ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第三章

3-23

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 簡易テントの設営を開始する女子三人――

 男性陣が居る焚き火から、ある程度の距離を置いての入浴ではあったが、湯あみと言っても桶に張ったお湯を使って、手拭いで体の汚れを拭き取る程度であり、入浴は一人ずつ行い、その間は二人が警戒(※主にハクサンに対する)に当たる。
 順番に、これと言った取り決めは無く、この日はパストリスが先陣を切り、ニプルとドロプウォートが見張りに立つ事になった。
 やがて設営が終わり、パストリスがテントの中で着衣を脱ぎ始めると、布一枚で隔てた外から、

『パスト、どぅかしましてですの?』

 ドロプウォートからの思わぬ問い掛けに、

「え?」

 手を止め、布越しに薄っすら映る彼女の影に、
「な、何が、なのでぇすぅ?」
 見える筈の無い笑顔を向け、再び服を脱ぎ始めると、
「私には「何か悩んでいる」ように見えましてですわ」
(!)
 ハッとするパストリス。
 ニプルが、
(き、気付かなかったぁ……)
 何気にショックを受ける中、
「そんなに顔に出てたでぇすぅ?!」
 慌てた素振りで桶をランタンの灯りに近づけ、水面に映る自身の顔を覗き込むと、

『顔に出ていなくともぉ、雰囲気で、何となく分かりましてでぇすわぁ♪』

 外から聞こえた声は優し気で、
「ドロプには……分かっちゃうの、でぇすね……」
 パストリスは次第に視線を落とし、
「ボク……頼りない、でぇす?」
 不安げな問い掛けに、ドロプウォートはあっけらかんと、
 
「タープの事を言っていて、ですのぉ?」

 悩みの、ど真ん中。

(!)

 思わず顔を上げるパストリス。
 テントの中の見えざる彼女が、同意を示唆する驚きをしていると、ドロプウォートは知ってか知らずか穏やかな口調で、
「それほど気に病むのなら、そろそろ素性を明かしても良いのではなくてぇ?」
 すると中から聞こえた声は、
『やっぱり……やっぱり気付かれて、避けられてるでぇすぅ……』
 悲し気で、事情が分からず話に置いてけぼりのニプルは、
(何? え?? 素性ぉ???)
 人知れず動揺していたが、それと気付かぬドロプウォート。
 
「そうでしょうか?」

 パストリスの悩みを否定した上で、
「確かに彼は「天世の司祭」ですわ。ですが彼は、人を「生まれ」や「肩書」のみで以て差別する様な人間では無いと、私は思いましてでぇすわ。それは貴方にも、お判りでしょう?」
『…………』
 返らぬ声に、
「そう。例え貴方が「妖人」であったとしてもですわ」
 念押しすると、

『なっ!?』

 ここに来て一番の「驚きの声」を上げたのはニプル。
 パストリスが身を隠すテント布を勢い任せにはぎ取り、

「パストぉ! オマエ、妖人だったのかぁ!」

 興味津々満面の笑顔に、

『ひぃやぁあぁぁあぁぁ!』

 悲鳴を上げ、咄嗟に両腕で体を覆い隠すパストリス。
 深夜の森で、いきなり素っ裸を晒された彼女に対し、ドロプウォートは過去に自身が彼女にした「差別の罪」を棚に上げ、

「ニプルの様に、世の中は嫌悪を示す人ばかりではありませんのですわ♪」

 自慢げに語って見せたが、一糸まとわぬパストリスはそれどころではない。

『わっ、分かったのでぇ早く囲いを戻して欲しいのでぇすぅうぅ!』

 半泣きの、羞恥の赤面顔で必死に訴えていた頃、男子三人は静かに焚火を囲んでいた。
 心地よい暖かさから、うつらうつらと舟をこぐハクサンと、うつむき加減で、黙して語らないターナップ。
 するとラディッシュがおもむろに、
「ねぇタープさん」
「…………」
 返らぬ返事。
 ゆらゆら燃える炎をぼんやり見つめたままの彼に、ラディッシュは再度、

「タープさぁん」

 気遣った声を掛けると、彼はハッと我に返った様子で振り返り、

「あっ、す、済まねぇっス、ラディの兄貴ぃ! 何か、ぼやけちまってぇ」

 申し訳なさげに頭を掻き、
「それで、」
 用があるのか尋ねようとすると、
「何か悩み事ぉ?」
 逆に問われ、見透かされていた事に、

「え?」

 動揺を隠せないターナップであったが、

(御二人(ラディッシュとドロプウォート)が「お嬢の素性」をあえて言わねぇのは、きっと何か深ぇ考えがあっての事……俺がまだ頼りねぇのか、もっと成長しねぇと……)

 そう思うと、打ち明ける訳にもいかず、
「お嬢にも言われたっスが、ホントぉ、何でもねぇんス」
 無理して作ったと分かる笑顔に、
(パストさんの正体に気付いちゃったんだろぅなぁ……)
 察するラディッシュ。

(フルールでの、修行の成果とも言えるけど……)

 そんな風にも思ったが、パストリスの中の「秘匿中の秘匿の話」を本人の同意も無しに、勝手に明かす訳にはいかず、ラディッシュはたゆたう炎をぼんやり見つめながら、
「僕さぁ、異世界の記憶が無いせいか、この世界で会う人が、みんな「初めてな人」な訳で、でもその人達はみんな違ってて、あぁ「世の中って色んな人がいるんだなぁ」って、つくづく思うんだぁ」
「?」
「でもさぁ、それって当たり前でさぁ、みんながみんな、みんなであって、自分じゃないんだから、違うのは当たり前なんだよねぇ」
「…………」
 何か思う所があったのか、視線を落とすターナップに、

「って、僕、何を知った風に語ってるんだろぅね。訳わかんないよね♪」

 照れ笑いを見せると、
「いや……そんな事ねぇっス……」
 反発する事無く聞き入る彼に、
「ありがとう」
 ラディッシュは笑みを見せ、
「人の物を奪ったりさ、下に見たりとかさ、犯罪や差別はいけないけど……でも色々な考え方や、立場の違いがあっても、それはそれで良いんじゃないかなぁ? その中からしか生まれない物もあるしさ」
「…………」
「一番大事なのは「肩書き」とかじゃなくて「その人がどんな人なのか」なんじゃないのかなぁって、僕は思う」
「…………」

「あっ! なんか説教臭く語っちゃってゴメンね! 説法を説く僧侶のタープさんに、僕なんかが言えた話じゃないよねぇ♪」

 笑ってお茶を濁したが、当のターナップは、
「…………」
(そうなんス……そぅなんスよねぇ……)
 ラディッシュの想いに同意しながら、

(俺もぉ、頭では「そう理解している」つもりだったっス……けど、腹が、態度が、理解してなかった……)

 ターナップは自身が「天世の司祭」である以前に、悩める人々の心を救済する「一人の僧侶」であるのを改めて自覚し、
(自分の姿ってなぁなかなか見えねぇモンっすねぇ……)
 自嘲気味に小さく笑い、感謝の意をラディッシュに伝えようとした矢先、

『あれ? 彼女たちは?』

 唐突にプルプレアが、話の腰を折り気味に(用足しから)戻って来た。

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