつぶした。
「……なっ、何!?」
「まったく野蛮な猿は、これだから嫌いだ。少しは話しを聞く耳を持って欲しいなぁ」
「おっと、こいつは失礼した。うっかり手が滑っちまってな。……聞く耳なら持っているぜ。お前の断末魔を聞く耳ならな……!」
そう言って右手を高々と挙げると、残りの人翼滑空機がクラウスを中心として隊列を組み直す。
「……やれやれ。結局話にならないじゃないか。僕はそこにいるカズキに用があるんだ。あとでちゃんと遊んであげるから、ちょっとだけ待っててくれないかな?」
マーズはボクを指刺すと、冷ややかな笑顔を向けてきた。
「僕はね、僕を生み出してくれた地球の住人には、敬意を払うと決めているんだよ」
そう言ってマーズが右手をかざすと、黒い空の一部が解けるように晴れ、小さな空間が出現した。その先に見えたものに、ボクは目を疑った。
「……父さん! ……母さん! ……おじいちゃんも!」
暗黒にぽっかり空いた穴の向こうには、心配そうな母さんを気遣う様に隣に座る父さんがいて、おじいちゃんがその後ろに立っていた。
三人が悲痛な面持ちを向けるその先には。
———ベッドで寝ているボクがいた。
左手からは点滴の管が延びていて、心電図を映し出すモニターまである。きっと病院なのだろう。
ボクはあの事故以来、意識が戻らないで入院しているって事なのだろうか。
「ちゃんと説明するからよく聞いてね。……僕が放った核は銀幕を通じて、この世界から僕に捧げる養分を吸い取ってこの『食糧庫』に貯めてるんだ。例えるとそうだね……『食糧庫』は、僕にとってはもはや興味が失せたこの世界と、地球の狭間と言ったら君にも分かりやすいかな? そして今君が見ているこの穴……僕は『食道』って呼んでるんだけど、こうやって『食糧庫』との道を作り出して、僕は地球からその養分を美味しく頂いているんだ。だけど『食道』を作る際、運悪く巻き込まれてしまう地球の物や人がいる事は、僕としても心が痛む所なんだけどね、何にでも犠牲はつきものさ。僕はそれを粛々と受けとめているんだ。……意外にも殊勝な態度でびっくりしたかい?」
マーズはまたもクスクスクスクスと顔を歪めて無邪気に笑う。
元の世界のいろいろなものが浮かぶこの場所は、大きなおもちゃ箱みたいだ。その中で善も悪も分からない子供が無意識に人を傷つけていると思ったら、背筋が一瞬で凍りついた。
「だけど君の様なケースは初めてで、僕も驚きを禁じ得ないよ。この世界で命を繋ぐと地球で肉体は消滅しないんだね。これには僕も勉強になったよ」
マーズはそう言うと、空いた左手を遠方に翳した。
「……この場所は僕の大切な『食糧庫』だからね。残念ながら巻き込まれてしまった地球の不純物は、定期的にこの世界へゴミとして排出しているんだ。……こんな風にね」
翳した先の黒い空が裂ける様に割れると、側を浮いていた自転車が吸い込まれて消えていく。
「人間が紛れ込めばこの場所で永遠に漂うか、今の様に外に排出されるかの二択で、どちらにしても絶命は必至なんだ。だから君は、本当に運が良かったのだと思うよ」
この『食糧庫』に来てマーズと話している間も、ボクはふわふわ浮かぶ浮遊物をなるべく視界に入れない様にしていた。
その理由は結構早い段階で、人の死骸が浮いているのを見てしまったからだ。
マーズの言う事を鵜呑みにすれば、ボクは模擬レース中の事故———それすらもマーズに影響された事故だったのかもしれないが、『食道』を通り『食糧庫』に放り出され、外へと排出されたという事か。
加えて放り出された先がたまたま風竜の側で、さらにマクリーに助けられたボクは、運が良いとかのレベルじゃない。
もはや奇跡に近いと思う。
「さあ、お喋りの時間はここまでにしよう。君の為だけにエネルギー干渉のない『食道』を作ってあげたんだ。だから『食糧庫』からでも通れるよ。そして、ここを通り抜ければ君は地球に帰れるんだ」
純然たる負の感情をベースとして産まれたマーズには、本気で人の痛みが分からないらしい。
突然、黒い雲を切り裂いて人翼滑空機が現れた。
「く、クラウスさん!」
「待たせたな、嬢ちゃん」
残りの人翼滑空機も次々と集結する。
「……ふぅ、今日は招かざる客が多くて困るなぁ」
マーズが仰々しく首を振りながらため息を吐いた。
「クラウスさん! アイツがマーズなの! この世界の元凶なの!」
クラウスがマーズを睨みつける。
「詳しい事は分からないが、要はアイツを倒せばいいって事だろう?」
そう言い終わるのとほぼ同時に、クラウスの人翼滑空機から風の飛礫が発射された。不意を突いた一撃だ。
だがマーズはそれを予期していたのか、右手を前に差し出すと、クラウス渾身の風の飛礫を掌で受け止め、ぐしゃりと握りつぶした。
「……なっ、何!?」
「まったく野蛮な猿は、これだから嫌いだ。少しは話しを聞く耳を持って欲しいなぁ」
「おっと、こいつは失礼した。うっかり手が滑っちまってな。……聞く耳なら持っているぜ。お前の断末魔を聞く耳ならな……!」
そう言って右手を高々と挙げると、残りの人翼滑空機がクラウスを中心として隊列を組み直す。
「……やれやれ。結局話にならないじゃないか。僕はそこにいるカズキに用があるんだ。あとでちゃんと遊んであげるから、ちょっとだけ待っててくれないかな?」
マーズはボクを指刺すと、冷ややかな笑顔を向けてきた。
「僕はね、僕を生み出してくれた地球の住人には、敬意を払うと決めているんだよ」
そう言ってマーズが右手をかざすと、黒い空の一部が解けるように晴れ、小さな空間が出現した。その先に見えたものに、ボクは目を疑った。
「……父さん! ……母さん! ……おじいちゃんも!」
暗黒にぽっかり空いた穴の向こうには、心配そうな母さんを気遣う様に隣に座る父さんがいて、おじいちゃんがその後ろに立っていた。
三人が悲痛な面持ちを向けるその先には。
———ベッドで寝ているボクがいた。
左手からは点滴の管が延びていて、心電図を映し出すモニターまである。きっと病院なのだろう。
ボクはあの事故以来、意識が戻らないで入院しているって事なのだろうか。
「ちゃんと説明するからよく聞いてね。……僕が放った核は銀幕を通じて、この世界から僕に捧げる養分を吸い取ってこの『食糧庫』に貯めてるんだ。例えるとそうだね……『食糧庫』は、僕にとってはもはや興味が失せたこの世界と、地球の狭間と言ったら君にも分かりやすいかな? そして今君が見ているこの穴……僕は『食道』って呼んでるんだけど、こうやって『食糧庫』との道を作り出して、僕は地球からその養分を美味しく頂いているんだ。だけど『食道』を作る際、運悪く巻き込まれてしまう地球の物や人がいる事は、僕としても心が痛む所なんだけどね、何にでも犠牲はつきものさ。僕はそれを粛々と受けとめているんだ。……意外にも殊勝な態度でびっくりしたかい?」
マーズはまたもクスクスクスクスと顔を歪めて無邪気に笑う。
元の世界のいろいろなものが浮かぶこの場所は、大きなおもちゃ箱みたいだ。その中で善も悪も分からない子供が無意識に人を傷つけていると思ったら、背筋が一瞬で凍りついた。
「だけど君の様なケースは初めてで、僕も驚きを禁じ得ないよ。この世界で命を繋ぐと地球で肉体は消滅しないんだね。これには僕も勉強になったよ」
マーズはそう言うと、空いた左手を遠方に翳した。
「……この場所は僕の大切な『食糧庫』だからね。残念ながら巻き込まれてしまった地球の不純物は、定期的にこの世界へゴミとして排出しているんだ。……こんな風にね」
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この『食糧庫』に来てマーズと話している間も、ボクはふわふわ浮かぶ浮遊物をなるべく視界に入れない様にしていた。
その理由は結構早い段階で、人の死骸が浮いているのを見てしまったからだ。
マーズの言う事を鵜呑みにすれば、ボクは模擬レース中の事故———それすらもマーズに影響された事故だったのかもしれないが、『食道』を通り『食糧庫』に放り出され、外へと排出されたという事か。
加えて放り出された先がたまたま風竜の側で、さらにマクリーに助けられたボクは、運が良いとかのレベルじゃない。
もはや奇跡に近いと思う。
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