【傾世の悪役令嬢】になるのを回避したらいつの間にか【救世の竜騎士】と呼ばれるようになった話する?

氷曳

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誰が為の断罪・3

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シルヴィオの発言は続く。

「15年前、隣国からの侵略を阻止し我が国を守った功績を讃え、竜騎士ラザロ・イーグルに伯爵位を与えた。この功績には娘ゼルダ・イーグルも大きく関わっていたために、彼女も含めて貴族として迎え入れる運びになった。ゼルダ嬢の行いを耳にしたヌサ神殿の大神官アニエス殿が『【聖者】の可能性がある』と仰ったため、ディグダ神殿にて神前審議を執り行ったところ、紛れもなく【聖者】であると証明された」

これはオレも予想外だったんだ。

あの時、アレイヤードを助けて侵略を阻止するのには成功した。フラグ阻止完遂!さようならシナリオ!と喜ぶ間もなく、次の問題が出てきたんだよね。当時7歳のオレが、どうして隣国の侵略を知り得たのか。機密であるはずのアレイヤードの存在をどうして知ったのか。

いやー、スパイ容疑までかけられた時は流石に世を儚んだな。15年後に死ぬシナリオを回避しようとしたら、即処刑フラグが立つなんて、どうやっても悪役令嬢オレは死ぬ運命なのかと。だから取り調べの時に『どーにでもなーれ(白目』な気持ちで洗いざらい話したのだ。

隣国からの侵略があって、アレイヤードを庇って父が死ぬこと、オレを見出したモルガンロード伯爵がオレを使って国を破滅させようとする顛末、最後は断頭台に登るオレの未来---それらが突然オレの頭に中に降ってきた、と。前世に関してはやっぱりどうしても言えなかったけど。

それを聞いた大人達の内の誰かが言ったらしい。まるで【神託オラクル】を授かったようだと。伝聞なのは、その場にオレは居なかったからだ。……どこに居たって?スパイ容疑のかかってる奴が居るとこなんて、牢屋に決まってるだろ言わせんな!!

それから、あれよあれよと言う間にディグダ神殿に連れて行かれ神前審議を受けることになった。神前審議とは名の通り、その人間が【聖者】か否かを神に問う儀式である。それによって、オレは確かに【聖者】であると証明された。

だが、これがまた予想だにしない結果だった。

オレが前世の記憶を思い出したのには、確かに神の介入があった。どの神の?……恐れ多くも、主神ウルセラである。

ウルセラ神は言った。「他の世界よりこの世界へ、運命律に干渉せんとする力が働いた。これは看過できるものではない。故に、本来ならば失われて然るべきものを蘇らせ、これをこのウルセラからの警告とした」と。

この世界は乙女ゲーム『2人のファム・ファタール』の舞台となる世界だ。それは恐らく間違いない。
だが『2人ファム・ファタール』というは、オレの前世の世界の物でしかない。

別の世界でのが、この世界での事実に---に成り代わろうとしていた、とウルセラ神は言うのだ。だから『2人のファム・ファタール』の物語を知っている魂を持つオレの記憶を蘇らせ、物語が始まるのを止めさせるよう仕向けた。

ちょっと話が神スケール過ぎてオレにはよく分からなかったが、このことがウルセラ神から暴露されたため、無事にオレは【神託オラクル】を受けた【聖者】であると認められた。

が、話はこれだけではなかった。

ウルセラ神の後に現れたのはニンフェルという名の女神。この女神が司る神性は、美と愛である。……もう一度言おう、美と愛の女神様なのである。

ニンフェル神は言った。「貴女の〈器〉は私が作ったのよ~☆ ここ数千年ではダントツの最高傑作なの! 素材だってこだわったんだから! 特にね? その赤い髪は色を出すのに頑張ったのよ~♪」

美の女神であるニンフェル神は、美しいものが大好きだ。愛でるのも、自ら作り出すのも。彼女は気が向いた時に美しい〈器〉を作るのを趣味しているそうだ。〈器〉とは、言わば人間の肉体である。満足のいく〈器〉ができれば、彼女はそれを人間へする。両親に似ない美しい子どもは、彼女が与えた〈器〉を持つからだという。彼女は、〈器〉が周囲の人々に賞賛されると「ええ、ええ、そうでしょう?美しいでしょう?なんたって、この私が作ったんだから!」と非常に満足するらしい。

気まぐれな彼女はある時、常にない気まぐれを起こした。いつもは自分1人で〈器〉を作っているが、他の神も巻き込めばもっと美しいものができるのではないか、と。………もうぶっちゃけるが、そうやって完成したニンフェル神曰く最高傑作が、ゼルダの肉体なのだ。姿形や容姿は勿論、声音も、瞳も、赤い髪も。どんなに鍛えても筋肉が付かないのも、数十メートルの高さから落ちてもタンコブ1つで済むのも、産まれてこのかた風邪一つ引いたことがないのも、ゼルダの体がニンフェル神より賜りし〈器〉だから。

前世はほんとに平凡な容姿だったから、今世の美貌は正直嬉しいし、丈夫な体を与えて下さったのはありがたいと思う。それが彼女の気まぐれであり、うまく出来た最高傑作を見せびらかしたいがための事だったとしても。
だけどな、女神様。魅了スキルは要らなかったと思うんだ、オレ。最高クラスの魅了なんてどこで使うんだよ。むしろ人間が使っちゃいけない類いのものだよ、これ。「愛は多ければ多いほどいいわよね☆」じゃないんだよ。

さて、これでオレは天空神ウルセラと、美と愛の女神ニンフェルの寵を受けた【聖者】と判明した訳だが、この後で更にえらいことになった。もうお腹いっぱいだからいいって? オレが1番そう思ってるよ……。
神前審議も終わり、さあ帰るかという時、空から黄金の竜がオレの前に降り立った。神々の中でも数少ない肉の体を持つ神であり、ルカルダ王国の始祖王ロメンヌスに守護を授けて以来、人が立ち入ることもできないほど険しいゴリュテナー山脈から出てくることのなかった竜神ユングリディスであった。

ユングリディス神は何も言わなかった。ただそっと、その鼻先でオレの額に触れただけ。彼が飛び去った後で調べてみたところ、《竜王の祝福》と《竜咆ドラゴン・ヴォイス》というスキルを与えられたことが分かった。

ユングリディス神が祝福を与えたのも珍しいが、三柱の神から寵を得た【聖者】も非常に稀であったらしく、神殿関係者達は上へ下への大騒ぎだったそうだ。

輝ける金色の竜王の姿は大勢の人々が目にしていたので、その祝福を受けたオレの存在は隠す間もなく広く知られることになった。そしてやがて、人々にこう呼ばれることになる----【竜の聖者】と。

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