家入紗希より今日という日をよく知っている者はいない

夜空

文字の大きさ
2 / 3

予告状という名のラブレター ②

しおりを挟む
 時刻は8時25分。
 すこし遅いかな程度だが。新学期ならでは、早々に一年間一人で過ごすかどうかの瀬戸際の時間。
 あの後私たちはすぐに教室へと向かった。
 昇降口前、劇場のセットさながらの大階段を上がり、右に上がって2つ目の教室へ。
 ここは2-B、予告でも示されたクラスだ。
 木造旧校舎に続く渡り廊下のちょうど境目に位置する教室で、石製木製の境、廊下に奇妙なラインが横に走っていた。
 ──そして今、特に何事もなくこうして席へと着いている。

「家入さん。この前は本当にありがとうございました」

 座ってすぐ話しかけてきたのは優等生の赤崎凛《あかさきりん》だった。成績優秀、加えて男子からの評判もよく、私は勝手に彼女のことを才色兼備の体現者だと思っている。
 本人の謙遜はそこそこで、自分をあまり卑下し過ぎない性格からいらぬ反感を買うこともなく。彼女のお茶目さ、たまに調子に乗るところがまた憎めないのだ。

「大したことじゃないさ。あのペン、見つかってよかった」 
「いえ……大したことなんです。あれは祖父から貰った大切なペンで、私いくら探しても見つからなかったのに、あんなにあっさり見つけてしまうなんて……。やっぱり家入さんには探偵の、そういう才能があるんですよ、きっと」

 普段寡黙な赤崎は、その瞳からキラキラと光るものを感じる。熱、とでもいうのか。 
 
 ……才能という部分は否定しない。むしろ100%と言っていい。ただ、私は推理など欠片もしていないため、彼女は気が付かないだろうが恥ずかしさでどうにもいたたまれない。

「あー駄目だよ、赤崎さん。変におだてると調子に乗っちゃうよ」

 失礼極まりない言葉とともに、渡井は隣に席着く。

「なんだとぉー、私がいつ調子に乗ったってんだよ。いつでも私は冷静沈着美人だろうがてめぇ」
「えー。それはほら、自分にラブレターが来るとか思っちゃうトコとかさ」
「…………」

 やっぱり腹立つなコイツ。
 思わず、黙ったまま両の手で襟元を掴み上げていた。
 丁度良く渡井は座っているから、襟元がとても掴みやすい。

「ちょ……秒で矛盾してるし!! あの…と、とりあえずさ。胸ぐらをつかむのやめよ?」
「……ふーん。ところで渡井、犯罪ってバレなきゃどうってことないんだぜ。これ、知ってたか?」
 
 言って片手を離し、笑顔のまま手の形をパーからグーへ。

「いやそれ探偵の娘が言っていいことじゃないでしょうが!!」
「──手紙をもらったの、家入さん?」
 
 不意に、赤崎の顔が私と渡井の間に割って入ってきた。

「ひゃっ……、え? ああいや、そういうわけじゃなくって」
 
 あっぶねぇー。もう少しで殴り飛ばすところだった……。

「そうそう。赤い手紙でさぁ、予告みたいな──」
「ワーターラーイー??」
「あ……」
 
 口が滑ったことに気が付いたようで、咄嗟に渡井は口を押える。
『あ……』じゃないんだわ。ほぼ全部言っちゃってるのよ。
 渡井はすべてを話しはしなかったが、残念ながら聡明な赤崎の前では無意味である。彼女は話の4分の1さえあれば、あとは推測でどうにかなるタイプだ。

「えと、じゃあつまり、今までの全部盗まれてたってこと? その男に?」
「……男かどうかはさておいて、全部予告通りにはなったな」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

ジェリー・ベケットは愛を信じられない

砂臥 環
恋愛
ベケット子爵家の娘ジェリーは、父が再婚してから離れに追いやられた。 母をとても愛し大切にしていた父の裏切りを知り、ジェリーは愛を信じられなくなっていた。 それを察し、まだ子供ながらに『君を守る』と誓い、『信じてほしい』と様々な努力してくれた婚約者モーガンも、学園に入ると段々とジェリーを避けらるようになっていく。 しかも、義妹マドリンが入学すると彼女と仲良くするようになってしまった。 だが、一番辛い時に支え、努力してくれる彼を信じようと決めたジェリーは、なにも言えず、なにも聞けずにいた。 学園でジェリーは優秀だったが『氷の姫君』というふたつ名を付けられる程、他人と一線を引いており、誰にも悩みは吐露できなかった。 そんな時、仕事上のパートナーを探す男子生徒、ウォーレンと親しくなる。 ※世界観はゆるゆる ※ざまぁはちょっぴり ※他サイトにも掲載

失恋中なのに隣の幼馴染が僕をかまってきてウザいんですけど?

さいとう みさき
青春
雄太(ゆうた)は勇気を振り絞ってその思いを彼女に告げる。 しかしあっさりと玉砕。 クールビューティーで知られる彼女は皆が憧れる存在だった。 しかしそんな雄太が落ち込んでいる所を、幼馴染たちが寄ってたかってからかってくる。 そんな幼馴染の三大女神と呼ばれる彼女たちに今日も翻弄される雄太だったのだが…… 病み上がりなんで、こんなのです。 プロット無し、山なし、谷なし、落ちもなしです。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

処理中です...