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そして15年後---
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「第二王子リチャード・ヴァン・ルカルダの名において、ゼルダ・ヴァン・イーグル伯爵令嬢の罪をここに告発する!! 彼女は自らが所有する魅了スキルを乱用し、大勢の男性を弄び、婚約者との仲を引き裂き、大きな混乱と破滅を引き起こしている。また、彼女は己の身分を傘に、下級の身分の者を虐げている。特に、ここに居るテレジア・ヴァン・リーリア男爵令嬢への暴虐は目に余るものがある!! このような恐ろしい女を妻に迎えるなど、我がルカルダ王家の恥でしかない!! よって私は、王家に嫁ぐ資質なしと判明したゼルダ・ヴァン・イーグルとの婚約を破棄し、心優しく慈悲深い女神の如きテレジア嬢との婚約を宣言する!! また、数多の罪を重ねた悍ましき悪女ゼルダには王家による正義の鉄槌を下し、罰を与えることを要求する!!」
「リチャード様……わたし、嬉しいです!」
「この穢らわしい売女め!」
「しおらしく罪を認めるがいい!」
何この展開デジャヴ。どこかで見たことあるぞ。具体的に言うと前世あたりで。というか『テレジア』って、ヒロインのデフォルト名じゃねーか!
第一にして最大のフラグを叩き折ってから、早15年。
我が国--ルカルダ王国の王宮庭園で開かれた大きな式典の最中に、ぶち壊したはずの乙女ゲームの断罪イベントが始まってしまった。おかしいなぁ。隣国の侵略は止めたし、魅了スキルは魔法で封印していたし、諸事情でここ数年は国を離れてたんだけどなぁ。これが強制力ってやつか? にしてはあまりにお粗末すぎるんだが? 誰が聞いても冤罪だって分かるぞこれ。
まぁとにかく、今はあいつらをどうにかしなければ。
顔を隠すように広げていた扇をパチンと閉じる。顕になったオレの顔貌に、周囲はほうと溜息を吐き、糾弾しているはずの第二王子とヒロイン、その友人や部下という名の取り巻き達まで息を呑んで頬を染めた。………こういう反応は久しぶりだな。最近はオレの顔に慣れた連中と居ることが多かったし、今日みたいにドレスを着るのは滅多にないから居心地が悪いったらない。
『上品な深緑色の天鵞絨に銀糸で施された精緻な刺繍が光を弾くドレスは、お嬢様の鮮やかな赤い髪と白い肌をこれ以上なく映えさせ、まるで朝露に濡れた薔薇の花が如く。清らかでありながら妖艶という、得も言えぬ魅力に思わず手を伸ばしてしまいそうになるのに、冴え冴えとした気高い冬晴れの瞳が気安く触れることを許しはしない。どうか許しを、と跪いて縋り付く哀れな求愛者達が蟻のように列をなすのが目に見えるようです……ああ!お嬢様!今日も清々しいほど罪な美貌です!眼福ですありがとうございます!!』と、うちの侍女達が鼻息荒く絶賛してくれたのでオレの容姿は今日も絶好調らしい。おかげで無闇に微笑みの安売りセールをすると勘違い野郎が続出するので、こういう公の場では基本的に無表情を貼り付けている(それが逆に凄艶さを増していると友人達に言われるのだが、もうオレはどうすればいいんだ。変顔でもすればいいのか?)。
視線をやると、ヒロイン--テレジアは怯えたように一瞬震えてリチャードに身を寄せる。彼女を庇うように背中に隠したリチャードはキッと敵意を込めてオレを睨んだ。それらを無視して、その後ろに向けて言い放った。
「サラザール、ミミリ。止まれ」
リチャードはオレの言葉に不可解そうな顔をした。だが直後「ひ、」という引き攣った悲鳴が彼の後ろから聞こえ、それが愛しの少女のものだと気付いてすぐに振り返った。
「え……」
足音も気配も殺気もなかった。
だが一瞬にして、垂れた犬耳を持つ少女がテレジアの首に鋭いナイフを当てがい、耳飾りや腕輪・指輪にネックレスといった装飾品をじゃらじゃらと付けた男は今まさに取り巻き達の首を刈り取らんと大鎌を振りかぶっていた。これは茶番でもなんでもない。彼らは本気だ。リチャードは王族なので免れるだろうが、そうでない取り巻き達やテレジアは首を落とされて死んでいた。オレが止めていなければ。
「武器を収めろ。国王陛下並びに王妃陛下の御前を、血で汚すことは罷りならない。……『待て』もできない駄犬共が。オレが『いい』と言うまでそこで控えて黙っていろ」
「「御意」」
視線と語気に威圧を込めて言えば、瞬きの間にオレの傍に移動した彼ら--ミミリとサラザールは膝をついて頭を垂れ、恭順を示した。
「国王陛下、王妃陛下。発言をお許しください」
「うむ、構わない」
「ありがとうございます」
呆然としているリチャードとその他を尻目に壇上の玉座を仰ぎ、謝意を込めて一礼する。こんな玉座の近くで事を起こすんじゃねーよと内心で愚痴りながら。
「この晴れがましい場に、両陛下の許可なく無粋な刃を抜いた不敬をお許しくださいませ。その代わり、と言っては何ですが、リチャード第二王子方のオレへの暴言に関して、オレは何も聞かず、知らず、見なかったことに致しましょう」
意訳:『お宅の息子さんのオレへの侮辱を無かったことにしてあげるから、許可なく抜剣した挙句あわや血みどろの惨殺現場になりかけた不敬を見逃してね☆』
この断罪イベントが強制力なのか何なのかは知らないが、オレの精神衛生のためにもさっさと終わらせるに限る。被害者のオレがリチャードの暴言に目を瞑るだけなら、王家はオレに借りを作ることになるだけ。だが代わりにオレの配下の暴挙を見逃してもらえれば、双方win-winの結果になる。
ぶっちゃけ、サラザールとミミリを止めようと思えばもっと早く止めることもできた。それこそ刃物を持ち出す前に。だが穏便に事を収めるには、オレの側にも何かしらの非があった方が王家の面目も立つ。ちょっとビビらせておけば大人しくなるかなぁ、という下心もなきにしもあらず。
あとはお騒がせ野郎共を退場させてもらえれば、この場は乗り切れるだろう。その後でまだ事を構えるようなら………その時は然るべき場で、正々堂々相手してやるよ。
なぁ、テレジア?。
「リチャード様……わたし、嬉しいです!」
「この穢らわしい売女め!」
「しおらしく罪を認めるがいい!」
何この展開デジャヴ。どこかで見たことあるぞ。具体的に言うと前世あたりで。というか『テレジア』って、ヒロインのデフォルト名じゃねーか!
第一にして最大のフラグを叩き折ってから、早15年。
我が国--ルカルダ王国の王宮庭園で開かれた大きな式典の最中に、ぶち壊したはずの乙女ゲームの断罪イベントが始まってしまった。おかしいなぁ。隣国の侵略は止めたし、魅了スキルは魔法で封印していたし、諸事情でここ数年は国を離れてたんだけどなぁ。これが強制力ってやつか? にしてはあまりにお粗末すぎるんだが? 誰が聞いても冤罪だって分かるぞこれ。
まぁとにかく、今はあいつらをどうにかしなければ。
顔を隠すように広げていた扇をパチンと閉じる。顕になったオレの顔貌に、周囲はほうと溜息を吐き、糾弾しているはずの第二王子とヒロイン、その友人や部下という名の取り巻き達まで息を呑んで頬を染めた。………こういう反応は久しぶりだな。最近はオレの顔に慣れた連中と居ることが多かったし、今日みたいにドレスを着るのは滅多にないから居心地が悪いったらない。
『上品な深緑色の天鵞絨に銀糸で施された精緻な刺繍が光を弾くドレスは、お嬢様の鮮やかな赤い髪と白い肌をこれ以上なく映えさせ、まるで朝露に濡れた薔薇の花が如く。清らかでありながら妖艶という、得も言えぬ魅力に思わず手を伸ばしてしまいそうになるのに、冴え冴えとした気高い冬晴れの瞳が気安く触れることを許しはしない。どうか許しを、と跪いて縋り付く哀れな求愛者達が蟻のように列をなすのが目に見えるようです……ああ!お嬢様!今日も清々しいほど罪な美貌です!眼福ですありがとうございます!!』と、うちの侍女達が鼻息荒く絶賛してくれたのでオレの容姿は今日も絶好調らしい。おかげで無闇に微笑みの安売りセールをすると勘違い野郎が続出するので、こういう公の場では基本的に無表情を貼り付けている(それが逆に凄艶さを増していると友人達に言われるのだが、もうオレはどうすればいいんだ。変顔でもすればいいのか?)。
視線をやると、ヒロイン--テレジアは怯えたように一瞬震えてリチャードに身を寄せる。彼女を庇うように背中に隠したリチャードはキッと敵意を込めてオレを睨んだ。それらを無視して、その後ろに向けて言い放った。
「サラザール、ミミリ。止まれ」
リチャードはオレの言葉に不可解そうな顔をした。だが直後「ひ、」という引き攣った悲鳴が彼の後ろから聞こえ、それが愛しの少女のものだと気付いてすぐに振り返った。
「え……」
足音も気配も殺気もなかった。
だが一瞬にして、垂れた犬耳を持つ少女がテレジアの首に鋭いナイフを当てがい、耳飾りや腕輪・指輪にネックレスといった装飾品をじゃらじゃらと付けた男は今まさに取り巻き達の首を刈り取らんと大鎌を振りかぶっていた。これは茶番でもなんでもない。彼らは本気だ。リチャードは王族なので免れるだろうが、そうでない取り巻き達やテレジアは首を落とされて死んでいた。オレが止めていなければ。
「武器を収めろ。国王陛下並びに王妃陛下の御前を、血で汚すことは罷りならない。……『待て』もできない駄犬共が。オレが『いい』と言うまでそこで控えて黙っていろ」
「「御意」」
視線と語気に威圧を込めて言えば、瞬きの間にオレの傍に移動した彼ら--ミミリとサラザールは膝をついて頭を垂れ、恭順を示した。
「国王陛下、王妃陛下。発言をお許しください」
「うむ、構わない」
「ありがとうございます」
呆然としているリチャードとその他を尻目に壇上の玉座を仰ぎ、謝意を込めて一礼する。こんな玉座の近くで事を起こすんじゃねーよと内心で愚痴りながら。
「この晴れがましい場に、両陛下の許可なく無粋な刃を抜いた不敬をお許しくださいませ。その代わり、と言っては何ですが、リチャード第二王子方のオレへの暴言に関して、オレは何も聞かず、知らず、見なかったことに致しましょう」
意訳:『お宅の息子さんのオレへの侮辱を無かったことにしてあげるから、許可なく抜剣した挙句あわや血みどろの惨殺現場になりかけた不敬を見逃してね☆』
この断罪イベントが強制力なのか何なのかは知らないが、オレの精神衛生のためにもさっさと終わらせるに限る。被害者のオレがリチャードの暴言に目を瞑るだけなら、王家はオレに借りを作ることになるだけ。だが代わりにオレの配下の暴挙を見逃してもらえれば、双方win-winの結果になる。
ぶっちゃけ、サラザールとミミリを止めようと思えばもっと早く止めることもできた。それこそ刃物を持ち出す前に。だが穏便に事を収めるには、オレの側にも何かしらの非があった方が王家の面目も立つ。ちょっとビビらせておけば大人しくなるかなぁ、という下心もなきにしもあらず。
あとはお騒がせ野郎共を退場させてもらえれば、この場は乗り切れるだろう。その後でまだ事を構えるようなら………その時は然るべき場で、正々堂々相手してやるよ。
なぁ、テレジア?。
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