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第三部 元悪役令嬢は原作エンドを書きかえる
25 納得
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学院の講堂で私とフィンリー様、そしてアイリスがとあるデザイン画を真剣な目で見ている。
「なんでまたキラキラフリフリさせたがるの? 邪魔じゃん。引っかかるし」
「え!? キラキラフリフリしてた方がいいんじゃないのか!?」
バッサリ切り捨てるアイリスにフィンリー様が戸惑っている。
今我々が議論しているのは、この国の貴族の子女が運動着として着用できるような衣類のデザインについてだ。フィンリー様の実家であるライアス領は、魔獣の素材を使ってより丈夫で動きやすい衣類の開発を進めていた。機能面で兵や冒険者向けのものが多かったが、最近はその幅を広げている。
(私が着たドレスもそうだしね~)
いい具合に話題となり、冒険者服とドレスの間となるようなデザインを目指して鋭意開発中というわけだ。
龍王の件は心配で不安で仕方がない。だからその先のことを考えることでバランスを取っている。原作の、シャーロット様の予知夢のその先が私にはあると思いたい。周囲も――フィンリー様もそう私に信じてほしくてこうして頼ってくれている。嬉しくて少しむず痒い。
「俺も冒険者風のデザインでいいんじゃないかとは言ったんだが……領のデザイナーが言うには、シンプル過ぎるとご令嬢達は嫌がるだろうと……」
渋い顔をして腕を組んでフィンリー様は頭を傾げていた。アイリスの意見も最もだと思いつつ、デザイナーの意見もわかる、と感じている。なんせこの学院内の華やかな令嬢達をいつも見ているのだから。
私とアイリスがこの件のアドバイザーとして白羽の矢が立ったのは、王都にいるリアル子女の生の意見をライアス領の担当者が求めているからだ。……ということになっている。
「あ~まあ確かに可愛いのは着たいけど……動きにくいのは本末転倒じゃん」
再びデザイン画に目を落としてアイリスはうーん……と唸っている。簡素なドレスという単語がどうしても浮かんでしまうのだ。
「ガッチガチに冒険する令嬢はあまりいないので、多少のキラキラフリフリはありですね。ワンポイントくらいならいいかもしれません」
ワンポイント……と呟くフィンリー様はいまいちピンとこないようだった。原作の彼ならありえない反応だ。
現実のフィンリー様は冒険者服のデザインの良し悪しなら語れるが、一般の令嬢が気にする流行や好まれる傾向すら把握しているか怪しい。女たらしキャラは完全に隣国の皇子ジュードの独り占め状態になっている。
「冒険者用ではなく、どちらかというと騎士団スタイルはいかがですか? 女性騎士もいますし。それよりは華やかにして、今後徐々に反応を見ながらデザインを変えていく……といった具合に」
現時点のデザインとは大幅に違うが目的は動きやすさなので、あまりズレすぎていても意味がない。
「確かに学院にも騎士団の魔術部隊を目指している令嬢がいたな……」
「ええ。なのでフリルやヒラヒラしたデザインは炎の魔術の時に危ないので、入れ込む場合は耐熱素材がいいと思います。ほらいましたよね確か、火炎系の魔術が聞かない魔獣……」
「火光獣だな!」
ふむふむ。と熱心にメモを取っている。ああフィンリー様、走り書きの文字までイケメン。
そこからはノリノリで話が進む。いつまででも続けられそうだ。
「素材がどの魔獣からか、というのは気にかけた方がいいですね」
「つまり素材となる魔獣の見た目が大事ということかな」
「そうです。なので逆に見た目のいいレア素材を使うことで売り込むのもアリかと」
「クジャク龍の羽根でも入れ込めば喜ばれそうだ」
「いいですね!」
この話題にはピンとくるものがあったのか、忘れないうちにと浮かんだアイディアも楽し気にメモに書き込んでいる。その様子をアイリスが横目で眺めていた。
その後もあれがいいこれがいい、これは怪しいこの案は使える……なんて盛り上がったところで予鈴の鐘がなる。
「ありがとう! また後で!」
無邪気な笑顔だ。
次は選択授業なのでフィンリー様は別の教室へと慌てて向かった。一方、私達がいる教室の前方には学院の職員がなにやら紙をペラリと張り付けている。
「あら。休講?」
「珍しい~」
私とアイリスが受講予定の古代文字の授業は講師急用のため休講となったので、久しぶりに二人で学生街にくり出すことにした。同じ講義を取っていた生徒達は、喜びを抑えつつも軽やかな足取りで同じく学生街へ。
「あたしさ~~~正直、リディアナがフィンに恋愛感情ないっての信用できなかったんだけどさ~」
「え!? 急に何!!?」
いつもの賑わいの中を歩きながら、吐き出すかのようにアイリスは腕を組みながら話し始めた。案外こういう雑談は人ごみの中の方が適しているとアイリスは考えているようだ。実際誰もが自分達の会話に夢中でこちらに見向きもしない。
「無自覚なのか、それとも気付いてないフリしてるだけかもって……でもなんかようやく納得できそう」
「いや、間違いなく愛はあるわよ!?」
「そういう話じゃない」
ピシャリと咎められてしまった。
「フィンってさ、原作と違うじゃん? いや、根本は同じなんだろうけど……女っけがゼロというか皆無というか……」
「……興味なさそうだよね」
元々博愛主義の傾向はあったのだ。原作のリディアナにすら目を合わせて話し合いを試みようとしていた。その一方で原作では亡き兄の元婚約者から迫られ女性不振に陥り、逆に女性を軽んじるようになってしまった。アイリスに惚れるまでは。
今回はその大事件を回避できたので博愛主義だけが残っている。そのせいか男子生徒からも非常に人気が高い。身分も年齢も関係なく慕われていた。
「闇落ちのセクシーさがないじゃん?」
「闇落ちって……」
ちょっぴり批判的な物言いをしてはみたが、言いたいことはわかる。今のフィンリー様は自分の傷を隠す必要もないので取り繕うこともない。精神面も安定しているので、色々不安事の多い我々にとって一緒にいて安心できる相手なのだ。
「これさ。完全に勝手な原作の個人解釈なんだけどさ……」
ここからは原作オタクである私の勝手な考察だ。
「原作のフィンリー様って心のどこかで救いを求めてたんだと思うんだよね」
優秀な兄の影をいつまでも感じて自分は価値のない人間だと思い込んでいたフィンリー様……だからこそ誰かを助けることで自分に価値を見出していた。だけど一方で傷ついた自分を助けて欲しかったのだ。本当は。
(で、原作ではアイリスがその心を癒してたわけだけど)
救いはあった。だけど結局最期はアイリスを助けるために自分の死を選んだ。躊躇いもなく。
「そんなフィンリー様を救えるような存在になりた~~~いと思ってたとこはある。正直……」
まあその時はまさか自分がリディアナに――彼を殺す存在に生まれ変わるとは思ってなかったけど。
「けど今は違うじゃん? 誰にでも優しいところは同じだけど、自分のためにも生きようとしてるし」
私は今、単純に一緒にいられる幸せを味わっている。フィンリー様が笑って生きている世界に感謝している。龍王の件がうまくいけば、きっとイケオジ姿をフィンリー様も拝めるはずだ。
「そうだね。貴族が親説得した上で冒険者になるってかなり思い切ってるし」
でしょう!? と、アイリスが肯定してくれて嬉しくなる。間違いなくフィンリー様にとって勇気のいる決断だったのだ。
(私が救わなきゃ! なんておこがましい考えにはならないのよね。一緒に楽しみたいって……そう思っちゃう)
子供っぽい感情だろうか。だけどとても心地がいい感覚なのだ。
「原作のフィンに恋しても、今のフィンに恋するとは限らないってことだよね~恋はせずとも人を愛すことはできるんだよね~~~」
アイリスはスッキリした顔をしてカフェのテラス席でフルーツたっぷりのケーキを前に座っていた。最近お気に入りの店だ。私の前にはチーズタルトが。ケーキの種類も随分と増えた。
「恋ってさ~結構一方的なとこあるじゃん? あたし今アレンに対してそうなってるからさ~思うところもあったのよ……」
私だけ見ててほしい、私のことだけ考えてほしい、私にだけ笑いかけてほしい、私にだけ弱音を吐いて欲しい、誰といても私のことを考えててほしい……つらつらつらつらアイリスは語っていた。
「こういう感情、リディアナにはないでしょ? やっぱりフィンがいい感じに変わったからさ」
「う~ん『私だけに』ってのは確かに……私に見せてくれたらめちゃくちゃ嬉しいってのはあるけど……」
「そこなんだよね~あたし他人にやられたら絶対嫉妬しちゃうし」
そう感じたからこそ、アイリスは私とフィンリー様の関係性に納得がいったのだそうだ。
「ああでも……だからって安心したらだめだよ」
すでに半分ケーキを食べ終わっているアイリスが真剣な表情になった。
「フィン。たぶんリディアナのためなら死ねるって思ってるね。そういうところは変わってないよ」
自己犠牲精神はそのまま。そういう覚悟がある顔だと。
「アレンも同じ顔なんだよね。まあ村でそういう風に育てられてるからってのが大きいんだけど……」
今度は寂しそうな笑い顔になった。自分の場合は条件付きなのだと、アレンの覚悟は彼の中から生まれたものではないというのがたまらなく切ないんだそうだ。
「うぅ……こういうのが一方的な感情って気がして虚しい~~~」
「一方的じゃないかもしれないじゃん」
アイリスは落ち込んでいるが、実際アレンはアイリスを大切にしている。
(どういう『大切』かってのが重要なんだろうけどねぇ)
こういう悩みも恋の醍醐味なんじゃないだろうかと、わかったような考えが浮かぶ。……実際のところ、私が恋心など理解しているか怪しいのだが……。
「尊い感情だよ~」
「でもでもでも! あたしの回りピュアピュアばっかだから自分が業の深さが際立ってガチ凹む!」
最近じゃあ恋愛話で一番話が合うのはレオハルト、というところで私は反応に困ってしまう。なんとなくレオハルトに靡かないことを批判された気になってしまうのだ。完全なる被害妄想だとはわかっているのだが……。
「言っとくけど、今わりとちゃんと向き合ってるからね!?」
「知ってる知ってる。だから最近レオは変な荒れ方しなくなったもんね。私へのヤキモチも減ったし」
それは知らなかった。はたから見るとレオハルトにもちゃんとした変化があったのか。
世界は、私達はいい風に変わってる。予知夢に、来るべき日にただ怯える必要はないのだ。その先の日々のことをもっと考えてもいい気がしてきた。
「なんでまたキラキラフリフリさせたがるの? 邪魔じゃん。引っかかるし」
「え!? キラキラフリフリしてた方がいいんじゃないのか!?」
バッサリ切り捨てるアイリスにフィンリー様が戸惑っている。
今我々が議論しているのは、この国の貴族の子女が運動着として着用できるような衣類のデザインについてだ。フィンリー様の実家であるライアス領は、魔獣の素材を使ってより丈夫で動きやすい衣類の開発を進めていた。機能面で兵や冒険者向けのものが多かったが、最近はその幅を広げている。
(私が着たドレスもそうだしね~)
いい具合に話題となり、冒険者服とドレスの間となるようなデザインを目指して鋭意開発中というわけだ。
龍王の件は心配で不安で仕方がない。だからその先のことを考えることでバランスを取っている。原作の、シャーロット様の予知夢のその先が私にはあると思いたい。周囲も――フィンリー様もそう私に信じてほしくてこうして頼ってくれている。嬉しくて少しむず痒い。
「俺も冒険者風のデザインでいいんじゃないかとは言ったんだが……領のデザイナーが言うには、シンプル過ぎるとご令嬢達は嫌がるだろうと……」
渋い顔をして腕を組んでフィンリー様は頭を傾げていた。アイリスの意見も最もだと思いつつ、デザイナーの意見もわかる、と感じている。なんせこの学院内の華やかな令嬢達をいつも見ているのだから。
私とアイリスがこの件のアドバイザーとして白羽の矢が立ったのは、王都にいるリアル子女の生の意見をライアス領の担当者が求めているからだ。……ということになっている。
「あ~まあ確かに可愛いのは着たいけど……動きにくいのは本末転倒じゃん」
再びデザイン画に目を落としてアイリスはうーん……と唸っている。簡素なドレスという単語がどうしても浮かんでしまうのだ。
「ガッチガチに冒険する令嬢はあまりいないので、多少のキラキラフリフリはありですね。ワンポイントくらいならいいかもしれません」
ワンポイント……と呟くフィンリー様はいまいちピンとこないようだった。原作の彼ならありえない反応だ。
現実のフィンリー様は冒険者服のデザインの良し悪しなら語れるが、一般の令嬢が気にする流行や好まれる傾向すら把握しているか怪しい。女たらしキャラは完全に隣国の皇子ジュードの独り占め状態になっている。
「冒険者用ではなく、どちらかというと騎士団スタイルはいかがですか? 女性騎士もいますし。それよりは華やかにして、今後徐々に反応を見ながらデザインを変えていく……といった具合に」
現時点のデザインとは大幅に違うが目的は動きやすさなので、あまりズレすぎていても意味がない。
「確かに学院にも騎士団の魔術部隊を目指している令嬢がいたな……」
「ええ。なのでフリルやヒラヒラしたデザインは炎の魔術の時に危ないので、入れ込む場合は耐熱素材がいいと思います。ほらいましたよね確か、火炎系の魔術が聞かない魔獣……」
「火光獣だな!」
ふむふむ。と熱心にメモを取っている。ああフィンリー様、走り書きの文字までイケメン。
そこからはノリノリで話が進む。いつまででも続けられそうだ。
「素材がどの魔獣からか、というのは気にかけた方がいいですね」
「つまり素材となる魔獣の見た目が大事ということかな」
「そうです。なので逆に見た目のいいレア素材を使うことで売り込むのもアリかと」
「クジャク龍の羽根でも入れ込めば喜ばれそうだ」
「いいですね!」
この話題にはピンとくるものがあったのか、忘れないうちにと浮かんだアイディアも楽し気にメモに書き込んでいる。その様子をアイリスが横目で眺めていた。
その後もあれがいいこれがいい、これは怪しいこの案は使える……なんて盛り上がったところで予鈴の鐘がなる。
「ありがとう! また後で!」
無邪気な笑顔だ。
次は選択授業なのでフィンリー様は別の教室へと慌てて向かった。一方、私達がいる教室の前方には学院の職員がなにやら紙をペラリと張り付けている。
「あら。休講?」
「珍しい~」
私とアイリスが受講予定の古代文字の授業は講師急用のため休講となったので、久しぶりに二人で学生街にくり出すことにした。同じ講義を取っていた生徒達は、喜びを抑えつつも軽やかな足取りで同じく学生街へ。
「あたしさ~~~正直、リディアナがフィンに恋愛感情ないっての信用できなかったんだけどさ~」
「え!? 急に何!!?」
いつもの賑わいの中を歩きながら、吐き出すかのようにアイリスは腕を組みながら話し始めた。案外こういう雑談は人ごみの中の方が適しているとアイリスは考えているようだ。実際誰もが自分達の会話に夢中でこちらに見向きもしない。
「無自覚なのか、それとも気付いてないフリしてるだけかもって……でもなんかようやく納得できそう」
「いや、間違いなく愛はあるわよ!?」
「そういう話じゃない」
ピシャリと咎められてしまった。
「フィンってさ、原作と違うじゃん? いや、根本は同じなんだろうけど……女っけがゼロというか皆無というか……」
「……興味なさそうだよね」
元々博愛主義の傾向はあったのだ。原作のリディアナにすら目を合わせて話し合いを試みようとしていた。その一方で原作では亡き兄の元婚約者から迫られ女性不振に陥り、逆に女性を軽んじるようになってしまった。アイリスに惚れるまでは。
今回はその大事件を回避できたので博愛主義だけが残っている。そのせいか男子生徒からも非常に人気が高い。身分も年齢も関係なく慕われていた。
「闇落ちのセクシーさがないじゃん?」
「闇落ちって……」
ちょっぴり批判的な物言いをしてはみたが、言いたいことはわかる。今のフィンリー様は自分の傷を隠す必要もないので取り繕うこともない。精神面も安定しているので、色々不安事の多い我々にとって一緒にいて安心できる相手なのだ。
「これさ。完全に勝手な原作の個人解釈なんだけどさ……」
ここからは原作オタクである私の勝手な考察だ。
「原作のフィンリー様って心のどこかで救いを求めてたんだと思うんだよね」
優秀な兄の影をいつまでも感じて自分は価値のない人間だと思い込んでいたフィンリー様……だからこそ誰かを助けることで自分に価値を見出していた。だけど一方で傷ついた自分を助けて欲しかったのだ。本当は。
(で、原作ではアイリスがその心を癒してたわけだけど)
救いはあった。だけど結局最期はアイリスを助けるために自分の死を選んだ。躊躇いもなく。
「そんなフィンリー様を救えるような存在になりた~~~いと思ってたとこはある。正直……」
まあその時はまさか自分がリディアナに――彼を殺す存在に生まれ変わるとは思ってなかったけど。
「けど今は違うじゃん? 誰にでも優しいところは同じだけど、自分のためにも生きようとしてるし」
私は今、単純に一緒にいられる幸せを味わっている。フィンリー様が笑って生きている世界に感謝している。龍王の件がうまくいけば、きっとイケオジ姿をフィンリー様も拝めるはずだ。
「そうだね。貴族が親説得した上で冒険者になるってかなり思い切ってるし」
でしょう!? と、アイリスが肯定してくれて嬉しくなる。間違いなくフィンリー様にとって勇気のいる決断だったのだ。
(私が救わなきゃ! なんておこがましい考えにはならないのよね。一緒に楽しみたいって……そう思っちゃう)
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私だけ見ててほしい、私のことだけ考えてほしい、私にだけ笑いかけてほしい、私にだけ弱音を吐いて欲しい、誰といても私のことを考えててほしい……つらつらつらつらアイリスは語っていた。
「こういう感情、リディアナにはないでしょ? やっぱりフィンがいい感じに変わったからさ」
「う~ん『私だけに』ってのは確かに……私に見せてくれたらめちゃくちゃ嬉しいってのはあるけど……」
「そこなんだよね~あたし他人にやられたら絶対嫉妬しちゃうし」
そう感じたからこそ、アイリスは私とフィンリー様の関係性に納得がいったのだそうだ。
「ああでも……だからって安心したらだめだよ」
すでに半分ケーキを食べ終わっているアイリスが真剣な表情になった。
「フィン。たぶんリディアナのためなら死ねるって思ってるね。そういうところは変わってないよ」
自己犠牲精神はそのまま。そういう覚悟がある顔だと。
「アレンも同じ顔なんだよね。まあ村でそういう風に育てられてるからってのが大きいんだけど……」
今度は寂しそうな笑い顔になった。自分の場合は条件付きなのだと、アレンの覚悟は彼の中から生まれたものではないというのがたまらなく切ないんだそうだ。
「うぅ……こういうのが一方的な感情って気がして虚しい~~~」
「一方的じゃないかもしれないじゃん」
アイリスは落ち込んでいるが、実際アレンはアイリスを大切にしている。
(どういう『大切』かってのが重要なんだろうけどねぇ)
こういう悩みも恋の醍醐味なんじゃないだろうかと、わかったような考えが浮かぶ。……実際のところ、私が恋心など理解しているか怪しいのだが……。
「尊い感情だよ~」
「でもでもでも! あたしの回りピュアピュアばっかだから自分が業の深さが際立ってガチ凹む!」
最近じゃあ恋愛話で一番話が合うのはレオハルト、というところで私は反応に困ってしまう。なんとなくレオハルトに靡かないことを批判された気になってしまうのだ。完全なる被害妄想だとはわかっているのだが……。
「言っとくけど、今わりとちゃんと向き合ってるからね!?」
「知ってる知ってる。だから最近レオは変な荒れ方しなくなったもんね。私へのヤキモチも減ったし」
それは知らなかった。はたから見るとレオハルトにもちゃんとした変化があったのか。
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