悪役令嬢は推しのために命もかける〜婚約者の王子様? どうぞどうぞヒロインとお幸せに!〜

桃月とと

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第二部 元悪役令嬢の学園生活

29 中ボス

 レヴィリオの暴走事件からしばらく経った。制服の袖も短くなり、ちょっとした貴族派との小競り合いはあるものの、おおむね穏やかな日々が過ぎていく。かと言って私達はゆっくりしてはいられない。次の夏季休暇ではレヴィリオ妹救出作戦以外に、大きなイベントが待ち構えているのだ。

「あの村ってそろそろ見つかってるかな」
「そうね。剣術大会後に情報が入ってくるはずだから」

 学生街にある騎士団の駐屯所の備品を整理しながら、楽しく夏休みの計画を立てたいところだが、私達の青春は一旦お預けだ。
 この世界にインターネットはないので最新情報が入ってくるまでに時間がかかる。一応情報通の侍女エリザや、王都の屋敷にいる使用人達にはあらゆる情報を流してもらう様にしているので、極端に遅くなることはないと思うが……。

「あ~モヤモヤする! 早く連絡来ないかな」

 それは突然現れた新種の魔獣だった。キノコの様なシルエットのその魔獣は瘴気を撒き散らし、それに触れた様々な生き物を苗床にして増殖していったのだ。そしてとある村がそのキノコ型魔獣の瘴気に飲み込まれ、村人全員が苗床にされてしまった。長く苗床として使う為か、全員生きたままの状態で眠らさせており、良くも悪くもそのおかげで、原作では死人が出る前に解決する。

「村名……やっぱ載ってなかったよねぇ?」
「ないない! 領の名前すら出てなかったわ」

 唯一、『西の森』という単語だけは出てきた。王都から西側にある森なんてヒントにもならないくらい存在する。残念ながらそれ以上場所に関して詳細な記載がなかったので、前世の記憶というアドバンテージを生かして事前に阻止とはいかなかったのだ。歯痒いが、どうしようもない。

「解決方法がわかってるだけでも良しとしましょう」
「そうだね……」

 新種の居場所も倒し方もわかっているから、その後はスムーズにことを進められる。今はただ待つしかない。

「リディアナ様! そんな! 我々がやりますので!」

 私に気がついた駐屯所の救護係が慌てて駆け寄ってくる。別に今に始まった事ではないのに毎度大慌てさせてしまって少々申し訳ない。
 学園内で大怪我する生徒は滅多にいない。なにかあっても医務室を利用するので、私の出番は全くない。その為治癒魔法の訓練が全く出来なくなってしまったのだ。
 師匠である伯父の教育方針が、数をこなせ! 経験を積め! という方法だったので、全く治療魔法を使わない日が続いてどうにも落ち着かない。だから駐屯所で私も働くことにしたのだ。勝手に。公爵令嬢はやりたい放題出来ていい。駐屯地では毎日しっかり兵士達が訓練をしているので、それなりに怪我人はでる。軽傷ばかりだが……。

「社畜根性今世にまで持ち込まなくてもいいんじゃん?」
「いやぁぁぁ! ちょっと自分でも感じてたから言わないでぇぇぇ」

 たまにある休日にソワソワして結局家でも仕事しちゃうのと同じなのかもしれない。……でも治癒魔法を強化させて困ることはないし……。

「外の訓練場行ってきたら? 怪我人作ってくれたらあたしの訓練にもなるし」

 人の事は言えないが、これが未来の聖女が言うセリフ? 最近じゃ二人で怪我人の取り合いになっているのだ。兵士達の古傷も治療し終わってしまった。古い傷跡も綺麗になることが確認でき、レヴィリオ妹の治療方法も固まってきたのは良い収穫だった。

 二人で話をしているだけじゃ時間がもったいないし、言われた通り兵士達の訓練に参加することにした。今日は学園が休みなので、レオハルト達も来ている。色々ごちゃごちゃと理由を並べていたが、つまりは私と一緒にいたいのだ。避けているわけではないのだが、何かと忙しくてかまってあげていないからだろう。

「あら、怪我人作りに来たの?」
「アイリスに頼まれてね」

 ルイーゼの軽口に軽口を返す。

「まあなんてことを!」

 予想通りアリアに叱られるも、本気でないのはわかっているので笑ってはぐらかす。ルイーゼも兵士達の訓練に参加しに駐屯所に来ており、アリアは軽食の差し入れに立ち寄ってくれたのだ。

「あなた達仕事熱心ねぇ」

(やっぱり社畜根性抜けないのかなぁ)
 
 自分で無理やり仕事を作ろうとしているのだからどうしようもない。ルイーゼが声をたてて笑っていると、彼女の兄ヴィルヘルムが気が付いてこちらへやってきた。アリアが急に大人しくなるのを私もルイーゼも気づいている。

「やあやあ皆様おそろいで。男性陣は頑張ってますよ」

 少し離れたところで、レオハルトとジェフリーが剣で打ち合いをしている。汗もかいているので長い間頑張っているのだろう。フィンリー様は別の場所でルカと一緒に、最小限の魔力で強度のある土壁を作る実験をしているらしい。

「殿下もジェフリー殿も剣術大会へ向けて準備万端ですね!」
「フィンリー様は?」
「フィンリー、剣術大会にはあまり興味がなさそうなのよね。魔法禁止だからかな」

 すでに冒険者の感覚なのか。確かに一番実践訓練を好むのはフィンリー様だった。レオハルトは王族の嗜みとしての剣術の訓練を受けているが、フィンリー様は生きるために剣術を学んでいた。

(実践大好きって感じなのよね~冒険者になれば、なにがなんでも勝てればいいわけで……)

 強い人との試合は楽しみのようだが、勝ち負けにこだわりはないようだ。あくまで経験を積みたいのだろう。ちなみにジェフリーは単純に武器を扱うのが好きで、ルカに関してはできるだけ刃物には関わりたくないのは明らかだった。

「アリア嬢、いつも美味しいものをありがとうございます」
「ひゃっ……はい……!」

 アリアはヴィルヘルムに揶揄われているようだが、とても幸せそうな表情をしている。ぽぉっと見たことのない顔で惚けているのだ。口なんて半開きのまま。まったく! アリアの気持ちを知っていてなんて悪い男なんだろう。まあアリアもこれが目当てでいつも差し入れに来るのだが。

「剣術大会、誰が勝ちそうなの?」
「殿下、ジェフリー様、フィンリーの誰かね」

 ほぼ原作と同じか。ただ、原作ではレオハルトとフィンリー様の二強だった。ジェフリーは剣術に関しては一歩後ろにいたはずだが、どうやら今は生き生きと訓練しているようだ。一番腕の立つルイーゼが言うからそうなんだろう。
 ルイーゼ曰く、全員がバランス型。実際魔獣討伐や戦地でも総合力が高い兵が重宝されるらしく、三人は最高の仕上がりになっているらしい。この辺りも原作と少々違う。

「単純にお強いのはどなたですの?」

 我に返ったアリアが尋ねる。ルイーゼは悩むようにうーんと深く唸っていた。

「魔法も含めた総合力では殿下が一番かな。攻撃も防御も高レベルでバランスがいいわ。剣以外のあらゆる武器を魔法と一緒に使いこなす点で言うとジェフリー様がダントツね。器用なのよ。フィンリーは実践に強いわね。カンもいいし。対人戦はともかく、魔獣討伐に関しては経験を積んでいる分かなり差があると思うわ」

 まあ全員私には勝てないけど! という言葉を残し、ルイーゼは兵士達の訓練へ戻って行った。私もルカに呼ばれたのでそちらに向かう。なかなか強度のある防御用の壁が出来たので、どの程度の魔法で吹き飛ぶか試したいそうだ。

「アリア、気をつけて帰ってね」

 少し前に盗賊の一団が学生街を狙っているという情報が入ったのだ。嘘か本当かわからないが、この街を狙うなんて馬鹿にも程がある。確かにどの店も景気がいいし、富裕層ばかりが住んでいる。けど警備の手厚さを知っていれば、とてもこの街で仕事をしようなんて考えない。

「ええ。ですが白昼堂々出歩く盗賊もいないでしょう」

 確かにまだ日も高いし、アリアのお付きも一緒だ。気をつけてね、なんて言ったが実際は心配はしていなかった……なのに……。

 フラグを立てたつもりは全くなかったのだ。

 その日は久しぶりにバタバタと治癒師としての仕事が入ってきた。

「アリア! アリア大丈夫!!?」

 アイリスの叫び声に心臓が押し潰されそうになる。手に顔を埋め土埃にまみれたアリアが駐屯所の治療室に運び込まれてきたのだ。怪我をした五人の兵士と十二人の盗賊と一緒に。
 偶然警戒中の兵士達が、盗賊団のねぐらを見つけて戦闘になり、一部が逃げ出して学生街にまで出てきてしまったのだ。

「アリア! どこか怪我を……!」
「だ! 大丈夫です! それより兵士の皆様を!」
「いいから!」

 アイリスが急いで彼女の身体をチェックするも、何もない。すこぶる健康だわ。と呟いた。

「だから何もないと言ったのです! さあ早く!」

 結局、盗賊十二人をボコボコにしたのはアリアだったことがわかった。大地の魔法で地面を崩落させ、さらにその崩壊した瓦礫の一部を風の魔法で操って盗賊達をタコ殴りにしたらしい。一部の盗賊が子供を人質に取ろうとした事にアリアがキレたのだと、大泣きしている彼女のお付きが話してくれた。

「アリア嬢のその思いっきりのよさ、好きですよ!」

 駆けつけたヴィルヘルムの言葉に恥ずかしいやら嬉しいやらの感情でぐちゃぐちゃになり、その場にへたり込んでしまったのを勘違いした他の兵士が慌ててこちらに連れてきたそうだ。

「アリア、容赦ないもんね」

 そう、流石は原作では中ボスクラスのアリアだ。自分が嫌悪する者を罰することに躊躇いがない。アリアにとって、彼女より弱い平民や子供は守るべき対象なのだ。それが貴族のあるべき姿だと教え込まれているから。きっと今回盗賊を殺してしまっていても一切後悔していないだろう。そういう点では一番強い。

「強いってなんだろうね~」

 ルイーゼも同じような事を考えていたんだろう。誰かを守るために人を殺す日がくるかもしれない、考えないようにしていたが、その日が来た時、私達はアリアのように躊躇いなく力をふるえるだろうか。

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