竜の背に乗り見る景色は

蒼之海

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第一章

第77話 秘密兵器

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 一機の人翼滑空機スカイ・グライダーに触手が数本向かっていた。二本目まではうまく躱すも三本目がすぐそばまで迫りつつある。


「うりゃああああああ!」


 ボクはその触手に立ち乗りで急接近すると、右足で思いっきり蹴り上げた。


「クラウスさん! ボクも手伝うよ!」

「じょ、嬢ちゃん! なんで戻ってきた!」

「なんでって……当たり前じゃないか! 仲間を置いてボク一人だけ逃げるなんてできるわけないだろっ!」


 クラウスは驚きの表情から一転、いつもの飄々とした表情に戻る。ボクはクラウスに横付けした。


「で、戦況はどうなの?」

「……よくねえな。あの触手が邪魔で、本体まで攻撃が届かない」


 今も左右から人翼滑空機スカイ・グライダーが攻め立てているけど、風の飛礫つぶての攻撃は全て触手に阻まれてしまっている。


「なら、大きく迂回して後ろを取ればどう?」

「それも試みた。だが後ろに回ろうとするとあの触手が伸びて、行かせてくれねえんだ。……それにこの浮いてる見た事ない障害物が邪魔で、思う様に動けねえ」

「わかった。ボクが何とかしてみるよ!」

「お、おい! 無茶するなよな!」


 クラウスの忠告を振り切って、ボクはコアへと急接近する。

 何本もの触手が襲いかかる。

 ステアリングホイールで舵を切り、向かい来る触手をギリギリのところで躱していく。

 そのまま触手に追われながら左に大きく進路変更をした。そしてUターン。

 今度は蛇行しながら左側からコアと迫る。触手を掻い潜り、すんでのところで急上昇。

 左側にある十数本の触手が、団子状に絡まった。


 ……よし! 固結びのできあがり!

 
 蠢く触手で今までわからなかったけど、コアの中心部は毒々しい赤色の塊が脈打っていた。


「……クラウスさん! チャンスだよ!」


 呆気に取られていたクラウスだが、すぐに好機だと分かり指示を出す。


「全員! 左側から回り込んで本体を攻撃しろ! ……嬢ちゃんは戻ってこい。ここで待ってるんだ。いいな」

「分かった。でも危なくなったらすぐに助けに行くからね。止めたってムダだよ」

「それくらいの事、分かってるって。……俺たちゃ仲間、だもんな」


 そう言い残しクラウスも出撃する。触手の防御が半分になったとは言え、こちらの人翼滑空機スカイ・グライダーの数も少ない。それでもなんとか一発、二発と風の飛礫つぶての攻撃が本体へと当たる様になってきた。その度に赤色の塊が大きくなっていく。

 コアがこの世界のエネルギーを吸い取って、マーズに送っていると言っていた。
 
 
 ならあの赤い塊は、吸い取ったエネルギー……?


「う、うわあああああああああ」


 人翼滑空機スカイ・グライダーが一機、触手に捕まってしまった! 


 ボクは伝声管に向かって大声で叫ぶ。


「マクリー! 行くよ!」

「はい、なのです!」


 竜翼競艇機スカイ・ボートが発進する。コアへ向かって蛇行をして、触手をかわし注意をこちらに引きつける。途中クラウスとすれ違うと、彼はやれやれといった表情で頭を振り、残機に向かい叱咤激励をした。


「お前たち! 嬢ちゃんが撹乱してくれている間に、全力を振り絞れ! このままだと後で嬢ちゃんに笑われるぞ!」

「「「「おう!」」」」


 クラウスの檄で気力を取り戻した人翼滑空機スカイ・グライダーが、コアと突貫し風の飛礫つぶてを連射する。本体に当たる度に赤い塊は大きくなるものの、やはり限界が近いのだろうか。各機の動きが鈍くなっている様に見える。

 二機、三機と人翼滑空機スカイ・グライダーが触手に捕まりだす。やはり加護の力も限界に近いのだ。

 なんてこった!! クラウスさんたちでもあのコアは倒せないのか!


 ボクはいよいよ覚悟した。

 竜翼競艇機スカイ・ボートの秘密兵器を使う時だと。


 一旦大きく旋回をして、コアから距離を取る。


「マクリー! 最後の手段だ! ……アレを使うよ!」

「ちょ、ちょっと待ってくださいカズキ! あ、アレを使ったら、吾輩、完全にエネルギー切れになります!」


 二日間の飛行訓練で試した時に、判明した事実だ。

 どうやらまだマクリーには加減が難しいらしい。だけど今は出し惜しみしている時じゃない。


「そんなの分かってるよ! だけどここは一か八かの勝負所でしょ! 仲間を助けるの! 『モン・フェリヴィント』の皆を助けたいんだ!」

「……言っても聞かないところは吾輩と似てて、やっぱりカズキは吾輩の親代わりなのです。これが終わったら、大盛りのドングリで吾輩をいっぱい褒めてくださいね!」


 あのコアはエネルギーを吸い取って送り出す、ポンプの役目をしているのだ。それならば、ボクとマクリーの奥の手が通用するかもしれない。

 ボクはコックピットを足場にして立ち上がった。


「マクリー! 行って」

 竜翼競艇機スカイ・ボートが勢いよくコアへと向かう。

 モロに受ける風圧で後ろに飛ばされない様にお腹に力を入れ、足を踏ん張って体制を維持する。

 元々それなりに鍛えていた体に、アルフォンスの特訓しごきでボクの筋力は増しているのだ。


 これくらいの風圧なんてへっちゃらだよ! ボク、脱いだらすごいんだから! ……女性特有の膨らみはないけどね!


 自虐的な気持ちを燃焼させてさらに闘争心を高めると、機体に帯びた緑の光を人差し指で軽くすくう。

 左目をつむり、ポワッと光った人差し指で、瞼の上に十字を描く。

 開けた右目の視界に、緑に光った十字の照準が浮かび上がった。


「じょ、嬢ちゃん! まさか!」

「みんな離れて! 捕まってる人! 頑張って本体から少しでも離れて!」


 速度を落とさずコアへと迫る竜翼競艇機スカイ・ボートに気付き叫ぶクラウスを遮って、ボクは避難勧告をする。


「そんなに人のものが欲しいなら、ボクがくれてやるよ! ボクの大切な人たちへの想いが募った、特Aクラスのメガ盛りフルコースだ。……絶対に食べ残すんじゃないよ!」


 ボクは右手を突き出し左手を添え、引き金を引く格好をした。

 みるみる内に、コアとの距離は縮まっていく。

 突き出した右腕と、視界に映し出された緑の十字の照準が、ぴったり合う様に調整する。

 そして膝の間に挟み込んだステアリングホイールを小刻みに動かし、航路を修正しながらターゲットを捕捉する。

 全てが軌道上に並んだ瞬間、人差し指を引き絞る動作と共に、大声で叫んだ。


「——————マクリー砲、発射!!!!」


 竜翼競艇機スカイ・ボートを包み込む緑の皮膜が一気に船首に集まると、特大の球体へと形を変えて、前方へと発射された。

 それは確実にコアの中心へと、薄暗い空間を明るく照らしながら勢いを増しつつ向かっていった。
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