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本編
5-2
しおりを挟む「ユナレシアさんっ!!」
珍しく俯いていたユナレシアが、その声にはっと顔を上げると、ミーレンがいた。
「だから言ったろ、まだいるって」
「あの、降ろしてください。私、自分で歩けます」
そして何故か、王子の腕に座らされて、抱えられて運ばれている。
アリストリア語で何やら抗議しているようだが、アッシュは聞き入れるつもりがないらしく、そのままずんずん歩いてやってくる。
「お前がちまちま歩くよりよっぽどこうした方が早い」
そう言いながらも、ユナレシアたちの傍まで来て、アッシュはミーレンを降ろしてやった。
地面に足がつくと同時に、ミーレンが駆けて来て、ばっとユナレシアにしがみ付いた。
「よかった。お別れも言えないのかと思いました」
しがみ付いて、ユナレシアを見上げ、ミーレンが明らかに泣いた後の顔で、そしてとてもさみしそうな顔で笑う。
その、ただユナレシアを慕って見上げてくる顔を見て、何を迷っていたのだろうと自分が大層バカに思えた。
「別に、私にお別れなんか言わなくてもいいのよ」
「え?」
その体を抱きしめて言ったユナレシアに、本物の豊満な胸にうずもれたまま、ミーレンがくぐもった声を上げている。
「侍女たちを連れて、すぐ戻ってくるわ。だから、お別れなんかいらないの」
「本当ですか!?」
ぷはっと顔を上げて、ミーレンが顔を輝かせて問う。
こんな風にうれしそうに笑うほうが、ミーレンには似合う。
ニッコリ笑って頷いてやると、また目いっぱいの力で抱きついてきた。
暫くそうしていたが、なんだか視線が痛い。
そっと窺うと、アッシュが物凄くうらやましそうな顔で睨んでいる。
その顔を見て、先ほど釈然としなかった想いが何だったのか、気づいた。
これは嫉妬だ。
初めて会った男に身を預けて泣いていたミーレンを見て、ユナレシアは嫉妬してしまったのだ。
そしてアッシュもまた、全身全霊預けるようにユナレシアを慕っているミーレンの様子に嫉妬しているに違いない。
出会うのが一ヶ月早かった分、ミーレンの信用度はユナレシアの方が高いに決まっている。
何となく優越感を感じながらユナレシアはそっとその細い体を抱く腕に力を込める。
そんな優越感に浸っていたので、ユナレシアは気づかなかったが、もう一人、物凄くうらやましそうにその様子を見ているマイセルがいた。
尤もこちらは、そのやわらかそうな胸元に顔を埋めているミーレンがうらやましいなぁと思っていたのだが。
「いい加減離れろ」
ミーレンの両脇に手を突っ込んで、我慢の限界に達したらしいアッシュがばりっとユナレシアから引き剥がし、そのまま腕に乗せるように抱き上げる。
「コレは俺のだ」
向けられる感情が嫉妬だと気づかないミーレンは、なんだかとげとげしい空気を発しているアッシュにビクビクしている。その仕草がさらに勘に障ったらしく、そのまま踵を返してしまった。
「五日、五日で帰ってくるから、待ってて!」
「はいっ!」
落とされないように王子の頭にしがみ付いていたミーレンが、ユナレシアの言葉に嬉しそうに返事をした。
アッシュの歩幅が最早歩くと言う域を超えて、あっと言う間に姿が見えなくなってしまった。
「結構、いい性格ですね、あなた……あ、訳さなくていいから」
「は?」
「いえいえ。ではお待ちしております」
「はい。出来るだけ早く戻りますので」
マイセルの誤魔化すような笑顔に、何か嫌味を言われた事は分かった。
早急にアリストリア語を覚えなくてはならないな、と思いながらユナレシアも笑顔で応えてやった。
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