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6 お仕事
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陸の初仕事は小さな島へ物資を運ぶことだった。
この港からそう離れていない小島に屋敷を建て暮らしている貴族がおり、その人物はグレイズ商会……ライドにとっての恩人らしい。
「偏屈なじじいだけどな。ほっとくわけにはいかねぇんだ」
それほど離れていないにも関わらず、魔物が海の中に蔓延っており、船を出すことが出来なかった。
「モンスター……魔物を退治する人はいないんですか?」
(軍隊とか……魔術部隊とか!)
この商船の周りも同じように大きな船がたくさん停泊している。だが軍艦のよう船には見えなかった。
「海軍は1度こっぴどくやられちまってな……専門家待ちなんだ」
「専門家?」
「海の魔物に強い冒険者がいるのです」
「冒険者……!」
(うぉぉぉ! 激アツじゃん!)
初日は不安が大きかったが、どんどんと楽しい単語が出てくる。陸の顔がぱっと明るくなった。だが冒険者になりたいとは思わない。
(雇われの方が気楽だよな)
冒険者がいる世界で生活出来るだけで満足だった。
「異世界って不思議だなぁ。どうやって暮らしてるんだ?」
「魔物がいないという話ですから、怖いのは同じ人間くらいでしょう」
ライドは冒険者もいない世界が想像できないようだった。
「俺からすればこちらの方が不思議ですよ」
陸は苦笑いしながら答えた。
「ですがリックさんはこちらの方が暮らしやすいのでは?」
レギーは陸にいつまでもこの商会にいてもらいたい。大きな商会には、たいてい瞬間移動のスキル持ちがいる。フリーのスキル持ちに会えるなんてまたとないチャンスだ。陸のことをなんとか引き入れたかった。
「確かにそういう面もあります」
その言葉にレギーは嬉しそうな顔をした。陸はこのグレイズ商会にしばらく世話になりたい旨は伝えていたが、具体的な期間や雇用条件は、今回の仕事後という話になっているのだ。
「でもやっぱり、元の世界には帰りたいです」
陸はやはり元の世界が恋しい。もしかしたらテレポートの瞬間が映像に残され大騒ぎになっているかもしれないが、それでもやはり長年住んでいた世界が自分の居場所に感じていた。帰れないと思えばなおさら。
「おいおいレギー。珍しく考えが丸わかりだぞ」
「……すみません」
ライドはレギーを諫めた。今回の件を協力してもらえるだけでありがたいという考えだ。だがそれも商会のトップとしていいのかと陸は心のなかで苦笑した。
(まあこういう人だからこそ、あれだけの部下に慕われてるんだろうな)
平社員の陸にはわからない世界だ。……なんて思っていたが、この異世界でついに陸にも部下が出来た。昨夜助けた小さな少年だ。
「この年にしてはしっかりしています。読み書きも出来ますし、そのあたりリックさんの助けになるかと」
「えぇぇ!? いいんですかね……?」
「何がです? 他は手が足りていますし、何よりあなたが助けたようなものです。バシバシ働かせてください」
ほら、と挨拶を促された少年は緊張気味に背筋をピンと伸ばした。くせ毛なのかクルクルした淡い金髪に瞳は深いグリーンだった。まだ服もボロボロで顔も汚れていたが、殴られた後はもうない。すでにヒールで治療済みだった。太陽の下でみると、彼が美少年だということがわかる。
「ニ、ニコラスです! 昨夜はありがとうございました……! よ、よろしくお願いします!」
「よ、よろしくね」
(いいのかなぁ……)
小さな子供を大人と同じように働かせることに抵抗があったのだ。陸だってバイトを始めたのは15歳、高校生になってからだ。
ニコラスは10歳。父親は漁師でちょうど近海に魔物が出始めた頃、運悪く出くわし命を落とした。2か月前のことだった。父と子の2人暮らしで、他に身寄りもいないという話だ。2か月も1人で生きてたのかと思うと、陸は胸が苦しくなった。
元の世界ではこのくらいの子は遊び盛りだろう。陸は親こそいなかったが、安全な寝床で飢えることなく暮らしていた。そんな子もこの世界では下手すると鞭で打たれ、腕を切り落とされていたかもしれない。
商会はいつのまにか荷車を何台も用意していた。陸のスキル能力を確かめた後すぐに手配したらしい。そこに食料を中心にあれこれと積み込んでいる。ニコラスが一生懸命、積み荷の内容をメモしているのが見えた。
(本当に急いでいたんだな)
昨日の今日であっという間だ。その小島には2か月誰も近づけていない。小さな畑やニワトリもいるのですぐに食料がなくなることはないはずだが、実際はどうなっているかわからないという話だ。
「おし! それじゃあ行ってくる」
「くれぐれも気を付けて」
レギーや見送りの船員達の表情が険しい。どうやら本当に危ないエリアなのだと、陸は冷や汗がでてきたのがわかった。
まずはライドと2人だけで小島まで向かう。現地の確認後、改めて荷物を運ぶのだ。
「上の方に移動してくれ。落下しながら島の場所の確認するからよ」
念のため腰回りに短くロープを結ぶ。移動先で離れてしまわないように。
「なぁに大丈夫。空まではアイツらの攻撃は届かねぇ。3、4回スキル……なんだっけ? テレポート、すれば島には着くさ」
「ハハハ……ガンバリます」
(アイツらって! 複数いるのか……!)
陸の緊張はあっさりバレていた。
手を繋ぐのはなんとなく恥ずかしいので、ガシっとライドの肩をつかむ。
「行きます!」
「おう!」
音もなく陸たちは空へと移動した。
この港からそう離れていない小島に屋敷を建て暮らしている貴族がおり、その人物はグレイズ商会……ライドにとっての恩人らしい。
「偏屈なじじいだけどな。ほっとくわけにはいかねぇんだ」
それほど離れていないにも関わらず、魔物が海の中に蔓延っており、船を出すことが出来なかった。
「モンスター……魔物を退治する人はいないんですか?」
(軍隊とか……魔術部隊とか!)
この商船の周りも同じように大きな船がたくさん停泊している。だが軍艦のよう船には見えなかった。
「海軍は1度こっぴどくやられちまってな……専門家待ちなんだ」
「専門家?」
「海の魔物に強い冒険者がいるのです」
「冒険者……!」
(うぉぉぉ! 激アツじゃん!)
初日は不安が大きかったが、どんどんと楽しい単語が出てくる。陸の顔がぱっと明るくなった。だが冒険者になりたいとは思わない。
(雇われの方が気楽だよな)
冒険者がいる世界で生活出来るだけで満足だった。
「異世界って不思議だなぁ。どうやって暮らしてるんだ?」
「魔物がいないという話ですから、怖いのは同じ人間くらいでしょう」
ライドは冒険者もいない世界が想像できないようだった。
「俺からすればこちらの方が不思議ですよ」
陸は苦笑いしながら答えた。
「ですがリックさんはこちらの方が暮らしやすいのでは?」
レギーは陸にいつまでもこの商会にいてもらいたい。大きな商会には、たいてい瞬間移動のスキル持ちがいる。フリーのスキル持ちに会えるなんてまたとないチャンスだ。陸のことをなんとか引き入れたかった。
「確かにそういう面もあります」
その言葉にレギーは嬉しそうな顔をした。陸はこのグレイズ商会にしばらく世話になりたい旨は伝えていたが、具体的な期間や雇用条件は、今回の仕事後という話になっているのだ。
「でもやっぱり、元の世界には帰りたいです」
陸はやはり元の世界が恋しい。もしかしたらテレポートの瞬間が映像に残され大騒ぎになっているかもしれないが、それでもやはり長年住んでいた世界が自分の居場所に感じていた。帰れないと思えばなおさら。
「おいおいレギー。珍しく考えが丸わかりだぞ」
「……すみません」
ライドはレギーを諫めた。今回の件を協力してもらえるだけでありがたいという考えだ。だがそれも商会のトップとしていいのかと陸は心のなかで苦笑した。
(まあこういう人だからこそ、あれだけの部下に慕われてるんだろうな)
平社員の陸にはわからない世界だ。……なんて思っていたが、この異世界でついに陸にも部下が出来た。昨夜助けた小さな少年だ。
「この年にしてはしっかりしています。読み書きも出来ますし、そのあたりリックさんの助けになるかと」
「えぇぇ!? いいんですかね……?」
「何がです? 他は手が足りていますし、何よりあなたが助けたようなものです。バシバシ働かせてください」
ほら、と挨拶を促された少年は緊張気味に背筋をピンと伸ばした。くせ毛なのかクルクルした淡い金髪に瞳は深いグリーンだった。まだ服もボロボロで顔も汚れていたが、殴られた後はもうない。すでにヒールで治療済みだった。太陽の下でみると、彼が美少年だということがわかる。
「ニ、ニコラスです! 昨夜はありがとうございました……! よ、よろしくお願いします!」
「よ、よろしくね」
(いいのかなぁ……)
小さな子供を大人と同じように働かせることに抵抗があったのだ。陸だってバイトを始めたのは15歳、高校生になってからだ。
ニコラスは10歳。父親は漁師でちょうど近海に魔物が出始めた頃、運悪く出くわし命を落とした。2か月前のことだった。父と子の2人暮らしで、他に身寄りもいないという話だ。2か月も1人で生きてたのかと思うと、陸は胸が苦しくなった。
元の世界ではこのくらいの子は遊び盛りだろう。陸は親こそいなかったが、安全な寝床で飢えることなく暮らしていた。そんな子もこの世界では下手すると鞭で打たれ、腕を切り落とされていたかもしれない。
商会はいつのまにか荷車を何台も用意していた。陸のスキル能力を確かめた後すぐに手配したらしい。そこに食料を中心にあれこれと積み込んでいる。ニコラスが一生懸命、積み荷の内容をメモしているのが見えた。
(本当に急いでいたんだな)
昨日の今日であっという間だ。その小島には2か月誰も近づけていない。小さな畑やニワトリもいるのですぐに食料がなくなることはないはずだが、実際はどうなっているかわからないという話だ。
「おし! それじゃあ行ってくる」
「くれぐれも気を付けて」
レギーや見送りの船員達の表情が険しい。どうやら本当に危ないエリアなのだと、陸は冷や汗がでてきたのがわかった。
まずはライドと2人だけで小島まで向かう。現地の確認後、改めて荷物を運ぶのだ。
「上の方に移動してくれ。落下しながら島の場所の確認するからよ」
念のため腰回りに短くロープを結ぶ。移動先で離れてしまわないように。
「なぁに大丈夫。空まではアイツらの攻撃は届かねぇ。3、4回スキル……なんだっけ? テレポート、すれば島には着くさ」
「ハハハ……ガンバリます」
(アイツらって! 複数いるのか……!)
陸の緊張はあっさりバレていた。
手を繋ぐのはなんとなく恥ずかしいので、ガシっとライドの肩をつかむ。
「行きます!」
「おう!」
音もなく陸たちは空へと移動した。
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