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第一部 悪役令嬢の幼少期
38 手紙
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フレッドは手紙を運んだ騎士とダミアンと一緒に帰ってこなかった。元々フレッドの体調を考えて、夕方までに戻れない場合は伯父の近くで宿泊する予定だったので想定内ではあるが、
(戻って来てないってことは可能性があるってことよね!?)
ダミアンは少し嬉しそうにも見える。
「ルーク様は現在少々お忙しいようでして、じっくり見るために二、三日欲しいとのことでした」
日帰りで頑張ってくれた騎士の報告を聞きつつも、皆その手紙から目が離せないでいた。ライアス夫人ですらそうだ。
「なんて書いてるの!?」
ルカが身を乗り出して、フィンリー様が手紙を読み終わるのを今か今かと待っている。
『まずざっと体内を確認した。『貯蔵器官』の老化現象には思えない。『魔力の貯蔵器官』についてはここには書ききれないので後日話そう。僕は以前北方の国でこの現象に対する治療法を聞いたことがある。ただあくまでアイディアの域を出ていないし、その治療法が実際試されているのを見たことはないんだ。リディの着目点は流石だね! 漏れてる場所の確認、今の仕事が落ち着いたらすぐにやってみるよ』
要点だけ急いで書いてくれたようだ。
「リディとルカによろしく! とだけ伝言を頼まれました」
騎士は大まかな内容は知らされていたのか、ここでニッコリと笑った。まだフレッドの希望は途切れていない。
老化現象でなければ方法があるかもしれない。全員がそう思ったらしく、目が輝いている。ただライアス夫人は何とも言えない表情をしていた。嬉しいのか、不安なのか、信じられないのか……。
「それからこれを奥様に」
フレッドからの手紙のようだ。
『母上のことですからすでに私達の企みはバレているでしょう。どうか叱るなら私だけにしてください。私が諦めきれていないことをフィンリーも、他の騎士達も、配膳係りまで知っています。皆私のわがままに付き合ってくれているのです。今しばらく勝手をすることをお許しください。これが最後の足掻きだと誓います』
ライアス夫人は俯いて額を押さえている。私達に涙を見せないようにしているようだ。
「私達は……諦めることを強要してしまっていたのね……酷いことをしたわ……」
「兄上の症状を見て、皆が次代を不安がってたから仕方なくじゃないか! 誰も悪くないよ……」
誰も悪くない、仕方がない、だけどそれで終わらせたくない。不恰好でも足掻いていたい。
「お母様達からの手紙はまだ届いていないし、どうしよう」
治癒師の家を仕切っている我が母からの情報も欲しいところだ。
皆、気持ちばかりが急いてしまっている。
「街に古書を取り扱っている店がありました。外国語の物も取り扱っていたようですし、北方の方を中心に探してみましょう」
ジェフリーは街の様子をよく観察していたようだ。
「ギルドに依頼を出して、翻訳してくれそうな人を探してみるか。そもそも医療関係に強い者もいるかもしれない」
確かに似た内容の依頼書もあった。北方の国出身らしき装いの冒険者もたくさんいたし、いけるかもしれない。
「関係あるかわからないけれど、魔物買取場のフォード担当官に氷石病の原因となった魔物に関係しそうな情報を貰うことになってるの」
これは多分今日中に届く。少しずつでも前進していると思いたい。
「お食事後、一度お話し合いの場を設けても? フォードおすすめの食材が色々と入ってくるでしょうから」
ライアス夫人は通常通りのしっかりとした顔付きに戻っていた。
「そうだな。助かるよ」
レオハルトは小さく笑った。我々は成長期、今日は思いっきりはしゃいでしまったのでお腹はぺこぺこである。
今日の夕飯も大変美味しかった。フォード担当官おすすめのハルピーの肉は柔らかく煮込まれており、中華のような味付けでビックリした。おそらく冒険者が持ち込んだ味なのだろうが……。
(ライアス領、サイコー!!!)
フィンリー様の事を抜きにしたとしても帰りたくない。二日目にして虜になってしまった。
◇◇◇
「城内で三名と、武器屋一名、冒険者ギルドの職員二名、それから冒険者九名、合計十五名に、氷石病にかかる前の行動と、治癒までの経緯を確認いたしました」
辺境伯直属の部下であろう男性が、書類を読み上げる。私がお願いしていた、治療魔法がわかった後の氷石病の元患者達の内訳だ。後遺症らしきものが発生したフレッドとの違いを確認しておきたい。
「リディアナ様が仰っていた通り、全員発病前に王都周辺に滞在歴がありました。彼らの内一度も治癒魔法を使わなかったのが八名……これはまだ初期段階で治癒魔法が必要なかった者と金銭的な理由の者がおります」
金銭的理由は多いだろう。助かった八名は治癒魔法ではなく虫下しで無事命が助かっている。それにしても冒険者が多いのはやはり怪我などで弱っていたりしたのだのだろうか。
「治癒魔法一度が四名、ニ度が一名、三度がニ名になります」
フレッドは七度と言っていたから圧倒的に多い。だけどそれを言うと、私も含めソフィアもロディもシェリーも同程度かそれ以上治療魔法を受けている。
「全員同じ治癒師が?」
「いいえ。ライアス家専任治癒師であるゴーシェ様と、城下街で主に冒険者の治療をおこなっているフレイ様のニ名です」
そういえばここの主治医にはまだ会っていない。
「申し訳ございません。今ゴーシェははぐれ飛龍に襲われた者を集中的に治療しておりまして、城下の方にいるのです。明日には戻りますので」
辺境伯は懐が深い。自分達に何かあったらとは思わないのだろうか……いや、私が来ているからか。合理的だが……あの気まずそうな顔……気づいていないフリをしてあげよう。他の人が助かるならそれでいいのだから。
「わかりました。それぞれの治癒師の方に使った治癒魔法の総量を数値化するようお願いいただけますか。回数では比較がし辛いので、魔力量の違いを見てみたいのです」
「承知しました」
「それから、治療の為に注入した魔力量も可能であれば調べてください」
「はい」
魔法の世界に生きていたとしても、これだけ短期間に何度も治癒魔法を受けることも、魔力を注入されることもない。そう考えるとやはり原因は氷石病に関係していると思うのだが……。
「次はフォード、頼むよ」
「それでは……」
資料を持ってきてくれたフォードをそのままこちらに連れてきた。まさかこんな大々的にフレッドの治療に取り組んでいたとは思っていなかったらしく、顔が明るくなっている。フレッドは本当に色んな人に慕われているのがよくわかった。
「えーこの魔物は北方の国で稀に出現し、名をキモマと呼ばれています。我が国ではまだ発見されておりませんが、氷石病の原因がキモマの幼虫だとすると、すでにいると言ってよいでしょう」
さすがのフォードも幼体までは知らないらしく、見ても判断がつかなかったと教えてくれた。
「しかし北方の国々では氷石病はないのだろう?」
当然の疑問だ。私もそこは気になっている。レオハルトが質問したが、おそらく氷石病が他国で発生の有無を彼はジェフリーとすでに調べている。図書室で他国の医学書を眺めていたジェフリーに何度か誤魔化されたことがあるのだ。私やジェフリーの母親が罹ったその病気をずっと気にかけてくれていた。
「人間にはありません。しかし魔物には同様の事例があるそうです。人間と似たような症状で死んだ後、体内に留まったまま死体を食べ成長し、成体のキモマが出てくるそうです。今回亡くなった方を火葬してしまったのは、奴らにとって最大の誤算でしょう」
全員ゾッとしたようだった。人間の魔力を苗床にする虫が最後どのようにこの世界に出てくるかまでは考えなかったらしい。
「この件、すぐにでも王都に知らせた方がよいですね」
「え?」
「貴族の中には火葬をしてない家もあるでしょう。至急確認した方がいい」
ライアス夫人が侍女を呼び寄せ手紙の準備を始めた。
「絵姿は?」
「はい! こちらに」
根っこが虫の足のようだ。これで移動するのだろう。短い茎の上に大きな花が咲いている。だけど森の中で動かずにいたら魔物だと気づけないかもしれない。
「サイズはどのくらいなんでしょうか?」
「北方の方では大人の手のひらサイズのようです。ただ見つかった魔物の死体は小型のものばかりのようなので、今回人間に寄生しているということは、サイズもそれなりのものかと……」
それは知ってる。原作で見た。
「成体はどのような攻撃を?」
「気付かずに近づいた者を捕食し、そのまま体内で溶かすそうです」
まさに食人植物だ。
「話し合いが夕飯の後でよかった」
ルカがつぶやいた。
(戻って来てないってことは可能性があるってことよね!?)
ダミアンは少し嬉しそうにも見える。
「ルーク様は現在少々お忙しいようでして、じっくり見るために二、三日欲しいとのことでした」
日帰りで頑張ってくれた騎士の報告を聞きつつも、皆その手紙から目が離せないでいた。ライアス夫人ですらそうだ。
「なんて書いてるの!?」
ルカが身を乗り出して、フィンリー様が手紙を読み終わるのを今か今かと待っている。
『まずざっと体内を確認した。『貯蔵器官』の老化現象には思えない。『魔力の貯蔵器官』についてはここには書ききれないので後日話そう。僕は以前北方の国でこの現象に対する治療法を聞いたことがある。ただあくまでアイディアの域を出ていないし、その治療法が実際試されているのを見たことはないんだ。リディの着目点は流石だね! 漏れてる場所の確認、今の仕事が落ち着いたらすぐにやってみるよ』
要点だけ急いで書いてくれたようだ。
「リディとルカによろしく! とだけ伝言を頼まれました」
騎士は大まかな内容は知らされていたのか、ここでニッコリと笑った。まだフレッドの希望は途切れていない。
老化現象でなければ方法があるかもしれない。全員がそう思ったらしく、目が輝いている。ただライアス夫人は何とも言えない表情をしていた。嬉しいのか、不安なのか、信じられないのか……。
「それからこれを奥様に」
フレッドからの手紙のようだ。
『母上のことですからすでに私達の企みはバレているでしょう。どうか叱るなら私だけにしてください。私が諦めきれていないことをフィンリーも、他の騎士達も、配膳係りまで知っています。皆私のわがままに付き合ってくれているのです。今しばらく勝手をすることをお許しください。これが最後の足掻きだと誓います』
ライアス夫人は俯いて額を押さえている。私達に涙を見せないようにしているようだ。
「私達は……諦めることを強要してしまっていたのね……酷いことをしたわ……」
「兄上の症状を見て、皆が次代を不安がってたから仕方なくじゃないか! 誰も悪くないよ……」
誰も悪くない、仕方がない、だけどそれで終わらせたくない。不恰好でも足掻いていたい。
「お母様達からの手紙はまだ届いていないし、どうしよう」
治癒師の家を仕切っている我が母からの情報も欲しいところだ。
皆、気持ちばかりが急いてしまっている。
「街に古書を取り扱っている店がありました。外国語の物も取り扱っていたようですし、北方の方を中心に探してみましょう」
ジェフリーは街の様子をよく観察していたようだ。
「ギルドに依頼を出して、翻訳してくれそうな人を探してみるか。そもそも医療関係に強い者もいるかもしれない」
確かに似た内容の依頼書もあった。北方の国出身らしき装いの冒険者もたくさんいたし、いけるかもしれない。
「関係あるかわからないけれど、魔物買取場のフォード担当官に氷石病の原因となった魔物に関係しそうな情報を貰うことになってるの」
これは多分今日中に届く。少しずつでも前進していると思いたい。
「お食事後、一度お話し合いの場を設けても? フォードおすすめの食材が色々と入ってくるでしょうから」
ライアス夫人は通常通りのしっかりとした顔付きに戻っていた。
「そうだな。助かるよ」
レオハルトは小さく笑った。我々は成長期、今日は思いっきりはしゃいでしまったのでお腹はぺこぺこである。
今日の夕飯も大変美味しかった。フォード担当官おすすめのハルピーの肉は柔らかく煮込まれており、中華のような味付けでビックリした。おそらく冒険者が持ち込んだ味なのだろうが……。
(ライアス領、サイコー!!!)
フィンリー様の事を抜きにしたとしても帰りたくない。二日目にして虜になってしまった。
◇◇◇
「城内で三名と、武器屋一名、冒険者ギルドの職員二名、それから冒険者九名、合計十五名に、氷石病にかかる前の行動と、治癒までの経緯を確認いたしました」
辺境伯直属の部下であろう男性が、書類を読み上げる。私がお願いしていた、治療魔法がわかった後の氷石病の元患者達の内訳だ。後遺症らしきものが発生したフレッドとの違いを確認しておきたい。
「リディアナ様が仰っていた通り、全員発病前に王都周辺に滞在歴がありました。彼らの内一度も治癒魔法を使わなかったのが八名……これはまだ初期段階で治癒魔法が必要なかった者と金銭的な理由の者がおります」
金銭的理由は多いだろう。助かった八名は治癒魔法ではなく虫下しで無事命が助かっている。それにしても冒険者が多いのはやはり怪我などで弱っていたりしたのだのだろうか。
「治癒魔法一度が四名、ニ度が一名、三度がニ名になります」
フレッドは七度と言っていたから圧倒的に多い。だけどそれを言うと、私も含めソフィアもロディもシェリーも同程度かそれ以上治療魔法を受けている。
「全員同じ治癒師が?」
「いいえ。ライアス家専任治癒師であるゴーシェ様と、城下街で主に冒険者の治療をおこなっているフレイ様のニ名です」
そういえばここの主治医にはまだ会っていない。
「申し訳ございません。今ゴーシェははぐれ飛龍に襲われた者を集中的に治療しておりまして、城下の方にいるのです。明日には戻りますので」
辺境伯は懐が深い。自分達に何かあったらとは思わないのだろうか……いや、私が来ているからか。合理的だが……あの気まずそうな顔……気づいていないフリをしてあげよう。他の人が助かるならそれでいいのだから。
「わかりました。それぞれの治癒師の方に使った治癒魔法の総量を数値化するようお願いいただけますか。回数では比較がし辛いので、魔力量の違いを見てみたいのです」
「承知しました」
「それから、治療の為に注入した魔力量も可能であれば調べてください」
「はい」
魔法の世界に生きていたとしても、これだけ短期間に何度も治癒魔法を受けることも、魔力を注入されることもない。そう考えるとやはり原因は氷石病に関係していると思うのだが……。
「次はフォード、頼むよ」
「それでは……」
資料を持ってきてくれたフォードをそのままこちらに連れてきた。まさかこんな大々的にフレッドの治療に取り組んでいたとは思っていなかったらしく、顔が明るくなっている。フレッドは本当に色んな人に慕われているのがよくわかった。
「えーこの魔物は北方の国で稀に出現し、名をキモマと呼ばれています。我が国ではまだ発見されておりませんが、氷石病の原因がキモマの幼虫だとすると、すでにいると言ってよいでしょう」
さすがのフォードも幼体までは知らないらしく、見ても判断がつかなかったと教えてくれた。
「しかし北方の国々では氷石病はないのだろう?」
当然の疑問だ。私もそこは気になっている。レオハルトが質問したが、おそらく氷石病が他国で発生の有無を彼はジェフリーとすでに調べている。図書室で他国の医学書を眺めていたジェフリーに何度か誤魔化されたことがあるのだ。私やジェフリーの母親が罹ったその病気をずっと気にかけてくれていた。
「人間にはありません。しかし魔物には同様の事例があるそうです。人間と似たような症状で死んだ後、体内に留まったまま死体を食べ成長し、成体のキモマが出てくるそうです。今回亡くなった方を火葬してしまったのは、奴らにとって最大の誤算でしょう」
全員ゾッとしたようだった。人間の魔力を苗床にする虫が最後どのようにこの世界に出てくるかまでは考えなかったらしい。
「この件、すぐにでも王都に知らせた方がよいですね」
「え?」
「貴族の中には火葬をしてない家もあるでしょう。至急確認した方がいい」
ライアス夫人が侍女を呼び寄せ手紙の準備を始めた。
「絵姿は?」
「はい! こちらに」
根っこが虫の足のようだ。これで移動するのだろう。短い茎の上に大きな花が咲いている。だけど森の中で動かずにいたら魔物だと気づけないかもしれない。
「サイズはどのくらいなんでしょうか?」
「北方の方では大人の手のひらサイズのようです。ただ見つかった魔物の死体は小型のものばかりのようなので、今回人間に寄生しているということは、サイズもそれなりのものかと……」
それは知ってる。原作で見た。
「成体はどのような攻撃を?」
「気付かずに近づいた者を捕食し、そのまま体内で溶かすそうです」
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ルカがつぶやいた。
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