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第一章 幸せのありか
61 side篠田
しおりを挟む「ここは、俺の家ではないですから」
一人で住むのがいやならばいつでも家に帰って来てと言う母親に、それだけ告げて哉は家を出た。
篠田の運転する車の後部シートに寝転がる。
哉がそんな事をするのはこれで二度目だ。
「…連れ戻しに行きますか?」
車を出した篠田にそう聞かれて哉が頭を上げる。ルームミラーごしに見た篠田の顔がひどくまじめなままだったので哉のほうが苦笑した。そしてまた柔らかい皮ばりのシートに沈みこむ。
「いや。やめておく。どうせ、また泣かせるだけだ」
両手を顔の上でクロスさせて哉がつぶやくように言った。
こんな日がいつか来るはずだった。
本当ならもっと早く来るはずだった。
自分でピリオドを打つことが出来なかっただけで。
これで良かったのだと、自分に言い聞かせるように。
そのまま黙って動かなくなった哉をそのまままっすぐ家に帰すことができなくて篠田は少し遠回りをした。
マンションに着いた時、明かりの灯った部屋を見て哉がいつも、ほっとしたような顔をしていたことを篠田は知っていた。そしてそのあと決まって、その部屋で待つ人がまだ寝ていないことに腹を立てたように怒ったような顔になることも。
はっきりと、樹理がいつからあの部屋に居たのかは覚えていない。
けれどいつからか、哉がとても楽そうに息をしていることに気付いた。
時々大きく、深呼吸をしないと息も吸えないほど自分を追い詰めて仕事をしていた哉が。
彼がこの激務の中で倒れることがなかったのも、樹理がいたおかげだろう。でなければ、とっくにどこか内臓を壊している。
篠田は哉のために、樹理を連れ戻したいと思っていた。
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