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入れ替わりは突然に。

それではのんびりさせてもらいますね?

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 何にもすることがないので、毎日朝食を終えて庭を散策。昼食を食べたら屋内を探索。そして今日もお庭へゴー! 山あり森あり池と川もありの、大変野趣あふれるお庭です。


 冒険気分で庭を探索して、若干荒れてはいたものの使えなくはない東屋で一休み。

 私がうろつくせいで、翌日にはベンチの全部板が張り替えられてそこだけ生々しくきれいである。

 ちなみにすごく広い。

 庭とは……って遠い目になるくらい広い。

 興味津々歩きまわって、メイドは息も絶え絶えだった。


 そして私も。

 甘かった。

 リリアーネの体力が全然ないことに気づき、毎日散歩のほかにスクワットと、寝る前のストレッチ。

 リリアーネは体も硬かった。

 体を動かしながら、風魔法の訓練。

 風で補助すると腹筋がらくらくであることを発見したけど、魔法使ったら腹筋になりませんね。


 辺境伯邸に来て三日。すでに飽きた。

 スタンピードまだ終わらないのかな。



 私と対面するのが面倒だから帰ってこない説が有力になってきたなと思いつつ、左翼の庭をぐるりと迂回して正面玄関前を通って逆の庭にいこうとしたとき、門扉を蹴破る勢いで馬が突っ込んできた。

 まだまだ距離があったから轢かれる心配はなかったけど。


 騎乗していた人が、ずり落ちるように馬から降りて、重厚な玄関扉へと、石段を這い上がろうとしている。


 風向きが変わって、こちらに血の匂いが漂ってきた。メイドたちがおろおろしている。


「あっ! お嬢様!!」

 ドレスのすそを持ち上げてできるだけ急ぐ。

 石段を上る力もないのか、途中で倒れこんだ人の元へ。

 血を流して倒れている人に気づいてメイドが悲鳴を上げている。


 膝をついてざっと見る。

 怪我はそこそこひどい。

 よく馬に乗ってこられたと思うくらいに。

 応急処置はされたようだけど、移動中に傷がまた開いたみたいだ。


 背中に触れて、治癒と癒しの魔法を発動する。

 別にこれ、たいそうな呪文とかは要らない。

 言う人の方が多いけど。


 魔法を発動して数秒後、倒れていた人の意識が回復したらしく、小さくうめいて起き上がった。

「あ、ありがとう、ございます……」

 細かい怪我が治って疲れが取れて、軽く動く体にちょっと驚きながらも、簡素な鎧を着た人──たぶん騎士──は、大きく息を吸って吐いて、ちゃんとお礼を言ってくれた。


「どういたしまして。それより、こんな怪我を押してここまで来られたということは、なにかあったのですか?」


 私が尋ねたタイミングで、玄関のドアが開いた。そこから、セバスが出てきたのを見て、怪我人が頭を垂れる。セバスは私を見てちょっとだけ眉を動かしただけだった。


「何事ですか」

「はっ エスクドでのスタンピードですが……小物の排除はほぼ完了したものの、本因である魔物がなかなか駆除できず……不眠不休の対応でかなり力を削いであと一息というところで……今朝がた魔物が自爆と思われる魔力暴走を起こしたため、辺境伯軍に甚大な損害が……」


「端的に報告せよ」

「……スタンピードは終息しましたが、陣頭に立たれていた辺境伯が重傷を負われました……」


 がくりと両手両膝をついて、絞り出すように出た言葉に、さすがのセバスも息をのむ。


「意識は? 辺境伯の意識はありますか? 重傷とはどのくらい? 怪我の場所は頭? 手足は? 胴は?」

「え? いえ……自分が陣を離れる時は……気を失っておられる様子でした。右肩から左わきにかけての裂傷を負われ、同行している治癒魔法が使える者の応急処置で止血の後、現在も魔法で状態を保持していると思います。手足は……無事だったかと」


 私が問いかけたことに騎士もセバスもちょっと驚いた顔をしている。


「つまり、ここまで運ぶことができない状態ということね。わかりました。私が行きます」

「は?」

「え?」

 セバスと騎士と、それからメイドたち。間抜けだけどまっとうなお返事ありがとう。



「私は水の治癒魔法を使えます。辺境伯の怪我がどの程度かはわかりませんが、何もしないよりはマシなはず。動きやすい服に着替えてくるので、その間に彼になにか食べさせておいてください」

 例のカバンはいつも肌身離さず持っている。

 セバスの横を通り抜け、その後ろに控えていたメグに声をかけ、勝手に応接室を借りて着替える。メイドたちがびっくりしてたけど気にしない。


 ガッチリコルセットが必要なドレスなどここに来た日以来着ていないので、一人でさっさとお着換えできますよ。


 優雅にセットされていた髪を、実用重視で長い三つ編みにしてシニヨンにまとめてもらったら完了。髪だけはね……私、こんなに長かったことがないから、まとめることができないのでお願いしているのです。


 騎士もサンドイッチっぽいものを玄関横にある従者の控室でちゃんと食べていて、できる家令、セバスは私の分までお弁当にしてくれていた。

「リリアーネお嬢様、こちらを」

 お弁当をカバンにしまい込むのを見届けて、セバスが後ろに控えた同じようなスーツを着た若い男が持っているものを示す。

 木箱にみっちり……これはマナポーションじゃないですか。キラキラした虹色は最高級品。このひと箱……おいくらくらいするんだろう。


「どうぞ、ご使用ください」

「……わかりました」

 木箱もするっとしまって。


「じゃ! 私、馬には乗れないからよろしく!」


 ちゃんと二人乗り用の鞍を付けた超元気な馬も準備され、そこそこ復活してた騎士──ロゼルト・ルーガンと名乗ってくれた──に同乗してもらって、いざ行かん、スタンピードの場所へ。


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