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第一部 悪役令嬢の幼少期
31 プレゼント
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王都では暑い日が続いていた。そろそろお楽しみのバカンスシーズン。我が家は毎年この時期領地で過ごすのだが、今年はなんと! ライアス家に招待されているのだ! しかも私がごねたからではない。推しに迷惑はかけたくないし。
(嫡子を救ってくれたお礼がしたいなんて言われたら……ねぇ?)
わざわざ私宛にライアス家の当主から……フィンリー様のお父様から手紙が届いたのだ。なので子供らしく素直に『是非とも冒険者の街で名高いライアス領を拝見したいです』と返事をした。
「だって全然戻ってこないんだもん!」
フィンリー様不足で酸欠状態だ。そろそろ禁断症状が出てしまう。
(っていかんいかん。私ったらまた欲張って……生きてるだけで感謝でしょ!)
味を占めて調子に乗ってはいけないが、同時に彼を心から愛するファンの一人として、一分一秒でも長く彼の生きている姿を心に刻まなくてはこの世界に失礼なのでは? とも思っている。
「ああ! 早くカメラにおさめたい!」
あらゆる衣装を着たあらゆるシチュエーションのフィンリー様をお撮りしなければ。
そう。ついにルカ達がカメラを完成させたのだ。コピー用紙程度の大きさの箱型で、ゴロゴロと魔石が付いている。なかなか重いので三脚必須だし、一枚撮る毎に質の良い魔石が一ついるのでかなりコストがかかる。だが、これで撮れる!
この発明に王都は大盛り上がりだった。まさに世紀の発明だ。多くの人が褒め称えてくれた一方で、魂が吸われる! という噂が飛び交い、教会がわざわざ否定の為に出てくる騒ぎにもなった。
「お嬢様、ルイーゼ様がいらっしゃいました」
ルイーゼとはあれからさらに親しくなった。お互い呼び捨てにして、気軽にお互いの家を行き来するくらいには。
「ご両親の体調はどう?」
「父はもう訓練に出てるわ! 母も日常生活は問題なく送れてる」
あの後結局、オルデン夫人は助かったのだが、死ななかったのが不思議なレベルのダメージだった。心臓をひと突きしてたのだから当たり前か……。完全回復にはまだ少し時間がかかりそうだ。
「ルイーゼの訓練の方はどうなの?」
「ルーク様がいらっしゃるから安心してやれるわ」
ルイーゼはうまく力をコントロール出来ていた。もちろん暴れ出すこともない。
伯父は騎士団の救護部隊に入ったのだ。しかもいきなり部隊長。この夏、前部隊長が退団するためいい後任が出来たと喜ばれていた。前部隊長はかなり高齢だったが、彼レベルの能力を持つ治癒師が入隊せず、辞めるに辞められなかったらしい。
「無職の居候は肩身が狭くってね」
なんて言っていたが、総長に話していた呪い払いの交換条件が治癒部隊入隊だったらしく、以前から狙っていたポジションのようだ。
「伯父様だったら別に騎士団総長に頼まなくてもよかったんじゃないですか?」
「いやぁ、僕はもう貴族じゃないし、ずっと国外にいたからいまさら愛国心なんて言っても信じてもらえないんだよね」
「貴族じゃない!?」
「あはは! 皆が気を使ってくれてるからわかんないけど、僕、勘当されてるからね! 公爵家を追放だよ追放! あはははは!」
(爆笑してるし……)
勘当されていると言っても口頭上のものかと思っていたけど、書類上もフローレス家から消し去っているのか。お爺様、ガチじゃん……。
「ルークを暇にさせるとロクなことしないのよね」
一緒に食事をしていた母がため息混じりに言う。
「どの道今のこの国にあなた以上の適任者なんていないんだから、気長に待ってたらよかったのよ。なのに……オルデン家にわざわざ絡みにいくなんて」
「わかんないよ? スパイ疑惑すらあったみたいだし」
「そんなのうちを潰したい人間が言ってるだけよ」
やっぱりそういう人達がいるのか。うちはこの一年で評価がうなぎ登りだから、その辺の奴らからのあたりも強くなってきているらしい。
「だいたいあの時私が行かなかったら……!」
「わーわーわー! 本当にごめんなさいってば! 助かりました! 本当に助かりました!」
最近母は伯父を叱るたびにこの件を持ち出す。大きな借りができた伯父は母に言われるがまま、きちんと貴族の集まりにもパーティにも出席していた。……貴族じゃないのに。
「お母様、気にしてくださってたんですね」
「当たり前よぉ! とは言いたいところだけどね。実はエリザとマリアから脅されたのよ~。リディを助けてくれないと辞めますってね!」
「そんなことが……」
今も側に控えているエリザとマリアをみる。どちらもサッと目を背けた。二人には何も言わなかったけど、なかなか危ないことに足を突っ込んでいるのはバレてたのだろうか。自分の首をかけてまで私を助けてくれたなんて、今度何かお礼をしなければ。
「雇い主を脅すなんて! って言いたいところだけど、あなたと上手くやれる侍女を探すのにどれだけ苦労するやら……いえ、私が介入するキッカケをくれたのね」
二人とも黙って頭を深く下げている。確かに正式な依頼もなくフローレス家の当主が首を突っ込んでいい案件ではないだろう。
「まあおかげでオルデン領から優先的に小麦を入れてもらえることになったし、悪くはない結果だったわ」
ここ数年、国内の五分の一にあたる領で不作が続いていた。冷夏、日照不足、災害、イナゴ……うちの領地も昨年大きな水害があって、今年もあまり見込めない。フローレス領主が恩を売る相手としては悪くなかったようだ。
◇◇◇
久しぶりにレオハルトと私、二人だけのお茶の席。今日はミニサイズのドーナツが皿に鮮やかなフルーツと一緒に美しく飾られていた。宮廷アレンジするとこんな感じになるのかと感心する。
「今回の件、どうやってお調べになったんですか? 大昔の妖精姫の名前なんてよくわかりましたね」
王城内にある書物ならジェフリーが調べ尽くしてくれているはずだ。だけど今回情報を持ってきてくれたのはレオハルトだった。
「教会所蔵のものだ。図書室に入れてもらった」
それはすごいぞ! 教会の図書室なんて王でも簡単には入れないと聞いたことがある。どうやって入ることができたんだろう。
「母が大聖女の指輪を教会に寄贈したんだ」
「えええ! え……えええーーー!?」
危うくお茶を吹き出しそうになる。
「母が宝石を手放したのがそんなに意外か?」
「あ、そういう驚きではなくて、大聖女の指輪って……」
アイリスにプロポーズの時にあげた指輪じゃん!
「確かに歴史的にも資産的にも価値の高いものだが、オルデン家に恩を売れると言ったら喜んで寄贈してくれたよ」
『大聖女の指輪』はこの国の初代聖女が着けていたとされる指輪だ。特に不思議な力を秘めているわけではないのだが、アイリスにとっては大きな意味を持つ指輪だった。
「気前がいいですねぇ」
「そうだな」
なぜか面白そうに笑っていた。
「リディが欲しかったのか?」
「いや別に」
私には色々とヘビーすぎる。
「どう言ったものが好きなんだ?」
「そうですねぇ」
あ! これは誕生日プレゼントの探りを入れられているぞ。なんにしようかな。カメラはもう手に入ったし。
「貴金属は間違いないですね。何かあったら売り払えるし」
「もう少し可愛げのある表現で頼む」
「小さいけど価値のある宝石がいいです」
持って逃げることになったらその方が良さそうだ。
「それか~うーん……人気取りの為に孤児院に寄付とかでもいいですよ!」
「……わかってたか」
「あはは! 私の誕生日プレゼントですよね」
レオハルトはまた呆れた顔をしていた。気づかないフリする可愛げを持てと言いたげだ。
「こちらはかまわないが……偽善と批判されないか?」
「こういうのはね、やらない善よりやる偽善って言うんですよ」
「一時しのぎだとしても?」
「それなら苦学生への奨学金でもいいですね。なんにせよ、私への予算があるのならそれを世のため人のために回しましょう」
最高であと七年婚約者だとして、何人かの役には立てるだろう。徳を積んでおけば後々いいこともあるかもしれない。そんな打算もある。なんせ私は我儘公爵令嬢という印象をどうにか塗り替えておかねばならないのだ。
(フィンリー様を手にかける要素なんてこれっぽっちも残しておきたくないのよ!)
「欲しいものがあれば、その時自分でどうにかしますわ」
「君はそういう人だよな」
やっぱり呆れた風だったが、少し嬉しそうにも見えた。今年の誕生日は期待しても良さそうだ。
(嫡子を救ってくれたお礼がしたいなんて言われたら……ねぇ?)
わざわざ私宛にライアス家の当主から……フィンリー様のお父様から手紙が届いたのだ。なので子供らしく素直に『是非とも冒険者の街で名高いライアス領を拝見したいです』と返事をした。
「だって全然戻ってこないんだもん!」
フィンリー様不足で酸欠状態だ。そろそろ禁断症状が出てしまう。
(っていかんいかん。私ったらまた欲張って……生きてるだけで感謝でしょ!)
味を占めて調子に乗ってはいけないが、同時に彼を心から愛するファンの一人として、一分一秒でも長く彼の生きている姿を心に刻まなくてはこの世界に失礼なのでは? とも思っている。
「ああ! 早くカメラにおさめたい!」
あらゆる衣装を着たあらゆるシチュエーションのフィンリー様をお撮りしなければ。
そう。ついにルカ達がカメラを完成させたのだ。コピー用紙程度の大きさの箱型で、ゴロゴロと魔石が付いている。なかなか重いので三脚必須だし、一枚撮る毎に質の良い魔石が一ついるのでかなりコストがかかる。だが、これで撮れる!
この発明に王都は大盛り上がりだった。まさに世紀の発明だ。多くの人が褒め称えてくれた一方で、魂が吸われる! という噂が飛び交い、教会がわざわざ否定の為に出てくる騒ぎにもなった。
「お嬢様、ルイーゼ様がいらっしゃいました」
ルイーゼとはあれからさらに親しくなった。お互い呼び捨てにして、気軽にお互いの家を行き来するくらいには。
「ご両親の体調はどう?」
「父はもう訓練に出てるわ! 母も日常生活は問題なく送れてる」
あの後結局、オルデン夫人は助かったのだが、死ななかったのが不思議なレベルのダメージだった。心臓をひと突きしてたのだから当たり前か……。完全回復にはまだ少し時間がかかりそうだ。
「ルイーゼの訓練の方はどうなの?」
「ルーク様がいらっしゃるから安心してやれるわ」
ルイーゼはうまく力をコントロール出来ていた。もちろん暴れ出すこともない。
伯父は騎士団の救護部隊に入ったのだ。しかもいきなり部隊長。この夏、前部隊長が退団するためいい後任が出来たと喜ばれていた。前部隊長はかなり高齢だったが、彼レベルの能力を持つ治癒師が入隊せず、辞めるに辞められなかったらしい。
「無職の居候は肩身が狭くってね」
なんて言っていたが、総長に話していた呪い払いの交換条件が治癒部隊入隊だったらしく、以前から狙っていたポジションのようだ。
「伯父様だったら別に騎士団総長に頼まなくてもよかったんじゃないですか?」
「いやぁ、僕はもう貴族じゃないし、ずっと国外にいたからいまさら愛国心なんて言っても信じてもらえないんだよね」
「貴族じゃない!?」
「あはは! 皆が気を使ってくれてるからわかんないけど、僕、勘当されてるからね! 公爵家を追放だよ追放! あはははは!」
(爆笑してるし……)
勘当されていると言っても口頭上のものかと思っていたけど、書類上もフローレス家から消し去っているのか。お爺様、ガチじゃん……。
「ルークを暇にさせるとロクなことしないのよね」
一緒に食事をしていた母がため息混じりに言う。
「どの道今のこの国にあなた以上の適任者なんていないんだから、気長に待ってたらよかったのよ。なのに……オルデン家にわざわざ絡みにいくなんて」
「わかんないよ? スパイ疑惑すらあったみたいだし」
「そんなのうちを潰したい人間が言ってるだけよ」
やっぱりそういう人達がいるのか。うちはこの一年で評価がうなぎ登りだから、その辺の奴らからのあたりも強くなってきているらしい。
「だいたいあの時私が行かなかったら……!」
「わーわーわー! 本当にごめんなさいってば! 助かりました! 本当に助かりました!」
最近母は伯父を叱るたびにこの件を持ち出す。大きな借りができた伯父は母に言われるがまま、きちんと貴族の集まりにもパーティにも出席していた。……貴族じゃないのに。
「お母様、気にしてくださってたんですね」
「当たり前よぉ! とは言いたいところだけどね。実はエリザとマリアから脅されたのよ~。リディを助けてくれないと辞めますってね!」
「そんなことが……」
今も側に控えているエリザとマリアをみる。どちらもサッと目を背けた。二人には何も言わなかったけど、なかなか危ないことに足を突っ込んでいるのはバレてたのだろうか。自分の首をかけてまで私を助けてくれたなんて、今度何かお礼をしなければ。
「雇い主を脅すなんて! って言いたいところだけど、あなたと上手くやれる侍女を探すのにどれだけ苦労するやら……いえ、私が介入するキッカケをくれたのね」
二人とも黙って頭を深く下げている。確かに正式な依頼もなくフローレス家の当主が首を突っ込んでいい案件ではないだろう。
「まあおかげでオルデン領から優先的に小麦を入れてもらえることになったし、悪くはない結果だったわ」
ここ数年、国内の五分の一にあたる領で不作が続いていた。冷夏、日照不足、災害、イナゴ……うちの領地も昨年大きな水害があって、今年もあまり見込めない。フローレス領主が恩を売る相手としては悪くなかったようだ。
◇◇◇
久しぶりにレオハルトと私、二人だけのお茶の席。今日はミニサイズのドーナツが皿に鮮やかなフルーツと一緒に美しく飾られていた。宮廷アレンジするとこんな感じになるのかと感心する。
「今回の件、どうやってお調べになったんですか? 大昔の妖精姫の名前なんてよくわかりましたね」
王城内にある書物ならジェフリーが調べ尽くしてくれているはずだ。だけど今回情報を持ってきてくれたのはレオハルトだった。
「教会所蔵のものだ。図書室に入れてもらった」
それはすごいぞ! 教会の図書室なんて王でも簡単には入れないと聞いたことがある。どうやって入ることができたんだろう。
「母が大聖女の指輪を教会に寄贈したんだ」
「えええ! え……えええーーー!?」
危うくお茶を吹き出しそうになる。
「母が宝石を手放したのがそんなに意外か?」
「あ、そういう驚きではなくて、大聖女の指輪って……」
アイリスにプロポーズの時にあげた指輪じゃん!
「確かに歴史的にも資産的にも価値の高いものだが、オルデン家に恩を売れると言ったら喜んで寄贈してくれたよ」
『大聖女の指輪』はこの国の初代聖女が着けていたとされる指輪だ。特に不思議な力を秘めているわけではないのだが、アイリスにとっては大きな意味を持つ指輪だった。
「気前がいいですねぇ」
「そうだな」
なぜか面白そうに笑っていた。
「リディが欲しかったのか?」
「いや別に」
私には色々とヘビーすぎる。
「どう言ったものが好きなんだ?」
「そうですねぇ」
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「小さいけど価値のある宝石がいいです」
持って逃げることになったらその方が良さそうだ。
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「……わかってたか」
「あはは! 私の誕生日プレゼントですよね」
レオハルトはまた呆れた顔をしていた。気づかないフリする可愛げを持てと言いたげだ。
「こちらはかまわないが……偽善と批判されないか?」
「こういうのはね、やらない善よりやる偽善って言うんですよ」
「一時しのぎだとしても?」
「それなら苦学生への奨学金でもいいですね。なんにせよ、私への予算があるのならそれを世のため人のために回しましょう」
最高であと七年婚約者だとして、何人かの役には立てるだろう。徳を積んでおけば後々いいこともあるかもしれない。そんな打算もある。なんせ私は我儘公爵令嬢という印象をどうにか塗り替えておかねばならないのだ。
(フィンリー様を手にかける要素なんてこれっぽっちも残しておきたくないのよ!)
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