悪役令嬢は推しのために命もかける〜婚約者の王子様? どうぞどうぞヒロインとお幸せに!〜

桃月とと

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第三部 元悪役令嬢は原作エンドを書きかえる

6 龍王の行方

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「記録では龍王を討伐した場所も日時も残っていますが、龍王の骸に関しては正確なものが残っていません」
「消えてなくなった、と書いているものを見たことがある。盗掘でもされてのかと思っていたが……」

 レオハルトも龍王に関する資料を色々と探してくれていたのだ。

(たしかに……オルデン家の記録にも撃退後の記録はなかったわ)

 倒したという事実だけに注目して、その後があったことなど考えもしなかった。

「民間伝承を中心に探ってみます」

 王城にある書物は物語というより記録に近いものが多い。

 ジェフリーは目が爛々と輝いていた。手詰まりだったところに出てきた手がかりだ。
 あの後シェリーはさらに二冊、別の国のお伽噺の本を自慢げに持ってきた。めでたしめでたし……に至る過程は若干違うが、同じくセフィラの王族と思われる姫が龍王と婚姻関係を結んだというのは同じだったのだ。

「あてはあるのか?」

 フィンリー様はそう言いつつ、自分もどこかにある記憶を探るように少し遠くを見ながらジェフリーに尋ねた。
 基本口伝である民間伝承は真偽不明なものばかり、しかも文字になっているかどうかも怪しい。

「シェリー様のお持ちになっているお伽噺の作者を探します。それが確実でしょう」

 侍女はすぐその商人の連絡先をメモして用意してくれた。

「……うちの領地にもそういった伝承を好んで集めている者がいた。連絡を取ってみるよ」

 ライアス領は他国からやってきた冒険者が大勢いる。そういったものも集まりやすいのだろう。

「私からも一つ……」

 じっと黙って聞いていたアリバラ先生が少し緊張気味に口を開く。

「父が……大昔、冗談めいていっていたのですが……私の祖先にあたる人はセフィラの王族だったと……だからセフィラの王族の中には私と同じく『予知夢』を見る人間がいたとか……」
「え!!?」

 先生はよくある、『実はすごい血筋の持ち主』というなんの根拠もない類の話だと思っていたと。

「…………」

 急にあらゆることがセフィラ王国に繋がっていくような気になってくる。

 その日はそれで解散。各々考え込むような表情で帰って行った。

◇◇◇
 
「このお伽噺が事実に基づいたものだとすると、正妃様が龍の血を引いてる可能性があるってこと?」

 シェリーがくうくうと寝息を立てているのを確認して、同じ部屋で寝ることになったアイリスと天井に向かってポツポツと会話を続けている。
 アイリスと二人だとタブーを気にせず話せるので気楽だ。

「うーん。王族もそれなりに人数はいるだろうからどの王女様が婚姻関係にあるかによるけど……」

 流石にセフィラ王国の歴代の王族全員の知識はない。

(きっと明日にはジェフリーが龍王出現時期と照らし合わせてくれてるだろうし……)

 それよりも気になるのは……。

「龍王が人に変身できるってことは逆もできるのかな? 龍王の血を引いてたら」
「やっぱそれ考えるわよね~~~……人が龍になる……」

 そうなると、セフィラの王族があの予知夢に現れた『龍王』という可能性が出てくる。

「セフィラ王国とうちの国、微妙な関係だからねぇ……」
「そうなんだ。やっぱり正妃様のことが原因で?」

 不審死なんだよね? と、原作ではなく今世の情報の方が曖昧に記憶に残っているのがありありとわかる口調だった。

「一応心臓が原因の突然死なんだけど……セフィラ王国ではすごく可愛がられてたお姫様だったって話だし……あっちの国じゃ、いまだに国交を続けているだけで感謝して欲しいってかなり高圧的な態度だっていうし」

 やはり正妃シャーロットの死が受け入れられず、セフィラの王族がうちの国を滅ぼそうとしているのだろうか。

「復讐かぁ」
「シャーロット様のこと、調べないとなぁ」 

 気は重いが。
 我々二人がこうやって正妃周辺の可能性が高いと感じているのは、やっと出てきた龍王の気配に縋っているからではない。

『もう少し王室の内情についてお勉強なさることをお勧めいたしますわ』

 原作で私がそうレオハルトに言っていた。それがずっと引っかかっているのだ。

(王室の内情ねぇ……)

 原作情報がないのは痛手だが、この内情が原作に出ていたらまた違った雰囲気の漫画になっていたのは間違いない。この内情を描くだけでまるまる別の作品を作り上げることができそうだ。
 嫉妬と打算と策略と……笑顔も沈黙も嫌悪の顔すら疑って。

(ジャンル違いね。それはそれで読みたいけど……当事者にはなりたくないわ……)

 翌朝、おそらく徹夜で調べたであろうジェフリーが我が家へやってきた。目がギンギンになっている。

「セフィラ王国周辺まで行ってこようと思います」
「え!!?」
「一応、実家へ帰っていることにして……それほど長くはかからないと思いますが」
「行動力ある~~~」

 私もアイリスも考えすぎてほとんど眠っていない。ついでに少し遅れて部屋へやってきたルカも同じく目がしょぼしょぼとしていた。三人はぽやぽやした頭をフル回転してジェフリーの考えを聞く。

「龍種のメタモルフォーゼは学術的には信じられていませんでした。与太話扱いと言いますか」
「変身能力の噂はあったんだ~」

 アイリスが少し気の抜けた声で質問する。

「ええ。千年前の記録ですが」

 人魚やケンタウロスなど人によく似た特徴を持つ魔獣はいるが、人への変身能力があるわけではない。そうしてジェフリーは今度は声を潜め、我々に顔を寄せた。

「……陛下がシャーロット様と婚約した際、消されていた記録がありました」
「け、消されているのになんでわかるの……?」

 恐る恐るルカが尋ねる。

「私的な記録を残している方がいまして……」

 その人物は既に亡くなっている。ジェフリーが慕っていた図書室の司書長。彼は記録魔だったらしく、ほぼ彼の日記とかした日誌の中にその一文があったのをジェフリーは目ざとく見つけだしたのだ。

『セフィラ王国の王族はかつて我が国を滅ぼしかけた龍王の末裔である』

 お伽噺の本以外にもそういう話が一部に存在することがわかった。それも信頼できる人物の記録から、ということか。

「民間伝承であればより近い地域の方は情報は多いでしょう」

 なるほど、と三人で頷いた。

「やっとレオハルト様とリディアナ様のお役に立てます」

 少しだけはにかんだ笑顔だった。

「これまでも散々助けてくれたのに!? ジェフリーったら気前いいわね~」

 私も思わず照れてしまった。だって急にこんなこと言うなんて……。

「原作のジェフリーも本当はあんな可愛い笑顔をどこかで見せてたのかな?」
「そうだね。描かれてなかっただけなのかも」
「ええ~僕もその本、読んでみたいな~」
「「ダメ」」

 アイリスとルカとそんな言葉を交わしながらジェフリーを見送った。
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