【傾世の悪役令嬢】になるのを回避したらいつの間にか【救世の竜騎士】と呼ばれるようになった話する?

氷曳

文字の大きさ
8 / 10

誰が為の断罪・4

しおりを挟む
「ユングリディス神は、我がルカルダ王家が守護神と祀る神。そのお方の《祝福》を授かったゼルダ嬢のことは、当時国中でかなり話題になっていたはずだが……お前達が知らなかったとは思わなかった」

シルヴィオは笑っているが、目が笑っていない。そんなことも知らなかったとかお前はアホか、と呆れている。このお人、一見穏やかで物腰も柔らかいが、根はだいぶ辛辣なのだ。

「そ、そんな……だが、父上が……」
「だそうですが、どういうことでしょう。陛下父上
「ああ、あの話か。確かに余がリチャードとゼルダ嬢の婚約を思い付いて、宰相やイーグル伯爵に相談を持ちかけていたことはあった。だが、それを聞きつけたリチャードの母、第一側妃デボラがこれに断固反対してな。当時まだ未成年のゼルダ嬢まで目の敵にする始末だったので、話は無かったことにしたのだ。だがそれを余から、リチャード、お前に話したことはないはずだ。どこの誰がお前の耳に入れた?」
「それは、その、こいつらが確かに聞いたと……」
「私は知りません!そんなこと、聞いてもいません!」
「俺もです!まて、確か、お前が言ったんじゃなかったか?」
「お、俺は悪くない!母様が言っていたんだ!『デボラ様が茶会でそう言っていた』と!俺のせいじゃない、母様のせいだ!」

第二王子派の筆頭は母であるデボラ妃の実家や親戚筋の家だ。デボラ妃の周囲にいる取り巻きの子が、主の息子であるリチャードの取り巻きになるのは不自然ではない。デボラ妃が零した愚痴が誤解され、母から子へ、そしてリチャードに伝わってしまったのだろう。

しかし、まあ、責任の押し付け合いの末、母親に責任をなすり付けるとは。それが真実だったとしても、母親から聞いたことをリチャードに伝えたのは自分自身だろうに。見下げた根性だなオイ。

だが、その男の悪あがきは、テレジアにまで飛び火した。

「そ、それに、テレジアもそう言っていただろう?!」

あー、うん。『ゼルダ・ヴァン・モルガンロード伯爵令嬢』はリチャードの婚約者だったからね。『ゲーム』ではね。現実でもそうなりかけたけど、側妃様が拒否してくれて助かったよ。

「わたし?! わたしは、えっと、そう! 学園の頃の噂で聞いたんです!」

学園とは、ルカルダ王国のエザレムという地に建てられ、その地名を取った『王立エザレム学園』のことだ。13~18歳までの5年間をここで学び、卒業することは平民に限らず、貴族の子弟にもステータスとなる。
現在、オレは22歳。とっくの昔に卒業した学園の頃の話を今更掘り返してくるのは、エザレム学園で同級生だったことくらいしか、オレとテレジアに接点がないからだろう。卒業してからは顔を見ることもなかったもんな、オレ達。

「きっとゼルダが、わたしを騙すために流したんだわ!ひどい人!」
「何だと?!ゼルダ、貴様っ!!学園で非道の限りを尽くし、テレジアを虐げていた挙句、そのような恥知らずで未練がましい真似をするなど身の程を知れっ!」
「---まあ、そのような噂があったのですか?」

銀の鈴を転がすような、可憐な声がした。オレじゃないよ? 絶世の美貌と美声を持つオレだが、『可憐な』とか『小動物のような』とか『庇護欲をそそるような』とかいった形容詞が似合わない部類のものだからな。
そういう言葉は、この彼女のためにあるようなものだ。

「久しぶりだな、パルティア。元気そうでよかった」
「ゼルダも、ご機嫌麗しゅう……とは言えませんわね。ごめんなさい。腹違いとはいえ、兄の起こした騒ぎに巻き込んでしまって」
「パルティアのせいじゃないんだから、謝るなよ。貴女がオレに謝ると、隣の怖~いご夫君に睨まれるしな」
「まあ、シビル様ったら!ゼルダにそのようなこと、なさらないでくださいませ!」
「べ、別にまだ睨んでないだろう」
「『まだ』? シビル様?」
「うっ」

はっは、相変わらず尻に敷かれてんなぁ、シビルの奴。これで【冷酷なる氷の貴公子】とか呼ばれてんだぜ? 「ゼルダ、何でお前はパルティアに呼び捨てで呼ばれてるんだ。俺には『様』付けなのに……」と言っていた情けない素の顔を知ってるオレとしては笑うしかないね!

シビルクス・ヴァン・イェーガー公爵子息とその妻パルティア。彼らも学園でのオレの同級生であり、乙女ゲーム『2人のファム・ファタール』に主要キャラクターとして登場していた。シビルが【クーデレ担当】の攻略対象、パルティアはその婚約者の王女殿下という役どころで。

オレとは、父と一緒に貴族になった頃からの付き合いだ。婚約者のパルティアのことが好きなのに愛情表現と表情筋が不器用すぎてイマイチ伝わってないシビルの相談に乗り、パッと見冷酷そうで無愛想なシビルとどう接したらいいかこっそり悩んでいたパルティアの相談に乗り、仲を取り持ってやっていた。その過程でなんだかんだと仲良くなって、気兼ねのいらない友達関係を築いてきた。学園時代、テレジアにちょっかいを掛けられていたらしいが、パルティア一筋のシビルはそれに靡くことはなく、卒業後無事に華燭の典を上げた次第である。式の時には「末永く爆発しろ」という祝いの言葉をシビルにくれてやったものだ。

ここで少し説明しておこう。
『2人のファム・ファタール』のシナリオは2部構成となっている。平民として暮らしていたテレジアが、ある日男爵の庶子と判明したために15歳で学園に編入するところから始まる【学園編】。学園在学中に魔法の才を見出され、卒業後王国魔術師団の一員として働くテレジアが巻き込まれる【王宮陰謀編】となっている。
第1部である学園編は言わば共通ルートで、選択肢によって【俺様担当】のリチャード、【クーデレ担当】のシビル、【ムードメーカー担当】、【生意気な年下担当】の4人の好感度が上下し、第1部の最後で最も好感度の高かったキャラの個別ルートが第2部で解放される。
上の4人のルートを、ハッピーでもノーマルでもバッドでもいいので全員終わらせると、【腹黒担当】シルヴィオと【男の色気担当】のキャラのルートへ行くための選択肢が学園編に現れるようになる。
そして、この6人全員をハッピーエンドでクリアすれば、隠しキャラ【ミステリアス担当】のアレイヤードのルートが解放されるようになる。

ストーリーのクライマックスで行われた悪役への断罪が学園の頃ではなく、卒業してから数年経った今なのは、王宮陰謀編のラストがオレやテレジアが22歳の頃だったからだろう。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

乙女ゲームの悪役令嬢、ですか

碧井 汐桜香
ファンタジー
王子様って、本当に平民のヒロインに惚れるのだろうか?

ざまぁされるための努力とかしたくない

こうやさい
ファンタジー
 ある日あたしは自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生している事に気付いた。  けどなんか環境違いすぎるんだけど?  例のごとく深く考えないで下さい。ゲーム転生系で前世の記憶が戻った理由自体が強制力とかってあんまなくね? って思いつきから書いただけなので。けど知らないだけであるんだろうな。  作中で「身近な物で代用できますよってその身近がすでにないじゃん的な~」とありますが『俺の知識チートが始まらない』の方が書いたのは後です。これから連想して書きました。  ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。  恐らく後で消す私信。電話機は通販なのでまだ来てないけどAndroidのBlackBerry買いました、中古の。  中古でもノーパソ買えるだけの値段するやんと思っただろうけど、ノーパソの場合は妥協しての機種だけど、BlackBerryは使ってみたかった機種なので(後で「こんなの使えない」とぶん投げる可能性はあるにしろ)。それに電話機は壊れなくても後二年も経たないうちに強制的に買い換え決まってたので、最低限の覚悟はしてたわけで……もうちょっと壊れるのが遅かったらそれに手をつけてた可能性はあるけど。それにタブレットの調子も最近悪いのでガラケー買ってそっちも別に買い換える可能性を考えると、妥協ノーパソより有意義かなと。妥協して惰性で使い続けるの苦痛だからね。  ……ちなみにパソの調子ですが……なんか無意識に「もう嫌だ」とエンドレスでつぶやいてたらしいくらいの速度です。これだって10動くっていわれてるの買ってハードディスクとか取り替えてもらったりしたんだけどなぁ。

離婚と追放された悪役令嬢ですが、前世の農業知識で辺境の村を大改革!気づいた元夫が後悔の涙を流しても、隣国の王子様と幸せになります

黒崎隼人
ファンタジー
公爵令嬢リセラは、夫である王子ルドルフから突然の離婚を宣告される。理由は、異世界から現れた聖女セリーナへの愛。前世が農業大学の学生だった記憶を持つリセラは、ゲームのシナリオ通り悪役令嬢として処刑される運命を回避し、慰謝料として手に入れた辺境の荒れ地で第二の人生をスタートさせる! 前世の知識を活かした農業改革で、貧しい村はみるみる豊かに。美味しい作物と加工品は評判を呼び、やがて隣国の知的な王子アレクサンダーの目にも留まる。 「君の作る未来を、そばで見ていたい」――穏やかで誠実な彼に惹かれていくリセラ。 一方、リセラを捨てた元夫は彼女の成功を耳にし、後悔の念に駆られ始めるが……? これは、捨てられた悪役令嬢が、農業で華麗に成り上がり、真実の愛と幸せを掴む、痛快サクセス・ラブストーリー!

追放された悪役令嬢(実は元・最強暗殺者)ですが、辺境の谷を開拓したら大陸一の楽園になったので、今更戻ってこいと言われてもお断りです

黒崎隼人
ファンタジー
元・凄腕暗殺者の私、悪役令嬢イザベラに転生しました。待つのは断罪からの破滅エンド?……上等じゃない。むしろ面倒な王宮から解放される大チャンス! 婚約破棄の慰謝料に、誰もが見捨てた極寒の辺境『忘れられた谷』をせしめて、いざ悠々自適なスローライフへ! 前世の暗殺スキルと現代知識をフル活用し、不毛の地を理想郷へと大改革。特製ポーションに絶品保存食、魔獣素材の最強武具――気づけば、谷は大陸屈指の豊かさを誇る独立領に大変貌!? そんな私の元に現れたのは、後悔と執着に濡れた元婚約者の王太子、私を密かに慕っていた騎士団長、そして「君ごとこの領地をいただく」と宣言する冷徹なはずの溺愛皇帝陛下!? いえ、求めているのは平穏な毎日なので、求婚も国の再建依頼も全部お断りします。これは、面倒事を華麗に排除して、最高の楽園を築き上げる、元・暗殺者な悪役令嬢の物語。静かで徹底的な「ざまぁ」を添えて、お見せしましょう。

処理中です...