ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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 どれ程の時間が経過したであろうか――

 何も見えない真っ暗闇の中、
(何だいこれは……)
 ラミウムは、ほのかな温もりを胸に感じ、
(暖かいじゃないかい……まるで心まで温まる……)
 心地良さに薄っすら目を開けると、

『気が付いた、ラミィ?』
「ふっ?!」

 異常な近い距離でラディッシュの顔が振り返り、
「顔色が随分良くなったねぇ♪」
 キラッキラのイケメンスマイルに、
(近あぁ!)
 思わずドキリ。

 そして気付く、リュックサックを前側に背負うラディッシュに、背負われている自身の姿に。
 勝ち気な彼女が「お姫様抱っこ」された次は「オンブ」である。
 しかも、
(あっ、アタシの「淑やか(※胸の意)」がぁラディの背にぃいぃぃっい?!)
 羞恥で顔を、火が出そうな程の赤に染め上げ、

「おっ、降ぉろしでないかぁい、このおバカぁァ! アタシぁアンタらみたいに貧弱じゃないと言ってんだろぉおぉ!」

 背で暴れ出すラミウムに、
「あぁ暴れないでってぇラミィ! おっ、ぉ落としちゃうってばぁあぁ!」
 ラディッシュが必死に支えると、ドロプウォートが「ワガママ放題ラミウム」に、からかいと皮肉を交じえ、
「公衆の面前でぇ、も~っと恥ずかしい「御姫様抱っこ」を披露した上にぃ、自分から殿方の首元に「抱き付いた」のはぁ、何処のどなたでしたかしらぁ~♪」
「うぐっくっ」
 グウの音も出ないラミウム。理由はどうであれ、事実なだけに。

 毎度の屁理屈で返せば良いものも、未だそれほどの元気は戻っておらず、赤面顔でしばし躊躇いを見せた後、
「…………」
 観念したかの様に、テレの滲んだ憤慨声で、
「こぉ、光栄に思うんだねぇ……」
 ラディッシュの背に、静かにその身を預けた。
 一先ず大人しくなったラミウムに、
「はぁいはぁい」
 ヤレヤレ顔の笑顔で頷くと、
「ハイは一回……」
「はぁ~い」
「伸ばすんじゃないよぉ……」
 変わらぬやり取りにも覇気はなく、
「ったく………………」
 急に静まる背に、

「……ラミィ?」

 肩越しに振り返ろうとすると、ドロプウォートが自身の口元に人差し指を立て、
(お静かに、ですわぁ♪)
「え? あっ!」
 反射的に出た疑問声を慌てて潜め、
(静かに?)
 言われた意味を問うと、ドロプウォートは小さく笑い、
(もぅ眠っていますのですわぁ)
(え?! もぅ???!)
 驚くラディッシュ。

 今し方まで背で憎まれ口を叩いていた筈が、聞こえて来るのは微かな寝息。
 遊び疲れた幼子の様な瞬間爆睡に、ラディッシュとドロプウォートは思わず小さくクスッと笑い合った。
 パストリスの家を後にしていた、ラディッシュたち。

 本来ならばラミウムの体力がある程度回復するまで、家で体を休ませてから旅立つべきところではあるが、地世絡みの更なる襲撃を恐れ、一先ずラミウムの容態が安定した事もあり、不本意ながらも彼女の意識が戻るのを待たず、旅立つ選択をしたのであった。
 再び城を目指して不帰の森を歩く中、
「…………」
 肩越しに、チラリと後方を見やるラディッシュ。

 そこには、三人の数メートル後ろを所在無さげにうつむきついて歩く、パストリスの姿が。
 盗賊村の「たった一人の生き残り」となってしまった彼女は、これまでの顛末を国に報告する為、両親との思い出が詰まった家を離れ、ラディッシュ達と行動を共にする決意したのであった。

 しかし、盗賊村の生き残りであり、妖人でもある彼女を敬遠するドロプウォートとの溝は未だ埋まらず、一人距離を置き歩くのも、
≪自分が居る事で三人の雰囲気が悪くならないように≫
 彼女なりの気遣いから出た配慮であった。

 とは言え、和気あいあいと語らう後ろを一人黙々とついて歩く事など、寂しくない訳がなく、うつむく曇り顔から心中を察したラディッシュは立ち止まり、寝ているラミウムには申し訳なく思いながら、
「パストリスさん!」
「は、はぁい?!」
「そんなに離れていると、護ってもらえないよ?」
「え?」
 声掛けに驚きつつ、ラディッシュらしい物言いを「クスッ」と笑い駆け寄り、
「そこは「俺が護ってやれないぞ」とかじゃないのでぇすぅ?」
「あははは」
 ラディッシュは自嘲気味の苦笑を浮かべ、
「僕が見掛け倒しなのは、もうバレてるでしょ? 今更そんなカッコイイ事なんて言えないよぉ♪」
 スキル「キラッキラのアイドルスマイル」が不意に発動。
 
「!!!」

 虚を突かれ、衝撃を受けるパストリス。
 ドロプウォートに負けず劣らず男性免疫が少ない「新参の箱入り娘」は、ボッと頬を赤らめ、
「そっ、そんにゃ事ぉ、なぁいでぇすけどぉ……」
 尻つぼみにはにかんだが、元イケてない少年は乙女の機微に気付くこと無く、良く言えば「下心を感じさせない微笑み」で、
「離れてると危ないし話し辛いから、一緒に並んで歩こうよ♪」
「…………」
 恥じらいながら無言でコクリと頷く、赤い顔したパストリス。
 すると突如、

『ぅわっワタクシィ!』

 ドロプウォートが上ずり気味に声を上げ、
「先に行ってぇ危険が無いか調べておきますですわぁあ!」
 その場から逃げる様に駆け出して行き、
「あっ……」
 呼び止めようと伸ばしたパストリスの右手は、宙を泳いだ。

 再び顔を曇らせ、
(やっぱりボクは……)
 またも触れてもらえなかった右手を胸元で固く握り、落ち込みを見せると、
「大丈夫だよ、パストリスさん♪」
「え?」
「今頃、もの凄ぉ~~~く反省してると思うよ」
 口振りからは社交辞令的な空気は感じず、

「そうなんでぇすか?」
「ラミィが言ってたと思うけど、ドロプさんって「物凄ぉ~く素直じゃない」んだ♪」

 ラディッシュは笑みを見せ、
「あからさまに強く反発したてまえ、仲直りするきっかけが見つけられなくて困ってるんだよ。頑固な上に、不器用だからぁ」
「そぅ、だとぉ……良いんでぇすけどぉ……」
 不安気な笑みを返していた頃、ドロプウォートは三人から離れた森の中で一人、巨木の幹に何度も頭突きしながら、

(最低! 最低ぇ!! 最低ぇえ!!! ワタクシ最低ぇですわぁあぁ!!!!)

 ラディッシュが指摘した通り、
(ワタクシは最低で、本当にイヤな女なのですわぁ! せっかく歩み寄ってくれました彼女に、どうして素直になれませんですのぉ!)
 激しく猛省中であった。
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