ならば今、勇敢な恋のうたを歌おう

神室さち

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1 恋の始まりなど、いつだって気づかぬもので。

あちらからやってくる! 右コマンドどこですかね?

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「はい確かに。それじゃあ失礼します」

 差し出された伝票に『街宮』のハンコを押して返すと、さわやかな笑みを浮かべた顔でそう挨拶して、佐藤君が去って行く。

 ああ、背中に刺さる内藤さんの視線が痛い。


 だって、仕方ないじゃない。総務宛の宅配がちょうど届いてて、当然宅配のおっちゃんがハンコを求めても、カウンタに一番近い席のアナタは立ち上がりもしないじゃないですか。今いそがしいですぅ みたいな感じで突然キーボード音立て始めるじゃないですか。


 当然隣の席で、次に近い私が立つしかないじゃないですか。


 宅配の受け取り伝票に押すためのハンコを持って立ち上がったのと、絶妙なタイミングで佐藤君が伝票に記入を始めて、おっちゃんが帰るのと同時に私の前には作業伝票が。


 これだけ断って内藤さんに回すとか、不自然極まりないので、仕方なく押させていただきました。ハンコ。


「街宮君、ちょっと頼まれてくれんかー?」

 このギスっとした空気を全く読まないのか、はたまた読んでくれたのか。

 能天気な課長の声が、今ほどありがたいと思ったことはありません!!

 呼ばれて課長の机まで行くと、ちょっと分厚くなった封筒を渡された。

「悪いけどそれ、第二営業所に届けてくれないか?」

「わかりました」

 大抵の文書はメールでやり取りするけれど、時々メールでは送れない、紙媒体でやり取りせざるを得ない文書があるので、月に一、二度だけど、こうして『お使い』を頼まれることがある。


 頼まれるのは私。第二営業所はちょっと交通の便の悪い郊外にある倉庫の一角に作られた、この本社から半分リストラされたようなさびれた部署で、オジサンしかいないからか、内藤さんは一度行ってから二度と行かなくなった。

 オジサンたちはみんな気の良い人たちで、行くとめちゃくちゃ歓待してくれるので、全然いやなところではないんだけどなぁ


 やっとソフトが直って仕事を片付けようと思ったけど、隣から不穏な気配を醸し出されたままいるのは精神衛生上大変よろしくないので、さっさと最低限の私物を持って総務を後にし、経理からタクシー代を仮払いしてもらって、逃げるように社を後にしたんだけれど。


 駄菓子菓子。いや、無駄に脳内で漢字変換しなくてもいいか。


 だがしかし。


 空車のタクシーが来ない。


 なぜだ。



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