ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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 数時間後――

 パストリスとドロプウォートの姿は、例の飲食店の前にあった。
 パストリスに暴言を吐き、入店を拒否したあの店である。

「さぁ行きますわよ!」

 気炎を吐くが如く、鼻息荒いドロプウォートに対し、
「……はい」
 少々お疲れ気味のパストリス。
 女子が、新しい服を買って貰ったにもかかわらず。
 それもその筈、今着ている服に辿り着くまでの彼女は、二人の魔王の手により「着せ替え人形」状態であったのだから。

 しかもエキサイトした二人が次々着せる服は、メイドに、セクシーな踊り子衣装に、やたらと露出度の高い奴隷風衣装(首輪、足輪つき)にと、ひたすら極端な趣味路線の服ばかり。
 結果として辿り着いた今の装いは、服と一緒に新調した「無骨な手甲と脛当て」を隠す、少し膨らみのあるアームカバーと、揃いのレッグウォーマー、そして体は上下セパレート。
 一言で表現するなら、オシャレな格闘家少女風とでも言う所であろうか。

 石につまずいただけで行動不能になりそうなほど消耗したパストリス。
 そんな彼女を前に、満ち足りたツヤツヤ顔のドロプウォートは、疲弊の原因が自身にあるなどとは露と思わず、パストリスが落ち込んでいるように見えるのは「彼女の自信の無さ故」と思い込み、

「自信をお持ちなさいでぇすわ! 今の貴方でしたら「貴族の夜会」にさえ、大手を振って参加出来ますわ♪」

 奮起を促し褒め上げると、観音開きの木製両扉を威風堂々、勢いよく押し開け、

「これなら文句御座いませんですわよねぇ!」

 すると店主が、先程までとは打って変わって別人の様に、過剰な程の満面の笑顔(見え透いた営業スマイル)で、

『ようこそいらっしゃいましたぁ、騎士様とお連れ様ぁ! さぁさ、どうぞどうぞ、こちらへぇ!』
「「…………」」

 よく言えば慎ましやかな店内にあって、一卓だけテーブルクロスや花で過度に飾り立てられた、悪い意味で「異彩を放つテーブル」へと促される二人。
 そんな悪目立ちする席に座って食事など、晒しモノ以外の何物でもなかったが、既に空腹が限界を超えていた事に加え、店主の態度の急変により、振り上げた怒りの拳の下ろし処を失ってしまった二人は渋々席に着いた。

 大衆食堂のど真ん中に設けられた、場違いなVIP席。

 否応なく集まる客たちの好奇の視線。
 珍獣でも見るかのような眼差しに、
((はっ……恥ずかしい……))
 さっさと食事を済ませて「店を出よう」と思う二人であったが、二人の意に反し店主は注文も聞かず、テーブルの上に次々と料理を並べ始め、

「ほぇ?!」
「ちょ、ちょっとぉ!?」

 狼狽する二人の前に並べられる、肉、魚、野菜をふんだんに、贅沢に使った料理の数々。
 どこから、いつ調達したのか、失礼ながら、城下から離れた辺境の村とは思えない明らかに高価そうな食材の数々に、流石にいつまでもウロたえている場合ではなく、

「まっ、待って下さいですわ、店主ぅ! 私は、この様な品々を注文した覚えは!」

 次々運んで来る店主を呼び止めると、店主は「過剰な笑顔」で振り返り、
「いえいえ、こちらの品々は、先ほど大変な失礼を致しました、ほんのお詫びの印、無料でございます。我が店自慢の品々でございまぁ~す」
 気が付けば厨房の奥からも、コチラの様子を窺う幾つもの目が。

(!)

 とある事に思い至るドロプウォート。
(私の素性が耳に入りましたのねぇ……)
 村に来て間もないが、噂話と言うのは瞬く間に広がる物。

 どうやら店主はドロプウォートが「四大貴族が一子」である事を先程まで知らず、追い出した後で、誰かに教えられた様である。
 宮廷料理並みにテーブルに敷き詰められた料理を前に、
(それに致しましてもぉ何ですのぉ、この掌返しはぁ……)
 店主に対する怒りも忘れ、ため息を吐くと、厨房の柱の影から年配女性のひと際強い熱視線が。

 女性は二人の一挙手一投足を食い入るように見つめていたが、店主が厨房に入るなり、
「&%$#“=*+―――ッ!」
「#&$%*+&%$#―――ッ!」
 見えない所で罵り合いを始めていた。

 二人の関係性は分からない。

 しかし雰囲気から察して、
(彼女の「入れ知恵」の様ですわねぇ……)
 このような事をされた挙句にケンカをされては、出された料理を食べない訳にもいかず、ドロプウォートは小さくヤレヤレ笑いを浮かべると、

「パスト、いただきましょですわぁ」
「え?! で、でも……」

 躊躇するパストリス。
 豪華すぎる料理を前に「無料」と言われ、腰が引けたのではない。
(お店の利益が……)
 高級食材に掛かったであろうトータルコストを、店構えから差し引きし、売り上げを危惧しての躊躇いであったが、そんな彼女の優しき心をドロプウォートは見透かしたように、

「帰りしな、相応の金額をお支払いして帰りますから大丈夫でぇすわ♪」

 その笑顔に、

「はいでぇすぅ♪」

 パストリスも笑顔で返し、食べ始めようとした。
 しかし、
「…………」
 彼女の手は、料理へと伸びなかった。
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