36 / 63
36 領地巡り
しおりを挟む
魔道具の設置はどこの領も順調だった。干からびた湖、川などの水量が少しずつ回復し始め、その地にいる人々の安堵の表情を見てレミリア達もほっと息をついたのだった。
帝国の魔術師達は思った以上に王国での生活を楽しんでいた。
「いやぁ最初は警戒されちゃってどうなることかと思いましたが、今はもう皆さん良くしてくれて……俺、帰る日泣いちゃいますよ……」
そう言って目を潤ませる者までいた。
「王国の魔術師からは絶対に出ない言葉ね……」
マリロイド王国の魔術師達は貴族の子弟が多く、皆プライドが高い。実力はお墨付きだが少々傲慢でもあるのだ。
「今回こちらに派遣された魔術師は平民出身の者が多かったので故郷を思い出したのかもしれません」
レミリアはフロイドと一緒に飛竜に乗って領地を周っていた。いつも穏やかなフロイドが初めてジェットコースターに乗った子供のようにはしゃいでいたので、レミリアはそれがとても面白く愛おしい気持ちになったのだった。
「さあ、次は……グレンのとこね」
元王太子従者グレンがいるのは辺境伯の領地と隣り合った小さな領だった。ここも魔物の森に接しているのでジリ貧状態に陥っており、魔道具の講習には領主の側近が参加していた。
レミリアは少し気が重いと感じつつも、戦闘態勢に入り気合いを入れ直す。どんな嫌味を言ってやろうかと脳内で何度もシミュレーションをするのだった。
(大好きな王都から追い出されて可哀想でちゅね~? いや、シンプルに都落ちざまぁみろ?)
一番最初にレミリアを出迎えたのは、グレンの一番上の兄だった。
「レミリア様! この度は愚弟があのようなことをしでかしてしまい……なんとお詫びしてよいかわかりません!!!」
頭を地面に叩きつけての謝罪にレミリアは面食らってしまった。その後ろにいる家臣たちも同様に頭を地面につけ始めたのでレミリアは慌てて頭を上げるように言った。
「こ、今回はその話ではなく魔道具の確認をしにきただけですので……」
しかしグレンの兄は決して頭を上げようとはしなかった。
「弟があのようになってしまったのには我々にも責任があるのです。……優秀な弟をもてはやし、王太子の従者にまでなった時はそれはもう領主よりも立派な存在として扱ってきました……いつの間にか横柄な態度を取るようになっても我々はそれを許していたのです……」
(あの国王とはどえらい違いね……)
レミリアは実際その家族までは恨んでいなかった。あくまで個人的に気に食わない相手が復讐の対象だと考えていた。アルベルト、ユリア、グレン、ロニー、カイルだ。レミリアの父親と国王は腹立たしい存在ではあるど、こちらに敵意を向けない限り何をするつもりもない。
「……その件については今はお話ししたくないのです。いい思い出ではありませんので。ですが彼が憎いからといってこの領地や領民を無下に扱うつもりはありませんのでご安心を」
「うっ……うぅ……申し訳ございません……申し訳ございません……お慈悲に感謝いたします」
(この兄、なかなか激情型だな……)
だがここまでこの兄が必死になる理由がすぐに分かった。
「は? 誰も来てないんですか!?」
この領地には王国の魔術師も帝国の魔術師も入っていなかった。どちらも王国側の采配で派遣される。騎士団だけは一度やってきて大きな魔物を退治してくれたらしいが、またすぐに別の領へと討伐に向かったらしい。
「レミリア様の怒りに触れたせいだとばかり思っておりまして……」
「そもそも初めの頃は国外追放のままだったからそれは無理ですよ」
「そうですね……」
王国内はすでに割れているのだ。王太子が次の王に相応しくないと考える一団がいるのだろう。王太子の側近であるグレンについてもその対象になっていたに違いない。
幸いなことにこの領地は湧水が枯れなかったので水に関する問題はそこまで酷くならなかったが、魔物に関してはかなり苦労しているようで、グレンは今結界周辺でずっと待機しているらしい。
「ですので、グレンと顔を合わせることは決してありませんので! どうかご安心を!」
「……わかったわ」
王国側から大賢者の弟子の要望に関しては届いといたようだ。
グレンは今、領地でも針の筵だった。
レミリアは結局この領地で魔道具の確認よりも先に、傷ついた領民達へ回復魔法をかけることに注力することになった。領民総出で戦っているようで、子供達が怯えている姿に心が痛んだ。
「まだ帝国の魔術師が引き上げるまでしばらくあります。すぐに連絡してこちらに加勢に来させましょう」
フロイドはそう言ってすぐに書面を用意した。
「……そういえば領主様は?」
いつまで経っても挨拶に出てこない領主を思い出したレミリアは少し気分を悪くしていた。兄とは違い、父親は息子は悪くない! というタイプの身内かもしれないと身構えた。パーティで会ったグレンの父親はそれはもう息子を自慢していた。一族の誇りだと。
「父は先日、魔物に捕食されてしまいまして……遺体もないのです……」
「……え?」
「まだ領民には伏せておりまして。士気に関わりますので」
申し訳ございませんと呟き、目を伏せて、仕方がないことだと諦めた様子のグレンの兄をみて、レミリアは何と声をかけていいかわからなかった。
「お父様は貴方のような立派な跡継ぎがおられて安心してらっしゃると思いますよ」
肩に手を置き、そうフロイドがそう伝えているのをただ見つめていた。
帝国の魔術師達は思った以上に王国での生活を楽しんでいた。
「いやぁ最初は警戒されちゃってどうなることかと思いましたが、今はもう皆さん良くしてくれて……俺、帰る日泣いちゃいますよ……」
そう言って目を潤ませる者までいた。
「王国の魔術師からは絶対に出ない言葉ね……」
マリロイド王国の魔術師達は貴族の子弟が多く、皆プライドが高い。実力はお墨付きだが少々傲慢でもあるのだ。
「今回こちらに派遣された魔術師は平民出身の者が多かったので故郷を思い出したのかもしれません」
レミリアはフロイドと一緒に飛竜に乗って領地を周っていた。いつも穏やかなフロイドが初めてジェットコースターに乗った子供のようにはしゃいでいたので、レミリアはそれがとても面白く愛おしい気持ちになったのだった。
「さあ、次は……グレンのとこね」
元王太子従者グレンがいるのは辺境伯の領地と隣り合った小さな領だった。ここも魔物の森に接しているのでジリ貧状態に陥っており、魔道具の講習には領主の側近が参加していた。
レミリアは少し気が重いと感じつつも、戦闘態勢に入り気合いを入れ直す。どんな嫌味を言ってやろうかと脳内で何度もシミュレーションをするのだった。
(大好きな王都から追い出されて可哀想でちゅね~? いや、シンプルに都落ちざまぁみろ?)
一番最初にレミリアを出迎えたのは、グレンの一番上の兄だった。
「レミリア様! この度は愚弟があのようなことをしでかしてしまい……なんとお詫びしてよいかわかりません!!!」
頭を地面に叩きつけての謝罪にレミリアは面食らってしまった。その後ろにいる家臣たちも同様に頭を地面につけ始めたのでレミリアは慌てて頭を上げるように言った。
「こ、今回はその話ではなく魔道具の確認をしにきただけですので……」
しかしグレンの兄は決して頭を上げようとはしなかった。
「弟があのようになってしまったのには我々にも責任があるのです。……優秀な弟をもてはやし、王太子の従者にまでなった時はそれはもう領主よりも立派な存在として扱ってきました……いつの間にか横柄な態度を取るようになっても我々はそれを許していたのです……」
(あの国王とはどえらい違いね……)
レミリアは実際その家族までは恨んでいなかった。あくまで個人的に気に食わない相手が復讐の対象だと考えていた。アルベルト、ユリア、グレン、ロニー、カイルだ。レミリアの父親と国王は腹立たしい存在ではあるど、こちらに敵意を向けない限り何をするつもりもない。
「……その件については今はお話ししたくないのです。いい思い出ではありませんので。ですが彼が憎いからといってこの領地や領民を無下に扱うつもりはありませんのでご安心を」
「うっ……うぅ……申し訳ございません……申し訳ございません……お慈悲に感謝いたします」
(この兄、なかなか激情型だな……)
だがここまでこの兄が必死になる理由がすぐに分かった。
「は? 誰も来てないんですか!?」
この領地には王国の魔術師も帝国の魔術師も入っていなかった。どちらも王国側の采配で派遣される。騎士団だけは一度やってきて大きな魔物を退治してくれたらしいが、またすぐに別の領へと討伐に向かったらしい。
「レミリア様の怒りに触れたせいだとばかり思っておりまして……」
「そもそも初めの頃は国外追放のままだったからそれは無理ですよ」
「そうですね……」
王国内はすでに割れているのだ。王太子が次の王に相応しくないと考える一団がいるのだろう。王太子の側近であるグレンについてもその対象になっていたに違いない。
幸いなことにこの領地は湧水が枯れなかったので水に関する問題はそこまで酷くならなかったが、魔物に関してはかなり苦労しているようで、グレンは今結界周辺でずっと待機しているらしい。
「ですので、グレンと顔を合わせることは決してありませんので! どうかご安心を!」
「……わかったわ」
王国側から大賢者の弟子の要望に関しては届いといたようだ。
グレンは今、領地でも針の筵だった。
レミリアは結局この領地で魔道具の確認よりも先に、傷ついた領民達へ回復魔法をかけることに注力することになった。領民総出で戦っているようで、子供達が怯えている姿に心が痛んだ。
「まだ帝国の魔術師が引き上げるまでしばらくあります。すぐに連絡してこちらに加勢に来させましょう」
フロイドはそう言ってすぐに書面を用意した。
「……そういえば領主様は?」
いつまで経っても挨拶に出てこない領主を思い出したレミリアは少し気分を悪くしていた。兄とは違い、父親は息子は悪くない! というタイプの身内かもしれないと身構えた。パーティで会ったグレンの父親はそれはもう息子を自慢していた。一族の誇りだと。
「父は先日、魔物に捕食されてしまいまして……遺体もないのです……」
「……え?」
「まだ領民には伏せておりまして。士気に関わりますので」
申し訳ございませんと呟き、目を伏せて、仕方がないことだと諦めた様子のグレンの兄をみて、レミリアは何と声をかけていいかわからなかった。
「お父様は貴方のような立派な跡継ぎがおられて安心してらっしゃると思いますよ」
肩に手を置き、そうフロイドがそう伝えているのをただ見つめていた。
36
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、
冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまう
リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、
悪役令嬢として断罪された少女が、
「誰かの物語の脇役」ではなく、
自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、
彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
婚約破棄されたので、慰謝料で「国」を買うことにしました。~知識ゼロの私ですが、謎の魔導書(AI)に従ったら、いつの間にか王家のオーナーに~
ジョウジ
ファンタジー
「セレスティア、貴様との婚約を破棄する!」 卒業パーティーで王子に断罪された公爵令嬢セレスティア。
慰謝料も貰えず、腹いせに立ち寄った古道具屋のワゴンセール。 そこでたった銅貨数枚(100円)で買った「黒い手鏡(スマホ)」を起動した瞬間、運命が変わる。
『警告。3年後の国家破綻およびマスターの処刑確率は99.9%です』 「はあ!? 死ぬのは嫌! それに、戦争が起きたら推し(アルド様)が死んじゃうじゃない!」
知識ゼロ、あるのは魔力と行動力、そして推しへの愛だけ。 パニックになった彼女は、スマホに宿るAI(ジェミニ)の極悪な経済作戦を、自分に都合よく「超訳」して実行に移す。
「敵対的買収……? 要するに、お店の借金を肩代わりして『オーナー』になれば、商品は全部タダ(私のもの)ってことね!?」
これは、内心ガクブルの悪役令嬢が、AIの指示を「素敵なお買い物」と勘違いしたまま国を経済支配し、 結果的に「慈悲深い聖女」「経営の天才」と崇められていく、痛快・勘違い無双コメディ!
※全10話の短期集中連載です。お正月のお供にどうぞ!
※テンポを重視してダイジェスト10話版となります。反響があれば長編の執筆を開始します!
※本作は、物語の構想・執筆補助にAI技術を活用し制作されました。
※小説家になろう・カクヨムにも投稿
王国最強の天才魔導士は、追放された悪役令嬢の息子でした
由香
ファンタジー
追放された悪役令嬢が選んだのは復讐ではなく、母として息子を守ること。
無自覚天才に育った息子は、魔法を遊び感覚で扱い、王国を震撼させてしまう。
再び招かれたのは、かつて母を追放した国。
礼儀正しく圧倒する息子と、静かに完全勝利する母。
これは、親子が選ぶ“最も美しいざまぁ”。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
【完結】悪役令嬢ですが、元官僚スキルで断罪も陰謀も処理します。
かおり
ファンタジー
異世界で悪役令嬢に転生した元官僚。婚約破棄? 断罪? 全部ルールと書類で処理します。
謝罪してないのに謝ったことになる“限定謝罪”で、婚約者も貴族も黙らせる――バリキャリ令嬢の逆転劇!
※読んでいただき、ありがとうございます。ささやかな物語ですが、どこか少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
婚約破棄されたので隣国で働きます ~追放侯爵令嬢、才覚だけで王妃候補に成り上がる~
鷹 綾
恋愛
内容紹介
王宮改革は、英雄の一声では成し遂げられない。
王太子に招かれ、王宮顧問として改革に携わることになった
ルビー・エルヴェール。
彼女が選んだ道は、力で押し切る改革でも、敵を断罪する粛清でもなかった。
評価制度の刷新、情報公開、説明責任、緊急時の判断、責任の分配――
一つひとつの制度は正しくても、人の恐れや保身が、改革を歪めていく。
噂に揺れ、信頼が試され、
「正しさ」と「速さ」、
「個人の覚悟」と「組織の持続性」が、幾度も衝突する。
それでもルビーは、問い続ける。
――制度は、誰のためにあるのか。
――信頼とは、守るものか、耐えるものか。
――改革者は、いつ去るべきなのか。
やがて彼女は、自らが築いた制度が
自分なしでも動き始めたことを確かめ、静かに王宮を去る。
残されたのは、名前の残らない改革。
英雄のいない成功。
だが確かに「生き続ける仕組み」。
これは、
誰かが称えられるための物語ではない。
考えることを許し、責任を分かち合う――
その文化を残すための、40話の改革譚。
静かで、重く、そして誠実な
“大人のための王宮改革ファンタジー”。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます
なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。
過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。
魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。
そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。
これはシナリオなのかバグなのか?
その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。
【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる