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31 生意気
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あの生意気で尊大な弟がしゅんと肩をすくめている。
(私が悪者みたいじゃない!)
あのお土産の件を尋ねて以降、どんなに嫌味を言っても反論しないロニーにレミリアは困惑していた。いつも他者を見下し、悪いことの全てを母親のせいにしていた男には見えなかった。
「あんた、あの謝罪文のこと知ってんの? つい最近発行されたらしいじゃん」
「ああ。事前にグレンから聞いている」
「じゃあ王国に戻ったら針の筵なんじゃない?」
そう言ってわざと嘲笑うレミリアに、ロニーは頭を下げた。
「姉上、卑怯な真似をして陥れたこと、本当に悪かったと思っている。すまない……許してくれとは言わない……ただ今は後悔しているということを伝えたかった」
「あっそ」
平静を装っていたが、レミリアの心の中は暗くて汚れた物でぐちゃぐちゃになっていた。殺さないとは言ったが殺してしまいたいくらい憎くて憎くて仕方がなくなった。
故郷を奪われ、その上孤児院が侵略されたように感じてしまっていた。
こんなに憎悪が湧くなんて思わなかった。国外追放が決まった瞬間だって、こんな気持ちにはならなかった。
(ゴミクソやろーのままでいろよ! なに改心したフリしてんだ!)
それが何より許せなかった。
勝手にレミリアのテリトリーに入ってきて好き勝手にやってるなんて、悔しくて仕方がない。
あの孤児院はレミリアにとって心のバランスを取るのに必要な場所だった。最初こそ人気取りのためにやっていたが、あそこは完璧な令嬢を演じていたあの時期、飾らない自分でいられる唯一の空間だった。
レミリアにとって、マリロイド王国唯一の救いの場だったのだ。
「あんたは施しを与えることで優越感を得てるだけ。初めて良いことをして、良い人になった自分に酔ってるだけじゃん」
「肩書きから得てた承認欲求が、弱者を救う事で得る承認欲求に代わっただけでしょ」
「どうせそのうち飽きるくせに。何か理由をつけて無責任に手を離すに決まってる」
(ブーメランだわ……)
ロニーを傷つけるために言ったその言葉はレミリア自身に向けた言葉でもあった。まだ王国にいた時、いつも頭の片隅にあった言葉だった。
ロニーは青ざめた顔で、だが真剣に聞いている。
「なにか言ったら?」
レミリアはもっと相手を傷つける方法を探していた。何か言えと言っておきながら、ロニーが言葉を発した瞬間、ほら反省なんてしていない、という言葉を投げつけるつもりでいたのだ。
「姉上の言う通りだ……すまない……」
驚いて目を見開いたレミリアは、思わず声を上げてしまった。周りのテーブルからの視線が集まる。
「謝ることしか出来ないの!?」
これは自分でも言いがかりだとわかっている。謝れと思ってるくせにキチンと謝られたら嫌だなんて。
「孤児院で、悪いことをしたら謝るよう指導している……」
(ズルい! なんて汚い……卑怯なヤツ! これじゃあ許さない方が悪いみたいじゃない!)
そして同時に気付いてしまった。
(全然楽しくない……)
楽しいことが大好きな大賢者の弟子になったレミリアは、その思想も一緒に学んでいるようなものだ。
彼の行動原理はいつだって楽しいそう、面白そうだった。その生き方がとても良いものに感じていたレミリアは自分もそうあるよう、意識して生活していた。
(つまんない……つまんないつまんないつまんない!)
今のロニーをいたぶっても少しも気分よくならなかった。ざまぁみろとも思えなかった。
そうして大きく息を吸ってゆっくりとはきだした。
「なんてサンドバッグなの! 殴っても殴っても気持ちよくならないなんて!」
ロニーはサンドバッグが何かわからないので、姉がなにを言いたいのか理解するのに少し時間がかかった。
「どうしたどうした~痴話喧嘩か?」
近くにいた恰幅の良い男性が、微笑みながら声をかけてきた。殺伐としたテーブルが放っておけなかったようだ。
「いえ、ただの姉弟喧嘩ですわ! 騒いでしまってすみません」
咄嗟にレミリアが謝る。大声を出したのは自分だけだったからだ。
「ああ本当だ。2人とも綺麗な瞳持ちじゃないか~」
それを聞いた2人は、同時に苦虫を潰したような顔になった。男性は大笑いしながら、
「ほどほどにな~」
と言って店から出て行ったのだった。
レミリアは毒気が抜かれてしまった。あれだけ心の中で渦巻いていたどす黒い感情が急に薄らいできたのだ。
「永遠に家族じゃないんだろ」
ロニーはレミリアの変化にすぐに気が付いたようで、少しだけ口角を上げて軽口を叩く。
「はあ? 謝りにきといて生意気なんだけど」
顔は歪ませていたが、すでにやる気をなくしているのが一目瞭然だった。
「次また生意気言ったら泣いて謝るまでぶん殴ってやるから」
「そんな時はこないよ」
「それならそれでいいのよ」
そう言うとレミリアは立ち上がった。
「孤児院の子たちによろしく」
振り返りもせず、店から出て行った。
(私が悪者みたいじゃない!)
あのお土産の件を尋ねて以降、どんなに嫌味を言っても反論しないロニーにレミリアは困惑していた。いつも他者を見下し、悪いことの全てを母親のせいにしていた男には見えなかった。
「あんた、あの謝罪文のこと知ってんの? つい最近発行されたらしいじゃん」
「ああ。事前にグレンから聞いている」
「じゃあ王国に戻ったら針の筵なんじゃない?」
そう言ってわざと嘲笑うレミリアに、ロニーは頭を下げた。
「姉上、卑怯な真似をして陥れたこと、本当に悪かったと思っている。すまない……許してくれとは言わない……ただ今は後悔しているということを伝えたかった」
「あっそ」
平静を装っていたが、レミリアの心の中は暗くて汚れた物でぐちゃぐちゃになっていた。殺さないとは言ったが殺してしまいたいくらい憎くて憎くて仕方がなくなった。
故郷を奪われ、その上孤児院が侵略されたように感じてしまっていた。
こんなに憎悪が湧くなんて思わなかった。国外追放が決まった瞬間だって、こんな気持ちにはならなかった。
(ゴミクソやろーのままでいろよ! なに改心したフリしてんだ!)
それが何より許せなかった。
勝手にレミリアのテリトリーに入ってきて好き勝手にやってるなんて、悔しくて仕方がない。
あの孤児院はレミリアにとって心のバランスを取るのに必要な場所だった。最初こそ人気取りのためにやっていたが、あそこは完璧な令嬢を演じていたあの時期、飾らない自分でいられる唯一の空間だった。
レミリアにとって、マリロイド王国唯一の救いの場だったのだ。
「あんたは施しを与えることで優越感を得てるだけ。初めて良いことをして、良い人になった自分に酔ってるだけじゃん」
「肩書きから得てた承認欲求が、弱者を救う事で得る承認欲求に代わっただけでしょ」
「どうせそのうち飽きるくせに。何か理由をつけて無責任に手を離すに決まってる」
(ブーメランだわ……)
ロニーを傷つけるために言ったその言葉はレミリア自身に向けた言葉でもあった。まだ王国にいた時、いつも頭の片隅にあった言葉だった。
ロニーは青ざめた顔で、だが真剣に聞いている。
「なにか言ったら?」
レミリアはもっと相手を傷つける方法を探していた。何か言えと言っておきながら、ロニーが言葉を発した瞬間、ほら反省なんてしていない、という言葉を投げつけるつもりでいたのだ。
「姉上の言う通りだ……すまない……」
驚いて目を見開いたレミリアは、思わず声を上げてしまった。周りのテーブルからの視線が集まる。
「謝ることしか出来ないの!?」
これは自分でも言いがかりだとわかっている。謝れと思ってるくせにキチンと謝られたら嫌だなんて。
「孤児院で、悪いことをしたら謝るよう指導している……」
(ズルい! なんて汚い……卑怯なヤツ! これじゃあ許さない方が悪いみたいじゃない!)
そして同時に気付いてしまった。
(全然楽しくない……)
楽しいことが大好きな大賢者の弟子になったレミリアは、その思想も一緒に学んでいるようなものだ。
彼の行動原理はいつだって楽しいそう、面白そうだった。その生き方がとても良いものに感じていたレミリアは自分もそうあるよう、意識して生活していた。
(つまんない……つまんないつまんないつまんない!)
今のロニーをいたぶっても少しも気分よくならなかった。ざまぁみろとも思えなかった。
そうして大きく息を吸ってゆっくりとはきだした。
「なんてサンドバッグなの! 殴っても殴っても気持ちよくならないなんて!」
ロニーはサンドバッグが何かわからないので、姉がなにを言いたいのか理解するのに少し時間がかかった。
「どうしたどうした~痴話喧嘩か?」
近くにいた恰幅の良い男性が、微笑みながら声をかけてきた。殺伐としたテーブルが放っておけなかったようだ。
「いえ、ただの姉弟喧嘩ですわ! 騒いでしまってすみません」
咄嗟にレミリアが謝る。大声を出したのは自分だけだったからだ。
「ああ本当だ。2人とも綺麗な瞳持ちじゃないか~」
それを聞いた2人は、同時に苦虫を潰したような顔になった。男性は大笑いしながら、
「ほどほどにな~」
と言って店から出て行ったのだった。
レミリアは毒気が抜かれてしまった。あれだけ心の中で渦巻いていたどす黒い感情が急に薄らいできたのだ。
「永遠に家族じゃないんだろ」
ロニーはレミリアの変化にすぐに気が付いたようで、少しだけ口角を上げて軽口を叩く。
「はあ? 謝りにきといて生意気なんだけど」
顔は歪ませていたが、すでにやる気をなくしているのが一目瞭然だった。
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振り返りもせず、店から出て行った。
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