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第二章 錬金術店の毎日
第1話 雪の日
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それはとある雪の日のことだった。
「うわ! 王都ってこんなに雪が積るの!!?」
店前の道には膝のあたりまで雪が積もっていた。トーナの店の前は昨夜、錬金術で作った融雪剤まいていたお陰でなんともないが、周囲の店舗や家の前では雪かきで四苦八苦している人々が羨ましそうにトーナの店の方を見ていた。
「そんな商品置いてたのか~」
「ちょっと試しで作ってみたんですよ。まさかここまで積もるとは……」
「是非この時期は店に置いといてくれ~~~」
うんうん。と、他の周辺住人達も頷いている。
「ここ数年は毎年こんな感じなんだ」
「へぇ~気候変動?」
「錬金術師は難しい言葉を使うなぁ」
ベルチェと2人、ご近所さん付き合いも兼ねて雪かきの手伝いだ。風の魔法で雪を通りの端にまとめる。その雪を使って鼻先が赤くなっている子供達がキャーキャーと遊んでいた。
「ほら。こっちおいで」
トーナはその子達の手に保温クリームを塗る。すぐにポカポカと暖かくなった手をお互いのほっぺたにくっつけて、またワーワーと騒ぎながら雪遊びを再開していた。
噴水のある小さな広場からはいい匂いが。いつの間にか各家庭から鍋を持ち合って暖かいスープを作っている。
(暖をとるタイプのアイテムを増やそう!)
冒険者向けに出していた保温クリームもトーナの店の常連から人気があった。トーナはそれをたまたまだと、季節商品の人気を甘く見ていたのだ。すぐに品薄になってしまった。
「25年前まではこれほど雪が降ることはなかったと記憶しています」
ベルチェがまだ王都にいた頃はここまでの積雪はなかったという話だから、ご近所さんの言う通りここ近年状況が変わってきたのだ。
「ユルスの木灰です」
「ありがと」
ベルチェが天秤からトーナに小さく光る粒の入った真っ黒の灰を渡した。それをドロリとした液体の入った錬金鍋の中へ入れ、魔力を注ぎながら急いでかき混ぜる。するとポロポロと小さな粒が鍋の中を満たし始めた。
「おっし。開店に間に合った!」
「随分手際が良くなりましたね」
「ベルチェに言われると嬉しい~!」
彼が言うことはいつだって本当だ。おべっかではない。実際トーナは作り慣れたポーション以外の錬金術のアイテムでも、ベルチェの言う通りぱっぱと作れるようになったという自覚があった。
昨夜追加した保温クリームと一緒に融雪剤を並べた頃には、店の前にご近所さんの影が見えた。ちょうど開店時間だ。
新商品は多めに用意していたにも関わらずあっという間に売り切れた。
「あ~これで腰痛用にポーション買わずにすむなぁ」
冒険者達はやっとこさ辿り着いたエルキア通りに出た途端、道が随分歩きやすくなっていることに驚いた。そしてその理由がトーナの錬金術店にあることにもすぐに気が付くことになる。
「えぇぇ! 保温クリーム売り切れ!?」
冒険者宿の隙間風に耐えられず、すべて使い切ってしまった者が相次いでいた。
「ごめんなさーい! 今作ってるから出せるの夕方になりそう」
またあの雪の坂道を行き来するのかと冒険者達は絶望するようにガックリと項垂れた。
「この先の広場、焚火台出してるぞ」
他の客が見かねて声をかけると、
「た、助かった~!!!」
心底ほっとした、という顔になった。
その焚火台には、トーナが作ったサミルアの木炭が使われていた。これは一昔前の錬金術師が日常的に錬金術のアイテムを作る際に利用していた。魔術よりも長時間安定して火力を保てる優れものだ。
(今はいい魔道具が出てるもんねぇ)
最近は専らコンロのような魔道具を使う錬金術師が多い。トーナも今はその1人だ。だが彼女は長年旅を続けていたので、この木炭は日常的に使っていた。それに店内でもこの木炭を火鉢に入れて使っていたお陰で、今日も寒さを感じずに過ごせている。
トーナが作ったこのサミルアの木炭は、通常の木炭よりさらに持ちがよい上に煙も少ない。温度も高いので今日のような日には暖をとるのにこれ以上のものはないと好評だった。
(なにより一酸化炭素中毒にならないって言うのが錬金術って感じですごい気がするのよね~)
前世の知識があるからこそトーナは驚くが、その話をフィアルヴァ以外の人間にしてもポカンとされるだけだった。
「この木炭は売らないのか?」
お客の期待に満ちた目を感じる。上流階級では魔道具の暖房器具が出回り始めているが、まだまだ高価なものだ。一般の家庭は火鉢や暖炉を利用している。
「イザルテの錬金術店には置いてないもんな~」
「あの店は金持ち向けだからしかたねぇよ。魔道具備え付けの家に住んでたら必要ないだろうし」
通常使っている薪より多少割高でも欲しい、という声が相次いでいた。
「うーん。作るのに時間がかかるんですよね~1度作っちゃえばポーションと違って長くは置いておけるけど……」
トーナは腕を組んで悩んだ。自分で使う分はすでに準備していたが、材料を確保するところから始めるとなると出来上がるまで半月はかかりそうだと。
「寒さはまだだこれからだし、是非検討してくれ!」
「まだまだこれから!?」
(王都の寒さ舐めてたー!)
それで結局、本日2品目の新たな商品が決まった。
「トーナさ~ん! かぁちゃんが持ってけって~!!!」
朝方トーナが手に保温クリームを塗った子供達が籠を持って店へとやってきた。
「うわ! いい匂い~!!!」
店の中に香ばしい肉の香りが広がった。
「ガジ肉の煮込みだって~」
「ありがと! 大好きなやつだ!」
それを聞いて子供達は嬉しそうにしている。
ご近所付き合いも上々だ。極寒の冬が待っていたとしても、なんとか乗り越えられそうだとトーナはもう一度料理の香りをかぎながら考えていた。
「うわ! 王都ってこんなに雪が積るの!!?」
店前の道には膝のあたりまで雪が積もっていた。トーナの店の前は昨夜、錬金術で作った融雪剤まいていたお陰でなんともないが、周囲の店舗や家の前では雪かきで四苦八苦している人々が羨ましそうにトーナの店の方を見ていた。
「そんな商品置いてたのか~」
「ちょっと試しで作ってみたんですよ。まさかここまで積もるとは……」
「是非この時期は店に置いといてくれ~~~」
うんうん。と、他の周辺住人達も頷いている。
「ここ数年は毎年こんな感じなんだ」
「へぇ~気候変動?」
「錬金術師は難しい言葉を使うなぁ」
ベルチェと2人、ご近所さん付き合いも兼ねて雪かきの手伝いだ。風の魔法で雪を通りの端にまとめる。その雪を使って鼻先が赤くなっている子供達がキャーキャーと遊んでいた。
「ほら。こっちおいで」
トーナはその子達の手に保温クリームを塗る。すぐにポカポカと暖かくなった手をお互いのほっぺたにくっつけて、またワーワーと騒ぎながら雪遊びを再開していた。
噴水のある小さな広場からはいい匂いが。いつの間にか各家庭から鍋を持ち合って暖かいスープを作っている。
(暖をとるタイプのアイテムを増やそう!)
冒険者向けに出していた保温クリームもトーナの店の常連から人気があった。トーナはそれをたまたまだと、季節商品の人気を甘く見ていたのだ。すぐに品薄になってしまった。
「25年前まではこれほど雪が降ることはなかったと記憶しています」
ベルチェがまだ王都にいた頃はここまでの積雪はなかったという話だから、ご近所さんの言う通りここ近年状況が変わってきたのだ。
「ユルスの木灰です」
「ありがと」
ベルチェが天秤からトーナに小さく光る粒の入った真っ黒の灰を渡した。それをドロリとした液体の入った錬金鍋の中へ入れ、魔力を注ぎながら急いでかき混ぜる。するとポロポロと小さな粒が鍋の中を満たし始めた。
「おっし。開店に間に合った!」
「随分手際が良くなりましたね」
「ベルチェに言われると嬉しい~!」
彼が言うことはいつだって本当だ。おべっかではない。実際トーナは作り慣れたポーション以外の錬金術のアイテムでも、ベルチェの言う通りぱっぱと作れるようになったという自覚があった。
昨夜追加した保温クリームと一緒に融雪剤を並べた頃には、店の前にご近所さんの影が見えた。ちょうど開店時間だ。
新商品は多めに用意していたにも関わらずあっという間に売り切れた。
「あ~これで腰痛用にポーション買わずにすむなぁ」
冒険者達はやっとこさ辿り着いたエルキア通りに出た途端、道が随分歩きやすくなっていることに驚いた。そしてその理由がトーナの錬金術店にあることにもすぐに気が付くことになる。
「えぇぇ! 保温クリーム売り切れ!?」
冒険者宿の隙間風に耐えられず、すべて使い切ってしまった者が相次いでいた。
「ごめんなさーい! 今作ってるから出せるの夕方になりそう」
またあの雪の坂道を行き来するのかと冒険者達は絶望するようにガックリと項垂れた。
「この先の広場、焚火台出してるぞ」
他の客が見かねて声をかけると、
「た、助かった~!!!」
心底ほっとした、という顔になった。
その焚火台には、トーナが作ったサミルアの木炭が使われていた。これは一昔前の錬金術師が日常的に錬金術のアイテムを作る際に利用していた。魔術よりも長時間安定して火力を保てる優れものだ。
(今はいい魔道具が出てるもんねぇ)
最近は専らコンロのような魔道具を使う錬金術師が多い。トーナも今はその1人だ。だが彼女は長年旅を続けていたので、この木炭は日常的に使っていた。それに店内でもこの木炭を火鉢に入れて使っていたお陰で、今日も寒さを感じずに過ごせている。
トーナが作ったこのサミルアの木炭は、通常の木炭よりさらに持ちがよい上に煙も少ない。温度も高いので今日のような日には暖をとるのにこれ以上のものはないと好評だった。
(なにより一酸化炭素中毒にならないって言うのが錬金術って感じですごい気がするのよね~)
前世の知識があるからこそトーナは驚くが、その話をフィアルヴァ以外の人間にしてもポカンとされるだけだった。
「この木炭は売らないのか?」
お客の期待に満ちた目を感じる。上流階級では魔道具の暖房器具が出回り始めているが、まだまだ高価なものだ。一般の家庭は火鉢や暖炉を利用している。
「イザルテの錬金術店には置いてないもんな~」
「あの店は金持ち向けだからしかたねぇよ。魔道具備え付けの家に住んでたら必要ないだろうし」
通常使っている薪より多少割高でも欲しい、という声が相次いでいた。
「うーん。作るのに時間がかかるんですよね~1度作っちゃえばポーションと違って長くは置いておけるけど……」
トーナは腕を組んで悩んだ。自分で使う分はすでに準備していたが、材料を確保するところから始めるとなると出来上がるまで半月はかかりそうだと。
「寒さはまだだこれからだし、是非検討してくれ!」
「まだまだこれから!?」
(王都の寒さ舐めてたー!)
それで結局、本日2品目の新たな商品が決まった。
「トーナさ~ん! かぁちゃんが持ってけって~!!!」
朝方トーナが手に保温クリームを塗った子供達が籠を持って店へとやってきた。
「うわ! いい匂い~!!!」
店の中に香ばしい肉の香りが広がった。
「ガジ肉の煮込みだって~」
「ありがと! 大好きなやつだ!」
それを聞いて子供達は嬉しそうにしている。
ご近所付き合いも上々だ。極寒の冬が待っていたとしても、なんとか乗り越えられそうだとトーナはもう一度料理の香りをかぎながら考えていた。
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