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入れ替わりは突然に。
こう見えて水魔法は得意なんですよ
しおりを挟むうまってすんごいゆれるんですね……
スタンピードが起こっているエスクドまでは、緩めの駆け足で約三時間。途中休憩も取ってもらいつつだったので、もう少しかかったけれどそのくらい。
鬱蒼とした森の手前に急ごしらえの砦といくつものテントがしつらえられた拠点。
戻ってきたロゼルトを、ほかの騎士さんたちが出迎え、見慣れぬお荷物である私を見て怪訝そうな顔をしている。
「皆様初めまして! ご挨拶はこのくらいで。それでは!」
馬に揺られてグラングランしながら考えたのよ。どうやったら効率的かって。
で、思い出したわけよ。私は使えなかったけど、リリアーネは使えた魔法があるって。
風魔法。
これと水の治癒魔法を組み合わせたら、広域に魔法が掛けられる……はず。
理論的には。
地味に訓練はしてたから、この拠点内くらいなら風を起こせる……はず。
テントなどが建っている場所のほぼ真ん中に陣取って、馬に揺られて程よく緩んでいた髪をほどく。
なぜかはわからないんだけど、髪を結っているより全部遊ばせておく方が、魔力の開放がやりやすいような気がする。
気分の問題。
いつものように、水の治癒を発動させて、それをそよ風で拡散する。そよ風なのは、皆様のこと思って……ではなく、そのくらいの風しか起こせません。今後もっと頑張る予定。
私を中心にふわっと魔法が広がっていく。よしよし、うまくいった。
しばらくの時を置いて、そこかしこから戸惑いの声が聞こえてくる。そりゃまぁ、いきなり軽いけがが治って疲れが取れたらびっくりですよね。
「今の治癒で完治しない傷がある人がいれば治します! 案内してください!」
セバスにもらった最上級のマナポーション。この喉奥に残る薬っぽい味が何とも言えないけど、一気に二本グビっとやる。うむ、魔力、三分の二くらい復活!
「あっ あの! こちらのテントに! 辺境伯様が!」
「そちらは後で。まずはほかの方からです」
「なっ!?」
「辺境伯は応急処置をされて、ずっと回復魔法をかけ続けていると聞いています。今の治癒でしばらく大丈夫でしょう。それとも辺境伯は自分を最優先しないと怒鳴り散らすタイプですか? 違うのでしょう? もちろん、皆さんを治した後にしっかり魔法で回復していただきますよ。それより、最低限の対応にとどまっている人が先です」
「こ、こちらに! こちらのテントに重傷者が!!」
呼ばれるまま、大きなテントに入ると、うッとむせるほどの血の匂い。先ほどの広く浅い治癒魔法で出血は止まりかけているみたいだけど、深い傷はなかなかそのくらいじゃ追いつかない。
「え!? 服が汚れますよ!? 髪の毛も!!」
「服や髪と人命なら、私は人命を取ります」
血が滲んだ薄い毛布が、地面に直接敷かれた上で意識もなく転がっている人の横に行って、膝をつき、そっと手を取る。
そして、祈る。治癒は、魔法を使うというより、祈りに似ていると思うんだ。
テントの中で横になっていたのはざっと二十名ほど。一人ひとり、治癒を施していく。
一応腕や足は応急でくっついてるし、もしかしたらこれは内臓漏れてた傷かなってのも、傷跡のみでふさがれていた。
割と腕のいい魔法使いがそこそこの数同行してたんだろう。
ただ、本当に『くっつけました』『塞ぎました』って感じなので、もう少しちゃんと治しておく。
途中で合計四本マナポーションを飲んだ。
うん、ポーション酔いでちょっとふらつくけどまだいける。
「治癒が必要な怪我人はこれだけですか?」
重傷者の次は中傷者、そのあと軽傷者をと思ったが、みんな治癒を辞退された。最初の治癒で不足なく動ける程度には回復したからと。
「は、はい。他は……」
「辺境伯のところへ行きます。案内してください。あ、よろしければこれ、少ないですけど皆さんで」
言いながら立ち上がる。
ふぃーっと視界がモノクロになりそうになったけど、どうにか踏ん張って、セバスが持たせてくれたお弁当を渡す。
追加でマナポーションを二本。
うえっぷ。
水魔法で出した水も補給。
おなかたぷたぶなので、せっかくだけどお弁当は食べられそうにない。
そのままにしてはもったいないもの。
こちらですと誘導してくれたのはロゼルト。
ついていくと、ほかよりちょっとだけ新しくてきれいだけどあまり大きくないテントの中へ。
その中に寝かされた辺境伯は、一応簡易ベッドに寝かされていた。
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