ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

文字の大きさ
59 / 894

1-59

しおりを挟む
 逃げ場はなく、武器を手にした大人たちに混じり、頭数を揃える為か、凶器を手にした幼い子供たちの姿までもが見える。
 その中にはドロプウォートから食べ物を貰った「あの子供たち」の姿も。

 幼子たちをも凶行に巻き込む、同胞たちの底を知らぬ愚行に、パストリスは苦悶の表情でうつむき、
「なんてぇ事を……」
 悲嘆の声を漏らすと、ベッドに横たえたままのラミウムが、悩める背中に皮肉交じりの笑みを浮かべ、
「良くも悪くも、子は親の背を見て育つモンさぁね。その上、こんな狭い世界(盗賊村)で、悪事に染まって育ったんだ。事の善悪の判断基準が、親や村人たちと同じになっちまうのも無理からぬ話さぁね」
「そんな……」
 振り返った悲し気な眼差しに、ラミウムは温かな眼差しで、
「アンタを育てた両親が立派だったんだよ。誇りに思いなぁね」
 しかし素直に喜べない状況下、
「はぁい……」
 パストリスが複雑な笑顔を返すと、

『出て来ぉい裏切り者どもぉ、ゴホッゴホッ! 落とし前をつけてぇ、ゴホッゴホッ!』

 外から聞こえて来たのは、怒りに喉がついていけないのか咳き込む、何とも締まらない怒鳴り声。
 声の主は、草刈り鎌を手にした村長。
 人化の影響なのか老化が進み、大剣を手にする事も、叫ぶ事もままならない様子ではあったが、恥の上塗りでしかない物言いに、
「くきゅ!」
 パストリスの堪忍袋の緒が切れ、ラディッシュの制止が間に合わない程の勢いで玄関扉を開け放ち、

「皆さんの心には後悔や反省ぇ! 感謝と言った言葉は無いんでぇすかァ!」
「「「「「「「「「「!」」」」」」」」」」
「ラミウム様はボク達の為にチカラを使い果たして、起き上がる事もままならないんでぇすよォ!」

 良心に訴えかける様に叫ぶと、村長をはじめとする村人たちは、
「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」
 むしろ不敵な薄ら笑いを浮かべ見せ、

「それは好都合じゃな♪」
「なっ!?」

 怒る以上に呆れ果て、言葉を失うパストリス。
 するとドロプウォートが落胆する彼女の傍らに並び立ち、

「恥をお知りなさァい! 醜悪な蛮行を我が子に晒して平気なのですかァ!」

 剣の柄に手を掛け咆哮したが、歪んだ感情に支配され、数的優位を信じて疑わない村長たちは動じた様子も見せずにドロプウォートの諭しを無視し、

「この半端者めぇが!」

 パストリスを睨み、
「天世に勇者や誓約者などと、村に厄介な連中を連れて来おってぇ! こんな事なら国に密告しようとした「父親のカプセラ」ごと始末しておくんだったワイ!」
「え?!」
 驚く姿に、村長たちは愉快そうに笑いだし、
「なんとぉ本当に気が付いておらなんだかぁ! ヒィーヒッヒッ! 後で連れて行く「処刑場の木」にでも訊ねてみるのじゃなぁ!」
「「!」」
 それは村長たちが、パストリスの父親殺害を自白したのに他ならなかった。

 村長たちに強い疑念を抱きつつも、心の何処かで同胞としての良心を信じ、不慮の事故、願わくば存命の可能性を信じていたパストリス。
 しかし、その「か細い信頼」と「一縷の望み」はたった今、儚くも崩れ去った。

 突き付けられた現実と絶望感に苛まれ、うつむき、放心する彼女の痛々しい姿に、他者の手により数々の辛酸を嘗めた経験を持つドロプウォートは、かつての自身の姿を重ね合わせ、

「何と惨い事をしたのですッ!」 

 怒りに打ち震え、

「その方は、共に苦労を重ねた「同志」だったのではないのですかァ!」

 隔たりを感じていたドロプウォートの「心優しき咆哮」に、
(ドロプウォートさん……)
 パストリスは救われた思いで顔を上げたが、

『同志などと、洒落臭いわァい!』
「「な!」」

 村長は魂の叫びを一蹴。
 犯罪と言う名の狂気に取り憑かれ、歪んだ団結をした村人たちの心にも声は届かず、

「さぁ皆の衆ぅ! 村の秘密を守るのじゃ!」
「「「「「「「「「「おぉーーーーーーっ!」」」」」」」」」」

 得物を手にした村人たちは不敵な笑みを浮かべ、一歩、また一歩と歩みを寄せ、
「クッ!」
 ドロプウォートは苦々し気に、剣の柄に手を掛けこそしたが、その心の内では、
(村人たちは今や普通の民の姿ですわ……しかも中には見知った幼子の姿まで。そんな彼らを、私は……私に斬れますの?!)
ためらいを覚えずにはいられなかったが、
(ですが!)
 覚悟をグッと決め、
(斬らなければ、コチラが理不尽に伏する事になってしまいますわァ!)
 剣を鞘からスラリと抜き出し身構えると、
「!」
 触発されたパストリスも、

(ボクも、いつまでも下を向いている場合じゃなぁい!)

 沈んだ心を奮い立たせ、壁に掛けてあった薪割り用の斧を手に身構えた。
 まさに一触即発。

 開戦の火ぶたは、いつ切られておかしくなかった。
 そんな張り詰める空気の中、数的優位を未だ信じて疑わない村長たちは怯む様子も見せずに不快な笑みで口元を歪め、じりっ、じりりっと、取り囲む輪を縮め近づいた。
 彼らは理解していなかったのである。

 自分たちの命が、あと数十歩で終える事を。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません

ソニエッタ
ファンタジー
言葉が通じない? それ、日常でした。 文化が違う? 慣れてます。 命の危機? まあ、それはちょっと驚きましたけど。 NGO調整員として、砂漠の難民キャンプから、宗教対立がくすぶる交渉の現場まで――。 いろんな修羅場をくぐってきた私が、今度は魔族の村に“神託の者”として召喚されました。 スーツケース一つで、どこにでも行ける体質なんです。 今回の目的地が、たまたま魔王のいる世界だっただけ。 「聖剣? 魔法? それよりまず、水と食糧と、宗教的禁忌の確認ですね」 ちょっとズレてて、でもやたらと現場慣れしてる。 そんな“救世主”、エミリの異世界ロジカル生活、はじまります。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

天才魔導医の弟子~転生ナースの戦場カルテ~

けろ
ファンタジー
【完結済み】 仕事に生きたベテランナース、異世界で10歳の少女に!? 過労で倒れた先に待っていたのは、魔法と剣、そして規格外の医療が交差する世界だった――。 救急救命の現場で十数年。ベテラン看護師の天木弓束(あまき ゆづか)は、人手不足と激務に心身をすり減らす毎日を送っていた。仕事に全てを捧げるあまり、プライベートは二の次。周囲からの期待もプレッシャーに感じながら、それでも人の命を救うことだけを使命としていた。 しかし、ある日、謎の少女を救えなかったショックで意識を失い、目覚めた場所は……中世ヨーロッパのような異世界の路地裏!? しかも、姿は10歳の少女に若返っていた。 記憶も曖昧なまま、絶望の淵に立たされた弓束。しかし、彼女が唯一失っていなかったもの――それは、現代日本で培った高度な医療知識と技術だった。 偶然出会った獣人冒険者の重度の骨折を、その知識で的確に応急処置したことで、弓束の運命は大きく動き出す。 彼女の異質な才能を見抜いたのは、誰もがその実力を認めながらも距離を置く、孤高の天才魔導医ギルベルトだった。 「お前、弟子になれ。俺の研究の、良い材料になりそうだ」 強引な天才に拾われた弓束は、魔法が存在するこの世界の「医療」が、自分の知るものとは全く違うことに驚愕する。 「菌?感染症?何の話だ?」 滅菌の概念すらない遅れた世界で、弓束の現代知識はまさにチート級! しかし、そんな彼女の常識をさらに覆すのが、師ギルベルトの存在だった。彼が操る、生命の根幹『魔力回路』に干渉する神業のような治療魔法。その理論は、弓束が知る医学の歴史を遥かに超越していた。 規格外の弟子と、人外の師匠。 二人の出会いは、やがて異世界の医療を根底から覆し、多くの命を救う奇跡の始まりとなる。 これは、神のいない手術室で命と向き合い続けた一人の看護師が、新たな世界で自らの知識と魔法を武器に、再び「救う」ことの意味を見つけていく物語。

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明

まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。 そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。 その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ
ファンタジー
【虐殺者《スレイヤー》】の汚名を着せられた王国戦士エリクと、 【才姫《プリンセス》】と帝国内で謳われる公爵令嬢アリア。 互いに理由は違いながらも国から追われた先で出会い、 戦士エリクはアリアの護衛として雇われる事となった。 そして安寧の地を求めて二人で旅を繰り広げる。 暴走気味の前向き美少女アリアに振り回される戦士エリクと、 不器用で愚直なエリクに呆れながらも付き合う元公爵令嬢アリア。 凸凹コンビが織り成し紡ぐ異世界を巡るファンタジー作品です。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

処理中です...