やさしいキスの見つけ方

神室さち

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キス xxxx

1-2 交錯

 
 
 
 三年生になって、バイトはやめなさいと言われて、今はもう手伝わせてもらえない。
 なにがどうなって『その代わり』なのか分らないのだが予備校に行くように言われて、知らない間に手続きをされていた。なので毎日北條が住む市まで予備校に通い、帰りに寄って実冴のくれる料理を受け取り、帰る。
 何度目か知れないため息をついて、夏清がかばんを肩にかけなおしたとき、中で携帯電話が鳴り出した。発信者は草野。
「もしもしー?」
『あ、委員長今ドコ?』
「いま? 駅。コレから家に帰るとこ」
『ホント? よかった。今ね、そっち着いたとこ』
「は!?」
『今日泊めて』
「え!?」
『カレシのとこ行こうと思ったら研究押してるから大学にに泊まり込むとか言うのあのバカ!! だから当初のアリバイ通り委員長のとこ泊めてもらおうと思って。だめ?』
「アリバイ通りって……」
『あ、ごめん、いつも使ってる』
「そう……別にいいけど」
『それで、ダメかな?』
 しばらく考える。多分、帰ってもまたなにも言わずに俯いたままご飯を食べて、部屋に帰って、勉強なんか手につかなくて、メビウスの輪のように終わりのない堂々巡りの思考にとらわれるだけだ。それならいつも無意味に明るい草野といたほうがいくらかマシな気分だろう。
「いいよ。駅前の……東改札の前にいるから」
『サンキュ』
 電話を切って、考えてから先に実冴に電話をかける。友達を連れていくからそっちに行って、二人とも泊まっていいかと聞くといいんじゃないのとあっさりOKされた。


 次に、井名里に。
 二コールで繋がる。


『どうした?』
「あ、あのね。今日、北條先生の所に泊まるから」
『なんで?』
 一気に声のトーンが『機嫌激悪』モードに落ちたのがわかる。その不機嫌さを隠さない声に、夏清の声のトーンも変わる。
「ちょっと、色々……あ、来ちゃったよ。ごめんあの……」
『お前、ここんとこなんかおかしいぞ。帰って来い。今どこにいる? ホントに響子さんとこ泊まるのか?』
 その言葉に、夏清のなにかがばちんと音をたてて切れた。
「疑いたかったらそうやって疑ってれば!? 私がドコで寝ようが先生には関係ないでしょう!?」
 やばい。わけがわからないけど泣きそうだ。そう思いながら、けれど指は勝手に動いて通話を切ってしまい、なんの迷いもなく電源を落としてしまう。
「ごめん、委員長?」
 電話を涙目で睨みつけたまま立っている夏清に草野が声をかけてきた。
「もしかして、ケンカしてた? 原因やっぱり私? もしアレなら、私……別探すけど……」
「ううん。いい。あんなバカもう知らない。行こう」
 絶対に断れないような空気を撒き散らして夏清が駅を出て行く。その後姿に草野は自分がなにかとんでもない失敗をしたことに気付く。
 気付いたところでどうするわけにも行かない上に、今夜の寝床の確保は草野にとって第一重要案件だ。ここのところ様子のおかしかった夏清の愚痴を聞くつもりが返って問題を増やしたことは分かっても、もうあとには引けない。
 見たこともない夏清のカレシとやらに、ごめんなさいと心の中で手を合わせた後、草野はどんどん先に行ってしまう夏清の背中を小股で走って追いかけた。





「オイコラ待てお前ッ!! ……切りやがった」
 慌ててかけなおしても、『電波の届かない地域にいるか電源が入っていないため、かかりません』という音声ガイドに繋がるだけだ。もちろん草野の合掌がここまで届いているわけもない。夏清も井名里も、留守電サービスには入っていない。舌打ちのあと北條の家に電話をかけてみる。
『はいもしもーっし、えーっと、あ、北條です』
「夏清は?」
『夏清ちゃん? 夏清ちゃんならさっき来てすぐ帰ったと思うけど、どうかした?』
 のほほーんとした公の返事に、あっそう、とだけ応えて電話を切ってしまう。
「あんの、バカが」
 何度かけても結果は同じ。携帯は電源が切られたままだ。
 ここ二週間ほど、ずっと様子がおかしかった。こうなってみてよく思い出してみると新学期に入ったころから時々なにか考え込んではいたが、ひどくなったのは六月に入ってからだ。
 何か考えているようなのだが、聞こうとしたら逃げる。勉強をするといわれてしまえば、無理に自分の部屋に引っ張り込むわけにも行かずにふらふらと部屋に帰っていく後姿を見送るしかできない。
 空気が抜けたような状態で、朝からぷすぷすため息ばかりつかれたら、一緒にいるほうがまいってしまう。今日こそはと思っていたら、いきなり帰らないと電話をかけてくる。夏清が一体何を言いたいのか、本当にわからない。



 再び舌打ちをして、井名里は車のカギを取って立ちあがった。
 

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